StudyMed医師国家試験

その輸液、何のため?―「失われたもの」を補う嘔吐・下痢の電解質補正

第103回医師国家試験 C問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第103回 C問題 第4問

電解質補正を目的とする輸液を行うのはどれか。

  1. a.誤嚥
  2. b.激しい嘔吐と下痢
  3. c.けいれん重積状態
  4. d.喘息発作重積状態
  5. e.アナフィラキシーショック

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は輸液の「目的」を問う問題だ。輸液には水分・電解質の補正、循環血液量の確保、栄養補給、薬剤投与のための静脈路確保など、いくつもの役割がある。どの病態でも点滴はするけれど、その中で「電解質を補うこと」自体が治療の中心になるのはどれか、を見抜くのがポイントだよ。
医学生医学生
救急の場面ではどれも点滴を入れるイメージがあるので、正直どれも当てはまりそうに見えます。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だね。だから着眼点を一つに絞ろう。「その病態で、電解質が体の外へ失われるかどうか」。失われていなければ補正する必要はないよね。
医学生医学生
そう考えると、体液が外に出ていくのは嘔吐と下痢ですね。
ドクタードクター
その通り。消化液は唾液・胃液・胆汁・膵液・腸液を合わせて1日に約7〜8 Lも分泌されていて、ほとんどが腸で再吸収されている。激しい嘔吐や下痢ではこれが再吸収されずに体外へ出てしまうから、脱水に加えてNa、K、Cl、HCO3−などが大量に失われるんだ。
医学生医学生
生理学の講義で、消化液ごとに電解質組成が違うと習いました。嘔吐と下痢で異常の出方も変わるんですよね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。胃液は塩酸を多く含むので、嘔吐ではH+とCl−が失われて低クロール性代謝性アルカローシスになる。さらに脱水でアルドステロンが増え、アルカローシス自体も腎からのK排泄を促すので低カリウム血症を来す。一方、腸液はHCO3−やKが多いから、下痢ではアニオンギャップ正常型の代謝性アシドーシスと低カリウム血症になる。
医学生医学生
嘔吐はアルカローシス、下痢はアシドーシスで、どちらも低カリウム、と整理すればいいですね。
ドクタードクター
完璧。治療はまず生理食塩液やリンゲル液などの細胞外液補充液で水分とNaを補い、尿量を確認してから採血結果に応じてKを補正する。まさに電解質補正が目的の輸液だ。では、ほかの選択肢も見ていこう。アナフィラキシーショックはどうかな。
医学生医学生
大量に輸液をするので、電解質補正と言えなくもない気がして迷いました。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。アナフィラキシーでは血管拡張と血管透過性亢進で血管内の水分が血管外に移り、循環血液量が減る。だから細胞外液を急速に入れるけれど、目的は血圧を保つための循環血液量の確保であって、失われた電解質の補正ではない。そして第一選択はアドレナリンの大腿前外側への筋注だ。
医学生医学生
けいれん重積でも、低ナトリウム血症や低カルシウム血症が原因ならその補正が必要ですよね。
ドクタードクター
鋭いね。原因として電解質異常があればもちろん補正する。でも、けいれん重積という状態そのものが電解質を失わせるわけではない。治療の主体はジアゼパムやミダゾラムなどのベンゾジアゼピン系薬の静注で、効かなければホスフェニトインやレベチラセタムを追加する。輸液は主にそのための静脈路確保だよ。
医学生医学生
喘息発作重積も、β2刺激薬の吸入とステロイドの点滴が中心で、輸液はあくまで補助ということですね。
ドクタードクター
そう。頻呼吸や経口摂取不良で脱水傾向になるから補液をすることはあるけれど、主目的ではない。むしろβ2刺激薬の大量使用やステロイドで低カリウム血症が起こりうる点に注意したい。誤嚥も、問題は窒息と誤嚥性肺炎で、吸引・酸素投与・抗菌薬が対応の中心。電解質が失われる病態ではないね。
医学生医学生
臨床実習の消化器内科で、胃腸炎の患者さんにいきなりKを入れずに尿が出るのを待っていたのを思い出しました。あれはなぜなんでしょう。
ドクタードクター
大事な実践知識だね。脱水で腎前性の腎機能低下があると、Kを入れても排泄できず高カリウム血症になる危険がある。だから原則として排尿を確認してから補う。末梢からは濃度40 mEq/L以下、速度20 mEq/時以下が目安で、急速静注は致死的不整脈を起こすので禁忌だ。病態がわからないうちはK を含まない開始液(1号液)を選ぶこともあるよ。
医学生医学生
維持液の3号液ではだめなんですか。
ドクタードクター
3号液は尿や不感蒸泄といった生理的な喪失を補うための低張液だから、嘔吐・下痢のような異常喪失の補充には向かない。まず等張の細胞外液補充液で失われた分を戻す、と覚えておこう。輸液は「何が、どれだけ失われたか」を考えて製剤を選ぶのが基本なんだ。

まとめ

輸液には水分・電解質の補正、循環血液量の確保、栄養補給、静脈路確保などの目的があり、電解質補正が治療の中心となるのは激しい嘔吐・下痢のように電解質を体外へ喪失する病態です。嘔吐では胃液中のHClを失って低クロール性代謝性アルカローシスと低カリウム血症、下痢では腸液中のHCO3−を失ってアニオンギャップ正常型代謝性アシドーシスと低カリウム血症を来します。治療は細胞外液補充液で水分とNaを補い、尿量を確認してからKを補正するのが原則です。アナフィラキシーショックの輸液は循環血液量の確保が目的であり、けいれん重積・喘息重積・誤嚥では薬物療法や気道管理が治療の主体です。「何が失われたのか」から輸液の目的と製剤を考える姿勢は、救急から病棟管理まであらゆる場面で役立ちます。

解答・解説

正解はbです

輸液には、①水分・電解質の補正(欠乏した体液を補う、崩れた電解質や酸塩基平衡を戻す)、②循環血液量の確保(ショック時の急速輸液)、③栄養補給、④薬剤投与のための静脈路確保、などの目的がある。本問は、このうち「電解質の補正」そのものが治療の中心となる病態を選ばせる問題である。 考え方の要点は、「その病態で体外へ電解質が失われるか」である。消化液には大量の水分と電解質が含まれ、成人では唾液・胃液・胆汁・膵液・腸液を合わせて1日に約7〜8 Lが分泌され、その大部分が再吸収されている。嘔吐や下痢が激しいとこの再吸収が行われずに体外へ出てしまうため、脱水に加えてナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)、重炭酸イオン(HCO3−)などの喪失が起こり、電解質異常や酸塩基平衡異常を来す。 一方、誤嚥、けいれん重積、喘息重積、アナフィラキシーショックは、病態そのものでは電解質の大量喪失を伴わない。これらで輸液を行うことはあっても、目的は静脈路の確保や循環の維持であり、治療の主体は気道管理や特異的な薬物療法である。

選択肢考察

  1. ×a.  誤嚥

    誤り。誤嚥は食物・唾液・胃内容物などが声門を越えて気道に入ることで、問題となるのは窒息と誤嚥性肺炎(胃酸による化学性肺臓炎を含む)である。対応は口腔・気道内の吸引や異物除去、酸素投与、肺炎を起こせば抗菌薬の投与であり、誤嚥そのものによって電解質が失われるわけではないので、電解質補正のための輸液は治療の目的にならない。

  2. ○b.  激しい嘔吐と下痢

    正しい。嘔吐では胃液が失われる。胃液は塩酸(HCl)を多く含むため、H+ と Cl− が失われて低クロール性代謝性アルカローシスとなり、さらに脱水に伴うアルドステロン分泌亢進やアルカローシスによる腎からの K 排泄増加で低カリウム血症を来す。下痢では重炭酸イオン(HCO3−)や K を多く含む腸液が失われるため、脱水、代謝性アシドーシス(アニオンギャップ正常型)、低カリウム血症を来す。両者が重なると、水分と Na の喪失による細胞外液量の減少(脱水)に加えて、K や酸塩基平衡の異常が生じる。治療としては、まず生理食塩液や乳酸リンゲル液・酢酸リンゲル液などの細胞外液補充液で失われた水分と Na を補い、尿量を確認したうえで血液検査の結果に応じて K などを補正する。

  3. ×c.  けいれん重積状態

    誤り。けいれん重積状態では、呼吸・循環の安定化(気道確保、酸素投与)を行いつつ、静脈路を確保して、まずベンゾジアゼピン系薬(ジアゼパムやミダゾラム、ロラゼパム)を静注し、止まらなければホスフェニトイン、レベチラセタムなどの抗てんかん薬を追加する。輸液は主に薬剤投与のための静脈路確保が目的である。なお、低ナトリウム血症・低カルシウム血症・低血糖などがけいれんの原因となっている場合にはその補正が必要になるが、けいれん重積という状態そのものが電解質を失わせるわけではなく、電解質補正が一般的な治療目的とはいえない。

  4. ×d.  喘息発作重積状態

    誤り。喘息発作重積状態の治療は、酸素投与、短時間作用性β2刺激薬の反復吸入、全身性ステロイド薬の点滴静注が中心で、改善しない場合はアドレナリン皮下注、アミノフィリン点滴、さらに重篤例では気管挿管・人工呼吸管理を行う。呼吸数の増加や経口摂取不良で脱水傾向となるため補液を行うことはあるが、電解質補正が主目的ではない。むしろβ2刺激薬の大量使用やステロイド薬によって低カリウム血症が起こりうる点に注意する。

  5. ×e.  アナフィラキシーショック

    誤り。アナフィラキシーショックの第一選択はアドレナリン 0.01 mg/kg(成人最大 0.5 mg)の大腿前外側への筋注である。血管拡張と血管透過性亢進によって血管内の水分が血管外へ移動し、相対的・絶対的に循環血液量が減少するため、細胞外液補充液の急速大量輸液も行う。しかしこれは循環血液量を回復させて血圧を保つための輸液であり、電解質の喪失を補正するためのものではない。ほかに酸素投与、抗ヒスタミン薬、ステロイド薬(遅発相の予防目的)なども用いられる。

嘔吐と下痢による電解質・酸塩基平衡異常

・嘔吐:胃液(H+、Cl−、K+)の喪失 → 低クロール性代謝性アルカローシス、低カリウム血症、脱水。脱水による腎での Na 再吸収亢進とアルカローシスのため、尿 Cl は低値になりやすい。 ・下痢:腸液(HCO3−、K+、Na+)の喪失 → アニオンギャップ正常の代謝性アシドーシス(高クロール性)、低カリウム血症、脱水。

主な輸液製剤と使い分け

1)生理食塩液:Na+ と Cl− をそれぞれ 154 mEq/L 含む等張液。細胞外液の補充に用いる。嘔吐による低クロール性アルカローシスの補正に適する。大量投与では高クロール性アシドーシスに注意。 2)細胞外液補充液(乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液など):細胞外液に近い組成の等張液。脱水、出血、手術時、ショック時の細胞外液補充に用いる。乳酸や酢酸は体内で代謝されて HCO3− となる。 3)開始液(1号液):K+ を含まない低張液。病態や電解質がまだわからないとき、腎不全や高カリウム血症が否定できないときに用いる。 4)維持液(3号液):尿や不感蒸泄などの生理的な喪失を補う低張液で、K+ を含む。嘔吐・下痢のような異常喪失の補充には向かない。 5)代用血漿剤(ヒドロキシエチルデンプン、デキストランなど):膠質浸透圧を持ち、血管内にとどまりやすく循環血液量を増やす。 6)栄養輸液:ブドウ糖液、アミノ酸製剤、脂肪乳剤など。

カリウム補正の注意

K は原則として尿量(排尿)が確認されてから補充する。末梢静脈からの投与では濃度 40 mEq/L 以下、速度 20 mEq/時以下を目安とし、急速静注は致死的不整脈を起こすため禁忌である。

POINT

・電解質補正の輸液が必要なのは、電解質を体外へ喪失する病態(激しい嘔吐・下痢など)である。 ・嘔吐:HCl 喪失 → 低クロール性代謝性アルカローシス+低カリウム血症。 ・下痢:HCO3− 喪失 → アニオンギャップ正常の代謝性アシドーシス+低カリウム血症。 ・脱水の補正には細胞外液補充液(生理食塩液、リンゲル液)を用い、K は尿量確認後に補う。 ・アナフィラキシーショックの輸液は循環血液量の確保が目的で、第一選択はアドレナリン筋注。 ・けいれん重積はベンゾジアゼピン系薬静注、喘息重積はβ2刺激薬吸入と全身性ステロイド薬が治療の中心。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。