StudyMed医師国家試験

「維持」ではなく「向上」へ―新障害者プランに込められた共生社会への道筋

第103回医師国家試験 B問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第103回 B問題 第19問

新障害者プランの考え方で誤っているのはどれか。

  1. a.生活水準の維持
  2. b.雇用・就業の確保
  3. c.精神障害者施策の充実
  4. d.生活支援のための地域基盤整備
  5. e.障害の原因となる疾病の予防・治療・リハビリテーション

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は障害者施策の計画のひとつ、新障害者プランの基本的な考え方を問う問題だ。選択肢を一つずつ覚えているかより、プラン全体を貫く理念をつかんでいれば解ける。キーワードは「リハビリテーション」と「ノーマライゼーション」だよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で聞いた気はするんですが、障害者プランと障害者基本計画の関係がいつも混乱します。
ドクタードクター
そこから整理しよう。障害者基本法にもとづいて国が定めるのが障害者基本計画で、2002年に策定された計画は2003年度からの10年計画だった。その前半5年間に重点的に取り組む施策と数値目標をまとめたのが新障害者プラン、正式には「重点施策実施5か年計画」なんだ。
医学生医学生
基本計画が大枠で、新障害者プランがその前期の実行計画ということですね。
ドクタードクター
その通り。そして目指すゴールは「共生社会」、つまり障害の有無にかかわらず、互いに人格と個性を尊重して支え合う社会だ。そのために、障害のある人が活動し社会に参加する力を高めることと、それを支える地域の基盤を整えることが二本柱になっている。
医学生医学生
ノーマライゼーションは、障害のある人も地域で当たり前に暮らせる社会をつくる考え方でしたよね。CBTの対策でバンク・ミケルセンの名前と一緒に覚えました。
ドクタードクター
よく覚えているね。では選択肢を見ていこう。まず障害の原因となる疾病の予防・治療・リハビリテーションはどうかな。
医学生医学生
障害の発生や重度化を防ぐ施策なので、プランに入っていそうです。
ドクタードクター
そう、基本的な施策として位置づけられている。早期発見・早期治療と医学的リハビリテーションは、参加する力を高める土台だからね。次に雇用・就業の確保は?
医学生医学生
経済的自立と社会参加の中心ですから、これも重点施策だと思います。
ドクタードクター
正しい。雇用される障害者数やハローワークでの就職件数に数値目標が設けられ、職業リハビリテーションも進められた。精神障害者施策の充実はどうだろう。
医学生医学生
精神科の臨床実習で、何十年も入院している患者さんがいると聞いて驚きました。地域移行が遅れていたからこそ重点になったのでしょうか。
ドクタードクター
まさにそれが背景だ。長期入院から地域生活への移行を進めるため、保健・医療・福祉の施策を総合的に推進することが重点とされ、精神障害者向けのホームヘルパーや福祉ホームにも新たに数値目標が設けられた。生活支援のための地域基盤整備も、施設中心から地域生活中心への転換という大きな柱そのものだよ。
医学生医学生
そうすると残るのは生活水準の維持ですね。一見よさそうに見えるので、ひっかかりそうでした。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だね。生活水準を保つこと自体は悪くないけれど、このプランは障害のある人の力や生活の質を積極的に「高める」ことを目指している。現状をそのまま保つという受け身の「維持」は理念にそぐわないし、そもそも重点施策の項目にもない。だから誤っているのはこれだ。
医学生医学生
「維持」か「向上」か、という言葉のニュアンスで判断するんですね。
ドクタードクター
そう。公衆衛生の制度問題では、理念に照らして方向性が合っているかを考えると、細かい知識がなくても解けることが多い。発展として、計画の流れも押さえておこう。国際障害者年を受けた1982年の長期計画、1995年に初めて数値目標を盛り込んだ障害者プラン「ノーマライゼーション7か年戦略」、そして新障害者プランへと続く。障害者基本計画はその後も改定され、現在は第5次計画が進んでいる。
医学生医学生
具体的な福祉サービスは障害者総合支援法でしたよね。
ドクタードクター
そうだね、障害者自立支援法から2013年に改称された法律だ。臨床では、退院支援や就労支援でこうした制度を使う場面が必ずある。医師もリハビリテーションを医学的なものだけでなく、職業的・社会的な面も含めた全人的な権利の回復として捉えておくと、多職種と連携しやすくなるよ。

まとめ

新障害者プラン(重点施策実施5か年計画)は、2002年策定の障害者基本計画の前期5年間(2003〜2007年度)の実施計画で、リハビリテーションとノーマライゼーションを理念に共生社会の実現を目指しています。重点施策には、障害の原因となる疾病の予防・治療・リハビリテーション、雇用・就業の確保、精神障害者施策の総合的推進、在宅サービスや住まい・活動の場など地域生活を支える基盤整備が含まれます。一方「生活水準の維持」という受け身の発想は、活動し社会に参加する力の「向上」を目指すプランの考え方に合いません。計画の変遷や障害者基本法・障害者総合支援法との関係も合わせて理解しておくと、制度問題に強くなり、臨床での退院支援や就労支援にも役立ちます。

解答・解説

正解はaです

新障害者プラン(正式名称は「重点施策実施5か年計画」)は、2002(平成14)年12月に策定された障害者施策の実施計画である。同時に策定された障害者基本計画(いわゆる新障害者基本計画、2003〜2012年度の10年計画)の前半5年間(2003〜2007年度)に重点的に取り組む施策と、その数値目標を定めたものである。 根底にある理念は、リハビリテーション(障害のある人が能力を最大限に発揮し、社会の一員として生活を取り戻すための全人的な取り組み)とノーマライゼーション(障害のある人もない人も地域で当たり前に暮らせる社会をつくるという考え方)である。これらに基づき、障害の有無にかかわらず国民誰もが互いに人格と個性を尊重し支え合う「共生社会」の実現を目指している。 そのため施策の方向性は、障害のある人が「活動し社会に参加する力を高めること」と、それを支える「地域の基盤を整えること」の二本柱で構成されている。具体的には、障害の原因となる疾病の予防・治療とリハビリテーション、雇用・就業の確保、精神障害者施策の総合的な推進、在宅サービスや住まい・活動の場といった地域生活を支える基盤整備、バリアフリー化などが掲げられた。 本問は「誤っているもの」を選ぶ形式である。現状を保つだけの「維持」という発想は、社会参加する力や生活の質を積極的に高めていこうとする本プランの考え方にそぐわない。

選択肢考察

  1. ○a.  生活水準の維持

    新障害者プランの重点施策に「生活水準の維持」という項目はない。本プランは、障害のある人が活動し社会に参加する力を「向上」させ、地域で自立した生活を送れるよう支援することを目指しており、現状の生活水準をそのまま保つという受け身の考え方は理念に反する。したがって新障害者プランの考え方として誤りであり、これが正解となる。

  2. ×b.  雇用・就業の確保

    就労は障害のある人の経済的自立と社会参加の中核であり、本プランでも重点施策の一つとされた。雇用される障害者数やハローワーク(公共職業安定所)での障害者の就職件数について数値目標を設定し、職業リハビリテーションや授産施設の整備などが進められた。新障害者プランの考え方として正しい。

  3. ×c.  精神障害者施策の充実

    精神障害者は長期入院が多く、地域生活への移行が遅れていたことから、本プランでは保健・医療・福祉にわたる施策を総合的に進めることが重点とされた。精神障害者を対象とするホームヘルパーや福祉ホームについて新たに数値目標を設け、精神障害者地域生活支援センター、社会復帰施設、グループホームなどの整備が図られた。新障害者プランの考え方として正しい。

  4. ×d.  生活支援のための地域基盤整備

    施設中心から地域生活中心への転換は本プランの大きな柱である。ホームヘルプサービス、ショートステイ、デイサービスなどの在宅サービスの充実や、グループホーム・授産施設など住まいと活動の場の確保が掲げられ、入所施設も在宅生活を支える地域の資源として活用する方針が示された。新障害者プランの考え方として正しい。

  5. ×e.  障害の原因となる疾病の予防・治療・リハビリテーション

    障害の原因となる疾病や事故を予防し、早期に発見・治療し、医学的リハビリテーションを行うことは、障害の発生や重度化を防ぎ、活動し参加する力を高めるための基本的な施策である。本プランでも重点施策として位置づけられており、新障害者プランの考え方として正しい。

わが国の障害者施策の計画の流れ

・障害者対策に関する長期計画(1982年): 国際障害者年(1981年)を受けて策定。 ・障害者対策に関する新長期計画(1993年): 障害者基本法の制定(1993年、心身障害者対策基本法を改正・改称)とあわせて策定。 ・障害者プラン〜ノーマライゼーション7か年戦略〜(1995年策定、1996〜2002年度): 初めて具体的な数値目標を盛り込んだ計画。 ・障害者基本計画(2002年策定、2003〜2012年度。新長期計画を第1次とみなし、第2次と位置づけられる)と、その前期の実施計画である新障害者プラン(重点施策実施5か年計画、2003〜2007年度)。後期にも新たな重点施策実施5か年計画(2008〜2012年度)が策定された。 ・その後、障害者基本計画は第3次(2013〜2017年度)、第4次(2018〜2022年度)と改定を重ね、現在は第5次(2023〜2027年度)が進められている。

キーワード

・ノーマライゼーション: 障害のある人を特別視せず、障害のない人と同じように地域で普通の生活を送れる社会を目指す理念。デンマークのバンク・ミケルセンが提唱した。 ・リハビリテーション: 医学的・教育的・職業的・社会的リハビリテーションを含み、障害のある人の全人的な権利の回復を目指す取り組み。 ・共生社会: 障害の有無によって分け隔てられることなく、互いに人格と個性を尊重し合いながら共に生きる社会。 ・バリアフリー: 物理的な障壁だけでなく、制度的・文化・情報面・意識上の障壁を取り除くこと。

関連法規

障害者施策の基本となる法律は障害者基本法であり、国に障害者基本計画の策定を義務づけている。具体的な福祉サービスは現在、障害者総合支援法(2013年に障害者自立支援法から改称)に基づいて提供されている。

POINT

・新障害者プラン=重点施策実施5か年計画(2003〜2007年度)で、障害者基本計画の前期実施計画である。 ・理念はリハビリテーションとノーマライゼーション、目標は「共生社会」の実現である。 ・重点施策: 疾病の予防・治療・リハビリテーション、雇用・就業の確保、精神障害者施策の総合的推進、地域生活を支える基盤整備(在宅サービス、住まい・活動の場)、バリアフリー化など。 ・「維持」ではなく、活動し社会に参加する力の「向上」を目指す点が鍵である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。