StudyMed医師国家試験

「少し減った」を褒めるのが最強の処方―肥満患者の行動変容を支える関わり方

第102回医師国家試験 F問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第102回 F問題 第13問

肥満患者の減量に対する支援効果が最も期待できるのはどれか。

  1. a.減量するまで通院間隔を延ばす。
  2. b.体重が減らない理由を問いただす。
  3. c.できるだけ高い目標を設定させる。
  4. d.体重が少しでも減少したことを褒める。
  5. e.減量に失敗して落胆した自分を想像させる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、肥満患者の減量をどう支援するかという問題だ。薬や術式の知識ではなく、医療者の関わり方が問われている。ポイントは、患者自身が生活習慣を長く変え続けられるように、どうすれば意欲を保てるかという視点だよ。
医学生医学生
食事療法と運動療法を指示すればいいと思っていましたが、それだけでは不十分ということですか。
ドクタードクター
指示自体は必要だけど、肥満の治療は患者が毎日実行し続けなければ効果が出ない。だから医療者の役割は、知識を与えることに加えて、動機づけを高めて維持できるよう支援することなんだ。こうした考え方に基づく方法を行動療法と呼ぶ。
医学生医学生
医療面接の講義で、患者さんを責めない共感的な態度が大事だと習いました。それと関係がありますか。
ドクタードクター
大いに関係があるよ。では選択肢を見ていこう。体重が少しでも減ったことを褒めるのはどうだろう。
医学生医学生
小さな成果でも褒められると、次も頑張ろうと思えます。これが正解でしょうか。
ドクタードクター
正解だ。わずかな減量でも成果と努力を具体的に認めると、望ましい行動が強化される。心理学でいう正の強化だね。患者は「自分にもできる」という自己効力感を得て、意欲を保ちやすくなる。しかも数kg程度の減量でも血圧や血糖、脂質が改善することが知られているから、小さな減量を評価するのは医学的にも意味があるんだ。
医学生医学生
逆に、減量できるまで通院間隔を延ばすのは、患者さんの負担を減らすという意味ではありなのかなと少し思いました。
ドクタードクター
気持ちは分かるけど、通院間隔が空くと経過を確認して助言する機会が減り、意欲も途切れやすい。「減るまで来なくていい」は結果が出ない人を突き放すことになって、治療からの脱落を招く。むしろ定期的に通ってもらい、こまめに確認して励ますほうが効果的だよ。
医学生医学生
体重が減らない理由を聞くのは、原因を探るために必要な気がします。
ドクタードクター
背景を把握すること自体は大切だ。間食や夜遅い食事、ストレスによる過食、薬剤や内分泌疾患の影響などがありうるからね。問題は「問いただす」という責める姿勢だ。患者は罪悪感や反発を感じて、本当の生活を話さなくなったり受診をやめたりする。理由を探るなら、食事記録などを見ながら一緒に振り返るのがいい。
医学生医学生
高い目標を立てるのも、やる気につながりそうに見えますが。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。高すぎる目標は達成が難しく、極端な食事制限や過度な運動につながりやすい。届かない状態が続くと挫折して諦めたり、リバウンドしたりする。日本肥満学会のガイドラインでは、肥満症ならまず3〜6か月で現体重の3%以上、高度肥満症なら5〜10%の減量が目安とされている。
医学生医学生
失敗して落胆した自分を想像させるのは、危機感を持たせる狙いでしょうか。でも、聞いているだけで気分が沈みます。
ドクタードクター
その感覚は正しいよ。否定的なイメージで脅すと不安や自己否定感が強まり、意欲の低下や抑うつ的な気分を招いて脱落につながる。むしろ減量に成功して体が軽くなった自分、やりたいことができるようになった姿など、前向きなイメージを描いてもらうほうが効果的なんだ。
医学生医学生
責めない、突き放さない、脅さない、そして小さな成功を積み重ねさせる、ということですね。
ドクタードクター
その通り。行動療法には具体的な技法もある。体重や食事、歩数を記録するセルフモニタリング、食べ物を目につく場所に置かないといった刺激統制、よく噛んでゆっくり食べる咀嚼法、「少し食べ過ぎたらもう終わり」という極端な考えを修正する認知の修正などだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で出てきた行動変容ステージモデルも使えそうですね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期と段階があって、患者がどこにいるかで働きかけ方を変える。無関心期の人にいきなり細かい食事指導をしても響きにくいからね。臨床実習で生活習慣病の外来を見学するときは、指導医がどんな言葉で患者を励ましているかにも注目してみるといいよ。

まとめ

肥満の減量は食事療法と運動療法が基本ですが、患者が長期にわたり生活習慣を変え続ける必要があるため、医療者には動機づけを高めて維持する行動療法的な支援が求められます。わずかな減量でも成果と努力を褒めることは正の強化として働き、自己効力感を高めて継続を後押しします。一方、通院間隔を延ばして突き放す、責めるように問いただす、高すぎる目標を課す、失敗を想像させて脅すといった対応は、挫折や治療からの脱落を招きます。目標は肥満症でまず3〜6か月に現体重の3%以上を目安に現実的に設定し、セルフモニタリングや行動変容ステージに応じた働きかけを組み合わせます。患者に寄り添い小さな成功を積み重ねる姿勢は、肥満に限らず生活習慣病の診療全般に通じる大切な考え方です。

解答・解説

正解はdです

肥満の治療の基本は食事療法と運動療法であるが、これらは患者自身が生活習慣を長期にわたって変え続けなければ効果が得られない。そのため、医療者の役割は「知識を与えて指示する」ことにとどまらず、患者の意欲(動機づけ)を高め、それを維持できるように支援することにある。こうした考え方に基づく方法を行動療法(行動変容療法)という。 行動変容を促すうえで重要なのは、次のような点である。 ・達成可能な小さな目標を設定し、成功体験を積み重ねる。 ・望ましい行動や小さな成果を認め、褒めることで行動を強化する(正の強化)。 ・「自分にもできる」という感覚(自己効力感)を高める。 ・定期的に通院してもらい、体重や食事・運動を記録してもらいながら、継続的にフィードバックを行う。 ・非難や脅しによって罪悪感や不安をあおらず、共感的・受容的な態度で患者と協働する。 この観点から各選択肢をみると、わずかな体重減少でも褒めて努力を認めることが、動機づけの維持と自己効力感の向上につながり、最も支援効果が期待できる。

選択肢考察

  1. ×a.  減量するまで通院間隔を延ばす。

    不適切である。通院間隔が延びると、体重の推移や食事・運動の実施状況を確認して助言する機会が減り、患者の意欲も途切れやすい。「減量するまで来なくてよい」という対応は、結果が出ない患者を突き放すことにもなり、治療からの脱落を招く。減量支援では、むしろ定期的に通院してもらい、こまめに経過を確認して励ますことが効果的である。

  2. ×b.  体重が減らない理由を問いただす。

    不適切である。減量がうまくいかない背景(間食、夜遅い食事、運動不足、ストレスによる過食、薬剤や内分泌疾患の影響など)を把握すること自体は必要である。しかし、責めるように問いただすと、患者は罪悪感や反発を感じ、本当の生活状況を話さなくなったり受診をやめたりして、医師患者関係が損なわれる。理由を探る場合は、患者と一緒に振り返る共感的な姿勢で、食事記録などを用いて具体的に話し合うのがよい。

  3. ×c.  できるだけ高い目標を設定させる。

    不適切である。高すぎる目標は達成が難しく、極端な食事制限や過度の運動につながりやすい。目標に届かない状態が続くと挫折感から減量そのものを諦めたり、反動で体重が戻ったり(リバウンド)しやすい。目標は現実的で達成可能なものとし、例えば日本肥満学会のガイドラインでは、肥満症の場合まず3〜6か月で現体重の3%以上、高度肥満症では5〜10%の減量を目安としている。段階的に目標を達成していくことで成功体験が積み重なる。

  4. ○d.  体重が少しでも減少したことを褒める。

    最も支援効果が期待できる。わずかな減量であっても、その成果と努力を具体的に認めて褒めることは、望ましい行動を強化する正の強化として働く。患者は「やればできる」という自己効力感を得て、次の行動への意欲を保ちやすくなる。減量は長期戦であり、小さな成功体験の積み重ねが食事・運動習慣の継続につながる。また、数kg程度の減量でも血圧・血糖・脂質などの代謝指標が改善することが知られており、小さな減量を評価することは医学的にも意味がある。

  5. ×e.  減量に失敗して落胆した自分を想像させる。

    不適切である。失敗した姿を想像させることは不安や自己否定感を強め、意欲の低下や抑うつ的な気分を招き、治療からの脱落につながりやすい。行動変容を促すには、否定的なイメージで脅すよりも、減量に成功して体調がよくなった自分や、やりたいことができるようになった姿など、前向きなイメージを描いてもらうほうが効果的である。

肥満と肥満症

日本肥満学会の基準では、BMI(体重kg÷身長mの2乗)25以上を肥満と判定する。肥満のうち、肥満に起因または関連する健康障害(耐糖能障害、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風、冠動脈疾患、脳梗塞、非アルコール性脂肪性肝疾患、睡眠時無呼吸症候群、変形性関節症など)を合併するか、その合併が予測される内臓脂肪蓄積(ウエスト周囲長が男性85cm以上・女性90cm以上で、CTでの内臓脂肪面積100cm2以上に相当)がある場合を、医学的に減量が必要な「肥満症」として扱う。BMI35以上は高度肥満とされる。

メタボリックシンドロームと特定健診

日本のメタボリックシンドローム診断基準は、腹囲(男性85cm以上、女性90cm以上)を必須項目とし、脂質異常(中性脂肪150mg/dL以上かつ/またはHDLコレステロール40mg/dL未満)、血圧高値(収縮期130mmHg以上かつ/または拡張期85mmHg以上)、空腹時高血糖(110mg/dL以上)のうち2項目以上を満たすものである。2008年度から40〜74歳を対象に特定健康診査・特定保健指導が始まり、腹囲またはBMIの基準とリスク因子の数で保健指導の対象者が選定される。

行動療法の主な技法

・セルフモニタリング:体重(1日複数回の測定を勧める方法もある)、食事内容、歩数などを記録し、自分の行動を客観視する。グラフ化体重日記などが用いられる。 ・目標設定:具体的で達成可能な短期目標を立てる。 ・刺激統制:食べ物を目につく場所に置かない、ながら食いをしないなど、過食のきっかけを減らす。 ・正の強化:目標達成や望ましい行動を褒める、自分へのご褒美を設定する。 ・咀嚼法:よく噛んでゆっくり食べる。 ・認知の修正:「少しでも食べ過ぎたらもう終わりだ」といった極端な考え方を修正する。

行動変容ステージモデル

行動変容の段階は、無関心期→関心期→準備期→実行期→維持期と進むとされ、患者がどの段階にいるかに応じて働きかけを変えることが推奨される。

POINT

・肥満の減量支援では、行動療法により患者の動機づけを高め、維持することが重要である。 ・小さな減量でも褒める(正の強化)ことで自己効力感が高まり、継続につながる。 ・目標は現実的に設定する(肥満症ではまず3〜6か月で現体重の3%以上、高度肥満症では5〜10%が目安)。 ・問い詰める、突き放す(通院間隔を延ばす)、失敗を想像させて脅すといった対応は脱落を招く。 ・定期的な通院とセルフモニタリング(体重・食事の記録)でフィードバックを続ける。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。