ルールが変わったら気づけるか―前頭葉を映し出すカード分類検査
第103回医師国家試験 B問題 第4問
国試問題にチャレンジ
前頭葉機能障害の評価に用いるのはどれか。
- a.Rorschachテスト
- b.標準高次視知覚検査
- c.Minnesota多面人格検査〈MMPI〉
- d.Mini-Mental State Examination〈MMSE〉
- e.ウィスコンシンカードソーティングテスト〈WCST〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
前頭葉、特に前頭前野は計画・方針の切り替え・反応の抑制といった遂行機能を担い、その障害は一般的な知能検査や認知症スクリーニングでは見逃されやすい特徴があります。ウィスコンシンカードソーティングテストは、色・形・数の分類基準を予告なく変更し、セットの転換能力を評価する代表的な前頭葉機能検査で、前頭葉障害では保続性の誤りが増え達成カテゴリー数が減ります。Rorschachテスト(投影法)とMMPI(質問紙法)は人格検査、標準高次視知覚検査は視覚失認などの評価、MMSEは全般的認知機能のスクリーニングであり、いずれも前頭葉機能の評価には適しません。FAB、語流暢性課題、Trail Making Test、Stroop課題もあわせて覚えておくと、前頭側頭型認知症や前大脳動脈領域の梗塞などで、MMSEが保たれていても前頭葉障害を見落とさない臨床判断につながります。
解答・解説
正解はeです
問われていること
前頭葉、とくに前頭前野(前頭葉の運動野より前方の領域)は、目標に向けて行動を計画し、状況に応じて方針を切り替え、不適切な反応を抑える「遂行機能(実行機能)」を担っている。前頭葉が障害されると、知能指数や記憶検査の成績は比較的保たれているのに、同じ誤りを繰り返す(保続)、方針を柔軟に変えられない、計画が立てられないといった特徴的な障害が現れる。そのため、前頭葉機能の評価には、一般的な認知症スクリーニングや人格検査ではなく、遂行機能や概念の転換能力を調べる専用の検査が用いられる。
考え方
選択肢を検査の目的で分類すると整理しやすい。Rorschachテスト(投影法)とMMPI(質問紙法)はいずれも人格(性格)検査であり、脳の特定部位の機能を測るものではない。標準高次視知覚検査は視覚性認知の障害(後頭葉〜頭頂葉・側頭葉の障害で生じる失認)を調べる検査である。MMSEは全般的な認知機能のスクリーニング検査で、前頭葉機能の障害には感度が低い。これに対しウィスコンシンカードソーティングテスト(WCST)は、分類ルールを自ら推測し、ルールが変わればそれに合わせて分類方法を切り替える能力(セットの転換)を評価する代表的な前頭葉機能検査である。
選択肢考察
- ×a. Rorschachテスト
投影法に属する人格検査である。左右対称のインクのしみが描かれた10枚の図版を順に提示し、それが何に見えるか、図版のどこにどのような理由でそう見えたかを自由に答えさせる。反応の内容や、図版のどの部分・どの特徴(形・色・陰影など)に基づいて反応したかを分析し、人格の特徴や思考の様式、情緒の状態を推測する。被検者の内面を探る検査であり、前頭葉機能の評価を目的とするものではない。
- ×b. 標準高次視知覚検査
日本で標準化された、視覚失認や視空間失認などの高次視知覚障害を包括的に評価する検査である(VPTAとも略される)。図版と評価用紙を用いて行い、大項目は7つある(視知覚の基本機能/物体・画像認知/相貌認知/色彩認知/シンボル認知/視空間の認知と操作/地誌的見当識)。対象となる障害は主に後頭葉やそこから頭頂葉・側頭葉へ向かう視覚情報処理経路の損傷によって生じるもので、前頭葉機能の評価には用いない。
- ×c. Minnesota多面人格検査〈MMPI〉
質問紙法に属する人格検査である。原版は550項目の質問からなり、被検者は各項目が自分に「あてはまる」か「あてはまらない」かを答える(日本語版では「どちらでもない」も選択できる)。心気症、抑うつ、ヒステリー、統合失調症などの臨床尺度に加え、回答態度の歪みを検出する妥当性尺度をもつのが特徴である。人格や精神症状の傾向を多面的にとらえるための検査で、前頭葉機能を測るものではない。
- ×d. Mini-Mental State Examination〈MMSE〉
認知症のスクリーニングに広く用いられる簡便な認知機能検査である。時間・場所の見当識、記銘、注意と計算(100から7を順に引く)、再生、物品呼称、文の復唱、口頭指示への従命、読字、書字、図形模写の11項目からなり、30点満点で、一般に23点以下で認知症が疑われる。記憶や見当識など全般的な認知機能を短時間で評価するには有用だが、遂行機能を調べる項目はほとんど含まれないため、前頭側頭型認知症などの前頭葉障害では点数が保たれることも多く、前頭葉機能の評価には適さない。
- ○e. ウィスコンシンカードソーティングテスト〈WCST〉
代表的な前頭葉機能検査である。カードには赤・緑・黄・青の4色、三角形・星形・十字形・丸の4種類の図形が1〜4個描かれており、色・形・数の3つの分類基準(カテゴリー)がある。被検者には分類基準を教えず、提示されたカードを見本カードのどれかに合わせて分類させ、検者は「正しい」か「誤り」かだけを伝える。被検者はその反応から基準を推測するが、一定回数続けて正解すると検者は予告なく基準を変更するため、新しい基準に気づいて分類方法を切り替える必要がある。概念を抽象化する能力と、状況変化に応じて構え(セット)を転換する能力を評価でき、達成カテゴリー数や、変更前の基準に固執して誤る保続性の誤りの数で成績を判定する。前頭葉(特に背外側前頭前野)の障害では、達成カテゴリー数が減り、保続性の誤りが増える。
前頭葉機能の主な評価法
・ウィスコンシンカードソーティングテスト(WCST):概念形成とセットの転換を評価する。日本では簡略化した慶應版(KWCST)がよく用いられる。 ・前頭葉機能検査(FAB:Frontal Assessment Battery):類似性の理解(概念化)、語の流暢性、運動系列(手の動作の連続)、葛藤指示、Go/No-Go課題、把握行動の6項目、18点満点で、ベッドサイドで短時間に施行できる。 ・語流暢性課題:「か」で始まる語や動物の名前を1分間にできるだけ多く挙げさせる。 ・Trail Making Test(TMT):数字や文字を順に線で結ぶ課題で、注意の配分と転換を評価する(B課題が特に前頭葉機能を反映する)。 ・Stroop課題:色名と文字の色が一致しない刺激を用いて、優位な反応を抑制する能力を評価する。 ・遂行機能障害症候群の行動評価(BADS):日常生活に近い課題で遂行機能を評価する。
前頭葉が障害される主な疾患
前頭側頭型認知症、脳血管障害(前大脳動脈領域の梗塞など)、頭部外傷、脳腫瘍、進行性核上性麻痺などがある。前頭葉障害では、遂行機能障害のほか、脱抑制、無関心(アパシー)、常同行動、保続、把握反射などの原始反射の出現がみられる。
選択肢の検査の分類
・人格検査(投影法):Rorschachテスト、TAT(主題統覚検査)、バウムテスト、SCT(文章完成法)など ・人格検査(質問紙法):MMPI、YG性格検査(矢田部ギルフォード性格検査)など ・認知症スクリーニング:MMSE、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R) ・高次視知覚:標準高次視知覚検査(VPTA)
POINT
・前頭葉機能(遂行機能・セットの転換)の評価にはWCSTを用いる。ほかにFAB、語流暢性課題、Trail Making Test、Stroop課題なども前頭葉機能検査である。 ・WCSTでは予告なく分類基準が変わり、前頭葉障害では保続性の誤りが増え、達成カテゴリー数が減る。 ・人格検査のうち、投影法に属するのがRorschachテスト、質問紙法に属するのがMMPIである。 ・MMSEは全般的認知機能のスクリーニングで、前頭葉障害の検出力は低い。 ・標準高次視知覚検査は視覚失認・視空間失認の評価に用いる。
