StudyMed医師国家試験

その解剖、どの法律で動いている?―死をめぐる手続きと根拠法を一気に整理

第102回医師国家試験 E問題 第34問

国試問題にチャレンジ

第102回 E問題 第34問

正しいのはどれか。

  1. a.異状死の届出は死体解剖保存法に基づく。
  2. b.病理解剖と系統解剖とは行政解剖である。
  3. c.死亡診断書は医師のみが発行できる。
  4. d.司法解剖は刑事訴訟法に基づく。
  5. e.監察医制度は医師法に基づく。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、人の死をめぐる手続き、つまり異状死の届出、死亡診断書、そして各種の解剖が、それぞれどの法律を根拠にしているかを問う問題だ。覚えることが多そうに見えるけど、「誰が・何のために行うのか」という目的から整理すると、すっきりつながるよ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で一通り習ったはずなんですが、医師法と死体解剖保存法がごちゃごちゃになっていて自信がありません。
ドクタードクター
まずはそこからほどいていこう。医師法は医師の資格や業務、義務を定めた法律だ。だから「医師が何をしなければならないか」、たとえば異状死体の届出や死亡診断書の交付に関するルールは医師法に書かれている。一方、死体解剖保存法は、解剖をどんな条件で行ってよいか、死体や標本をどう保存するかを定めた法律なんだ。
医学生医学生
ということは、異状死の届出は医師の義務なので医師法ですね。死体解剖保存法ではない、と。
ドクタードクター
その通り。医師法第21条で、医師が死体または妊娠4か月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署へ届け出ることになっている。ちなみに死体解剖保存法にも、解剖した死体に犯罪と関係する異状を認めたときの届出規定はあるけれど、それは解剖をした者の義務で、一般にいう異状死の届出とは別物だよ。
医学生医学生
次に解剖の種類ですが、病理解剖と系統解剖が行政解剖に含まれる、というのは何となく違う気がします。
ドクタードクター
いい感覚だね。解剖は大きく3系統に分けると整理しやすい。医学・歯学教育のために正常な人体構造を学ぶ系統解剖、病死した患者の病変や死因、治療効果を検討する病理解剖、そして死因究明を主目的とする法医解剖だ。行政解剖は、この法医解剖の一つなんだ。
医学生医学生
系統解剖は2年生の解剖実習でお世話になったご献体ですね。実習の初日に献体された方への黙祷をしたのを覚えています。
ドクタードクター
大切な経験だね。系統解剖は死体解剖保存法と献体法に基づいて行われる。病理解剖も死体解剖保存法に基づき、遺族の承諾を得て行う。どちらも目的が教育や病態解明だから、非犯罪死体の死因究明を目的とする行政解剖とはまったく別のカテゴリーなんだ。
医学生医学生
では法医解剖の中の司法解剖と行政解剖は、どう違うんでしょうか。
ドクタードクター
司法解剖は、殺人など犯罪による死亡が疑われる死体が対象だ。死因や死亡時刻、どんな凶器で傷ついたかなどを明らかにして、捜査や裁判の証拠にする。だから根拠は刑事訴訟法の鑑定に関する規定で、裁判所が発する鑑定処分許可状を得て、通常は大学の法医学教室の医師が鑑定人として実施する。強制処分なので遺族の承諾は要らない。これが今回の正解だね。
医学生医学生
犯罪捜査の手続きの一部だから刑事訴訟法、と考えれば納得です。では行政解剖は?
ドクタードクター
行政解剖は犯罪性のない死体の死因を明らかにするための解剖だ。監察医制度のある地域では、監察医が検案しても死因がわからない場合に、遺族の承諾なしで解剖できる。この監察医制度の根拠は死体解剖保存法第8条なんだ。医師法ではないから注意してね。
医学生医学生
監察医が置かれているのは東京23区と大阪市と……あと横浜、名古屋、神戸でしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。その5地域だ。ただし実際に制度が十分機能している地域は限られている。監察医制度のない地域では、遺族の承諾を得て行う承諾解剖になる。さらに2013年からは死因・身元調査法に基づく新法解剖、いわゆる調査法解剖もできて、警察署長の判断で遺族の承諾なしに行えるようになった。
医学生医学生
残るは死亡診断書です。医師しか書けないと思い込んでいましたが、もしかして歯科医師も書けますか?
ドクタードクター
そう、そこが引っかけだ。歯科医師法にも同様の規定があって、歯科医師は自分が診療していた歯科領域の疾患で亡くなった場合などに死亡診断書を交付できる。一方、診療していない人の死体を検案して作る死体検案書は医師しか交付できない。「医師のみ」というのは死体検案書のほうだね。
医学生医学生
死亡診断書と死体検案書の使い分けも、臨床実習で内科の先生に聞かれて答えられなかったんです。
ドクタードクター
基本は、診療中の患者がその傷病で亡くなったら死亡診断書、診療していなかった人や、診療中の傷病と関係ない原因で亡くなった人、外因死が疑われる場合は死体検案書だ。また、最終診察から24時間以内に診療中の傷病で亡くなった場合は、改めて死後診察をしなくても死亡診断書を交付できる。24時間を超えても、死後に診察して生前の傷病による死亡と判断できれば死亡診断書でいい。「24時間を過ぎたら必ず警察に届け出る」という誤解は根強いから気をつけよう。
医学生医学生
まとめると、医師の義務は医師法、解剖の実施ルールと監察医制度は死体解剖保存法、犯罪捜査のための司法解剖は刑事訴訟法、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。あとは、家族などが死亡届を7日以内に市区町村長へ出すのは戸籍法、というのも押さえておこう。研修医になると、夜間に看取りをして死亡診断書を書く場面は必ず来る。そのとき異状があるかどうかを判断し、必要なら警察に届け出る責任は医師にある。法律の知識は試験のためだけでなく、現場で迷わないための道具なんだ。

まとめ

人の死をめぐる手続きは、目的ごとに根拠法を整理すると理解しやすくなります。異状死体の届出(24時間以内に所轄警察署へ)や死亡診断書・死体検案書の交付は医師の義務として医師法に定められ、死亡診断書は歯科医師も交付できる一方、死体検案書は医師のみが交付できます。解剖は系統解剖・病理解剖・法医解剖に分かれ、系統解剖と病理解剖は死体解剖保存法(系統解剖は献体法も)に基づき、行政解剖とは別物です。法医解剖のうち司法解剖は刑事訴訟法に基づき鑑定処分許可状を得て遺族の承諾なしに行い、行政解剖を担う監察医制度は死体解剖保存法第8条に基づきます。看取りや異状死の判断は研修医になってすぐ直面する場面であり、根拠法の理解は適切な対応の土台となります。

解答・解説

正解はdです

本問は、人の死をめぐる手続き(異状死の届出、死亡診断書・死体検案書の交付、各種の解剖)がそれぞれどの法律を根拠としているかを問う問題である。

解剖の種類と根拠法の整理

解剖は目的によって大きく3つに分けられる。 ・系統解剖:医学・歯学教育のために正常な人体構造を学ぶ解剖。死体解剖保存法と「医学及び歯学の教育のための献体に関する法律(献体法)」に基づく。 ・病理解剖:病死した患者について、病変の広がりや死因、治療効果などを明らかにするための解剖。死体解剖保存法に基づき、遺族の承諾を得て行う。 ・法医解剖:死因の究明を主目的とする解剖で、さらに以下に分かれる。  - 司法解剖:犯罪との関連が疑われる死体が対象。刑事訴訟法に基づき、裁判所が発する鑑定処分許可状を得て行う。  - 行政解剖:犯罪性のない死体の死因を明らかにするための解剖。監察医制度の施行地域では、死体解剖保存法第8条に基づき監察医が遺族の承諾なしに行える。非施行地域では遺族の承諾を得て行う承諾解剖となる。  - 新法解剖(調査法解剖):2013年施行の「警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律(死因・身元調査法)」に基づき、警察署長の判断で、遺族の承諾がなくても行える解剖。

届出・書類の根拠

・異状死体の届出:医師法第21条。医師が死体または妊娠4か月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出る。 ・死亡診断書・死体検案書:医師法第19条・第20条(歯科医師は歯科医師法)で交付義務や無診察交付の禁止が定められている。 これらを照合すると、根拠法を正しく述べているのは「司法解剖は刑事訴訟法に基づく」だけである。

選択肢考察

  1. ×a.  異状死の届出は死体解剖保存法に基づく。

    異状死体の届出義務を定めているのは医師法第21条である。医師は死体または妊娠4か月以上の死産児を検案して異状を認めた場合、24時間以内に所轄警察署へ届け出なければならない。死体解剖保存法は、解剖の実施要件や死体・標本の保存などを定める法律であり、届出義務の根拠ではない。なお同法第11条には、解剖した死体に犯罪と関係する異状を認めた場合の警察署長への届出が規定されているが、これは解剖を行った者の義務であり、一般にいう「異状死の届出」とは別のものである。

  2. ×b.  病理解剖と系統解剖とは行政解剖である。

    行政解剖は法医解剖の一つで、犯罪性のない死体(いわゆる非犯罪死体)の死因を究明するために行われる。監察医制度の施行地域では監察医が行う。一方、病理解剖は病死した患者の病態や死因の検討、系統解剖は医学・歯学教育のための正常解剖であり、目的が異なるため行政解剖には含まれない。解剖は系統解剖・病理解剖・法医解剖(司法解剖・行政解剖など)の3系統に分けて整理するとよい。

  3. ×c.  死亡診断書は医師のみが発行できる。

    死亡診断書は医師のほか歯科医師も交付できる(歯科医師法第19条・第20条)。歯科医師は、自ら診療していた歯科領域の疾患が原因で死亡した場合などに死亡診断書を作成する。これに対し、診療していない者の死体を検案して作成する死体検案書は医師のみが交付できる。「医師のみ」とする記述は誤りである。

  4. ○d.  司法解剖は刑事訴訟法に基づく。

    司法解剖は、殺人など犯罪による死亡が疑われる死体について、死因や死亡時刻、損傷の成傷器などを明らかにし、捜査・裁判の証拠とするために行われる。刑事訴訟法の鑑定に関する規定(第168条、第225条など)に基づき、検察官・警察官などの嘱託を受けた鑑定人(通常は大学の法医学教室の医師)が、裁判所の発する鑑定処分許可状を得て実施する。強制処分であるため遺族の承諾は不要である。

  5. ×e.  監察医制度は医師法に基づく。

    監察医制度の根拠は死体解剖保存法第8条である。政令で定める地域(東京23区、大阪市、横浜市、名古屋市、神戸市)に監察医が置かれ、伝染病・中毒・災害による死亡の疑いがある死体や死因の明らかでない死体について検案を行い、それでも死因が判明しない場合には遺族の承諾がなくても行政解剖を行うことができる。医師法は医師の資格・業務・義務を定める法律であり、監察医制度を規定していない。

死と関連法規の対応表

・異状死体等の届出(24時間以内・所轄警察署):医師法第21条 ・死亡診断書・死体検案書の交付義務、無診察での交付禁止:医師法第19条・第20条(歯科医師については歯科医師法) ・死亡の届出(届出義務者が7日以内に市区町村長へ):戸籍法 ・系統解剖:死体解剖保存法、献体法 ・病理解剖:死体解剖保存法(遺族の承諾が必要) ・司法解剖:刑事訴訟法(鑑定処分許可状、遺族の承諾不要) ・行政解剖(監察医による解剖):死体解剖保存法第8条(遺族の承諾不要) ・承諾解剖(監察医制度のない地域):死体解剖保存法(遺族の承諾が必要) ・新法解剖(調査法解剖):死因・身元調査法(警察署長の判断、遺族の承諾不要)

死亡診断書と死体検案書の使い分け

診療中の患者が、その診療に関連した傷病で死亡した場合は死亡診断書を交付する。一方、診療していなかった者の死亡や、診療中であっても診療していた傷病と関係のない原因で死亡した場合、外因死が疑われる場合などは、死体を検案したうえで死体検案書を交付する。医師法第20条ただし書により、診療中の患者が最終診察後24時間以内に診療中の傷病で死亡した場合は、改めて死後診察をしなくても死亡診断書を交付できる。24時間を超えていても、死後診察を行い生前の傷病による死亡と判断できれば死亡診断書を交付できる。

監察医制度

現在の施行地域は東京23区、大阪市、横浜市、名古屋市、神戸市である。ただし、実際に制度が十分に機能している地域は限られている。

POINT

・異状死の届出:医師法第21条(24時間以内に所轄警察署へ) ・司法解剖:刑事訴訟法に基づき、鑑定処分許可状を得て行う。遺族の承諾は不要 ・行政解剖:死体解剖保存法第8条(監察医制度)に基づく。非犯罪死体の死因究明が目的 ・病理解剖・系統解剖は行政解剖ではない(根拠は死体解剖保存法、系統解剖には献体法も関わる) ・死亡診断書は医師・歯科医師が交付できる。死体検案書は医師のみ

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。