倫理委員会は「何でも倫理係」ではない―研究を守る第三者審査の仕組み
第102回医師国家試験 F問題 第2問
国試問題にチャレンジ
施設内倫理委員会の役割に含まれるのはどれか。
- a.施設職員の倫理規定の策定
- b.施設職員に対する接遇教育
- c.地域住民に対する倫理教育
- d.施設内の患者に起きた感染事故の原因調査
- e.施設内の患者を対象とした研究の倫理審査
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
施設内倫理委員会(IRB)の中心的な役割は、人を対象とする研究計画を研究者から独立した立場で事前に審査し、実施中も監督することで、その根拠はヘルシンキ宣言にあります。審査では科学的妥当性、危険と利益のバランス、インフォームド・コンセント、個人情報保護、利益相反などが検討され、委員には一般の立場の人や外部委員を含めて独立性・公正性が確保されます。職員の倫理規定づくりは管理部門、接遇教育は研修部門、院内感染や医療事故の調査は感染対策委員会や医療安全管理委員会の担当であり、倫理委員会の役割ではありません。日本では倫理指針、GCP省令、臨床研究法によって研究の種類ごとに審査の枠組みが定められています。院内の委員会の役割分担を理解しておくことは、将来研究に携わる際にも、患者さんを守る仕組みを知るうえでも欠かせません。
解答・解説
正解はeです
問われていること
病院や研究所の中に置かれる「倫理委員会」が、具体的に何を担当する組織なのかを正しく理解しているかが問われている。
施設内倫理委員会とは
人を対象とする医学研究(臨床研究)を計画した研究者は、研究を始める前に、その計画が科学的に妥当であり、かつ被験者(研究に参加する患者や健常者)の人権・安全・プライバシーが守られるかどうかについて、研究者から独立した第三者の審査を受けなければならない。この審査を担うのが施設内倫理委員会であり、英語では Institutional Review Board(IRB)あるいは Research Ethics Committee と呼ばれる。根拠となる国際的な規範は世界医師会のヘルシンキ宣言であり、研究計画書は研究開始前に独立した研究倫理委員会へ提出し、検討・承認を受けるべきことが明記されている。
考え方
委員会の中心的な仕事は「研究計画の倫理審査」である。職員への接遇指導や住民教育、事故調査といった業務は、それぞれ教育担当部署や医療安全・感染対策の委員会など別の組織の役割である。選択肢の中から「研究の倫理審査」を選べばよい。
選択肢考察
- ×a. 施設職員の倫理規定の策定
職員の服務規律や行動規範といった倫理規定を作るのは、施設の管理部門(病院長・理事会・人事部門など)の仕事である。施設内倫理委員会は、提出された研究計画や倫理的に難しい診療行為について個別に審査・助言する組織であり、職員全体を対象とした規程づくりを本来の役割とはしない。
- ×b. 施設職員に対する接遇教育
患者への言葉遣いや応対のマナーといった接遇の教育は、職員研修を担当する部署やサービス向上委員会などが行う。研究や医療行為の倫理的妥当性を審査する倫理委員会の業務ではない。
- ×c. 地域住民に対する倫理教育
施設内倫理委員会はその施設で実施される研究・医療を審査するための組織であり、施設外の一般市民に対して倫理教育を行う機能はもたない。なお、委員構成には一般の立場の人(医学の専門家でない外部委員)を加えることが求められるが、これは審査に市民の視点を取り入れるためであり、住民への教育とは別の話である。
- ×d. 施設内の患者に起きた感染事故の原因調査
院内感染や医療事故の原因究明・再発防止策の立案は、感染対策委員会(ICC:infection control committee)や感染制御チーム(ICT)、医療安全管理委員会が担当する。医療法上もこれらの委員会の設置が病院に求められており、倫理委員会とは役割が異なる。
- ○e. 施設内の患者を対象とした研究の倫理審査
これが施設内倫理委員会の中核となる役割である。委員会は研究計画書を受け取り、研究の科学的妥当性、被験者に生じうる危険と期待される利益のつり合い、インフォームド・コンセントの取得方法、個人情報の保護、利益相反の管理などを審査し、承認・条件付き承認・不承認などを判断する。承認後も、重篤な有害事象の報告を受けたり、研究の継続の可否を検討したりするなど、研究の進行を監督する。ヘルシンキ宣言が求める「独立した倫理委員会による事前審査」を具体化した仕組みである。
日本における研究倫理審査の枠組み
・人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(2021年施行。それまでの「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」と「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」を統合):観察研究を含む多くの医学系研究は、この指針に基づき倫理審査委員会の審査を受ける。 ・治験:医薬品等の承認申請を目的とする臨床試験は、医薬品医療機器等法とGCP省令(Good Clinical Practice、医薬品の臨床試験の実施の基準)に従い、治験審査委員会(IRB)の審査を受ける。 ・臨床研究法(2018年施行):医薬品等を人に投与してその有効性・安全性を評価する研究のうち、未承認・適応外の薬を用いるものや、製薬企業から資金提供を受けるもの(特定臨床研究)は、厚生労働大臣の認定を受けた認定臨床研究審査委員会の審査が必要である。
委員会の構成の要点
医学・医療の専門家だけでなく、倫理学・法律の有識者、一般の立場の人を含め、男女両性で構成し、施設外の委員を加えることなどが求められる。研究者本人は自分の研究の審査に加わることができない。いずれも審査の独立性・公正性を確保するためである。
臨床倫理委員会
研究審査とは別に、終末期医療の方針や輸血拒否への対応など、日常診療で生じる倫理的問題を検討する臨床倫理委員会(コンサルテーションチーム)を置く施設もある。ただしこれも個別の事例について倫理的助言を行う組織であり、事故調査や職員教育の部署ではない。
院内の主な委員会と役割
・倫理(審査)委員会:研究計画・倫理的問題の審査 ・医療安全管理委員会:医療事故・インシデントの分析と再発防止 ・感染対策委員会/ICT:院内感染の監視、原因調査、対策 ・治験審査委員会:治験の審査
POINT
・施設内倫理委員会(IRB)の主な役割は、人を対象とする研究計画を事前に審査し、実施中も監督することである。 ・根拠となる国際規範はヘルシンキ宣言(研究開始前に独立した倫理委員会の承認が必要)。 ・委員会には医学の専門家以外の委員や外部委員を含め、研究者から独立していることが求められる。 ・院内感染や医療事故の調査は感染対策委員会・医療安全管理委員会の担当であり、倫理委員会ではない。
