「やめられない薬」と「やめにくい薬」は違う―依存性のない向精神薬を見抜く
第102回医師国家試験 I問題 第38問
国試問題にチャレンジ
依存性がないのはどれか。
- a.睡眠薬
- b.鎮痛薬
- c.精神刺激薬
- d.抗精神病薬
- e.ベンゾジアゼピン系抗不安薬
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
薬物依存は、渇望と薬物探索行動を中心とする精神依存と、中止・減量で離脱症状が出る身体依存に分けて理解し、耐性もその形成に関わります。睡眠薬やベンゾジアゼピン系抗不安薬はGABA_A受容体を介して精神・身体依存の両方を形成し、特にベンゾジアゼピン系は治療量でも常用量依存を生じるため漸減が必要です。オピオイドを含む鎮痛薬は依存・耐性ともに強く、精神刺激薬は報酬系を強く刺激して強い精神依存をもたらします。一方、抗精神病薬はドパミンD2受容体を遮断して快感を生まないため依存性はなく、急な中止による反跳症状や抗うつ薬の中断症候群は依存とは区別されます。依存の定義と薬理作用を結びつけて理解することは、向精神薬の適正処方と減薬の判断に直結します。
解答・解説
正解はdです
薬物依存とは、ある薬物を繰り返し使用した結果、その使用を自分で制御できなくなった状態をいう。依存は「精神依存」と「身体依存」に分けて考える。 ・精神依存:薬物の効果(快感、不安の軽減など)を求めて、使いたいという強い欲求(渇望)が生じ、薬物を探し求める行動(薬物探索行動)が現れる状態。 ・身体依存:薬物が体内にある状態に身体が適応してしまい、中止や減量によって離脱症状(退薬症状)が出現する状態。 これに加え、同じ効果を得るのに必要な量が増えていく「耐性」も依存形成に関わる。 依存を生じやすい薬物は、中枢神経系に作用して快感(報酬)をもたらしたり、不安・苦痛を速やかに和らげたりするものである。脳内報酬系(中脳腹側被蓋野から側坐核へ投射するドパミン神経系)を活性化する薬物は特に依存を形成しやすい。 本問の選択肢のうち、睡眠薬、鎮痛薬、精神刺激薬、ベンゾジアゼピン系抗不安薬はいずれも臨床で依存が問題となる薬物群である。一方、抗精神病薬はドパミンD2受容体を遮断する薬であり、報酬系のドパミン伝達をむしろ抑える方向に働く。服用しても快感は得られず、眠気・倦怠感・錐体外路症状などの不快な副作用がしばしば生じるため、乱用や渇望の対象になりにくく、依存性は認められていない。したがって正解は抗精神病薬である。
選択肢考察
- ×a. 睡眠薬
依存性がある。睡眠薬にはバルビツール酸系、ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系(いわゆるZ-drug:ゾルピデムなど)などがあり、いずれもGABA_A受容体の働きを強めて中枢神経を抑制する。これらは精神依存と身体依存の両方を形成しうる。特にバルビツール酸系は依存性・耐性が強く、急な中止で不眠・振戦・けいれん・せん妄など重い離脱症状を起こし、過量服薬時の呼吸抑制も強いため、現在は睡眠薬として用いられることはほとんどない。なお、メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)やオレキシン受容体拮抗薬(スボレキサントなど)は依存性が低いとされるが、睡眠薬全体としては依存性のある薬物群として扱われる。
- ×b. 鎮痛薬
依存性がある。オピオイド鎮痛薬(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなど)は精神依存・身体依存・耐性のいずれも強く形成し、中止すると散瞳、流涙、鼻漏、あくび、下痢、筋肉痛などの離脱症状が出現する。また、非オピオイド系でも市販の鎮痛薬には鎮静成分(ブロモバレリル尿素など)やカフェインを配合したものがあり、入手しやすいことから乱用・依存(主に精神依存)が起こりやすい。薬物乱用頭痛(薬剤の使用過多による頭痛)の背景にもなる。
- ×c. 精神刺激薬
依存性がある。精神刺激薬にはメチルフェニデート、アンフェタミン類(覚醒剤であるメタンフェタミンを含む)、コカインなどが含まれる。これらはドパミンの再取り込み阻害や放出促進により脳内報酬系を強く活性化するため、強い精神依存を形成する。一方で身体依存(明らかな離脱症状)は目立たないとされるが、中止後には抑うつ・倦怠・過眠などの反動がみられる。治療薬のメチルフェニデートは注意欠如・多動症(ADHD)やナルコレプシーに用いられるが、乱用防止のため処方医・薬局が登録制で管理されている。
- ○d. 抗精神病薬
依存性がない。抗精神病薬(神経遮断薬ともよばれる)は、ハロペリドールなどの定型薬、リスペリドン・オランザピン・アリピプラゾールなどの非定型薬を含め、主にドパミンD2受容体の遮断によって幻覚・妄想などを改善する。報酬系を刺激せず快感をもたらさないため、渇望や薬物探索行動を生じず、耐性形成も臨床的に問題とならない。したがって依存性は認められていない。ただし、長期服用後に急に中止すると、コリン作動性の反跳症状(悪心・発汗など)や離脱性ジスキネジア、精神症状の再燃がみられることがあるため、中止する際は漸減が望ましい。これは依存とは区別される現象である。
- ×e. ベンゾジアゼピン系抗不安薬
依存性がある。ベンゾジアゼピン系薬はGABA_A受容体のベンゾジアゼピン結合部位に作用して抑制性の伝達を増強し、抗不安・催眠・筋弛緩・抗けいれん作用を示す。精神依存と身体依存の両方を形成し、特に治療量を長期間服用しているだけでも依存が生じる「常用量依存(臨床用量依存)」が問題となっている。急に中止すると反跳性の不安・不眠、焦燥、振戦、知覚過敏、重い場合はけいれんなどの離脱症状が出るため、減量は時間をかけて段階的に行う。作用時間の短い薬剤ほど離脱症状が出やすい。
依存の基本概念
・精神依存:薬物への渇望と薬物探索行動。依存を形成するすべての薬物に共通してみられる。 ・身体依存:薬物の中止・減量で離脱症状が出る状態。 ・耐性:反復使用により効果が減弱し、同じ効果を得るために増量が必要になる状態。
主な依存性薬物と依存の特徴
・オピオイド(モルヒネ、ヘロインなど):精神依存・身体依存ともに強い。耐性も強い。 ・バルビツール酸系、ベンゾジアゼピン系、アルコール(中枢神経抑制薬):精神依存・身体依存ともにあり、離脱時にけいれんやせん妄を起こしうる。 ・覚醒剤(アンフェタミン類)、コカイン(中枢神経興奮薬):精神依存は強いが、身体依存は乏しいとされる。覚醒剤では幻覚・妄想を伴う精神病状態をきたしうる。 ・大麻:主に精神依存。 ・有機溶剤(シンナー、トルエンなど):入手しやすく、主に精神依存。脳萎縮などの不可逆的障害を残しうる。 ・ニコチン:精神依存・身体依存があり、離脱時にいらいら・集中困難などを生じる。
依存性の乏しい向精神薬
・抗精神病薬、抗うつ薬(SSRIなど)、気分安定薬(リチウムなど)は依存性がないとされる。ただし抗うつ薬、特にパロキセチンなど半減期の短いSSRIでは急な中止により中断症候群(めまい、しびれ感、不安、インフルエンザ様症状など)が起こりうるため、漸減が推奨される。これは渇望を伴う依存とは異なる。
POINT
・依存は精神依存(渇望・薬物探索行動)と身体依存(離脱症状)に分けて理解する。 ・睡眠薬、ベンゾジアゼピン系抗不安薬、オピオイドなどの鎮痛薬、精神刺激薬はいずれも依存性がある。 ・ベンゾジアゼピン系薬は治療量でも依存が生じる(常用量依存)ため、中止は漸減で行う。 ・抗精神病薬はドパミンD2受容体遮断薬で快感を生まず、依存性はない。 ・覚醒剤・コカインは精神依存が強いが身体依存は乏しい。
