指輪が入らなくなったら要注意―先端巨大症を4つの軸で読み解く
第102回医師国家試験 I問題 第23問
国試問題にチャレンジ
先端巨大症について正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.糖尿病の合併
- b.両鼻側半盲
- c.インスリン様成長因子〈IGF-I〉低値
- d.ブドウ糖負荷試験で成長ホルモン低下
- e.酢酸オクトレオチドによる治療
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
先端巨大症は主に下垂体のGH産生腺腫によるGH過剰で、IGF-Iを介した骨・軟部組織の過形成に加え、GHの抗インスリン作用により糖尿病を高率に合併します。IGF-Iは安定した指標として高値を示し、75 gブドウ糖負荷試験でGHが基準値未満まで抑制されない(奇異性上昇もある)ことが診断の要となります。腫瘍が視交叉を正中から圧迫するため典型的な視野障害は両耳側半盲であり、両鼻側半盲ではありません。治療の第一選択は経蝶形骨洞手術で、残存例などにはオクトレオチドなどのソマトスタチンアナログ、ペグビソマント、ドパミン作動薬、放射線療法を用います。病態・検査・合併症・治療を一つの筋道で理解しておくと、他の下垂体腺腫の問題にも応用できます。
解答・解説
正解はa, eです
【テーマ】先端巨大症(acromegaly)の病態、検査所見、合併症、治療を横断的に問う問題である。 【病態】先端巨大症は、主に下垂体の成長ホルモン(GH)産生腺腫によってGHが持続的に過剰分泌される疾患である。骨端線閉鎖後の成人に発症すると先端巨大症、骨端線閉鎖前の小児期に発症すると下垂体性巨人症となる。GHは主に肝臓に作用してインスリン様成長因子-I(IGF-I)を産生させ、骨・軟部組織の過形成の多くはIGF-Iを介して起こる。一方、GH自体には肝臓や筋肉でのインスリン作用に拮抗する作用(抗インスリン作用)がある。
症候と合併症
・特徴的な顔貌(眉弓部・頬骨・下顎の突出、鼻・口唇の肥大)、手足の容積増大(指輪や靴のサイズが合わなくなる)、巨大舌、発汗過多、頭痛 ・下垂体腺腫による局所症状:視交叉圧迫による両耳側半盲などの視野障害 ・代謝・心血管系合併症:耐糖能異常・糖尿病、高血圧、脂質異常症、心肥大・心筋症、睡眠時無呼吸症候群、手根管症候群、大腸ポリープ・大腸癌など これらの合併症により、未治療では生命予後が悪化する。 【解き方】「GH過剰 → IGF-I上昇・抗インスリン作用」「腫瘍による視交叉の圧迫」「正常ならGHを抑制する刺激(ブドウ糖負荷)に反応しない自律的分泌」「GH分泌を抑えるソマトスタチンの作用を利用した治療」の4点を押さえれば、各選択肢を判断できる。
選択肢考察
- ○a. 糖尿病の合併
正しい。GHは肝臓での糖新生を促し、骨格筋や脂肪組織でのインスリン作用を妨げる(インスリン抵抗性を高める)ほか、脂肪分解を促して遊離脂肪酸を増やすことでも耐糖能を悪化させる。このため先端巨大症では耐糖能異常・糖尿病の合併が多く、患者の数十%に及ぶ。GHは血糖を上げるインスリン拮抗ホルモン(インスリンと逆向きに働くホルモン)の一つである。
- ×b. 両鼻側半盲
誤り。視交叉では、両眼の網膜鼻側半分からの線維(それぞれ耳側の視野を担当する)が交叉している。下垂体腺腫はトルコ鞍から上方へ伸び、視交叉を下から正中部で圧迫するため、この交叉線維が障害されて両耳側半盲(典型的には上方から始まる上耳側1/4盲)を来す。両鼻側半盲は、両側の視交叉外側部(非交叉線維)が障害されたときに生じるまれな視野障害であり、下垂体腺腫の典型像ではない。腫瘍の進展方向によっては例外的な視野障害をとりうるが、先端巨大症の所見として正しいとはいえない。
- ×c. インスリン様成長因子〈IGF-I〉低値
誤り。IGF-I(ソマトメジンC)はGHの刺激によって主に肝臓で産生されるため、GHが過剰な先端巨大症では高値となる。GHは脈動的に分泌され1回の採血値が変動しやすいのに対し、IGF-Iは血中濃度が安定しており、GHの1日の総分泌量をよく反映する。そのため、年齢・性別ごとの基準範囲と比べて高値であることが、診断と治療効果判定の重要な指標となる。IGF-Iが低値となるのは、GH分泌不全症や低栄養、肝硬変などである。
- ×d. ブドウ糖負荷試験で成長ホルモン低下
誤り。健常者では75 g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)で血糖が上昇するとGH分泌が抑制され、GHの最低値は十分に低くなる(現在のわが国の基準では0.4 ng/mL未満。かつては1 ng/mL未満が用いられた)。先端巨大症では腫瘍がGHを自律的に分泌しているため抑制が不十分で、基準値未満まで下がらない。むしろ奇異性に上昇する例も多い。この抑制されないことが診断基準の主要項目である。なお、ある程度低下する症例もあるが、基準値未満まで下がらなければ抑制不良と判定される。
- ○e. 酢酸オクトレオチドによる治療
正しい。オクトレオチドは、視床下部ホルモンであるソマトスタチン(GH分泌抑制ホルモン)の作用時間を延長させた類似体(ソマトスタチンアナログ)である。腺腫細胞のソマトスタチン受容体(主にSSTR2)に結合してGH分泌を強力に抑え、腫瘍を縮小させる効果も一部にある。先端巨大症の第一選択は経蝶形骨洞手術による腺腫摘出だが、腫瘍が大きく海綿静脈洞へ浸潤しているなどで全摘出できずGH・IGF-Iが高値のまま残る場合や、手術が難しい場合に薬物療法として用いる。持続性の徐放製剤(月1回筋注)がある。副作用として胆石、消化器症状、耐糖能への影響などがある。
先端巨大症の診断の要点(わが国の手引きの骨子)
・主症候:手足の容積増大、先端巨大症様顔貌(眉弓部の膨隆、鼻・口唇の肥大、下顎の突出など)、巨大舌 ・検査所見: 1)GH分泌の過剰:随時のGH高値、かつ75 g OGTTでGHの最低値が正常域(0.4 ng/mL未満)まで抑制されない 2)血中IGF-Iの高値(年齢・性別基準値に照らして判定) 3)MRIやCTで下垂体腺腫を認める ・参考所見:TRHやLHRH(GnRH)負荷に対するGHの奇異性上昇、ブロモクリプチン等のドパミン作動薬に対するGHの奇異性低下など。これらは診断の補助であり、必須ではない。
治療
1)手術:経蝶形骨洞下垂体腺腫摘出術(第一選択) 2)薬物療法: ・ソマトスタチンアナログ(オクトレオチド、ランレオチド、パシレオチド):GH分泌抑制、腫瘍縮小効果もある ・GH受容体拮抗薬(ペグビソマント):GHの作用を受容体レベルで遮断し、IGF-Iを低下させる。GH値そのものは下がらないため、効果判定はIGF-Iで行う ・ドパミン作動薬(カベルゴリン、ブロモクリプチン):一部の症例で有効 3)放射線療法(定位放射線照射など):手術・薬物療法で制御困難な場合 治療目標は、GH・IGF-Iの正常化による合併症の改善と生命予後の改善である。
視交叉圧迫による視野障害の整理
・視交叉正中部(交叉線維)の障害:両耳側半盲(下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫など) ・視交叉の両外側部(非交叉線維)の障害:両鼻側半盲(まれ) ・視索以降の障害:同名半盲
POINT
・GHは抗インスリン作用をもつため、先端巨大症では糖尿病を高率に合併する。 ・IGF-IはGHの作用で主に肝臓で産生され、先端巨大症では高値となる。診断・治療効果判定の指標になる。 ・75 g OGTTでGHが抑制されない(奇異性上昇もある)ことが診断の主要項目である。 ・下垂体腺腫の典型的な視野障害は両耳側半盲である。 ・治療の第一選択は経蝶形骨洞手術で、薬物療法としてソマトスタチンアナログ(オクトレオチドなど)、GH受容体拮抗薬(ペグビソマント)、ドパミン作動薬がある。
