年齢とともに下がるのはPaO2だけ―血液ガスで読み解く「肺の老化」
第103回医師国家試験 B問題 第20問
国試問題にチャレンジ
動脈血ガス分析で老化によって変化するのはどれか。
- a.pH
- b.PaO2
- c.PaCO2
- d.HCO3-
- e.BE
対話形式の解説
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ドクターまとめ
動脈血ガスのうち、pH・PaCO2・HCO3−・BEといった酸塩基平衡の指標は、肺と腎臓による調節で加齢後も基準範囲が保たれます。一方、酸素化の指標であるPaO2は、肺の弾性収縮力低下によるクロージングボリュームの増加が換気血流比の不均等を生み、さらに拡散能の低下も加わってA-aDO2が開大するため、年齢とともに低下します。CO2は拡散しやすく換気の増加で補正できるのに対し、酸素は解離曲線の上方が平坦なため補えない点が両者の違いです。PaO2の目安は「100−0.3×年齢(Torr)」で、高齢者では80 Torr前後でも生理的範囲となりえますが、PaCO2上昇や予想以上のA-aDO2開大は病的変化を示唆します。加齢による正常変化を知ることは、高齢者の検査値を正しく解釈し、病気を見逃さないための基本です。
解答・解説
正解はbです
動脈血ガス分析の項目のうち、健康な人でも年齢とともに基準値が変わっていくものを選ぶ問題である。 動脈血ガス分析で得られる主な指標は、酸塩基平衡に関わるもの(pH、PaCO2、HCO3-、BE)と、酸素化に関わるもの(PaO2、SaO2など)の二つに大きく分けられる。 酸塩基平衡の指標は、生体のホメオスタシス(恒常性)の中心として、肺(CO2の排出)と腎臓(HCO3-の再吸収・酸の排泄)によって厳密に一定範囲へ保たれている。したがって、病的状態がなければ高齢になっても基準範囲は変わらない。 一方、酸素化の指標であるPaO2(動脈血酸素分圧)は、肺の構造的な老化の影響を直接受ける。加齢によって肺の弾性収縮力が低下し、クロージングボリューム(呼気時に末梢気道が閉じ始める肺気量)が増えると、安静換気の範囲内でも下肺野の末梢気道が閉塞しやすくなる。その結果、換気が乏しいのに血流は保たれている肺胞が増え、換気血流比の不均等が生じる。さらに肺胞壁の減少による拡散能の低下も加わり、肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)が開大してPaO2は低下する。 これに対しPaCO2は、CO2の拡散能が酸素の約20倍と高く、また換気量の調節によってすぐに補正されるため、加齢の影響をほとんど受けない。 よって、老化によって変化するのはPaO2である。
選択肢考察
- ×a. pH
pHは酸塩基平衡の最終的な指標であり、Henderson-Hasselbalch(ヘンダーソン・ハッセルバルヒ)の式に示されるようにHCO3-とPaCO2の比で決まる。呼吸と腎臓による調節で常に7.35~7.45の範囲に保たれており、健康な高齢者でも基準範囲は変わらない。
- ○b. PaO2
加齢により肺の弾性収縮力が低下してクロージングボリュームが増加すると、安静換気中にも末梢気道の閉塞が起こりやすくなり、換気血流比の不均等が生じる。加えて肺胞表面積の減少により拡散能も低下する。これらによりA-aDO2が開大し、PaO2は年齢とともに徐々に低下する。若年者ではおおむね90~100 Torr程度であるのに対し、高齢者では80 Torr前後まで下がっても生理的範囲と考えられる。目安として「PaO2 ≒ 100-0.3×年齢(Torr)」という近似式が知られている。
- ×c. PaCO2
PaCO2は肺胞換気量によって決まり、延髄の中枢化学受容体を介して換気が調節されるため、35~45 Torrの範囲に保たれる。CO2は酸素に比べて約20倍拡散しやすく、換気血流比の不均等や拡散能の低下があってもPaCO2は上昇しにくい。このため加齢で基準値は変わらない。
- ×d. HCO3-
HCO3-は主に腎臓(近位尿細管での再吸収と、遠位での酸排泄に伴う新生)で調節される塩基であり、基準値はおよそ22~26 mEq/Lである。腎機能は加齢で低下するものの、疾患がなければ酸塩基平衡を維持する能力は保たれ、健康な高齢者でHCO3-の基準値が変化することはない。
- ×e. BE
BE(base excess、塩基過剰)は、PaCO2を40 Torrに補正したときに血液のpHを7.40に戻すのに必要な酸または塩基の量であり、代謝性要因による酸塩基平衡の偏りを表す。基準値は0±2 mEq/L程度で、代謝性アシドーシスでは負の値、代謝性アルカローシスでは正の値をとる。加齢そのものでは変化しない。
動脈血ガス分析の主な基準値(成人)
pH 7.35~7.45、PaCO2 35~45 Torr、HCO3- 22~26 mEq/L、BE 0±2 mEq/L、PaO2 80~100 Torr(若年者ではより高い)、SaO2 95%以上。
加齢に伴う呼吸機能の変化
・肺の弾性収縮力の低下(肺コンプライアンスの増大) ・胸郭のコンプライアンス低下、呼吸筋力の低下 ・残気量(RV)、機能的残気量(FRC)、クロージングボリュームの増加 ・肺活量(VC)、1秒量(FEV1)、1秒率の低下 ・全肺気量(TLC)はほぼ不変 ・肺拡散能(DLCO)の低下 ・A-aDO2の開大とPaO2の低下(PaCO2、pHは不変)
A-aDO2(肺胞気-動脈血酸素分圧較差)
室内気吸入時の基準は若年者で10 Torr以下程度だが、年齢とともに大きくなり、高齢者では20 Torr前後まで生理的に開大しうる。A-aDO2の開大は、換気血流比不均等、拡散障害、シャントのいずれかを示す。
PaCO2が変化しにくい理由
CO2は拡散能が高く、また換気量の増減で速やかに是正される。換気血流比不均等で一部の肺胞の換気が悪くても、他の肺胞の換気を増やせば排出を補えるが、酸素はヘモグロビンの酸素解離曲線が上方で平坦なため、換気の良い肺胞で余分に取り込むことができず、PaO2の低下が残る。
POINT
・加齢で低下する血液ガス指標はPaO2であり、PaCO2・pH・HCO3-・BEは変化しない。 ・機序はクロージングボリュームの増加による換気血流比不均等と、肺拡散能の低下である。 ・PaO2の目安は「100-0.3×年齢(Torr)」、高齢者では80 Torr前後でも生理的範囲。 ・加齢でA-aDO2は開大する。
