StudyMed医師国家試験

その臓器、どの体位で触れる?―直腸指診はなぜ「横向き」なのか

第103回医師国家試験 C問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第103回 C問題 第5問

身体診察の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.肝 ―― 側臥位
  2. b.腎 ―― 腹臥位
  3. c.膀胱 ―― 立位
  4. d.前立腺 ―― 腹臥位
  5. e.直腸 ―― 側臥位

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、臓器ごとの身体診察をどんな体位で行うかを問う問題だ。考え方のコツは「その臓器をどこから触れるか」。腹壁越しに触れるのか、それとも肛門から指を入れて触れるのか、で体位がはっきり分かれるんだ。
医学生医学生
OSCEの腹部診察では、仰向けで膝を立ててもらうように練習しました。
ドクタードクター
そう、それが腹部診察の基本だね。仰臥位で膝を軽く曲げ、両腕を体の横に置いてもらうと腹壁の筋肉の緊張がとれて、深いところの臓器まで触れやすくなる。肝、腎、膀胱はいずれもこの仰臥位・膝屈曲位で診察するんだ。
医学生医学生
肝臓は右肋骨弓の下に指を当てて、深呼吸してもらうんでしたよね。でも横向きにしたほうが肝臓が落ちてきて触れやすいような気もします。
ドクタードクター
イメージはわかるけれど、肝の触診は仰臥位が基本だよ。吸気で横隔膜が下がると肝が押し下げられるので、その下縁を指先で捉えて硬さや辺縁の鈍鋭、表面の凹凸、圧痛を見る。左手を右背部に当てて持ち上げると触れやすくなる。ちなみに横向きにして触れやすくなるのは脾臓のほうで、右側臥位にすると脾が前下方へ移動するんだ。
医学生医学生
腎臓は背中側にある後腹膜臓器なので、うつ伏せで背中から触るのかと思っていました。
ドクタードクター
そこが引っかけポイントだね。腎も仰臥位で、片手を背部の肋骨脊柱角の下に、もう片方の手を前腹壁に当てて、両手で挟むように触れる。これを双手診という。うつ伏せだと前から手が入らないから、双手診ができないんだ。
医学生医学生
背中から叩くCVA叩打痛と混同していました。
ドクタードクター
よくある混同だね。腎盂腎炎や尿管結石を疑ったときのCVA叩打痛は、座位などで背部から叩いて確かめる。触診と叩打診で体位が違うと整理しておこう。膀胱はどうかな。
医学生医学生
立って尿が溜まった状態のほうが分かりやすそうですが……やっぱり仰向けですか。
ドクタードクター
そう、仰臥位で恥骨上部を触診・打診する。空の膀胱は恥骨の裏にあって触れないけれど、尿閉などで尿が溜まると恥骨上部に弾性のある腫瘤として触れて、打診で濁音になる。立位では腹壁が緊張してしまって触診には向かないんだ。
医学生医学生
では、腹壁越しに触れない直腸や前立腺は直腸指診ですね。
ドクタードクター
その通り。直腸指診は左側臥位で、上側の右下肢を深く曲げたSims位で行うのが一般的だ。肛門部が露出しやすく、腹圧がかかりにくく、患者さんの顔が検者から見えないので羞恥心も少ない。だから直腸と側臥位の組合せが正解だよ。ほかに砕石位や胸膝位で行うこともある。
医学生医学生
前立腺も直腸の前壁越しに触れるので、体位は直腸指診と同じで、うつ伏せではないんですね。
ドクタードクター
よく整理できたね。前立腺の診察体位は左側臥位、砕石位、胸膝位、立位前屈位などで、腹臥位は通常使わない。触れたら大きさ、硬さ、表面、中心溝、結節、圧痛を評価する。正常は弾性軟で母指球くらいの硬さだ。
医学生医学生
泌尿器科の講義で、前立腺肥大症は弾性硬で中心溝が消えて、前立腺癌は石様硬の結節を触れると習いました。
ドクタードクター
完璧だね。急性前立腺炎では著明な圧痛と熱感があって、炎症を悪化させるから強いマッサージは避ける。直腸指診ではほかにも、肛門括約筋の緊張、直腸癌などの腫瘤、指に付いた便の血液や黒色便、女性なら子宮頸部やダグラス窩の圧痛まで分かる。ダグラス窩に硬い結節を触れたら、癌の腹膜播種によるシュニッツラー転移も考えるんだ。
医学生医学生
指一本でそんなに情報が得られるんですね。臨床実習で消化器外科を回ったとき、急性腹症の患者さんに指導医の先生が必ず直腸診をしていた理由が分かりました。
ドクタードクター
そう、直腸指診は簡便だけど情報量が多い。最後に体位の応用も押さえておこう。左側臥位は心尖部の触知や僧帽弁狭窄症の拡張期ランブルの聴取にも、前傾座位は大動脈弁逆流症の雑音聴取にも使う。診察体位は「その所見が一番とらえやすい姿勢」を選ぶ、という原則で覚えると忘れにくいよ。

まとめ

身体診察の体位は「その臓器をどこから触れるか」で整理できます。肝・腎・膀胱は腹壁越しに触れる臓器であり、仰臥位・膝屈曲位で腹壁の緊張をとって診察し、腎は背部と腹部から挟む双手診で触れます。直腸や前立腺は腹壁越しに触れられないため直腸指診で診察し、肛門部が観察しやすく羞恥心も少ない左側臥位(Sims位)が基本で、砕石位や胸膝位も用いられます。直腸指診では括約筋の緊張、腫瘤、便の性状、前立腺の硬さや中心溝などの多くの情報が得られ、前立腺肥大症の弾性硬・中心溝消失や前立腺癌の石様硬結節は重要な所見です。適切な体位を選ぶことは所見の取りこぼしを防ぐとともに患者の負担を減らすことにもつながり、OSCEから臨床現場まで役立つ基本技能です。

解答・解説

正解はeです

臓器ごとの身体診察(主に触診)をどの体位で行うかを問う問題である。 腹部臓器の触診の基本は仰臥位である。膝を立てて軽く曲げてもらい(膝屈曲位)、両腕は体の横に置かせて腹壁の筋肉の緊張をとると、腹壁越しに深部の臓器を触れやすくなる。肝、腎、膀胱はいずれもこの仰臥位で触診する。 一方、直腸や前立腺は腹壁越しには触れられないため、肛門から示指を挿入する直腸指診で診察する。直腸指診では、肛門部が観察しやすく患者の羞恥心や負担も少ない左側臥位(Sims位)が最もよく用いられ、ほかに砕石位や胸膝位、立位前屈位も用いられる。前立腺は直腸前壁越しに触れるので、診察体位は直腸指診と同じである。 このように「腹壁越しに触れる臓器は仰臥位」「直腸越しに触れる臓器は直腸指診の体位(側臥位など)」と整理すると、正しい組合せは直腸と側臥位となる。

選択肢考察

  1. ×a.  肝 ―― 側臥位

    誤り。肝の触診は仰臥位・膝屈曲位で行う。検者は患者の右側に立ち、右手の指先を右肋骨弓の下に当て、患者に深く息を吸ってもらう。吸気時に横隔膜が下がって肝が押し下げられるので、その下縁を指先で触れ、辺縁の硬さ・鈍鋭・表面の凹凸・圧痛を評価する。左手を右背部に当てて肝を前方へ持ち上げると触れやすくなる。肝の大きさは打診で濁音界を確認して評価する。

  2. ×b.  腎 ―― 腹臥位

    誤り。腎は後腹膜にある臓器だが、触診は仰臥位・膝屈曲位で行う。一方の手を背部の肋骨脊柱角の下に、もう一方の手を前腹壁に当て、両手で腎を挟むようにして、深吸気で下降してくる腎を触れる(双手診)。腹臥位では腹部側からの手が入らず、双手診ができない。なお、腎盂腎炎や尿管結石などを疑うときの肋骨脊柱角(CVA:costovertebral angle)叩打痛は、座位(または側臥位)で背部から叩いて確認する。

  3. ×c.  膀胱 ―― 立位

    誤り。膀胱は仰臥位・膝屈曲位で下腹部(恥骨上部)を触診・打診して評価する。正常の空虚な膀胱は恥骨の後ろにあって触れないが、尿閉などで尿が貯留すると恥骨上部に弾性のある腫瘤として触れ、打診で濁音となる。立位では腹壁の緊張がとれず、触診には適さない。

  4. ×d.  前立腺 ―― 腹臥位

    誤り。前立腺は直腸指診で直腸前壁越しに触れて診察するため、体位は直腸指診と同じく左側臥位(Sims位)、砕石位(仰臥位で両下肢を挙上・開脚した体位)、胸膝位、立位前屈位などを用いる。腹臥位は通常の診察体位ではない。前立腺の触診では大きさ、硬さ(正常は弾性軟で母指球程度)、表面の性状、中心溝の有無、結節、圧痛を評価する。前立腺肥大症では弾性硬に腫大し中心溝が消失する、前立腺癌では石様硬の結節を触れる、急性前立腺炎では著明な圧痛と熱感がある(炎症を悪化させるので強いマッサージは避ける)、といった所見が鑑別に役立つ。

  5. ○e.  直腸 ―― 側臥位

    正しい。直腸指診は左側臥位で行うのが一般的である。患者に検者へ背を向けて左側を下にして横になってもらい、下側の左下肢は軽く伸ばすか軽く曲げ、上側の右下肢は股関節・膝関節を深く曲げて前に出す(Sims位)。この体位は肛門部が露出しやすく、腹圧がかかりにくく、患者の顔が検者から見えないため羞恥心も少ない。潤滑剤をつけた示指を挿入し、肛門括約筋の緊張、直腸内の腫瘤・狭窄・圧痛、前立腺(男性)や子宮頸部・ダグラス窩(女性)、指に付着した便の性状(血液の有無)を確認する。側臥位のほか、砕石位や胸膝位で行うこともある。

主な診察体位

・仰臥位:あお向けに寝た体位。腹部診察の基本で、膝を立てて腹壁の緊張をとる(膝屈曲位)。 ・左側臥位:左を下にした横向きの体位。直腸指診(Sims位)のほか、心尖部の触診や僧帽弁狭窄症の拡張期ランブルの聴取に用いる。脾臓の触診では、右側臥位にすると脾が前下方へ移動し触れやすくなる。 ・Sims位:左側臥位で上側(右)の下肢を深く曲げた体位。直腸指診、浣腸、肛門部の観察に用いる。 ・砕石位(截石位):仰臥位で両下肢を挙上・開脚して股・膝関節を曲げた体位。内診(婦人科診察)、泌尿器科的処置、直腸・肛門の診察に用いる。 ・胸膝位:両膝と胸をベッドにつけて殿部を高く上げる体位。直腸・肛門の診察や直腸鏡検査に用いる。 ・座位:肺の聴診・打診、背部の診察、CVA叩打痛の確認、大動脈弁逆流症の雑音聴取(前傾座位)に用いる。

直腸指診でわかること

肛門括約筋の緊張(脊髄障害で低下)、直腸癌などの腫瘤、痔核、前立腺の性状、ダグラス窩の圧痛・腫瘤(虫垂炎、骨盤内膿瘍、癌の腹膜播種によるシュニッツラー転移)、便潜血・黒色便の有無など。

POINT

・腹部臓器(肝、腎、膀胱)の触診は仰臥位・膝屈曲位で腹壁の緊張をとって行う。 ・腎は仰臥位で背部と腹部から挟む双手診で触れる。CVA叩打痛は座位で背部から確認する。 ・直腸指診は左側臥位(Sims位)が基本で、ほかに砕石位、胸膝位でも行う。 ・前立腺は直腸指診で触れるため、体位は直腸の診察と同じ。 ・前立腺肥大症は弾性硬で中心溝消失、前立腺癌は石様硬の結節。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。