StudyMed医師国家試験

「見えない陰イオン」を探せ―アニオンギャップで代謝性アシドーシスを2つに分ける

第119回医師国家試験 F問題 第34問

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第119回 F問題 第34問

アニオンギャップが開大する病態はどれか。3つ選べ。

  1. a.下痢
  2. b.糖尿病ケトアシドーシス
  3. c.乳酸アシドーシス
  4. d.尿細管性アシドーシス
  5. e.尿毒症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、代謝性アシドーシスの鑑別に欠かせないアニオンギャップがテーマだ。ポイントは、それぞれの病態で「酸が体に加わっているのか」それとも「重炭酸が失われているのか」を見分けること。まずはアニオンギャップの意味から確認しよう。
医学生医学生
Na⁺から、Cl⁻とHCO₃⁻を足したものを引いた値ですよね。基準値は12前後と覚えています。
ドクタードクター
正解。おおむね12±2 mEq/Lだ。では、その差は何を意味していると思う?
医学生医学生
えっと、陽イオンと陰イオンの差だから、体が電気的にずれているということでしょうか。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。血清中の陽イオンと陰イオンの総量は常に等しい。アニオンギャップは、ふだん測定していない陰イオン、つまり主にアルブミン、ほかにリン酸や硫酸、有機酸などの量を反映しているんだ。
医学生医学生
なるほど、差は「見えない陰イオン」の分なんですね。
ドクタードクター
その通り。代謝性アシドーシスではHCO₃⁻が減るけれど、減った分の陰イオンを何が埋めるかで2パターンに分かれる。酸、つまりH⁺と陰イオンのペアが体に加わると、H⁺はHCO₃⁻で緩衝されて消費され、酸の陰イオンが血中に残る。これは測定されない陰イオンだからギャップが開くんだ。
医学生医学生
逆にHCO₃⁻そのものが失われる場合は、代わりにCl⁻が増えるからギャップは変わらない、ということですか。
ドクタードクター
まさにそう。こちらは高Cl性、アニオンギャップ正常の代謝性アシドーシスと呼ぶ。この軸で各病態を見ていこう。糖尿病ケトアシドーシスはどうかな。
医学生医学生
内分泌の講義で習いました。インスリン欠乏で脂肪分解が進み、肝臓でケトン体が過剰にできるんですよね。ケトン体は酸なので、ギャップが開くと思います。
ドクタードクター
正解。β-ヒドロキシ酪酸やアセト酢酸といったケト酸の陰イオンが蓄積するから開大する。乳酸アシドーシスも同じ理屈だ。
医学生医学生
救急科の実習で、ショックの患者さんの血液ガスで乳酸値が高かったのを見ました。組織低灌流で嫌気性代謝になるからですよね。
ドクタードクター
そう、それがA型。メトホルミンや肝不全による乳酸代謝障害はB型と呼ばれる。どちらも乳酸イオンが残るので開大だ。次に尿毒症はどうだろう。
医学生医学生
腎臓が悪いと酸を排泄できないので…尿細管性アシドーシスと同じ仲間のように思えて、ちょっと迷います。
ドクタードクター
そこが本問の一番の落とし穴だね。尿毒症のような高度の腎機能低下では、たんぱく質代謝で毎日生じる硫酸やリン酸などの不揮発性酸を糸球体から濾過・排泄できなくなる。これらの陰イオンが溜まるからギャップは開大する。一方、尿細管性アシドーシスは糸球体濾過量は保たれていて、遠位尿細管でのH⁺分泌障害や近位尿細管でのHCO₃⁻再吸収障害が主体なんだ。
医学生医学生
尿細管性アシドーシスは有機酸が溜まるわけではなく、HCO₃⁻を失ったり再生できなかったりするから、Cl⁻が代わりに上がってギャップは正常になる、ということですね。
ドクタードクター
その通り。なお、腎機能低下が軽度から中等度の段階ではアンモニア産生低下によりギャップ正常のアシドーシスを示すこともあるけれど、尿毒症まで進めば典型的には開大だ。最後に下痢はどうかな。
医学生医学生
腸液や膵液にはHCO₃⁻が多く含まれるので、下痢で失われてCl⁻が上がる、ギャップ正常の代表ですね。
ドクタードクター
完璧。だから正解は糖尿病ケトアシドーシス、乳酸アシドーシス、尿毒症の3つだ。発展として、ギャップが開大する原因には中毒も忘れないでほしい。メタノールやエチレングリコール、サリチル酸だ。
医学生医学生
救急の現場で原因不明のギャップ開大を見たら、中毒も考える必要があるんですね。
ドクタードクター
そう。それともう一つ臨床で大事なのが、アルブミンによる補正だ。ギャップの主体はアルブミンだから、低アルブミン血症では見かけ上ギャップが小さくなる。アルブミンが1 g/dL下がるごとに約2.5 mEq/L低くなるので、補正しないと開大を見逃してしまうんだ。
医学生医学生
栄養状態の悪い高齢者や重症患者では、数字が正常に見えても補正して確認しないといけないんですね。
ドクタードクター
その意識があれば十分だ。血液ガスを見たら、まずギャップを計算して2つのパターンに振り分ける。この習慣が鑑別のスピードを大きく上げてくれるよ。

まとめ

アニオンギャップはNa⁺-(Cl⁻+HCO₃⁻)で求め、基準値はおおむね12±2 mEq/Lで、アルブミンやリン酸・硫酸・有機酸など通常測定しない陰イオンの量を反映します。代謝性アシドーシスでは、酸が体内に加わってその陰イオンが蓄積する場合にギャップが開大し、糖尿病ケトアシドーシス(ケトン体)、乳酸アシドーシス(乳酸)、尿毒症(硫酸・リン酸などの不揮発性酸)、メタノール・エチレングリコール・サリチル酸中毒が代表です。一方、下痢によるHCO₃⁻喪失や、糸球体濾過量が保たれたまま尿細管でのH⁺分泌やHCO₃⁻再吸収が障害される尿細管性アシドーシスでは、Cl⁻が代わりに上昇してギャップは正常(高Cl性)となります。低アルブミン血症ではギャップが見かけ上低くなるため、補正して評価することが重要です。「酸の蓄積か、重炭酸の喪失か」という視点は、酸塩基平衡異常を読み解く基本であり、救急や集中治療の現場で迅速な鑑別に直結します。

解答・解説

正解はb, c, eです

アニオンギャップとは

アニオンギャップ(anion gap:AG)は、血清中で通常測定される陽イオン(Na⁺)と陰イオン(Cl⁻、HCO₃⁻)の差であり、AG=Na⁺-(Cl⁻+HCO₃⁻)で求める。基準値はおおむね12±2 mEq/Lである。血清中では陽イオンと陰イオンの総量は常に等しいため、AGは「ふだん測定していない陰イオン」(主にアルブミン、ほかにリン酸、硫酸、有機酸など)の量を反映している。

代謝性アシドーシスの2つのパターン

代謝性アシドーシスではHCO₃⁻が減少する。減った分の陰イオンが何で埋め合わされるかによって、次の2つに分けて考える。 ・酸(H⁺と陰イオンの組)が体内に加わった場合:H⁺はHCO₃⁻で緩衝されて消費され、代わりに酸の陰イオン(ケトン体、乳酸、硫酸・リン酸など)が血中に残る。これらは測定されない陰イオンなのでAGが開大する(AG開大性代謝性アシドーシス)。 ・HCO₃⁻そのものが体外へ失われた場合(または腎でH⁺を排泄できない場合):減ったHCO₃⁻をCl⁻が補うため、AGは変化せず高Cl血症を伴う(AG正常性・高Cl性代謝性アシドーシス)。

本問の考え方

各病態で「有機酸・不揮発性酸が蓄積するのか」それとも「HCO₃⁻を失う/腎での酸排泄が障害されるのか」を判断すればよい。糖尿病ケトアシドーシス(ケトン体)、乳酸アシドーシス(乳酸)、尿毒症(硫酸・リン酸などの不揮発性酸)は前者でAG開大、下痢と尿細管性アシドーシスは後者でAG正常となる。

選択肢考察

  1. ×a.  下痢

    腸液(特に小腸・膵液)はHCO₃⁻を多く含むため、大量の下痢では便中にHCO₃⁻が失われる。腎はNa⁺とともにCl⁻の再吸収を増やして電気的中性を保つので、HCO₃⁻の低下はCl⁻の上昇で相殺され、AGは正常のまま高Cl性代謝性アシドーシスとなる。AG正常性代謝性アシドーシスの最も代表的な原因である。

  2. ○b.  糖尿病ケトアシドーシス

    インスリンの絶対的欠乏によりブドウ糖を利用できなくなると、脂肪分解が亢進し、肝で遊離脂肪酸からケトン体(β-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸)が過剰に産生される。ケトン体は酸であり、H⁺がHCO₃⁻で緩衝されて消費される一方、陰イオンであるケト酸が測定されない陰イオンとして血中に蓄積するため、AGが開大する。

  3. ○c.  乳酸アシドーシス

    ショックや重症低酸素血症などによる組織低灌流(A型)や、ビグアナイド薬(メトホルミン)・肝不全などによる乳酸代謝障害(B型)で、嫌気性代謝により生じた乳酸が大量に蓄積する。乳酸のH⁺はHCO₃⁻を消費し、陰イオンの乳酸イオンが血中に残るためAGが開大する。

  4. ×d.  尿細管性アシドーシス

    尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis:RTA)は、遠位尿細管でのH⁺分泌障害(1型、遠位型)、近位尿細管でのHCO₃⁻再吸収障害(2型、近位型)、アルドステロン作用不足に伴うH⁺・K⁺分泌障害(4型)によって生じる。いずれも有機酸が蓄積するのではなく、HCO₃⁻の喪失・再生不足が主体であり、減った分をCl⁻が補うためAGは正常(高Cl性)となる。糸球体濾過量(GFR)が保たれている点が尿毒症との違いである。

  5. ○e.  尿毒症

    高度の腎機能低下(末期腎不全)では、たんぱく質代謝などで日々生じる不揮発性酸(硫酸、リン酸、尿酸など)を糸球体から十分に濾過・排泄できなくなる。これらの陰イオンが血中に蓄積するためAGが開大する。なお、腎機能低下が軽度〜中等度の段階では、アンモニア産生低下によりAG正常性アシドーシスを示すこともあるが、尿毒症の段階では典型的にAG開大となる。

AG開大性代謝性アシドーシスの主な原因

・ケトアシドーシス:糖尿病ケトアシドーシス、アルコール性ケトアシドーシス、飢餓 ・乳酸アシドーシス:ショック、低酸素血症、敗血症、メトホルミン、肝不全など ・腎不全(尿毒症):硫酸・リン酸などの蓄積 ・中毒:メタノール(ギ酸)、エチレングリコール(グリコール酸・シュウ酸)、サリチル酸、パラアルデヒドなど

AG正常性(高Cl性)代謝性アシドーシスの主な原因

・消化管からのHCO₃⁻喪失:下痢、腸瘻・膵液瘻、尿管S状結腸吻合 ・腎性:尿細管性アシドーシス(1・2・4型)、アセタゾラミド(炭酸脱水酵素阻害薬)、副腎不全(低アルドステロン) ・その他:生理食塩液の大量輸液(希釈性・高Cl性アシドーシス)

補足:アルブミンによる補正

AGの主体はアルブミンであるため、低アルブミン血症ではAGが見かけ上低くなる。アルブミンが1 g/dL低下するごとにAGは約2.5 mEq/L低下するとされ、補正AG=実測AG+2.5×(4.0-血清アルブミン値[g/dL])で評価する。低アルブミン血症の患者ではAG開大を見逃さないよう注意が必要である。

POINT

・AG=Na⁺-(Cl⁻+HCO₃⁻)、基準値はおおむね12±2 mEq/L。 ・酸(ケトン体、乳酸、不揮発性酸、中毒物質の代謝産物)が蓄積するとAG開大。 ・HCO₃⁻の喪失(下痢)や腎での酸排泄障害(尿細管性アシドーシス)ではCl⁻が代わりに上昇し、AG正常(高Cl性)。 ・AG開大:糖尿病ケトアシドーシス、乳酸アシドーシス、尿毒症、メタノール・エチレングリコール・サリチル酸中毒。 ・AG正常:下痢、尿細管性アシドーシス、アセタゾラミド、副腎不全。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。