母乳が出るのに妊娠していない―無月経乳漏症候群はプロラクチンで読み解く
第102回医師国家試験 I問題 第24問
国試問題にチャレンジ
無月経乳漏症候群の原因疾患はどれか。2つ選べ。
- a.Basedow病
- b.Kallmann症候群
- c.プロラクチノーマ
- d.多嚢胞性卵巣症候群
- e.Chiari-Frommel症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
無月経乳漏症候群の本態は高プロラクチン血症で、過剰なプロラクチンが乳汁漏出を起こすとともにGnRH分泌を抑えて無月経を来します。代表的な原因は自律的に分泌するプロラクチノーマと、分娩後に高プロラクチン状態が持続するChiari-Frommel症候群で、ほかに薬剤(ドパミン受容体遮断薬)、原発性甲状腺機能低下症、下垂体茎の圧迫などがあります。Basedow病は甲状腺機能亢進症なのでプロラクチンは上がらず、Kallmann症候群や多嚢胞性卵巣症候群は無月経を来しても乳汁漏出は特徴ではありません。プロラクチンが常にドパミンで抑制されているという調節の仕組みを理解しておくと、原因の整理から治療薬の選択までを一貫して説明できます。
解答・解説
正解はc, eです
【テーマ】無月経乳漏症候群(無月経・乳汁漏出症候群)を起こす疾患を問う問題である。 【病態の要点】無月経乳漏症候群は、妊娠・授乳と関係のない時期に乳汁漏出と無月経がみられる状態で、その本態は多くの場合、高プロラクチン血症である。プロラクチン(PRL)は下垂体前葉から分泌され、乳腺に作用して乳汁の産生を促す。PRLの分泌は、視床下部から下垂体門脈へ放出されるドパミンによって常に抑制されている(抑制優位の調節)。PRLが過剰になると、 1) 乳腺に作用して乳汁漏出を起こす。 2) 視床下部でのゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の脈動的分泌を抑え、黄体形成ホルモン(LH)・卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を低下させる。その結果、排卵障害・無月経(低ゴナドトロピン性の続発性無月経)となる。
高プロラクチン血症の主な原因
・PRLの自律的な過剰分泌:プロラクチノーマ(PRL産生下垂体腺腫) ・ドパミンによる抑制の低下:視床下部・下垂体茎の障害(腫瘍による下垂体茎の圧迫など)、ドパミン受容体を遮断する薬剤 ・PRL分泌刺激の増加:原発性甲状腺機能低下症(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン〈TRH〉の増加がPRL分泌も刺激する) ・その他:腎不全、胸壁の刺激など さらに、歴史的な分類として、分娩後に発症するChiari-Frommel症候群、妊娠と無関係に発症するArgonz-del Castillo症候群、下垂体腫瘍によるForbes-Albright症候群が知られている。 【解き方】選択肢ごとに「高プロラクチン血症を起こすか」「乳汁漏出を伴う無月経か」を確認する。Basedow病は甲状腺機能「亢進」症で高PRL血症は起こさず、Kallmann症候群と多嚢胞性卵巣症候群は無月経を来しても乳汁漏出を特徴としない。
選択肢考察
- ×a. Basedow病
誤り。Basedow病は甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体に対する刺激型自己抗体(TRAb)による甲状腺機能亢進症である。甲状腺ホルモン過剰により負のフィードバックでTRHの分泌は抑えられ、PRLも上昇しない。月経不順や稀発月経を来すことはあるが、乳汁漏出を伴う無月経にはならない。高PRL血症・乳汁漏出を来すのは逆に原発性甲状腺機能低下症であり、甲状腺ホルモン低下によってTRHが増え、TRHがTSHだけでなくPRLの分泌も刺激するためである。
- ×b. Kallmann症候群
誤り。Kallmann症候群は、胎生期にGnRH産生ニューロンが嗅板から視床下部へ移動できないために起こる先天性のGnRH欠損症で、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症と嗅覚脱失(または嗅覚低下)を合併する。女性では二次性徴の欠如と原発性無月経を来すが、PRLは上昇せず、乳汁漏出はみられない。エストロゲン不足のため乳房の発育自体も乏しい。
- ○c. プロラクチノーマ
正しい。プロラクチノーマは下垂体腺腫の中で最も頻度の高い機能性腺腫で、PRLを自律的に過剰分泌する。高PRL血症により乳汁漏出と、GnRH分泌抑制による無月経を来し、無月経乳漏症候群の代表的な原因疾患である(下垂体腫瘍による無月経乳漏症候群はForbes-Albright症候群とも呼ばれた)。女性では症状が出やすいため微小腺腫(直径10 mm未満)のうちに見つかることが多い。大きな腺腫では頭痛や両耳側半盲を伴うこともある。治療の第一選択はカベルゴリンなどのドパミン作動薬で、PRLの正常化と腫瘍縮小が期待できる。
- ×d. 多嚢胞性卵巣症候群
誤り。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、LHの分泌亢進(LH/FSH比の上昇)、卵巣でのアンドロゲン産生過剰、インスリン抵抗性などを背景に、排卵障害による稀発月経・無月経、多毛・ざ瘡などの男性化徴候、肥満、卵巣の多数の小卵胞(ネックレスサイン)を示す疾患である。軽度の高PRL血症を伴う例もあるが、乳汁漏出は本症候群の特徴ではなく、無月経乳漏症候群の原因疾患には当たらない。高PRL血症がある場合は、PCOSとは別の原因(プロラクチノーマ、薬剤など)を検索する。
- ○e. Chiari-Frommel症候群
正しい。Chiari-Frommel症候群は、分娩後、授乳期間を過ぎても乳汁漏出と無月経が持続する病態で、分娩を契機とする無月経乳漏症候群の代表である。産褥期の生理的な高PRL状態が正常に戻らないことが本態と考えられている。現在では、このような症例の一部にプロラクチノーマなど器質的な原因が見つかることがあるため、画像検査などで原因を検索することが求められる。
無月経乳漏症候群の古典的分類
・Chiari-Frommel症候群:分娩後に発症し、乳汁漏出と無月経が持続する。 ・Argonz-del Castillo症候群:妊娠・分娩と関係なく発症し、下垂体腫瘍を認めない(特発性)。 ・Forbes-Albright症候群:下垂体腫瘍(主にプロラクチノーマ)による。
高プロラクチン血症の原因の整理
1)生理的:妊娠、授乳、睡眠、ストレス、乳頭刺激 2)下垂体疾患:プロラクチノーマ。GH産生腺腫がPRLを同時に分泌する場合もある 3)視床下部・下垂体茎の障害:非機能性下垂体腺腫・頭蓋咽頭腫などによる下垂体茎の圧迫、サルコイドーシスなどの浸潤性疾患。ドパミンが下垂体に届かなくなり、PRLが上昇する 4)薬剤性(頻度が高く、問診が重要): ・抗精神病薬(ハロペリドール、スルピリド、リスペリドンなど) ・制吐薬・消化管運動改善薬(メトクロプラミド、ドンペリドン) ・スルピリドは胃腸薬としても使われる ・降圧薬(レセルピン、メチルドパ):ドパミンの枯渇や合成阻害による ・H2受容体拮抗薬(シメチジン)、エストロゲン製剤、三環系抗うつ薬など 5)原発性甲状腺機能低下症(TRHの増加による) 6)慢性腎不全(PRLのクリアランス低下) 7)胸壁の外傷・帯状疱疹など(神経反射による) ※マクロプロラクチン血症(生物学的活性の低い大分子PRLが増える状態)では症状を欠くことがある。
無月経の主な分類と本問の選択肢
・視床下部性:Kallmann症候群、体重減少性無月経、神経性やせ症、ストレス性 ・下垂体性:プロラクチノーマ、Sheehan症候群 ・卵巣性:Turner症候群、早発卵巣不全、多嚢胞性卵巣症候群(排卵障害) ・その他:甲状腺機能異常、薬剤性の高PRL血症など
POINT
・無月経乳漏症候群の本態は高プロラクチン血症であり、PRLがGnRHの分泌を抑えて無月経を起こす。 ・原因として、プロラクチノーマ、薬剤(ドパミン受容体拮抗薬など)、原発性甲状腺機能低下症、分娩後(Chiari-Frommel症候群)、特発性(Argonz-del Castillo症候群)を押さえる。 ・高PRL血症を来すのは甲状腺機能「低下」症であり、Basedow病(亢進症)ではない。 ・Kallmann症候群は低ゴナドトロピン性の原発性無月経+嗅覚脱失で、乳汁漏出はない。 ・プロラクチノーマの第一選択治療はドパミン作動薬(カベルゴリン)である。
