カリウムはどこで捨てられる?―集合管から読み解く降圧薬と低カリウム血症
第103回医師国家試験 B問題 第11問
国試問題にチャレンジ
低カリウム血症を起こすのはどれか。
- a.β遮断薬
- b.カルシウム拮抗薬
- c.サイアザイド系利尿薬
- d.アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬
- e.アンジオテンシン変換酵素阻害薬
対話形式の解説
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ドクターまとめ
血清カリウム値は、主に集合管でのカリウム分泌(ENaCを介したナトリウム再吸収とアルドステロンが促進)と、β2刺激やインスリンによる細胞内移動で調節されています。サイアザイド系利尿薬は遠位曲尿細管のNCCを阻害して集合管へのナトリウム到達量と尿流量を増やし、体液量減少によるアルドステロン上昇も加わって低カリウム血症を起こします。一方、ACE阻害薬・ARBはアルドステロンを減らし、β遮断薬はカリウムの細胞内取り込みとレニン分泌を抑えるため高カリウム側に働き、カルシウム拮抗薬はほとんど影響しません。サイアザイド系とACE阻害薬・ARBの配合剤がカリウム値の変動を打ち消し合う点は、臨床での処方の工夫として重要です。薬ごとに丸暗記するのではなく、カリウム排泄の仕組みから考える習慣をつければ、甘草やST合剤など降圧薬以外の薬剤による電解質異常にも応用できます。
解答・解説
正解はcです
本問は、代表的な降圧薬が血清カリウム(K)値にどう影響するかを問うている。 血清K値を左右する主な仕組みは2つある。1つは腎臓からのK排泄で、その大部分は集合管(皮質集合管)で行われる。ここでは、上皮型Naチャネル(ENaC)からNaが再吸収されると管腔側が負に荷電し、それに引かれるようにK+がROMKチャネルから尿中へ分泌される。アルドステロンはこのNa再吸収とK分泌の両方を促進する。したがって「集合管に届くNaと尿流量が増える」「アルドステロンが増える」とK排泄が増えて低K血症に、逆に「アルドステロン作用が弱まる」とK排泄が減って高K血症に傾く。もう1つは細胞内外のK移動で、β2受容体刺激やインスリンはNa+/K+-ATPaseを活性化し、Kを細胞内へ取り込ませる。 この枠組みで考えると、集合管より上流でNa再吸収を抑える利尿薬(サイアザイド系、ループ利尿薬)は低K血症を起こし、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAA系)を抑える薬(ACE阻害薬、ARB)や、β2を介したKの細胞内取り込みやレニン分泌を抑えるβ遮断薬は高K血症側に働く。カルシウム拮抗薬はK代謝にほとんど影響しない。よって低K血症を起こすのはサイアザイド系利尿薬である。
選択肢考察
- ×a. β遮断薬
β遮断薬は低K血症ではなく、むしろ血清K値を上げる方向に働く。β2受容体刺激はNa+/K+-ATPaseを活性化してKを細胞内に取り込ませるため、特に非選択性β遮断薬ではこの作用が妨げられ、Kが細胞外にとどまりやすくなる。また、傍糸球体細胞のβ1受容体を遮断してレニン分泌を抑え、アルドステロンを減らすことも高K血症の一因となる。主な副作用は徐脈・房室ブロック、心不全の増悪、気管支攣縮(気管支喘息患者では禁忌)、低血糖症状の隠蔽などである。誤り。
- ×b. カルシウム拮抗薬
カルシウム拮抗薬は血管平滑筋のL型カルシウムチャネルを遮断して血管を拡張させる薬で、血清K値にはほとんど影響しない。ジヒドロピリジン系(ニフェジピン、アムロジピンなど)の副作用としては、血管拡張による顔面紅潮・頭痛・動悸・下腿浮腫、歯肉増殖がある。非ジヒドロピリジン系(ベラパミル、ジルチアゼム)は心拍数を下げる作用があり、徐脈や房室ブロックに注意する。誤り。
- ○c. サイアザイド系利尿薬
サイアザイド系利尿薬は遠位曲尿細管のNa+-Cl-共輸送体(NCC)を阻害してNa再吸収を抑える。その結果、下流の集合管に届くNaと尿量が増え、集合管ではENaCを通じたNa再吸収が増える代わりにK分泌が促進される。さらに、体液量が減ることでRAA系が活性化し、増えたアルドステロンがK排泄を一層促す。この2つの機序により低K血症を起こす。低K血症とともに代謝性アルカローシスを伴いやすい。その他の副作用として、低Na血症、高尿酸血症、耐糖能低下(高血糖)、脂質異常、高Ca血症(遠位尿細管でのCa再吸収促進による)、光線過敏症などが知られる。正しい。
- ×d. アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬
アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)は、アンジオテンシンⅡがAT1受容体に結合するのを妨げ、血管収縮と副腎皮質からのアルドステロン分泌を抑える。アルドステロン作用が弱まると集合管でのK分泌が減るため、低K血症ではなく高K血症を起こしうる。腎機能障害のある患者や、K保持性利尿薬・K製剤を併用している患者では特に注意が必要である。また胎児への影響があるため妊婦には禁忌である。誤り。
- ×e. アンジオテンシン変換酵素阻害薬
アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬は、アンジオテンシンⅠからアンジオテンシンⅡへの変換を阻害してアンジオテンシンⅡを減らし、結果としてアルドステロン分泌も低下させる。そのためARBと同様に、K排泄が減って高K血症を起こしうる。ACEはブラジキニンの分解も担っているため、ACE阻害薬ではブラジキニンが蓄積し、空咳や血管性浮腫といった特有の副作用がみられる。妊婦には禁忌である。誤り。
降圧薬と血清K値
・低K血症を起こしうる: サイアザイド系(およびサイアザイド類似)利尿薬、ループ利尿薬 ・高K血症を起こしうる: ACE阻害薬、ARB、直接的レニン阻害薬、K保持性利尿薬(スピロノラクトン、エプレレノンなどの抗アルドステロン薬、トリアムテレン)、β遮断薬 ・影響がほとんどない: カルシウム拮抗薬、α遮断薬
降圧薬以外で低K血症を起こす代表的な薬剤
・甘草・グリチルリチン製剤(偽性アルドステロン症。11β-水酸化ステロイド脱水素酵素2型の阻害によりコルチゾールが鉱質コルチコイド受容体を刺激する) ・インスリン、β2刺激薬(Kを細胞内へ移動させる) ・副腎皮質ステロイド(鉱質コルチコイド作用) ・アムホテリシンB ・下剤の乱用
降圧薬以外で高K血症を起こす代表的な薬剤
・ST合剤(トリメトプリムがENaCを阻害) ・ヘパリン(アルドステロン合成を抑制) ・NSAIDs(レニン分泌を抑制) ・カルシニューリン阻害薬(シクロスポリン、タクロリムス) ・ジギタリス中毒(Na+/K+-ATPase阻害)
臨床での工夫
サイアザイド系利尿薬とACE阻害薬・ARBを併用すると、K値への影響が互いに打ち消し合い、降圧効果も相乗的に高まる。このため両者を組み合わせた配合剤が広く使われている。
POINT
・サイアザイド系利尿薬(遠位曲尿細管のNCC阻害)とループ利尿薬は低K血症を起こす ・機序: 集合管へのNa到達量・尿流量の増加+体液量減少によるアルドステロン増加→K分泌促進 ・ACE阻害薬・ARB・K保持性利尿薬・β遮断薬は高K血症側に働く ・カルシウム拮抗薬は血清K値にほとんど影響しない ・サイアザイドの他の副作用: 低Na血症、高尿酸血症、高血糖、高Ca血症、代謝性アルカローシス
