「儲け」は患者を救わない―医師のプロフェッショナリズム4本柱と営利主義
第102回医師国家試験 F問題 第14問
国試問題にチャレンジ
医師の職業倫理としてふさわしくないのはどれか。
- a.社会性
- b.人間性
- c.生涯学習
- d.利他主義
- e.営利主義
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
医師のプロフェッショナリズムは、社会から信頼を託された専門職としての価値観と行動規範であり、生涯学習による専門能力の維持、患者や家族に配慮する人間性、法令遵守や医療資源の公正な配分を含む社会性、自己の利益より患者の利益を優先する利他主義が主な柱です。営利主義は利益を最優先する考え方で利他主義と対立し、不要な医療や患者の切り捨てにつながるおそれがあるため、職業倫理としてふさわしくありません。医療法も営利目的の医療機関開設を認めない立場をとり、医療法人の剰余金配当を禁じていますが、良質な医療を続けるための健全な経営努力までは否定されません。2002年の医師憲章が示す患者の福利優先・自律性の尊重・社会正義の3原則や利益相反の管理とあわせて理解することで、日々の診療や研究で倫理的に判断する土台が身につきます。
解答・解説
正解はeです
医師に求められる職業倫理(プロフェッショナリズム)の構成要素を問う問題である。 医師のプロフェッショナリズムとは、専門職として社会から信頼を託されている医師が、その信頼に応えるために身につけるべき価値観と行動規範の総体をいう。2002年に米国内科学会・欧州内科連合などが共同で公表した「新ミレニアムにおける医のプロフェッショナリズム:医師憲章」では、基本原則として「患者の福利優先(利他主義)」「患者の自律性の尊重」「社会正義(公正な医療資源の配分)」が掲げられた。わが国でもこれを踏まえ、医師に必要な資質として、高い専門能力とそれを維持する生涯学習、患者への共感や配慮を中心とする人間性、法やルールを守り公正な医療を行う社会性、自己の利益より患者の利益を優先する利他主義などが挙げられている。 設問は「ふさわしくないもの」を選ばせる形式である。選択肢のうち4つはいずれも上記の構成要素そのものであり、残る1つだけが患者の利益よりも経済的利益を優先する考え方で、利他主義と正面から対立する。この対立関係に気づけば迷わず解答できる。
選択肢考察
- ×a. 社会性
医師の職業倫理として適切である。医療は社会の制度や公的資源のうえに成り立っており、医師には法令の遵守、患者の権利とインフォームド・コンセント(十分な説明に基づく同意)の尊重、限られた医療資源を公平に配分する姿勢、公衆衛生への貢献などが求められる。こうした社会の一員としての責任感が社会性であり、プロフェッショナリズムの重要な柱である。
- ×b. 人間性
医師の職業倫理として適切である。病気だけでなく、病を抱えた一人の人間として患者を理解し、その不安や家族の心理、生活や社会的背景、生活の質(QOL: quality of life)に配慮することが求められる。共感的なコミュニケーションによって患者・家族との信頼関係を築く力も人間性に含まれ、医療の質を左右する要素である。
- ×c. 生涯学習
医師の職業倫理として適切である。医学・医療は絶えず進歩しており、免許取得時の知識だけでは最新・最良の医療を提供し続けることはできない。医師には、科学的根拠に基づく医療(EBM: evidence-based medicine)の実践や医療安全の知識更新も含め、生涯にわたり自己研鑽を続けて専門能力を維持・向上させる責務がある。専門医制度の更新要件なども、この考え方を制度化したものである。
- ×d. 利他主義
医師の職業倫理として適切である。利他主義とは、自らの利益(収入、研究業績、名声など)や医療者側の都合よりも、患者の利益を優先する姿勢をいう。医師憲章でも「患者の福利優先」が第一の基本原則とされており、患者を守るために必要であれば同僚や所属組織の不適切な行為を指摘・報告することもこれに含まれる。患者中心の医療を支える中核的な価値観である。
- ○e. 営利主義
医師の職業倫理としてふさわしくない。営利主義は利益の獲得を最優先する考え方であり、患者の利益を第一とする利他主義と対立する。利益追求が優先されると、不要な検査・治療の実施や、採算のとれない患者・医療の切り捨てにつながるおそれがある。制度面でも、医療法は営利を目的として病院・診療所を開設しようとする者には開設許可を与えないことができると定めており(医療法第7条)、医療法人も剰余金の配当が禁止されている。ただし、医療機関が良質な医療を継続的に提供するために健全な経営努力を行うこと自体は否定されない。問題となるのは、利益を目的化し患者の利益より優先することである。
医師のプロフェッショナリズムの主な構成要素
1. 高い専門能力: 生涯学習による知識・技能の維持向上、EBMの実践、医療安全への取り組み 2. 人間性: 患者・家族の心理や社会的背景への配慮、QOLを考慮した医療、コミュニケーション能力 3. 社会性: 法令遵守、患者の権利とインフォームド・コンセントの尊重、医療資源の公正な配分 4. 利他主義: 自己の利益より患者の利益を優先すること
医師憲章(2002年)の3つの基本原則
・患者の福利優先の原則 ・患者の自律性(自己決定)の原則 ・社会正義の原則 これに加え、専門能力の維持、患者に対する誠実さ、守秘義務、適切な関係の維持、医療の質の向上、医療へのアクセス改善、有限な資源の公正な配分、科学的知識の尊重、利益相反の適切な管理による信頼の維持、専門職としての責任という10の責務が示されている。
医療と営利
医療法は医療機関の非営利性を原則としており、営利目的の開設者には開設許可を与えないことができる。医療法人は剰余金の配当が禁じられている。一方、医療費抑制の流れの中で、医療機関には限られた財源で質の高い医療を公平に提供するための効率的な経営が求められている。経営努力と営利主義は区別して理解する必要がある。
POINT
・医師の職業倫理(プロフェッショナリズム)の柱は、専門能力(生涯学習)、人間性、社会性、利他主義である。 ・営利主義は患者の利益を最優先する利他主義と対立し、職業倫理としてふさわしくない。 ・医療法は医療機関の営利目的での開設を認めない立場をとる(非営利性の原則)。
