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「障害」を健康の一部として描き直す―ICIDHからICFへの言葉の引っ越し

第103回医師国家試験 B問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第103回 B問題 第3問

国際生活機能分類〈ICF〉で誤っているのはどれか。

  1. a.障害を健康状態の構成要素とする。
  2. b.障害を「実行状況」と「能力」とでとらえる。
  3. c.障害への環境因子の影響を考慮する。
  4. d.心身の構造の異常を「能力低下」と呼ぶ。
  5. e.人生および社会生活場面での制限を「参加制約」と呼ぶ。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はWHOの国際生活機能分類、ICFの問題だ。誤っているものを選ぶ形式なので、ポイントはICFの用語と、その前身である国際障害分類ICIDHの用語をきちんと区別できているかどうか。まずはICFがどういう発想で作られたのか、から押さえよう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、ICIDHが改訂されてICFになったと習いました。でも、何が変わったのかはあいまいです。
ドクタードクター
ICIDHは1980年に発表された分類で、病気があって、そこから機能障害、能力低下、社会的不利へと一方向に進む、という流れで障害をとらえていた。つまり障害を「病気の結果」として扱う、マイナス面中心のモデルだったんだ。
医学生医学生
2001年に採択されたICFでは、その一方向の流れをやめたということですか。
ドクタードクター
その通り。ICFは人の生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つのレベルでとらえ、それぞれの問題を「機能障害(構造障害を含む)」「活動制限」「参加制約」と呼ぶ。そしてこれらが健康状態や背景因子と双方向に影響し合う、という相互作用モデルになった。障害を病気の帰結ではなく、誰にでも起こりうる健康の構成要素として中立的に位置づけたのが大きな転換だね。
医学生医学生
それなら「障害を健康状態の構成要素とする」という記述は、まさにICFの考え方そのものですね。
ドクタードクター
そうだね、正しい記述だ。次に環境因子について。ICFでは背景因子として環境因子と個人因子が加わった。段差や福祉用具のような物的環境、家族や支援者、制度や周囲の態度まで含まれ、生活機能を後押しする促進因子にも、妨げる阻害因子にもなりうる。
医学生医学生
リハビリテーション科の実習で、自宅の段差をなくしたら一人でトイレに行けるようになった患者さんがいました。あれは環境因子が変わって活動が改善した例ですね。
ドクタードクター
まさにICF的な見方だ。だから「環境因子の影響を考慮する」も正しい。では「実行状況」と「能力」はどうかな。
医学生医学生
そこが少し自信がありません。どちらも同じ意味のように聞こえます。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。ICFでは活動と参加を2つの評価点でみる。「実行状況」は今の実際の生活環境で本人が実際にしていること、「能力」は支援や補助具のない標準的な環境で発揮できる最大の力だ。この差を見ると、環境調整や支援でどれだけ改善できるかがわかる。
医学生医学生
「できるのにしていない」のか「そもそもできない」のかを分けて考えるわけですね。だからこの記述も正しい。
ドクタードクター
そういうこと。そして「人生および社会生活場面での制限を参加制約と呼ぶ」も正しい。家庭生活、仕事、地域活動、社会的役割などへのかかわりの難しさが参加制約で、ICIDHでいう社会的不利に相当するけれど、否定的な響きを避けた表現に改められたんだ。
医学生医学生
残るのは「心身の構造の異常を能力低下と呼ぶ」ですね。能力低下はICIDHの言葉だった気がします。
ドクタードクター
正解。これが誤りの記述だ。ICFでは心身機能や身体構造の問題は「機能障害(構造障害)」と呼ぶ。「能力低下」はICIDHのdisabilityの訳語で、個人レベルの能力の制限を指し、ICFではおおむね「活動制限」に引き継がれた。だから用語としても、概念の対応としてもずれているんだ。
医学生医学生
ICIDHの機能障害・能力低下・社会的不利が、ICFでは機能障害・活動制限・参加制約に対応する、とセットで覚えればよさそうです。
ドクタードクター
その対応表が一番の得点源だね。少し補足すると、個人因子は年齢や生活歴、価値観などで、文化差が大きいためICFではコード化されていない。またICFは、障害を治療で解決する医学モデルと、社会がつくり出す問題とみる社会モデルを統合した「生物・心理・社会モデル」に立っている。
医学生医学生
疾病そのものはICDで分類して、生活の側面はICFで記述する、という使い分けでしょうか。
ドクタードクター
そう、ICDとICFは相補的な関係にある。臨床ではリハビリテーションのカンファレンスや介護のケアプラン作成で、多職種の共通言語として使われている。病名だけでなく、その人が何をしていて、何に参加したいのかを一緒に語るための枠組みだと考えると、実感がわきやすいと思うよ。

まとめ

ICFは2001年にWHOが採択した分類で、1980年のICIDHを改訂し、障害を「疾病の帰結」から「健康の構成要素」へと位置づけ直しました。生活機能を心身機能・身体構造、活動、参加の3レベルでとらえ、その問題をそれぞれ機能障害(構造障害)、活動制限、参加制約と呼び、環境因子・個人因子との双方向の相互作用で説明します。活動と参加は「実行状況」と「能力」の2つの評価点でみることで、環境調整や支援で改善できる余地を把握できます。「能力低下」「社会的不利」はICIDHの用語であり、心身の構造の異常はICFでは機能障害(構造障害)と呼ぶ点が本問の要です。ICFはリハビリテーションや介護の現場で多職種の共通言語となるため、用語の対応関係を正確に理解しておくことが臨床でも役立ちます。

解答・解説

正解はdです

国際生活機能分類(ICF:International Classification of Functioning, Disability and Health)は、2001年のWHO総会で採択された、人の生活機能と障害を記述するための国際的な分類である。1980年にWHOが発表した国際障害分類(ICIDH:International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps)を改訂したものである。 ICIDHは「疾患・変調 → 機能障害(impairment) → 能力低下(能力障害、disability) → 社会的不利(handicap)」という一方向の流れで障害をとらえ、障害を「疾病の帰結(結果)」として分類するマイナス面中心のモデルであった。これに対してICFは、次のような特徴をもつ。 ・生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つのレベルでとらえ、それぞれの問題を「機能障害(構造障害を含む)」「活動制限」「参加制約」と呼ぶ。障害はこれらすべてを包括する用語である。 ・生活機能と障害は、健康状態(疾病・変調など)と背景因子(環境因子・個人因子)との双方向の相互作用の結果として生じると考える。 ・障害を「疾病の帰結」ではなく「健康の構成要素」として位置づけ、すべての人に当てはまる中立的な分類とする。 本問は「誤っているもの」を選ぶ問題である。ICFの用語とICIDHの用語の対応を正しく理解しているかがポイントとなる。心身の構造の異常はICFでは「機能障害(構造障害)」と呼ぶのであり、「能力低下」はICIDHで用いられた用語である。

選択肢考察

  1. ×a.  障害を健康状態の構成要素とする。

    記述は正しい。ICIDHが障害を「疾病の帰結(consequences of disease)」として分類したのに対し、ICFは「健康の構成要素(components of health)」の分類へと視点を転換した。障害は特定の人だけの問題ではなく、誰にでも起こりうる健康状態の一側面として中立的にとらえられる。

  2. ×b.  障害を「実行状況」と「能力」とでとらえる。

    記述は正しい。ICFでは「活動」と「参加」を評価する際に、2つの評価点を用いる。「実行状況(performance)」は現在の実際の生活環境のなかで本人が実際に行っていること、「能力(capacity)」は標準化された環境(支援や補助具のない状態など)で発揮できる最大の能力である。両者の差をみることで、環境の調整や支援によって改善できる余地を把握できる。

  3. ×c.  障害への環境因子の影響を考慮する。

    記述は正しい。ICFでは生活機能に影響する背景因子として「環境因子」と「個人因子」を設けている。環境因子には、物的環境(建物の段差、福祉用具など)、人的環境(家族・支援者)、社会的環境(制度、サービス、人々の態度)が含まれ、促進因子にも阻害因子にもなりうる。環境因子が分類として組み込まれたことは、ICIDHからの大きな変更点である。

  4. ○d.  心身の構造の異常を「能力低下」と呼ぶ。

    記述は誤りであり、本問の正解である。ICFでは、心身機能や身体構造に生じた著しい変異や喪失などの問題を「機能障害(構造障害を含む)」と呼ぶ。「能力低下(能力障害、disability)」は旧来のICIDHにおける用語で、個人レベルでの能力の制限を指すものであり、ICFではおおむね「活動制限」に相当する概念となった。したがって、心身の構造の異常を「能力低下」と呼ぶという記述は、ICFの用語としても概念の対応としても誤っている。

  5. ×e.  人生および社会生活場面での制限を「参加制約」と呼ぶ。

    記述は正しい。ICFにおける「参加」とは生活・人生場面へのかかわり(家庭生活、仕事、地域活動、社会的役割など)を指し、個人がそれらにかかわる際に経験する難しさを「参加制約」と呼ぶ。ICIDHの「社会的不利(handicap)」に相当する概念であるが、否定的な印象を避けた中立的な表現に改められた。

ICIDHとICFの用語の対応

・機能障害(impairment) → 心身機能・身体構造(その問題が機能障害・構造障害) ・能力低下/能力障害(disability) → 活動(その問題が活動制限) ・社会的不利(handicap) → 参加(その問題が参加制約) ・ICIDHにはない要素として、ICFでは背景因子(環境因子・個人因子)が加わった。なお、個人因子(年齢、性別、生活歴、価値観など)は社会的・文化的差異が大きいため、ICFでは分類項目としてはコード化されていない。

ICFの考え方の特徴

・マイナス面(障害)だけでなく、プラス面(生活機能)を含めて中立的に記述する。 ・各要素は一方向ではなく双方向に影響し合う(相互作用モデル)。例えば、参加の機会が減ることで活動が低下し、さらに心身機能が低下するという逆方向の影響も表現できる。 ・医学モデル(障害を個人の問題として治療で解決する)と社会モデル(障害を社会環境がつくり出す問題としてとらえる)を統合した「生物・心理・社会モデル」に立つ。

関連するWHOの分類

WHOの国際分類ファミリーのなかで、疾病や死因を分類する国際疾病分類(ICD)と、生活機能や障害を分類するICFは相補的な関係にあり、両者を併用することで健康状態をより包括的に記述できる。リハビリテーション医療や介護保険のケアプラン作成など、多職種が共通言語として用いる枠組みとなっている。

POINT

・ICFは2001年WHO採択、ICIDH(1980年)の改訂版 ・生活機能=心身機能・身体構造/活動/参加、その問題=機能障害(構造障害)/活動制限/参加制約 ・背景因子=環境因子+個人因子。双方向の相互作用モデル ・活動・参加は「実行状況」と「能力」で評価 ・「能力低下」「社会的不利」はICIDHの用語

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。