初乳は「守る」、成熟乳は「育てる」―母乳の組成変化を読み解く
第102回医師国家試験 E問題 第16問
国試問題にチャレンジ
母乳について正しいのはどれか。
- a.初乳は混濁した褐色の液体である。
- b.初乳の免疫グロブリン量は成熟乳よりも少ない。
- c.成熟乳は血漿よりも高張である。
- d.成熟乳の糖質は初乳よりも多い。
- e.成熟乳の蛋白量は牛乳よりも多い。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
母乳は時期によって組成が変化し、初乳(産後約5日まで)は分泌型IgA、ラクトフェリン、白血球などの感染防御成分と蛋白質・ミネラルが豊富で、カロテノイドにより黄色を呈します。成熟乳に移行すると蛋白質・ミネラル・免疫物質は減り、乳糖と脂肪が増えてエネルギー源としての性格が強まるため、成熟乳の糖質は初乳より多くなります。乳汁の浸透圧は血漿とほぼ等張に保たれ、成熟乳では減少した電解質の分を乳糖が担っています。成熟乳は牛乳に比べて蛋白質(約3分の1)とミネラルが少なく乳糖が多いため、乳児の未熟な腎臓への負担が小さい一方、ビタミンKが少ないためK2シロップによる補充が必要です。組成の違いを役割と結びつけて理解することは、新生児の栄養管理や母親への授乳指導の基礎となります。
解答・解説
正解はdです
母乳は分娩後の時期によって組成が変化し、分泌開始からおおむね産後5日頃までの乳を初乳、その後の移行期の乳を移行乳、産後10日〜2週間頃以降の組成が安定した乳を成熟乳と呼ぶ。本問は、初乳と成熟乳の違い、および成熟乳と牛乳の違いを問う一般問題である。 考え方の軸は次の2点である。 (1)初乳→成熟乳の変化:初乳は新生児を感染から守る成分(分泌型IgAなどの免疫グロブリン、ラクトフェリン、白血球など)と蛋白質・ミネラルが多く、量は少ない。成熟乳に移行するにつれて蛋白質・ミネラルは減り、エネルギー源となる乳糖(糖質)と脂肪が増えて分泌量も増える。 (2)母乳と牛乳の比較:牛乳は成長の速い子牛向けであるため、蛋白質とミネラルが母乳の約3倍と多く、乳糖は少ない。ヒト乳児の未熟な腎臓には、蛋白質・ミネラルの少ない母乳の方が負担(腎溶質負荷)が小さい。 これに加えて、乳汁の浸透圧は乳腺での分泌の仕組みから血漿とほぼ等しく保たれていることを知っていれば、成熟乳の糖質が初乳より多いという記述のみが正しいと判断できる。
選択肢考察
- ×a. 初乳は混濁した褐色の液体である。
誤り。初乳はやや粘稠で、黄色〜淡黄色の半透明ないし混濁した液体である。黄色みはβ-カロテンなどのカロテノイドを多く含むことによる。褐色ではない。成熟乳になると色は薄くなり、青みを帯びた白色の不透明な液体となる。
- ×b. 初乳の免疫グロブリン量は成熟乳よりも少ない。
誤り。初乳は成熟乳よりも免疫グロブリン、特に分泌型IgAを大量に含む。分泌型IgAは消化酵素で分解されにくく、新生児の腸管粘膜表面で病原体の付着・侵入を防ぐ局所免疫として働く。初乳にはこのほか、鉄と結合して細菌の増殖を抑えるラクトフェリン、細菌の細胞壁を分解するリゾチーム、生きた白血球(マクロファージ、リンパ球など)も豊富である。なお、IgGは主に妊娠中に胎盤を通じて胎児へ移行するもので、母乳による移行の中心はIgAである。
- ×c. 成熟乳は血漿よりも高張である。
誤り。母乳の浸透圧は約290 mOsm/kg前後で、血漿とほぼ等張である。乳腺上皮細胞では水が浸透圧差に従って自由に移動するため、乳汁の浸透圧は血漿と等しく保たれる。成熟乳では電解質(ナトリウム・塩素など)が減る一方で乳糖が増え、この乳糖が浸透圧の主要な担い手となることで等張性が維持されている。
- ○d. 成熟乳の糖質は初乳よりも多い。
正しい。母乳の糖質の大部分は乳糖(ラクトース)である。乳糖は初乳では比較的少なく(100 mLあたり約5〜6 g)、成熟乳では約7 gへと増加する。乳糖は乳児の主要なエネルギー源であるとともに、腸内でビフィズス菌の増殖を助け、カルシウムの吸収を促進する。成熟乳では乳糖とともに脂肪も増加し、エネルギーは約65〜70 kcal/100 mLとなる一方、蛋白質とミネラルは初乳より減少する。
- ×e. 成熟乳の蛋白量は牛乳よりも多い。
誤り。成熟乳の蛋白質は100 mLあたり約1.1 gで、牛乳(約3.3 g)の約3分の1にすぎない。また組成も異なり、牛乳は消化されにくく胃内で大きな凝塊をつくるカゼインが主体であるのに対し、母乳はα-ラクトアルブミンなどの消化しやすい乳清(ホエイ)蛋白の割合が高い。牛乳は蛋白質やミネラルが多すぎて乳児の腎臓への負担が大きく、鉄も少ないため、乳児期(特に1歳未満)には牛乳そのものではなく母乳または育児用ミルクを用いる。
母乳の分類
・初乳:分泌開始から産後約5日まで。量は少ないが、免疫物質・蛋白質・ミネラル・ビタミンAが豊富。胎便の排出を促す緩下作用もある。 ・移行乳:産後約5日〜10日頃。組成が徐々に成熟乳へ変化する。 ・成熟乳:産後約10日〜2週間以降。組成が安定し、分泌量も増える。
組成の比較(100 mLあたりのおおよその値)
・蛋白質:初乳 約2 g前後 > 成熟乳 約1.1 g / 牛乳 約3.3 g ・脂肪:初乳 約3 g < 成熟乳 約3.5 g / 牛乳 約3.8 g(母乳と牛乳はほぼ同程度) ・乳糖:初乳 約5〜6 g < 成熟乳 約7 g / 牛乳 約4.5〜5 g ・ミネラル:初乳 > 成熟乳 / 牛乳は母乳の約3〜4倍 初乳から成熟乳へは「蛋白質・ミネラル・免疫物質が減り、乳糖・脂肪が増える」と覚える。成熟乳と牛乳の比較では「母乳は蛋白質・ミネラルが少なく、乳糖が多く、脂肪はほぼ同じ」となる。
母乳栄養の利点
感染防御(分泌型IgA、ラクトフェリン、リゾチーム、オリゴ糖によるビフィズス菌増殖など)、消化吸収のよさ、腎溶質負荷の小ささ、アレルギーの起こりにくさ、母子の愛着形成、母体の子宮復古の促進(授乳刺激によるオキシトシン分泌)などがある。
母乳栄養の注意点
・ビタミンKが少ないため、新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症の予防としてビタミンK2シロップを投与する。 ・ビタミンDや鉄も不足しやすい。 ・母体のHTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス1型)感染では母乳を介した感染があるため、栄養方法について指導が必要である。HIV感染時は母乳を避ける。
POINT
・初乳は黄色(カロテノイド)で粘稠。分泌型IgA、ラクトフェリン、蛋白質、ミネラルが多い。 ・初乳→成熟乳:蛋白質・ミネラル・免疫物質は減少、乳糖と脂肪は増加。 ・母乳は血漿とほぼ等張(約290 mOsm/kg)。 ・成熟乳は牛乳に比べ、蛋白質とミネラルが少なく(蛋白質は約1/3)、乳糖が多い。脂肪はほぼ同程度。 ・母乳にはビタミンKが少ない→K2シロップで補う。
