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石灰化は「まれ」ではなく「よくある」―神経芽腫を4つの軸で整理する

第102回医師国家試験 I問題 第25問

国試問題にチャレンジ

第102回 I問題 第25問

神経芽腫について誤っているのはどれか。

  1. a.交感神経節に発生する。
  2. b.カテコラミンを産生する。
  3. c.尿検査が診断に有用である。
  4. d.石灰化はまれである。
  5. e.1歳未満で発見されたものは予後が良い。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、小児の代表的な固形腫瘍である神経芽腫について、誤った記述を選ぶ問題だ。発生母地、産生物質、画像所見、予後という4つの軸で整理すると、どの記述が事実と逆かが見えてくる。まずは発生母地から考えてみよう。
医学生医学生
神経芽腫は副腎にできる腫瘍というイメージがありますが、交感神経節にもできるんでしょうか。
ドクタードクター
できるよ。神経芽腫は胎生期の神経堤細胞に由来する。神経堤細胞は移動して交感神経節をつくり、一部は副腎に入り込んで副腎髄質になる。だから副腎髄質が最多だけれど、後腹膜や後縦隔、頸部、骨盤の交感神経節からも発生するんだ。
医学生医学生
発生学の講義で、神経堤からは副腎髄質も交感神経節もメラノサイトもできると習いました。同じ根っこなんですね。
ドクタードクター
その通り。頸部や上部胸部にできるとHorner症候群を起こしたり、傍脊椎から脊柱管内に入り込んでダンベル型腫瘍になり対麻痺を起こしたりするのも、交感神経幹に沿って発生するからだ。次は産生物質。交感神経系の細胞が由来だとすると、何をつくると思う?
医学生医学生
カテコラミンですね。それなら褐色細胞腫みたいに高血圧が目立つんですか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。神経芽腫の多くはカテコラミンを産生するけれど、褐色細胞腫と違って高血圧などの過剰症状が前面に出ることは比較的少ない。代わりに大事なのが代謝産物で、尿中のVMAやHVAが上昇する。
医学生医学生
だから尿検査が診断に役立つわけですね。CBTの勉強で、昔は乳児の尿でスクリーニングしていたと読みました。
ドクタードクター
よく知っているね。尿中VMA・HVAは診断にも、治療効果判定や再発の監視にも使われる。ただ、乳児期のマススクリーニングは死亡率の低下が明らかでなく、自然に消える腫瘍まで見つけてしまう過剰診断が問題となって、2004年に休止された。血清NSEも補助的なマーカーになるよ。
医学生医学生
画像についてですが、石灰化は少ないイメージでした。悪性度の高い腫瘍だと出血や壊死が中心なのかと思って。
ドクタードクター
そこが今回の落とし穴だ。実は出血や壊死があるからこそ石灰化が起こりやすい。神経芽腫ではCTで80〜90%程度に点状・斑状の石灰化を認める。だから「石灰化はまれである」という記述が誤りで、これが正解になる。
医学生医学生
逆だったんですね。小児の腹部腫瘤で石灰化があれば、神経芽腫を強く疑うということですか。
ドクタードクター
そう。小児の腹部腫瘤で鑑別になるWilms腫瘍は石灰化がまれだから、これは重要な鑑別点だ。ほかにも、神経芽腫は正中を越えやすく、尿中VMA・HVAが上がり、全身状態が悪いことが多い。Wilms腫瘍は腎由来で正中を越えにくく、全身状態は比較的良好なことが多い。
医学生医学生
最後の予後ですが、乳児のほうが予後が良いというのは意外です。小さい子ほど重症になりそうなのに。
ドクタードクター
直感とは逆だよね。でも神経芽腫では診断時の年齢が最も強力な予後因子の一つで、1歳未満は予後良好だ。転移があっても乳児の一部の病型、病期MS(旧4S)では自然退縮することさえある。現在の国際リスク分類では境界年齢に18か月が使われているけれど、「乳児期発見例は予後良好」という原則は同じだ。
医学生医学生
逆に予後が悪いのはどんな場合ですか。小児科の実習で、MYCNという遺伝子の話を聞きました。
ドクタードクター
まさにそれが代表だ。MYCN遺伝子の増幅は予後不良因子で、ほかに1歳以上、進行病期、組織分類で予後不良型、11q欠失などがある。高リスク群では大量化学療法と自家造血幹細胞移植、放射線、レチノイン酸による分化誘導療法、抗GD2抗体療法を組み合わせた集学的治療を行う。
医学生医学生
臨床で気をつけるべき症状はありますか。
ドクタードクター
転移による症状が初発になることが多いので覚えておこう。骨・骨髄転移による骨痛や跛行、貧血、眼窩転移による眼球突出や目の周りのあざ(raccoon eyes)、乳児の皮膚転移によるblueberry muffin様の結節などだ。腫瘍随伴症候群としてオプソクローヌス・ミオクローヌス症候群や、VIP産生による難治性水様下痢もある。「目の周りのあざ」を虐待と即断せず、神経芽腫も頭に置くことが大切だね。

まとめ

神経芽腫は神経堤由来の交感神経系腫瘍で、副腎髄質や交感神経節に発生し、カテコラミンを産生するため尿中VMA・HVAが診断や経過観察に役立ちます。腫瘍内の出血・壊死に伴って石灰化を高頻度(CTで80〜90%程度)に認め、石灰化がまれなWilms腫瘍との重要な鑑別点となるため、「石灰化はまれ」という記述は誤りです。予後は年齢が強く影響し、1歳未満(国際リスク分類では18か月未満)の症例は予後良好で、乳児の一部では自然退縮もみられる一方、MYCN増幅例は予後不良です。発生母地・産生物質・画像・予後の4軸で整理しておくと、小児腹部腫瘤の鑑別や転移症状からの診断にも応用できます。

解答・解説

正解はdです

神経芽腫(neuroblastoma)は、小児の頭蓋外固形腫瘍として最も頻度の高い悪性腫瘍の一つであり、「誤っているもの」を一つ選ぶ問題である。 解答にあたっては、次の4つの軸で神経芽腫の特徴を整理しておくとよい。 1. 発生母地:胎生期の神経堤(神経冠)細胞に由来し、交感神経系(副腎髄質・交感神経節)に発生する。 2. 生化学的特徴:カテコラミンを産生し、その代謝産物であるバニリルマンデル酸(VMA)・ホモバニリン酸(HVA)が尿中に多量に排泄される。 3. 画像所見:腫瘍内に石灰化を高頻度に伴う(CTで約80〜90%)。 4. 予後:診断時の年齢が低いほど予後が良く、1歳未満(現在のリスク分類では18か月未満)は予後良好群に入りやすい。 この整理に照らすと、「石灰化はまれである」という記述だけが事実と逆であり、これが本問の正解(誤っている記述)となる。

選択肢考察

  1. ×a.  交感神経節に発生する。

    記述は正しい(誤りを選ぶ問題なので正解ではない)。神経芽腫は神経堤由来の未熟な交感神経系細胞(交感神経芽細胞)から発生する。神経堤細胞は胎生期に移動して交感神経節を形成し、一部は副腎に入り込んで副腎髄質となる。そのため神経芽腫は副腎髄質(最多、約半数前後)と、後腹膜・後縦隔・頸部・骨盤などの交感神経節(傍脊椎交感神経幹)に発生する。

  2. ×b.  カテコラミンを産生する。

    記述は正しい。交感神経系由来の腫瘍細胞はチロシンからドパミン・ノルアドレナリンなどのカテコラミンを合成する能力をもつ。神経芽腫の約90%でカテコラミン産生がみられ、体内で代謝されてVMA(ノルアドレナリン・アドレナリン系の最終代謝産物)やHVA(ドパミン系の最終代謝産物)となり尿中に排泄される。ただし褐色細胞腫と異なり、高血圧などのカテコラミン過剰症状が前面に出ることは比較的少ない。

  3. ×c.  尿検査が診断に有用である。

    記述は正しい。尿中VMA・HVAの上昇は神経芽腫の診断に有用な腫瘍マーカーであり、随時尿ではクレアチニン補正値で評価する。治療効果判定や再発の監視など経過観察にも用いられる。わが国ではかつて乳児期の尿VMA・HVAによるマススクリーニングが行われていたが、死亡率低下が明らかでなく、自然退縮する腫瘍の過剰診断が問題となったため2004年に休止された。なお血清の神経特異エノラーゼ(NSE)も補助的マーカーとなる。

  4. ○d.  石灰化はまれである。

    この記述が誤りであり、本問の正解である。神経芽腫は腫瘍内の出血・壊死に伴って石灰化を生じやすく、単純X線で約半数、CTでは80〜90%程度に点状・斑状の石灰化を認める。小児の腹部腫瘤で石灰化を伴うものとしては神経芽腫と奇形腫が代表的であり、石灰化がまれなWilms腫瘍(腎芽腫)との鑑別点として重要である。したがって「石灰化はまれ」は事実と逆である。

  5. ×e.  1歳未満で発見されたものは予後が良い。

    記述は正しい。神経芽腫の予後因子には、診断時年齢、病期、病理組織分類(国際神経芽腫病理分類:INPC)、MYCN(N-myc)遺伝子増幅の有無、DNA ploidy(倍数性)、11q欠失などがある。年齢は最も強力な因子の一つで、1歳未満の症例は予後良好であり、転移を伴う乳児例の一部(病期MS、旧4S)では自然退縮もみられる。一方、1歳以上、特にMYCN増幅例は予後不良である。現在の国際リスク分類(INRG)では境界年齢として18か月が用いられているが、「乳児期発見例は予後良好」という原則は変わらない。

神経芽腫の概要

・神経堤由来の交感神経系腫瘍で、小児がんの中では白血病・脳腫瘍に次いで多く、頭蓋外固形腫瘍としては最多である。多くは5歳未満、特に乳幼児期に発症する。 ・好発部位:副腎髄質が最多で、次いで後腹膜交感神経節、後縦隔、頸部、骨盤。

症状

・腹部腫瘤(正中を越える硬い不整な腫瘤が多い)。 ・転移による症状:骨・骨髄転移による骨痛・跛行・発熱・貧血、眼窩転移による眼球突出や眼周囲の皮下出血(raccoon eyes)、皮膚転移(乳児のblueberry muffin様結節)、肝転移による肝腫大。 ・部位特有の症状:頸部・上部胸部発生ではHorner症候群(縮瞳・眼瞼下垂・顔面の無汗)、傍脊椎発生で脊柱管内に進展するとダンベル型腫瘍となり対麻痺・膀胱直腸障害。 ・腫瘍随伴症候群:オプソクローヌス・ミオクローヌス症候群、血管作動性腸管ペプチド(VIP)産生による難治性水様下痢。

診断

・尿中VMA・HVA高値、血清NSE高値、血清フェリチン・LDHの上昇(予後不良の指標)。 ・画像:超音波・CT・MRIで石灰化を伴う腫瘤。MIBG(メタヨードベンジルグアニジン)シンチグラフィは原発巣・転移巣の検出に有用。 ・病理:小型円形細胞腫瘍で、Homer Wright型ロゼット形成が特徴的。

Wilms腫瘍との鑑別

・神経芽腫:副腎・交感神経節由来、石灰化が多い、正中を越えやすい、尿中VMA・HVA上昇、全身状態が悪いことが多い。 ・Wilms腫瘍:腎由来(腎実質の変形・claw sign)、石灰化はまれ、正中を越えにくい、カテコラミン代謝産物は上昇しない、全身状態は比較的良好。

治療

・低リスク群は手術単独や経過観察、中間リスク群は手術と化学療法、高リスク群は大量化学療法+自家造血幹細胞移植、放射線療法、レチノイン酸による分化誘導療法、抗GD2抗体療法などを組み合わせた集学的治療を行う。

POINT

・神経芽腫は神経堤由来で、副腎髄質・交感神経節に発生する。 ・カテコラミンを産生し、尿中VMA・HVAが上昇する(診断・経過観察に有用)。 ・石灰化が高頻度(CTで80〜90%)で、石灰化がまれなWilms腫瘍との鑑別点となる。 ・予後良好因子:1歳未満(INRGでは18か月未満)、低病期、MYCN増幅なし、INPCで予後良好組織型。 ・乳児の転移例の一部(病期MS、旧4S)は自然退縮しうる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。