石灰化は「まれ」ではなく「よくある」―神経芽腫を4つの軸で整理する
第102回医師国家試験 I問題 第25問
国試問題にチャレンジ
神経芽腫について誤っているのはどれか。
- a.交感神経節に発生する。
- b.カテコラミンを産生する。
- c.尿検査が診断に有用である。
- d.石灰化はまれである。
- e.1歳未満で発見されたものは予後が良い。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
神経芽腫は神経堤由来の交感神経系腫瘍で、副腎髄質や交感神経節に発生し、カテコラミンを産生するため尿中VMA・HVAが診断や経過観察に役立ちます。腫瘍内の出血・壊死に伴って石灰化を高頻度(CTで80〜90%程度)に認め、石灰化がまれなWilms腫瘍との重要な鑑別点となるため、「石灰化はまれ」という記述は誤りです。予後は年齢が強く影響し、1歳未満(国際リスク分類では18か月未満)の症例は予後良好で、乳児の一部では自然退縮もみられる一方、MYCN増幅例は予後不良です。発生母地・産生物質・画像・予後の4軸で整理しておくと、小児腹部腫瘤の鑑別や転移症状からの診断にも応用できます。
解答・解説
正解はdです
神経芽腫(neuroblastoma)は、小児の頭蓋外固形腫瘍として最も頻度の高い悪性腫瘍の一つであり、「誤っているもの」を一つ選ぶ問題である。 解答にあたっては、次の4つの軸で神経芽腫の特徴を整理しておくとよい。 1. 発生母地:胎生期の神経堤(神経冠)細胞に由来し、交感神経系(副腎髄質・交感神経節)に発生する。 2. 生化学的特徴:カテコラミンを産生し、その代謝産物であるバニリルマンデル酸(VMA)・ホモバニリン酸(HVA)が尿中に多量に排泄される。 3. 画像所見:腫瘍内に石灰化を高頻度に伴う(CTで約80〜90%)。 4. 予後:診断時の年齢が低いほど予後が良く、1歳未満(現在のリスク分類では18か月未満)は予後良好群に入りやすい。 この整理に照らすと、「石灰化はまれである」という記述だけが事実と逆であり、これが本問の正解(誤っている記述)となる。
選択肢考察
- ×a. 交感神経節に発生する。
記述は正しい(誤りを選ぶ問題なので正解ではない)。神経芽腫は神経堤由来の未熟な交感神経系細胞(交感神経芽細胞)から発生する。神経堤細胞は胎生期に移動して交感神経節を形成し、一部は副腎に入り込んで副腎髄質となる。そのため神経芽腫は副腎髄質(最多、約半数前後)と、後腹膜・後縦隔・頸部・骨盤などの交感神経節(傍脊椎交感神経幹)に発生する。
- ×b. カテコラミンを産生する。
記述は正しい。交感神経系由来の腫瘍細胞はチロシンからドパミン・ノルアドレナリンなどのカテコラミンを合成する能力をもつ。神経芽腫の約90%でカテコラミン産生がみられ、体内で代謝されてVMA(ノルアドレナリン・アドレナリン系の最終代謝産物)やHVA(ドパミン系の最終代謝産物)となり尿中に排泄される。ただし褐色細胞腫と異なり、高血圧などのカテコラミン過剰症状が前面に出ることは比較的少ない。
- ×c. 尿検査が診断に有用である。
記述は正しい。尿中VMA・HVAの上昇は神経芽腫の診断に有用な腫瘍マーカーであり、随時尿ではクレアチニン補正値で評価する。治療効果判定や再発の監視など経過観察にも用いられる。わが国ではかつて乳児期の尿VMA・HVAによるマススクリーニングが行われていたが、死亡率低下が明らかでなく、自然退縮する腫瘍の過剰診断が問題となったため2004年に休止された。なお血清の神経特異エノラーゼ(NSE)も補助的マーカーとなる。
- ○d. 石灰化はまれである。
この記述が誤りであり、本問の正解である。神経芽腫は腫瘍内の出血・壊死に伴って石灰化を生じやすく、単純X線で約半数、CTでは80〜90%程度に点状・斑状の石灰化を認める。小児の腹部腫瘤で石灰化を伴うものとしては神経芽腫と奇形腫が代表的であり、石灰化がまれなWilms腫瘍(腎芽腫)との鑑別点として重要である。したがって「石灰化はまれ」は事実と逆である。
- ×e. 1歳未満で発見されたものは予後が良い。
記述は正しい。神経芽腫の予後因子には、診断時年齢、病期、病理組織分類(国際神経芽腫病理分類:INPC)、MYCN(N-myc)遺伝子増幅の有無、DNA ploidy(倍数性)、11q欠失などがある。年齢は最も強力な因子の一つで、1歳未満の症例は予後良好であり、転移を伴う乳児例の一部(病期MS、旧4S)では自然退縮もみられる。一方、1歳以上、特にMYCN増幅例は予後不良である。現在の国際リスク分類(INRG)では境界年齢として18か月が用いられているが、「乳児期発見例は予後良好」という原則は変わらない。
神経芽腫の概要
・神経堤由来の交感神経系腫瘍で、小児がんの中では白血病・脳腫瘍に次いで多く、頭蓋外固形腫瘍としては最多である。多くは5歳未満、特に乳幼児期に発症する。 ・好発部位:副腎髄質が最多で、次いで後腹膜交感神経節、後縦隔、頸部、骨盤。
症状
・腹部腫瘤(正中を越える硬い不整な腫瘤が多い)。 ・転移による症状:骨・骨髄転移による骨痛・跛行・発熱・貧血、眼窩転移による眼球突出や眼周囲の皮下出血(raccoon eyes)、皮膚転移(乳児のblueberry muffin様結節)、肝転移による肝腫大。 ・部位特有の症状:頸部・上部胸部発生ではHorner症候群(縮瞳・眼瞼下垂・顔面の無汗)、傍脊椎発生で脊柱管内に進展するとダンベル型腫瘍となり対麻痺・膀胱直腸障害。 ・腫瘍随伴症候群:オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群、血管作動性腸管ペプチド(VIP)産生による難治性水様下痢。
診断
・尿中VMA・HVA高値、血清NSE高値、血清フェリチン・LDHの上昇(予後不良の指標)。 ・画像:超音波・CT・MRIで石灰化を伴う腫瘤。MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)シンチグラフィは原発巣・転移巣の検出に有用。 ・病理:小型円形細胞腫瘍で、Homer Wright型ロゼット形成が特徴的。
Wilms腫瘍との鑑別
・神経芽腫:副腎・交感神経節由来、石灰化が多い、正中を越えやすい、尿中VMA・HVA上昇、全身状態が悪いことが多い。 ・Wilms腫瘍:腎由来(腎実質の変形・claw sign)、石灰化はまれ、正中を越えにくい、カテコラミン代謝産物は上昇しない、全身状態は比較的良好。
治療
・低リスク群は手術単独や経過観察、中間リスク群は手術と化学療法、高リスク群は大量化学療法+自家造血幹細胞移植、放射線療法、レチノイン酸による分化誘導療法、抗GD2抗体療法などを組み合わせた集学的治療を行う。
POINT
・神経芽腫は神経堤由来で、副腎髄質・交感神経節に発生する。 ・カテコラミンを産生し、尿中VMA・HVAが上昇する(診断・経過観察に有用)。 ・石灰化が高頻度(CTで80〜90%)で、石灰化がまれなWilms腫瘍との鑑別点となる。 ・予後良好因子:1歳未満(INRGでは18か月未満)、低病期、MYCN増幅なし、INPCで予後良好組織型。 ・乳児の転移例の一部(病期MS、旧4S)は自然退縮しうる。
