StudyMed医師国家試験

ボールが眼に当たって上が見えない―吹き抜け骨折はCTで「抜けた先」を確かめる

第103回医師国家試験 B問題 第45問

国試問題にチャレンジ

第103回 B問題 第45問

17歳の男子。複視を主訴に来院した。野球の試合中にボールが右眼に当たった。上方注視時に増強する複視と眼痛とを認める。  診断の確定に有用なのはどれか。

  1. a.超音波検査
  2. b.頭部単純CT
  3. c.骨シンチグラフィ
  4. d.オルファクトメトリ
  5. e.鼻腔ファイバースコピー

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、眼部の鈍的外傷のあとに出た複視から病態を推定し、確定診断に必要な検査を選ぶ問題だ。注目してほしいのは、複視が「上を見たときに強くなる」という点だよ。
医学生医学生
野球ボールが当たって複視なので、外眼筋が傷ついたのか、それとも神経麻痺でしょうか。
ドクタードクター
いい出発点だね。ここでは眼窩の構造から考えてみよう。眼窩の入り口より大きく、ある程度硬いボールが当たると、眼窩の中の圧が一気に上がる。すると頑丈な眼窩縁は折れずに、いちばん薄い壁が副鼻腔側へ抜けるように折れるんだ。
医学生医学生
解剖実習で眼窩を見たとき、下壁と内側壁がすごく薄かったのを覚えています。内側壁は篩骨紙様板でしたね。
ドクタードクター
その通り。下壁は上顎洞の天井でもある。これが眼窩吹き抜け骨折だ。下壁が折れると、下直筋やその周りの脂肪・結合組織が骨折部に挟まり込む。では、下直筋が挟まれて伸びなくなると、どの方向が見にくくなるかな。
医学生医学生
下直筋は眼を下に向ける筋なので……下が見にくくなる気がします。
ドクタードクター
そこが引っかけポイントだよ。下直筋が麻痺しているわけではなく、引っかかって「伸びない」状態なんだ。眼球を上に向けるには下直筋が伸びる必要があるから、上転が制限される。だから上方注視で左右の眼の位置がずれて、複視が強くなるわけだ。
医学生医学生
なるほど、麻痺ではなく機械的な制限なんですね。それなら確定診断には、骨折と筋の嵌頓を直接見る必要がありますね。
ドクタードクター
そう。骨の描出に優れ、眼窩と副鼻腔を同時に評価できるのはCTだ。頭部単純CTで眼窩の骨折線を確認でき、冠状断や矢状断を再構成すると、上顎洞の天井から軟部組織が垂れ下がる像や上顎洞内の血液貯留、眼窩内気腫まで見える。これが正解だね。
医学生医学生
眼の外傷なら、まず眼科の超音波検査かと思ってしまいました。
ドクタードクター
眼科の超音波は、硝子体出血などで眼底が見えないときに網膜剥離や眼内異物を調べるのには役立つ。でも超音波は骨で反射してしまうから、眼窩壁の骨折や副鼻腔との関係は評価できない。外傷直後の眼球を圧迫するおそれもあるよ。
医学生医学生
骨シンチは骨折も拾えると聞いたことがあります。
ドクタードクター
骨代謝が亢進した部位に集積するから、骨転移や疲労骨折の検索には使う。ただ、骨折の形や筋・脂肪との位置関係はわからないし、受傷直後には集積がはっきりしないこともある。今回の目的には合わないね。
医学生医学生
耳鼻科の選択肢として、鼻腔ファイバーと嗅覚検査も並んでいますね。上顎洞が関係するからでしょうか。
ドクタードクター
耳鼻咽喉科でも扱う外傷だからね。ただ、鼻腔ファイバースコピーは鼻腔や上咽頭の粘膜表面を見る検査で、上顎洞の中や眼窩壁は観察できない。オルファクトメトリは基準臭で検知閾値と認知閾値を測る嗅覚検査で、頭部外傷後の嗅覚障害には使うけれど骨折の診断には役立たない。
医学生医学生
CTで骨折とわかったら、ほかにどんな所見に注意すればいいですか。
ドクタードクター
腫れが引いてから目立つ眼球陥凹、眼窩下神経の損傷による頬や上口唇の感覚低下、それから鼻をかむと空気が眼窩に入る眼窩内気腫だ。だから受傷後は鼻をかまないよう指導する。眼球運動障害はHess赤緑試験で記録し、牽引試験で機械的な制限を確認する。
医学生医学生
手術はどんなときに必要になるんですか。
ドクタードクター
軽い複視なら保存的に経過をみるけれど、高度な運動障害が続く場合や眼球陥凹が目立つ場合は、嵌頓組織を整復して骨欠損を再建する。特に注意したいのが小児の閉鎖型、いわゆるtrapdoor型骨折だ。骨がしなって元に戻り、筋を強く挟み込むから、見た目の変化が乏しいのに上転障害が強い。眼球心臓反射で徐脈や悪心・嘔吐が出ることもあり、筋の壊死を防ぐため早期手術が必要になる。
医学生医学生
外見が軽そうでも、上転障害と嘔吐があったら油断できないということですね。
ドクタードクター
その通り。頭部外傷の嘔吐と思い込まず、眼球運動をきちんと確認することが大切だ。

まとめ

眼窩の開口部より大きいボールなどによる鈍的外傷では、眼窩内圧の急上昇によって薄い下壁や内側壁が副鼻腔側へ折れる眼窩吹き抜け骨折が起こります。下壁骨折では下直筋などが骨折部に嵌頓して伸びなくなるため、上転が制限されて上方注視で複視が増強します。確定診断には骨と副鼻腔を同時に評価できるCTが有用で、冠状断で骨折部や上顎洞への組織脱出を確認します。随伴所見として眼球陥凹、眼窩下神経領域の感覚低下、鼻かみ後の眼窩内気腫を押さえ、小児の閉鎖型骨折は眼球心臓反射を伴い早期手術を要することがある点も重要です。「麻痺ではなく機械的な運動制限」という視点は、外傷後の眼球運動障害を正しく評価する基本になります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・17歳男子、野球の試合中にボールが右眼に当たった(眼部への鈍的外傷) ・複視(物が二重に見える)が出現し、上方を見ると増強する ・眼痛を伴う

診断へのプロセス

眼窩の開口部より大きく、ある程度硬い物体(野球ボール、拳、肘など)が眼部に当たると、眼窩内の圧が急激に上昇する。このとき眼窩縁(リム)は折れずに、眼窩を構成する骨のうち最も薄い下壁(上顎洞の天井)や内側壁(篩骨洞との境界で、紙のように薄いため篩骨紙様板とよばれる)が副鼻腔側へ抜けるように折れる。これが眼窩吹き抜け骨折(blowout fracture)である。 下壁骨折では、骨折部に下直筋やその周囲の脂肪・結合組織が挟まり込む(絞扼される)。下直筋は眼球を下に向ける筋であるが、挟まれて伸びなくなるため、眼球を上に向けようとしても十分に上転できない。その結果、上方注視時に左右眼の位置がずれて複視が強くなる。本例の「上方注視で増強する複視」はこの上転障害を示しており、右眼窩下壁の吹き抜け骨折が最も考えやすい。

設問の考え方

診断を確定するには、眼窩壁の骨折の有無・部位と、外眼筋や眼窩内容が副鼻腔へ脱出・嵌頓しているかを画像で確認する必要がある。骨の描出に優れ、眼窩とその周囲の副鼻腔を同時に評価できる検査はCT(コンピュータ断層撮影)である。水平断に加えて冠状断(前額断)・矢状断の再構成画像を作成すると、薄い下壁の骨折や上顎洞への組織の垂れ下がりを明瞭にとらえることができる。

選択肢考察

  1. ×a.  超音波検査

    眼科領域の超音波検査(Bモード)は、硝子体出血や成熟白内障などで眼底が透見できないときに、網膜剥離や眼内異物の有無など眼球内部の状態を調べるのに用いられる。超音波は骨で反射・減衰するため、眼窩壁の骨折や骨の奥にある副鼻腔との関係を評価することはできない。また、外傷直後の眼球を圧迫するおそれもあり、吹き抜け骨折の確定診断には適さない。

  2. ○b.  頭部単純CT

    CTは骨の描出に優れ、眼窩壁の骨折線、骨片の偏位、下直筋や眼窩脂肪の上顎洞への脱出(上顎洞天井から垂れ下がる軟部組織影)、上顎洞内の血液貯留、眼窩内気腫などを直接確認できる。眼窩・副鼻腔を対象として薄いスライスで撮影し、冠状断・矢状断を再構成すると下壁骨折の評価がしやすい。吹き抜け骨折の確定診断と手術適応の判断に最も有用な検査である。なお、単純X線(Waters法など)でも所見が得られることはあるが、薄い骨の小さな骨折は見逃されやすく、CTのほうが確実である。

  3. ×c.  骨シンチグラフィ

    骨シンチグラフィは、放射性医薬品(99mTc標識リン酸化合物)が骨代謝の亢進した部位に集まる性質を利用し、全身の骨をまとめて調べる検査である。がんの骨転移の検索や、単純X線で見えにくい疲労骨折の検出などに用いられる。しかし、骨折の形や骨片・軟部組織の位置関係はわからず、受傷直後には集積がはっきりしないこともあるため、眼窩吹き抜け骨折の診断には用いない。

  4. ×d.  オルファクトメトリ

    オルファクトメトリ(基準嗅力検査、T&Tオルファクトメータを用いる)は、数種類の基準臭を濃度を変えて嗅がせ、においを感じる閾値(検知閾値)と何のにおいかわかる閾値(認知閾値)を測定する嗅覚検査である。頭部外傷後の嗅覚障害などの評価には用いるが、眼窩壁の骨折や眼球運動障害の診断には役立たない。

  5. ×e.  鼻腔ファイバースコピー

    鼻腔ファイバースコピー(鼻咽腔内視鏡)は、鼻腔や上咽頭の粘膜表面を直接観察する検査で、鼻出血の部位確認や腫瘍・ポリープの観察などに用いられる。上顎洞や篩骨洞の内部、眼窩壁は観察できないため、吹き抜け骨折の診断には有用ではない。

眼窩吹き抜け骨折(blowout fracture)の概要

・原因: 眼窩の開口部とほぼ同じか少し大きい物体による鈍的外傷。球技のボール、殴打、転倒などで生じ、若年男性に多い。 ・好発部位: 下壁(上顎洞側)と内側壁(篩骨洞側)。いずれも骨が薄く、眼窩内圧の急上昇で副鼻腔側へ骨折する。

主な症状と機序

・複視・眼球運動障害: 下壁骨折では下直筋などが嵌頓し、上転障害(上方視で複視増強)をきたす。内側壁骨折では内直筋が関与し、外転障害が目立つことがある。 ・眼球陥凹: 眼窩内容が副鼻腔へ脱出し眼窩容積が増えるため、眼が奥へ引っ込む。受傷直後は腫脹で目立たず、腫れが引いてから明らかになることが多い。 ・頬部・上口唇の感覚低下: 下壁を走る眼窩下神経(三叉神経第2枝の枝)の損傷による。 ・眼窩内気腫: 副鼻腔と交通するため、鼻をかむと空気が眼窩や眼瞼に入り、腫脹・握雪感を生じる。受傷後は鼻をかまないよう指導する。

検査

・CT(冠状断を含む多方向の評価): 確定診断に必須。 ・Hess赤緑試験(Hessチャート): 眼球運動障害の程度を記録し、経過を追う。 ・牽引試験(forced duction test): 点眼麻酔下に眼球を鑷子でつまんで動かし、機械的な運動制限(嵌頓)の有無を確認する。

治療

・軽症で複視や眼球陥凹が軽ければ保存的に経過観察する。 ・高度な眼球運動障害が持続する場合や、著明な眼球陥凹がある場合は、嵌頓組織を整復し、骨欠損部を再建する手術を行う。 ・小児に多い閉鎖型(trapdoor型)骨折では、骨が弾性で元に戻り筋を強く挟み込むため、外見上の変化が乏しいのに高度の上転障害をきたす。眼球運動に伴って眼球心臓反射(徐脈、悪心・嘔吐)がみられることもあり、筋の虚血・壊死を防ぐため早期手術が必要である。

POINT

・眼部への鈍的外傷後の複視、特に上方視で増強する複視は眼窩下壁吹き抜け骨折(下直筋の嵌頓による上転障害)を考える。 ・確定診断はCTで行い、冠状断が骨折部と上顎洞への組織脱出の評価に有用である。 ・随伴所見として眼球陥凹、眼窩下神経領域の感覚低下、鼻かみ後の眼窩内気腫を押さえる。 ・小児の閉鎖型骨折は眼球心臓反射を伴うことがあり、緊急手術の対象となりうる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。