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「骨の時計」を進めるのは誰か―骨年齢遅延から読み解く低身長の内分泌学

第102回医師国家試験 I問題 第22問

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第102回 I問題 第22問

骨年齢が遅延するのはどれか。2つ選べ。

  1. a.Turner症候群
  2. b.甲状腺機能低下症
  3. c.Prader-Willi症候群
  4. d.偽性副甲状腺機能低下症
  5. e.成長ホルモン分泌不全性低身長症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は骨年齢がテーマだ。ポイントは、骨の成熟を進めているホルモンは何か、という一点に尽きる。そこさえ押さえれば、選択肢を一つずつ判断できるよ。まず、骨年齢がどうやって評価されるか覚えているかな。
医学生医学生
小児科の講義で、左手のX線写真を撮って、手根骨や指の骨端核を見ると習いました。
ドクタードクター
その通り。骨端核がいつ出現するか、どんな大きさや形か、骨端線がどこまで閉じているかを標準と比べて、骨の成熟度を年齢で表したものが骨年齢だ。暦年齢より若ければ遅延、進んでいれば促進という。新生児では大腿骨遠位端や脛骨近位端の骨端核の有無を見ることもある。では、骨成熟を進めるホルモンを挙げてみよう。
医学生医学生
成長ホルモンは当然として、性ホルモンもですよね。思春期に骨端線が閉じるので。
ドクタードクター
いいね。もう一つ大事なのが甲状腺ホルモンだ。つまり甲状腺ホルモン、成長ホルモンとその下流のIGF-I、性ホルモン、特にエストロゲンの3つが骨の時計を進める。男性でもテストステロンがアロマターゼでエストロゲンに変換されて骨端線を閉じるんだ。だから、甲状腺ホルモンや成長ホルモンが足りない病気では骨年齢が遅れる。
医学生医学生
ということは、甲状腺機能低下症と成長ホルモン分泌不全性低身長症が正解ですね。
ドクタードクター
正解。甲状腺ホルモンは軟骨内骨化や骨端核の成熟に欠かせず、成長ホルモンの分泌やIGF-Iの働きも支えている。先天性甲状腺機能低下症、いわゆるクレチン症の中等症以上では、生まれた時点で大腿骨遠位端の骨端核が出ていないことが多く、重症度の目安になる。後天性でも、未治療だと身長の遅れ以上に骨年齢の遅れが目立つことが多いんだ。
医学生医学生
新生児マススクリーニングでTSHを測るのも、そうした発達への影響を防ぐためでしたね。
ドクタードクター
そうだね。治療で甲状腺ホルモンを補充すると、追いつき成長とともに骨年齢も一気に進む。成長ホルモン分泌不全では、成長率が落ちて骨年齢もおおむね身長年齢くらいまで遅れる。骨年齢が遅れているのは骨端線が開いていて伸びしろがあるということだから、成長ホルモン補充療法の適応判断や効果判定にも使われるよ。
医学生医学生
Turner症候群も低身長なので、骨年齢が遅れそうに思ってしまいました。卵巣機能不全でエストロゲンが出ないわけですし。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだ。Turner症候群の低身長は、X染色体上のSHOX遺伝子のハプロ不全による骨そのものの成長障害で、成長ホルモンや甲状腺ホルモンは通常保たれている。だから小児期の骨年齢はほぼ暦年齢相当なんだ。ただ君の指摘も鋭くて、未治療だと思春期年齢以降にエストロゲン不足で骨端線閉鎖が遅れていくことはある。それでも骨年齢遅延の代表疾患とはいえない。
医学生医学生
エストロゲン不足で骨粗鬆症になりやすいというのも、骨年齢とは別の話ですね。
ドクタードクター
その区別がとても大切。骨の成熟度と、骨の量や強さである骨密度は別の概念だ。Prader-Willi症候群も同じ考え方でいい。15番染色体の父由来遺伝子の発現欠如で、新生児期の筋緊張低下、その後の過食と肥満、低身長、性腺機能低下を来すけれど、小児期の骨年齢は概ね暦年齢相当で、肥満や副腎アンドロゲンの早い上昇でむしろ進むこともある。
医学生医学生
偽性副甲状腺機能低下症は、Albright遺伝性骨異栄養症で第4・第5中手骨が短いというのを覚えています。骨が短いなら成熟も遅れていそうですが。
ドクタードクター
見た目に引っ張られやすいところだね。これはPTHは出ているのに、受容体と共役するGsαの異常で腎などがPTHに反応せず、低カルシウム血症と高リン血症を来す病気だ。PTHはカルシウム・リン代謝や骨の質には関わるけれど、骨成熟を直接進めるホルモンではない。むしろ1a型では骨端線が早く閉じて骨年齢が進む傾向がある。中手骨が短いのはそのためと考えるとわかりやすい。
医学生医学生
逆に、骨年齢が進む病気はどんなものがありますか。
ドクタードクター
性ホルモンやアンドロゲンが過剰な病態だ。思春期早発症、21-水酸化酵素欠損症などの先天性副腎過形成症、それに甲状腺機能亢進症。単純性肥満でも軽く進む。骨年齢が進むと一時的に背は高くても骨端線が早く閉じて、最終身長が低くなるおそれがあるんだ。
医学生医学生
低身長の子を診るときは、骨年齢が遅れていれば内分泌疾患や体質性思春期遅発症、暦年齢相当なら家族性低身長やTurner症候群、と分けて考えればいいんですね。
ドクタードクター
その通り。体質性思春期遅発症は骨年齢が遅れていても最終的には正常身長に達するし、慢性疾患や栄養障害、心理社会的低身長、糖質コルチコイド過剰でも骨年齢は遅れる。外来で成長曲線と骨年齢を並べて見るだけで、鑑別がかなり絞れる。臨床実習で小児内分泌外来に行ったら、ぜひ成長曲線の読み方にも注目してほしい。

まとめ

骨年齢は手のX線写真で骨端核や骨端線の状態から評価する骨の成熟度であり、甲状腺ホルモン、成長ホルモン(IGF-I)、性ホルモン(特にエストロゲン)によって進みます。そのため甲状腺機能低下症と成長ホルモン分泌不全性低身長症では骨年齢が明らかに遅延し、治療によるキャッチアップとともに骨年齢も進みます。Turner症候群の低身長はSHOX遺伝子のハプロ不全による骨自体の成長障害で、小児期の骨年齢はほぼ暦年齢相当であり、Prader-Willi症候群や偽性副甲状腺機能低下症も骨年齢遅延の代表ではなく、後者の1a型ではむしろ促進傾向があります。思春期早発症や先天性副腎過形成症、甲状腺機能亢進症では骨年齢が促進し、最終身長が低くなるおそれがあります。骨密度と骨成熟を区別し、成長曲線と骨年齢を組み合わせて読むことが、低身長の鑑別診断の基本になります。

解答・解説

正解はb, eです

【テーマ】骨年齢(骨成熟度)に影響する因子と、骨年齢が遅延する代表的な疾患を問う問題である。 【骨年齢とは】骨年齢は、骨端核(骨化中心)の出現や大きさ・形、骨端線の閉鎖の程度から推定する「骨の成熟度」である。小児期〜思春期には左手(手根骨・中手骨・指節骨)のX線写真で評価し(日本人標準化TW2法などを用いる)、新生児期には大腿骨遠位端・脛骨近位端の骨端核の有無で評価する。暦年齢と比べて骨年齢が若ければ「遅延」、進んでいれば「促進」という。 【骨成熟を進めるホルモン】骨成熟を促す主なホルモンは、1)甲状腺ホルモン、2)成長ホルモン(GH)とその下流のインスリン様成長因子-I(IGF-I)、3)性ホルモン(特にエストロゲン。男性でもテストステロンがアロマターゼでエストロゲンに変換されて骨端線を閉鎖させる)の3つである。したがって、 ・甲状腺ホルモンやGHが欠乏する疾患では骨年齢が著しく遅延する。 ・性ホルモンや副腎アンドロゲンが過剰な疾患(思春期早発症、先天性副腎過形成症、甲状腺機能亢進症など)では骨年齢が促進する。 【解き方】「骨の成熟」と「骨の量・強度(骨密度)」を混同しないことが大切である。骨粗鬆症や骨の脆弱性があっても、骨年齢が遅れるとは限らない。選択肢のうち、骨成熟を担うホルモンそのものが欠乏し、低身長と骨年齢の明らかな遅延を特徴とするのは、甲状腺機能低下症と成長ホルモン分泌不全性低身長症である。

選択肢考察

  1. ×a.  Turner症候群

    誤り。Turner症候群(45,Xなど、X染色体の全部または一部の欠失)の低身長は、主にX染色体上のSHOX遺伝子のハプロ不全による骨そのものの成長障害であり、GHや甲状腺ホルモンは通常保たれる。そのため小児期の骨年齢はほぼ暦年齢相当で、低身長の割に骨年齢は遅れない(体質性の低身長や内分泌性低身長との違い)。性腺機能不全によるエストロゲン不足から骨粗鬆症(骨密度低下)を来しやすいが、これは骨成熟とは別の問題である。なお、思春期年齢に達してもエストロゲンが分泌されないため、未治療では思春期以降に骨端線閉鎖が遅れて骨年齢が遅れていくことがあるが、骨年齢遅延の代表疾患とはいえない。

  2. ○b.  甲状腺機能低下症

    正しい。甲状腺ホルモンは軟骨内骨化と骨端核の成熟に不可欠であり、GH分泌やIGF-I作用を支える働きもある。先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の中等症以上では、出生時に大腿骨遠位端の骨端核が出現していないことが多く、重症度の指標になる。後天性(慢性甲状腺炎などによる)甲状腺機能低下症でも、未治療のまま経過すると成長率の低下とともに骨年齢は著しく遅延し、身長の遅れよりも骨年齢の遅れの方が目立つことが多い。治療で甲状腺ホルモンを補充すると、キャッチアップ成長とともに骨年齢も急速に進む。

  3. ×c.  Prader-Willi症候群

    誤り。Prader-Willi症候群は15番染色体q11-q13の父由来遺伝子の発現欠如による疾患で、新生児期の筋緊張低下・哺乳不良、幼児期以降の過食と肥満、知的障害、低身長、性腺機能低下症などを特徴とする。性腺機能低下により骨密度は低下しやすいが、小児期の骨年齢は概ね暦年齢相当であり、骨年齢遅延の代表疾患ではない(肥満や副腎アンドロゲンの早期上昇により、幼児期〜学童期にはむしろ進むこともある)。

  4. ×d.  偽性副甲状腺機能低下症

    誤り。偽性副甲状腺機能低下症は、副甲状腺ホルモン(PTH)は十分に分泌されているのに、PTH受容体と共役するGsαタンパク(GNAS遺伝子産物)の異常によって標的臓器(主に腎)がPTHに反応せず、低カルシウム血症・高リン血症を来す疾患である。PTHはカルシウム・リン代謝や骨の質に関与するが、骨成熟を直接進めるホルモンではないため、骨年齢遅延は特徴ではない。1a型ではAlbright遺伝性骨異栄養症(円形顔貌、低身長、肥満、第4・第5中手骨の短縮、皮下石灰化など)を伴い、骨端線が早期に閉鎖して骨年齢がむしろ進む傾向がある。

  5. ○e.  成長ホルモン分泌不全性低身長症

    正しい。GHは肝臓などでIGF-Iの産生を促し、骨端の成長軟骨板での軟骨細胞の増殖と骨化を進めることで、身長の伸びと骨成熟の両方に関わる。GHが不足すると成長率が低下し、骨年齢も暦年齢より遅れる(おおむね身長年齢に相当する程度)。骨年齢が遅れているということは骨端線が開いていて伸びる余地が残っていることを意味し、GH補充療法の適応判断や治療効果の評価にも骨年齢が用いられる。

骨年齢の変化と主な疾患

1)骨年齢が遅延する疾患・病態 ・甲状腺機能低下症(先天性・後天性) ・成長ホルモン分泌不全性低身長症(汎下垂体機能低下症を含む) ・体質性思春期遅発症(骨年齢が遅れるが、最終的には正常身長に達する) ・性腺機能低下症(思春期以降) ・慢性疾患や栄養障害、愛情遮断症候群(心理社会的低身長)、クッシング症候群(糖質コルチコイド過剰)など 2)骨年齢が促進する疾患・病態 ・思春期早発症(中枢性・末梢性) ・先天性副腎過形成症(21-水酸化酵素欠損症など)、副腎性器症候群 ・甲状腺機能亢進症 ・単純性肥満(軽度促進) ・マッキューン・オルブライト症候群など 3)骨年齢がほぼ暦年齢相当の低身長 ・家族性低身長 ・Turner症候群(小児期) ・SGA性低身長(子宮内発育不全に伴う低身長)など

低身長の評価における骨年齢の意義

・骨年齢が暦年齢より遅れている低身長:内分泌疾患(GH分泌不全、甲状腺機能低下症)や体質性思春期遅発症を考える。 ・骨年齢が暦年齢相当の低身長:家族性低身長、染色体異常(Turner症候群など)、骨系統疾患を考える。 ・骨年齢が促進しているのに低身長:思春期早発症などで骨端線が早期に閉鎖し、最終身長が低くなる可能性がある。

骨年齢の評価法

・小児期〜思春期:左手のX線写真(手根骨・中手骨・指節骨の骨端核)で評価する。 ・新生児期:大腿骨遠位端・脛骨近位端の骨端核の出現を評価し、先天性甲状腺機能低下症の重症度判定に用いる。

POINT

・骨成熟を進める主なホルモンは、甲状腺ホルモン、成長ホルモン(IGF-I)、性ホルモン(エストロゲン)である。 ・骨年齢遅延の代表疾患は、甲状腺機能低下症と成長ホルモン分泌不全性低身長症である。 ・骨年齢促進の代表は、思春期早発症、先天性副腎過形成症、甲状腺機能亢進症である。 ・Turner症候群の低身長は小児期には骨年齢の遅れを伴わない(SHOX遺伝子のハプロ不全による)。 ・骨密度低下(骨粗鬆症)と骨年齢遅延は別の概念である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。