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腋窩はなぜ10分かかる?―「閉じた空間」から読み解く体温測定の部位と時間

第102回医師国家試験 E問題 第35問

国試問題にチャレンジ

第102回 E問題 第35問

体温測定を行うのに最も長い計測時間が必要な部位はどれか。

  1. a.鼓膜
  2. b.口腔
  3. c.腋窩
  4. d.膀胱
  5. e.直腸

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、体温を測る部位によって、正確な値が出るまでの時間がどう違うかを問う問題だ。ポイントは2つ。その部位が身体の深部の温度をどれだけ直接反映しているか、そして測定部位が外気から遮断された閉じた空間になるまでにどれくらい時間がかかるか。この2つの視点で考えてみよう。
医学生医学生
普段使っている電子体温計は腋窩でも1分もかからずに鳴るので、時間の差なんてあまり意識したことがありませんでした。
ドクタードクター
実はそこが最初の落とし穴なんだ。日常的に使う電子体温計の多くは「予測式」といって、測り始めて数十秒の温度上昇のカーブから、最終的に落ち着く温度を推定して表示している。でも、温度が本当に平衡に達するまで待つ「実測式」で測ると、部位による時間の差がはっきり出てくる。この問題はその実測にかかる時間を聞いているんだよ。
医学生医学生
なるほど。じゃあ、深部にある部位ほど時間がかかる、ということでしょうか。直腸や膀胱が長そうな気がします。
ドクタードクター
そう考える人は多いけど、実は逆なんだ。直腸や膀胱は身体の奥にあって、はじめから外気の影響をほとんど受けない閉じた空間だよね。体温計の感温部を入れれば、すぐに周囲の深部温と平衡に達する。だから直腸温は実測でもおよそ3分と短いんだ。
医学生医学生
深いところほど、最初から「温まった部屋」に入るようなものなんですね。
ドクタードクター
うまいたとえだね。膀胱温は、先端に温度センサーの付いた尿道カテーテルで測る。センサーが常に体腔内にあるから連続的にモニターでき、そもそも測定のために待つ時間がいらない。手術中や集中治療室で使われるもので、日常の検温には使わないよ。
医学生医学生
麻酔科の実習で、術中にずっと体温の波形が出ていたのを見ました。あれが膀胱温や食道温だったんですね。
ドクタードクター
そうそう。では口腔はどうかな。
医学生医学生
舌の下に入れて口を閉じれば、わりとすぐに閉じた空間になりそうです。腋窩よりは早いでしょうか。
ドクタードクター
その通り。舌下の中央、舌小帯の左右どちらかに感温部を当てて口を閉じれば比較的早く閉鎖腔になるので、実測でおよそ5分だ。ただ、測定前の飲食や喫煙、口呼吸の影響を受けやすいし、意識障害のある人や乳幼児、体温計をかんでしまうおそれのある人には向かない。欧米では一般的だけど、日本ではあまり使われないね。
医学生医学生
鼓膜はどうでしょう。小児科の外来で、耳に当ててピッと一瞬で測っていました。
ドクタードクター
鼓膜温は、鼓膜やその周辺から出ている赤外線を検出して温度に換算する方式だ。熱が平衡になるのを待つ必要がないから、1〜数秒で測れる。選択肢の中では一番短いね。視床下部の温度をよく反映するとされる一方で、耳垢や外耳道への当て方で値がばらつきやすいのが弱点だよ。
医学生医学生
ということは、残った腋窩が一番長い、ということですね。でも、なぜ腋窩はそんなに時間がかかるんでしょう。
ドクタードクター
腋窩は本来、皮膚の表面で外気に触れている場所だからだ。腕を体幹にぴったりつけて、まず閉じた空間を作る。そしてその空間の温度が少しずつ上がって、深部の温度に近いところで安定するまで待たないといけない。だから実測では10分程度かかり、これが正解になる。
医学生医学生
直腸や口腔は「入れればすぐ閉じた空間」なのに、腋窩は「閉じた空間を一から作って温める」必要がある、という違いなんですね。
ドクタードクター
まさにそういうことだ。まとめると、実測での目安は腋窩が約10分、口腔が約5分、直腸が約3分、鼓膜は赤外線で数秒、膀胱は連続モニター。腋窩は外気や汗の影響も受けやすいから、正しく測るには汗を拭き、感温部を腋窩の一番深いところに斜め下から当てて、腕をしっかり閉じて固定することが大切だよ。
医学生医学生
測定値そのものも部位によって違いますよね。腋窩が一番低いと習った気がします。
ドクタードクター
そう。一般に直腸温が最も高く、口腔温はそれより約0.5℃低く、腋窩温はさらに0.2〜0.5℃ほど低い。だから同じ患者さんの経過を見るときは、測定部位をそろえることが大事だ。直腸温や膀胱温は身体の核心温、腋窩温は外殻温に近い性質をもつと考えるとわかりやすい。
医学生医学生
低体温症の患者さんで直腸温や膀胱温を使うのは、核心温を正確に知りたいからですね。
ドクタードクター
その通り。腋窩温は低体温のときには特に当てにならないからね。それから体温の生理的変動も押さえておこう。体温は早朝に最も低く、夕方に最も高くなり、その差は通常1℃以内だ。食事や運動、入浴でも上がるし、女性では排卵後にプロゲステロンの作用で基礎体温が0.3〜0.5℃ほど上がる。発熱かどうかを判断するときには、こうした変動や測定部位、測定方法まで含めて解釈する目を持ってほしい。

まとめ

体温測定に要する時間は、その部位が核心温をどれだけ直接反映するかと、外気から遮断された閉鎖空間になるまでの時間で決まります。直腸や膀胱は初めから閉じた深部の空間なので短時間で平衡に達し(直腸は実測で約3分、膀胱はカテーテルで連続モニター)、口腔は口を閉じればすぐ閉鎖腔となるため約5分、鼓膜は赤外線方式で数秒で測定できます。腋窩は本来体表であり、腕を閉じて空間を作り温度が安定するまで実測で約10分を要し、最も長い時間が必要です。測定値は直腸>口腔>腋窩の順に高く、日内変動は早朝に最低・夕方に最高で差は1℃以内であることも併せて押さえておきましょう。予測式と実測式の違いや部位ごとの特性を理解しておくことは、日々のバイタルサインを正しく解釈し、発熱や低体温を適切に評価する基本となります。

解答・解説

正解はcです

体温測定に要する時間は、測る部位が「身体内部の温度(核心温、深部体温)をどれだけ直接反映するか」と、「測定部位が外気から遮断された閉鎖空間になるまでにどれだけ時間がかかるか」で決まる。

部位ごとの特徴

・直腸・膀胱:身体の深部にあり、はじめから外気の影響をほとんど受けない閉鎖腔である。温度計の感温部がすぐに深部温と平衡に達するため、測定時間は短い(実測式の直腸温でおよそ3分、膀胱温は温度センサー付きカテーテルで連続的にモニターする)。 ・口腔:舌下に体温計を置き口を閉じれば比較的早く閉鎖腔となる。実測式でおよそ5分とされる。 ・腋窩:本来は皮膚表面であり外気に触れている。上腕を体幹に密着させて閉じた空間を作り、その内部の温度が深部の温度に近づいて安定するまでに時間がかかる。実測式では10分程度を要し、最も長い。 ・鼓膜:鼓膜や外耳道から放射される赤外線を検出する方式で、1〜数秒で測定できる。 したがって、最も長い計測時間を要するのは腋窩である。

電子体温計の予測式と実測式

日常臨床で使われる電子体温計の多くは、測定開始から数十秒間の温度上昇のカーブから平衡温を推定する「予測式」であり、腋窩でも短時間で表示される。しかし、正確な値を得るために温度が平衡に達するまで測る「実測式」では、上記のように腋窩で最も長い時間が必要になる。本問はこの実測に要する時間を問うている。

選択肢考察

  1. ×a.  鼓膜

    鼓膜温は、赤外線センサーで鼓膜およびその周辺から放射される赤外線量を検出して温度に換算する方法で測定する。熱の平衡を待つ必要がないため1〜数秒で測定でき、選択肢の中で最も短時間で済む。鼓膜は内頸動脈系の血流を受け、視床下部の温度をよく反映するとされるが、耳垢や外耳道への挿入角度によって値がばらつきやすい点に注意が必要である。

  2. ×b.  口腔

    口腔温は舌下中央部(舌小帯の左右いずれか)に感温部を当て、口を閉じて測定する。口を閉じればすぐに閉鎖腔となるため、実測式で約5分と、腋窩より短い。ただし測定前の飲食・喫煙・口呼吸の影響を受けやすく、意識障害のある患者や乳幼児、体温計をかむおそれのある患者には適さない。

  3. ○c.  腋窩

    腋窩は本来皮膚表面であり、腕を体幹に密着させて閉鎖腔を作り、その内部の温度が上昇して深部の温度に近い値で安定するまでに時間がかかる。そのため実測式で約10分を要し、選択肢の中で最も長い。また外気温や発汗の影響を受けやすく、測定値は口腔温や直腸温より低い。正しく測るには、腋窩の汗を拭き、感温部を腋窩の最も深いところに斜め下から当て、腕を閉じてしっかり固定する。

  4. ×d.  膀胱

    膀胱温は、先端に温度センサーの付いた尿道留置カテーテル(膀胱カテーテル)を用いて測る深部体温である。センサーが常に体腔内にあるため連続的にモニターでき、特に待機して測る時間を必要としない。主に手術中や集中治療室での体温管理に用いられ、日常の体温測定では用いない。

  5. ×e.  直腸

    直腸温は肛門から体温計を挿入して測る深部体温で、外気の影響をほとんど受けない閉鎖腔であるため、実測式でも約3分と短時間で平衡に達する。測定値は口腔温や腋窩温より高く、核心温に近い。挿入の深さは成人で約5〜6cm、小児ではより浅くする。新生児・乳児の体温測定や低体温症の評価などに用いられる。

核心温と外殻温

体温は、身体の深部で比較的一定に保たれる核心温(深部体温)と、皮膚など体表に近く環境温の影響を受けて変動しやすい外殻温とに分けられる。直腸温・膀胱温・食道温・肺動脈血温などは核心温の指標であり、腋窩温は外殻温に近い性質をもつ。口腔温・鼓膜温はその中間的な位置づけで、核心温をある程度反映する。

部位による測定値の違い

一般に直腸温が最も高く、口腔温はそれより約0.5℃低く、腋窩温は口腔温よりさらに0.2〜0.5℃程度低い。したがって、同じ人で比較する際には測定部位をそろえる必要がある。

体温の生理的変動

体温には日内変動があり、早朝(睡眠中から起床前後)に最も低く、夕方に最も高くなる。その差は通常1℃以内である。そのほか、食事・運動・精神的興奮・入浴で上昇し、女性では排卵後に黄体ホルモン(プロゲステロン)の作用で基礎体温が約0.3〜0.5℃上昇する(高温相)。高齢者では体温がやや低めになる傾向がある。

臨床で用いる主な測定法

・腋窩:日本で最も一般的。安全で簡便だが、実測には時間がかかり、外気や発汗の影響を受ける。 ・口腔:欧米で一般的。飲食の影響を受ける。 ・直腸:乳幼児や重症患者、低体温症の評価に用いる。 ・鼓膜:赤外線式で瞬時に測定でき、小児科外来などで用いられる。 ・膀胱・食道・肺動脈:手術中や集中治療で連続的に核心温をモニターする。

POINT

・実測式での測定時間:腋窩 約10分 > 口腔 約5分 > 直腸 約3分。鼓膜(赤外線式)は数秒 ・腋窩は本来体表のため、閉鎖腔として温まるまで時間がかかり、外気や汗の影響も受ける ・測定値の高さ:直腸 > 口腔 > 腋窩 ・膀胱温・食道温は手術中などの核心温モニタリングに用いる ・体温の日内変動は早朝に最低、夕方に最高で、差は1℃以内

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。