足の膿疱と胸の痛み―掌蹠膿疱症の「火元」は喉にあった
第103回医師国家試験 A問題 第56問
国試問題にチャレンジ
40歳の女性。両足の皮疹を主訴に来院した。病変部からの細菌・真菌培養は陰性である。胸骨部の痛みを訴えている。右足の写真を別に示す。 この疾患と関連の深いのはどれか。

- a.慢性肝炎
- b.慢性腎炎
- c.多発神経炎
- d.慢性扁桃炎
- e.間質性肺炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
手掌・足底に無菌性の小膿疱を反復し、膿疱・痂皮・鱗屑など新旧の皮疹が混在する場合は掌蹠膿疱症を考え、細菌・真菌培養やKOH鏡検で足白癬や細菌感染症を除外します。前胸部痛は胸鎖関節や胸肋関節に生じる掌蹠膿疱症性骨関節炎の合併を示唆し、診断の重要な手がかりになります。掌蹠膿疱症は病巣感染症の代表で、慢性扁桃炎が最も重要な原病巣であり、ほかに歯性病巣や慢性副鼻腔炎、増悪因子として喫煙や金属アレルギーが挙げられます。IgA腎症も扁桃を原病巣とする病巣感染症ですが、掌蹠膿疱症とは同じ火元をもつ二次疾患どうしの関係にすぎません。皮膚症状の背景にある全身の病巣を探し、禁煙や扁桃摘出術、歯科治療まで含めて診療を組み立てる視点は、皮膚と全身をつなぐ臨床推論の好例です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・40歳の女性で、両足に皮疹がある。 ・写真では右足の内側縁から足底(土踏まず~踵)にかけて紅斑があり、その上に小さな膿疱・小水疱と、それが乾いてできた赤褐色の点状の痂皮、鱗屑(皮膚表面のふけ状のはがれ)が散在している。新旧の病変が混在しているのが特徴である。 ・病変部の細菌培養・真菌培養はいずれも陰性であり、膿疱は感染によらない「無菌性膿疱」と考えられる。 ・胸骨部の痛みを訴えている。
診断へのプロセス
足に膿疱・小水疱と鱗屑が出る疾患としては、足白癬(水虫)、細菌性の膿痂疹、汗疱・異汗性湿疹、接触皮膚炎、掌蹠膿疱症などが鑑別に挙がる。培養で真菌が陰性であることから足白癬は考えにくく、細菌も陰性なので細菌感染症も否定的である。 ここで決め手になるのが胸骨部の痛みである。掌蹠膿疱症には、胸鎖関節・胸肋関節・胸骨柄結合など前胸壁の骨・関節に無菌性の炎症や骨化が起こる「掌蹠膿疱症性骨関節炎(PAO)」がしばしば合併する(胸肋鎖骨間骨化症とも呼ばれる)。無菌性膿疱を反復する足底の皮疹と前胸部痛の組み合わせから、掌蹠膿疱症と診断できる。
設問の考え方
問われているのは掌蹠膿疱症と関連の深い病態である。掌蹠膿疱症は、扁桃・歯・副鼻腔などの慢性の局所感染巣が離れた臓器に免疫学的な病変を引き起こす「病巣感染症」の代表的な疾患の一つである。特に慢性扁桃炎との関連が深く、扁桃摘出術で皮疹が改善する例があることが知られている。したがって慢性扁桃炎を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 慢性肝炎
慢性肝炎、特にC型肝炎は扁平苔癬(口腔粘膜や四肢に紫紅色の扁平な丘疹が出る疾患)、クリオグロブリン血症による紫斑、晩発性皮膚ポルフィリン症などとの関連が知られている。しかし掌蹠膿疱症との特異的な関連は確立しておらず、誤りである。
- ×b. 慢性腎炎
慢性腎炎のうちIgA腎症は、慢性扁桃炎を病巣とする病巣感染症の一つとされ、扁桃摘出術とステロイドパルス療法が行われることがある。つまり慢性扁桃炎を介して掌蹠膿疱症と「同じ仲間」の疾患ではあるが、慢性腎炎そのものが掌蹠膿疱症の原因や合併症として関連しているわけではない。病巣(原因側)にあたるのは扁桃であり、本問の答えとしては誤りである。
- ×c. 多発神経炎
多発神経炎(多発ニューロパチー)は糖尿病、ビタミンB1欠乏、アルコール、薬剤、血管炎、Guillain-Barré症候群などが原因となる。掌蹠膿疱症との関連はなく、誤りである。
- ○d. 慢性扁桃炎
掌蹠膿疱症は病巣感染症の代表で、慢性扁桃炎が最も重要な病巣である。扁桃に存在する細菌(α溶血性レンサ球菌など)に対する免疫反応が、皮膚の掌蹠や前胸壁の骨関節に炎症を引き起こすと考えられている。扁桃誘発試験(扁桃を刺激して皮疹や発熱の変化をみる検査)が陽性となる例や、扁桃摘出術によって皮疹・骨関節症状が改善する例が多く報告されており、関連が深い。よって正しい。
- ×e. 間質性肺炎
間質性肺炎は皮膚筋炎(特に抗MDA5抗体陽性例、抗ARS抗体陽性例)や全身性強皮症などの膠原病と関連が深い。手指の皮疹(機械工の手、Gottron丘疹)と間質性肺炎の組み合わせは皮膚筋炎を想起させるが、掌蹠膿疱症とは関連がない。誤りである。
掌蹠膿疱症(palmoplantar pustulosis:PPP)の概要
・手掌と足底に、無菌性の小膿疱が左右対称性・反復性に出現する慢性炎症性皮膚疾患である。膿疱に先立って小水疱ができ、それが膿疱化し、やがて褐色の痂皮・鱗屑となって脱落する。新旧の皮疹が混在するのが典型像である。 ・中年(30~50歳代)に好発し、女性にやや多い。喫煙者が非常に多いことが特徴で、喫煙は最も重要な増悪因子である。 ・膿疱内容は無菌であり、真菌・細菌培養は陰性となる。足白癬との鑑別には直接鏡検(KOH法)が基本である。
発症・増悪因子
・病巣感染:慢性扁桃炎、歯周炎・う歯(虫歯)・根尖病巣、慢性副鼻腔炎など。 ・喫煙。 ・金属アレルギー:歯科金属などが関与する例があり、パッチテストが行われることがある。
合併症
・掌蹠膿疱症性骨関節炎(PAO):胸鎖関節・胸肋関節・胸骨柄結合など前胸壁に多く、脊椎や仙腸関節に及ぶこともある。前胸部痛で気付かれる。骨シンチグラフィで胸鎖関節部に集積がみられ、左右の集積が牛の頭のように見える所見(bull's head sign)が知られる。 ・SAPHO症候群:滑膜炎(Synovitis)、痤瘡(Acne)、膿疱症(Pustulosis)、骨化過剰(Hyperostosis)、骨炎(Osteitis)の頭文字をとった概念で、掌蹠膿疱症性骨関節炎はこの一型と位置付けられる。 ・甲状腺疾患や糖代謝異常の合併が多いとの報告もある。
病巣感染症とは
扁桃や歯などの局所の慢性炎症(原病巣)自体はほとんど症状がないが、それが離れた臓器に二次的な病変(二次疾患)を起こす状態をいう。扁桃が原病巣となる代表的疾患は、掌蹠膿疱症、IgA腎症、胸肋鎖骨過形成症(掌蹠膿疱症性骨関節炎)であり、ほかに尋常性乾癬、アナフィラクトイド紫斑(IgA血管炎)、結節性紅斑などでも関連が指摘されている。
治療
・禁煙、病巣感染の治療(扁桃摘出術、歯科治療、副鼻腔炎治療)、金属アレルギーがあれば原因金属の除去。 ・皮疹にはステロイド外用薬、活性型ビタミンD3外用薬が基本となる。 ・難治例では紫外線療法(PUVA療法、エキシマライトなど)、内服薬(テトラサイクリン系抗菌薬のミノサイクリン、エトレチナートなどのレチノイド、シクロスポリン)が用いられる。 ・近年は、中等症~重症例に対してIL-23を標的とする生物学的製剤などが保険適用となっている。 ・骨関節症状には非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が用いられる。
POINT
・手掌・足底の無菌性膿疱を反復し、新旧の皮疹(膿疱・痂皮・鱗屑)が混在→掌蹠膿疱症。 ・細菌・真菌培養陰性で足白癬・細菌感染症を除外する。 ・前胸部(胸鎖関節・胸肋関節)の痛み=掌蹠膿疱症性骨関節炎の合併を示唆し、診断の手がかりになる。 ・掌蹠膿疱症は病巣感染症の代表。原病巣は慢性扁桃炎が最重要で、ほかに歯性病巣・慢性副鼻腔炎。 ・増悪因子として喫煙・金属アレルギーも重要。治療は禁煙、扁桃摘出術、ステロイド・ビタミンD3外用など。 ・扁桃病巣感染症の二次疾患:掌蹠膿疱症、IgA腎症、胸肋鎖骨過形成症。
