StudyMed医師国家試験

痛みなく突然の吐血―NSAIDsが狙う「胃と十二指腸」の弱点

第102回医師国家試験 G問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第102回 G問題 第3問

非ステロイド性抗炎症薬によって出血をきたしやすい部位はどれか。2つ選べ。

  1. a.食道
  2. b.胃
  3. c.十二指腸
  4. d.回腸
  5. e.直腸

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、身近な鎮痛薬であるNSAIDsが消化管のどこで出血を起こしやすいかを問う問題だ。丸暗記で済ませず、「なぜそこなのか」をプロスタグランジンの働きから考えると忘れにくくなるよ。まず、NSAIDsがどうやって効くか覚えているかな。
医学生医学生
薬理学の講義で習いました。シクロオキシゲナーゼ、COXを阻害してプロスタグランジンの産生を抑えるので、痛みや炎症が治まるんですよね。
ドクタードクター
その通り。ただ、プロスタグランジンは炎症を起こすだけの悪者じゃない。胃や十二指腸では、主にCOX-1由来のPGE2やPGI2が粘液や重炭酸イオンの分泌を促し、粘膜血流を保って、傷ついた上皮の修復も助けている。いわば粘膜の「守り役」なんだ。
医学生医学生
守り役が減ると、胃酸やペプシンといった攻撃因子に粘膜が負けてしまう、ということですか。
ドクタードクター
まさに攻撃因子と防御因子のバランスが崩れるわけだ。さらに酸性のNSAIDsは胃の中で粘膜細胞に直接取り込まれて傷つける局所作用もあるし、アスピリンなら血小板のCOX-1を阻害して止血しにくくなる。こうした理由から、出血の好発部位は酸とペプシンにさらされ、プロスタグランジンによる防御に強く頼っている胃と十二指腸になる。
医学生医学生
胃が一番多くて、次が十二指腸という理解でいいでしょうか。
ドクタードクター
いいよ。胃、特に前庭部に多発する浅いびらんや不整形の潰瘍ができやすく、それに次ぐのが十二指腸だ。十二指腸も胃から流れてくる酸を受け止めていて、重炭酸分泌などの防御に依存しているからね。だから正解は胃と十二指腸の2つになる。
医学生医学生
でも食道も、薬が引っかかって潰瘍になると聞いたことがあります。
ドクタードクター
薬剤性食道炎、いわゆるpill esophagitisだね。少ない水で飲んだり、飲んですぐ横になったりすると錠剤が食道にとどまり、粘膜を直接傷つけることがある。ただ食道潰瘍の主な原因は胃液の逆流などで、NSAIDsによる出血の好発部位としては胃・十二指腸よりずっと頻度が低い。
医学生医学生
回腸はどうですか。消化器内科の実習でカプセル内視鏡の読影を見学したとき、NSAIDsを飲んでいる人の小腸にびらんがあると指導医の先生が話していました。
ドクタードクター
よく見ているね。カプセル内視鏡やバルーン内視鏡が普及して、NSAIDsを長く飲んでいる人では小腸にびらんや小潰瘍、輪状の膜様狭窄がかなりの頻度でみられることがわかってきた。貧血の原因にもなりうる。ただ、臨床的に問題となる出血の頻度としては、やはり胃・十二指腸が中心なんだ。小腸潰瘍をみたら、Crohn病、腸結核、腸管Behçet病なども鑑別に挙げておこう。
医学生医学生
直腸は、坐薬なら直接触れるので傷つきそうな気がします。
ドクタードクター
鋭いね。坐薬を繰り返し使うと直腸にびらんや潰瘍ができて出血することはある。でも頻度は少ない。大事なのは、坐薬や注射でもプロスタグランジンは全身で減るので、胃・十二指腸潰瘍の原因になりうるという点だ。「坐薬だから胃は安心」とは言えないんだよ。
医学生医学生
なるほど、局所の障害と全身性のPG低下の両方を考える必要があるんですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。臨床での注意点もまとめよう。消化性潰瘍の二大原因はHelicobacter pylori感染とNSAIDsで、NSAIDs潰瘍は痛みが軽いか無症状のことが多く、突然の吐血やタール便で見つかることがある。高齢者、潰瘍の既往、複数のNSAIDsの併用、抗凝固薬や抗血小板薬、ステロイドとの併用ではリスクがさらに上がる。
医学生医学生
整形外科を回ったとき、鎮痛薬と一緒に胃薬が処方されていたのはそのためだったんですね。予防はどうするのがいいですか。
ドクタードクター
可能ならNSAIDsを中止するのが基本で、続ける必要があるならプロトンポンプ阻害薬で予防・治療する。プロスタグランジン製剤のミソプロストールにも予防効果がある。COX-2選択的阻害薬は胃粘膜を守るCOX-1を阻害しにくいので消化管障害が少ないけれど、心血管系の副作用には注意が必要だ。H. pylori陽性なら除菌も考慮しよう。
医学生医学生
薬理の機序から、出血部位、予防法までひとつながりで説明できるようになりました。
ドクタードクター
それが一番の収穫だね。外来で「黒い便が出た」という高齢者がいたら、まずお薬手帳を見てNSAIDsや抗血栓薬の有無を確認する。その習慣が見逃しを防ぐよ。

まとめ

NSAIDsはCOXを阻害してプロスタグランジンを減らし、粘液・重炭酸分泌や粘膜血流といった胃・十二指腸の防御機構を弱めるため、酸とペプシンにさらされる胃(特に前庭部)と十二指腸が潰瘍・出血の好発部位となります。食道の薬剤性食道炎、長期内服者の小腸びらん・膜様狭窄、坐薬による直腸潰瘍も起こりえますが、臨床的に問題となる出血の頻度は胃・十二指腸に比べて低いと考えられます。NSAIDs潰瘍はH. pylori感染と並ぶ消化性潰瘍の二大原因で、無症状のまま吐血・下血で見つかることがあり、坐薬や注射でも生じうる点に注意が必要です。予防・治療はNSAIDsの中止やPPI、ミソプロストールが基本で、COX-2選択的阻害薬は消化管障害が少ない一方で心血管リスクへの配慮が求められます。薬理機序から障害部位と対策を導く考え方は、日常診療での安全な鎮痛薬処方に直結します。

解答・解説

正解はb, cです

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:nonsteroidal anti-inflammatory drugs、アスピリン、ロキソプロフェン、ジクロフェナク、インドメタシンなど)は、消化管粘膜を傷つけてびらんや潰瘍をつくり、そこから出血を起こすことがある。本問はその好発部位を問うている。

NSAIDsが粘膜を傷つける仕組み

NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素を阻害し、プロスタグランジン(PG)の産生を抑えることで、痛みや炎症を和らげる。ところが胃や十二指腸では、PG(特にCOX-1由来のPGE2、PGI2)が、粘液や重炭酸イオン(HCO3−)の分泌を促し、粘膜の血流を保ち、上皮の修復を助けるという「粘膜を守る」役割を担っている。NSAIDsでPGが減ると、この防御機構が弱まり、胃酸やペプシンといった攻撃因子に粘膜が負けて潰瘍ができる。さらに、酸性のNSAIDsが胃内で粘膜細胞に直接取り込まれて障害する局所作用や、血小板のCOX-1阻害による出血傾向(特にアスピリン)も出血を起こしやすくする。

好発部位

酸・ペプシンにさらされ、PGによる防御への依存度が高い胃と十二指腸が、NSAIDs潰瘍とそれによる出血の代表的な部位である。特に胃(胃前庭部)に多く、次いで十二指腸に多い。したがって胃と十二指腸を選ぶ。 なお、NSAIDsは食道、小腸、大腸にも障害を起こしうるが、臨床的に問題となる出血の頻度は胃・十二指腸に比べると低い。

選択肢考察

  1. ×a.  食道

    NSAIDsの錠剤が食道にとどまって粘膜を直接傷つける薬剤性食道炎(pill esophagitis)が起こることはある。特に少ない水で服用したり、服用直後に横になったりした場合に生じやすい。しかし食道潰瘍の主な原因は胃液の逆流(逆流性食道炎)や異物などであり、NSAIDsによる出血の好発部位としては胃・十二指腸に比べて頻度が低い。したがって誤り。

  2. ○b.  胃

    胃はNSAIDsによる潰瘍・出血の最も多い部位である。PG減少による粘膜防御の低下に加え、酸性環境でNSAIDsが粘膜細胞に取り込まれて直接障害するため、胃前庭部を中心に多発するびらん・潰瘍が生じやすい。胃潰瘍の二大原因はHelicobacter pylori(ヘリコバクター・ピロリ)感染とNSAIDsである。NSAIDs潰瘍は痛みが軽い、あるいは無症状のことが多く、突然の吐血や下血(タール便)で見つかることがある。したがって正しい。

  3. ○c.  十二指腸

    十二指腸も胃から流れてくる酸にさらされ、PGによる重炭酸イオン分泌などの防御機構に依存しているため、NSAIDsによって潰瘍ができやすい。NSAIDs潰瘍の頻度は胃に次いで高く、十二指腸潰瘍からの出血も重要である。したがって正しい。

  4. ×d.  回腸

    カプセル内視鏡やバルーン内視鏡の普及により、NSAIDsを長期間内服している人では小腸(空腸・回腸)にもびらんや小潰瘍、さらに輪状の膜様狭窄(diaphragm-like stricture)がかなりの頻度で生じることがわかってきた。貧血や出血の原因となることもあるが、臨床的に問題となる出血の頻度は胃・十二指腸に比べると少ない。なお、小腸潰瘍の原因としてはCrohn病、腸結核、腸管Behçet病なども鑑別に挙がる。本問では誤り。

  5. ×e.  直腸

    NSAIDsの坐薬を繰り返し使用すると、薬剤が直接触れることで直腸にびらんや潰瘍が生じ、出血することがある。しかし頻度は胃・十二指腸に比べて少ない。直腸に潰瘍やびらんを起こす代表的な疾患としては潰瘍性大腸炎(直腸から連続性に病変が広がる)などがある。本問では誤り。

消化性潰瘍の主な原因

胃潰瘍・十二指腸潰瘍は、かつては攻撃因子(胃酸・ペプシン)と防御因子(粘液・重炭酸・粘膜血流など)のバランスの崩れで説明されていた。現在では、主な原因はHelicobacter pylori感染とNSAIDs(低用量アスピリンを含む)の2つであると考えられている。

NSAIDs潰瘍の特徴

・胃前庭部に多く、多発・不整形の浅い潰瘍やびらんが多い。 ・自覚症状が乏しく、出血で初めて見つかることが多い。 ・高齢者、潰瘍の既往、高用量・複数のNSAIDs併用、抗凝固薬・抗血小板薬・ステロイドの併用などで危険性が高まる。 ・内服だけでなく、坐薬や注射でも、PGを全身的に減らすため胃・十二指腸潰瘍の原因となりうる。

予防と治療

・可能ならNSAIDsを中止する。 ・中止できない場合は、プロトンポンプ阻害薬(PPI)で治療・予防する。PG製剤(ミソプロストール)も予防効果がある。 ・COX-2選択的阻害薬(セレコキシブなど)は、胃粘膜を守るCOX-1を阻害しにくいため、従来のNSAIDsより消化管障害が少ない。ただし心血管系の副作用に注意する。 ・H. pylori陽性であれば除菌も考慮する。

COX-1とCOX-2

・COX-1:胃粘膜、腎臓、血小板などで常に働き、粘膜保護・腎血流維持・血小板凝集(トロンボキサンA2産生)にかかわる。 ・COX-2:炎症の場で誘導され、痛み・発熱・炎症にかかわる。

POINT

・NSAIDsはCOX阻害でPGを減らし、胃・十二指腸粘膜の防御機構を弱める。 ・NSAIDs潰瘍・出血の好発部位は胃(最多)と十二指腸。 ・消化性潰瘍の二大原因はH. pylori感染とNSAIDs。 ・NSAIDs潰瘍は無症状のことが多く、吐血・下血で発見されやすい。 ・予防・治療はNSAIDs中止、PPI、PG製剤。COX-2選択的阻害薬は消化管障害が少ない。 ・小腸・大腸・食道の障害も起こりうるが、出血の頻度は胃・十二指腸より低い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。