泡が残れば肺は育っている―マイクロバブルテストで読む胎児肺の成熟
第102回医師国家試験 E問題 第17問
国試問題にチャレンジ
胎児肺成熟の指標となるのはどれか。
- a.心胸郭比
- b.胎児呼吸様運動
- c.マイクロバブルテスト
- d.アプトテスト〈アルカリ変性試験〉
- e.コントラクションストレステスト
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
胎児肺の成熟度は、Ⅱ型肺胞上皮細胞が産生するサーファクタントが十分にあるかどうかで評価し、羊水中に流出したサーファクタントを調べるマイクロバブルテスト、シェイクテスト、L/S比(2.0以上で成熟が目安)が代表的な指標です。胎児呼吸様運動はBPSの一項目、コントラクションストレステストは胎児胎盤予備能の検査でいずれもwell-beingの評価に用い、心胸郭比は胎児心不全、アプトテストは新生児の吐下血が児由来か母体由来かの鑑別に用います。糖尿病合併妊娠では週数の割に肺成熟が遅れやすく、早産が迫る場合は母体へのステロイド投与でRDSを予防します。産科の検査を「何を評価するためのものか」という目的別に整理しておくことが、類題への対応と周産期管理の理解の両方に役立ちます。
解答・解説
正解はcです
胎児の肺が出生後の呼吸に耐えられるほど成熟しているかどうかは、肺胞表面活性物質(サーファクタント)が十分に産生されているかで決まる。サーファクタントはⅡ型肺胞上皮細胞が分泌するリン脂質(主成分はレシチン=ホスファチジルコリン)とタンパク質の複合体で、肺胞の表面張力を下げて呼気時の肺胞虚脱を防ぐ。産生は妊娠20週台から始まり、おおむね妊娠34週前後で十分量に達する。不足した状態で出生すると、新生児呼吸窮迫症候群(RDS)を発症する。 胎児の肺液は羊水中に流れ出るため、羊水に含まれるサーファクタントの量や機能を調べれば、胎児肺の成熟度を推定できる。したがって本問では、選択肢のなかから「羊水(あるいは新生児の胃液)中のサーファクタントを評価する検査」を選べばよい。 他の選択肢は、胎児心不全の評価、胎児の健康状態(well-being)の評価、出血の由来の鑑別といった、肺成熟とは別の目的の指標・検査である。それぞれが何を評価するためのものかを整理しておくと、同種の問題に対応しやすい。
選択肢考察
- ×a. 心胸郭比
誤り。胎児の心胸郭比(CTR)は、超音波断層像で胸郭に対する心臓の大きさを比べる指標で、心拡大すなわち胎児心不全の評価に用いる。胎児水腫、重症胎児貧血(血液型不適合妊娠など)、双胎間輸血症候群、心奇形などで心拡大をきたすと上昇する。肺の成熟度とは関係しない。
- ×b. 胎児呼吸様運動
誤り。胎児呼吸様運動は、横隔膜や胸郭が周期的に動く現象で、超音波で観察できる。胎児の中枢神経系が低酸素に陥っていないことを示す所見として、胎児well-beingの評価法であるBPS(biophysical profile score)の一項目に含まれる(BPSは他に胎動、筋緊張、羊水量、NST〈ノンストレステスト〉で構成)。呼吸様運動がみられても、サーファクタントが十分とは限らないため肺成熟の指標にはならない。
- ○c. マイクロバブルテスト
正しい。マイクロバブルテスト(stable microbubble test)は、羊水や出生直後の新生児の胃液をピペットで泡立て、一定時間後に顕微鏡で直径の小さい安定した微小気泡の数を数える検査である。サーファクタントが十分にあると表面張力が下がって微小気泡が壊れずに残るため、気泡数が多いほど肺が成熟していると判断し、少ない場合はRDS発症の危険が高いと予測する。同じ原理の検査に、羊水とエタノールを混ぜて振り、泡の安定性をみるシェイクテスト(泡沫安定試験)や、羊水中のレシチン/スフィンゴミエリン比(L/S比、2.0以上で成熟とみなす)の測定がある。
- ×d. アプトテスト〈アルカリ変性試験〉
誤り。アプトテストは、新生児の吐血・下血が児自身の出血か、分娩時や授乳時に飲み込んだ母体血かを区別する検査である。胎児ヘモグロビン(HbF)はアルカリに強く、水酸化ナトリウムを加えても赤色(ピンク色)を保つのに対し、成人ヘモグロビン(HbA)は変性して黄褐色に変わる。赤色のままなら児由来(新生児メレナなど)、褐色化すれば母体血の嚥下(仮性メレナ)と判断する。肺成熟とは無関係である。
- ×e. コントラクションストレステスト
誤り。コントラクションストレステスト(CST)は、オキシトシン投与や乳頭刺激で子宮収縮を起こし、その負荷に対する胎児心拍数の変化をみて胎児胎盤系の予備能を評価する検査である。子宮収縮のたびに遅発一過性徐脈が繰り返し出現すれば陽性で、胎盤機能不全による胎児の低酸素状態(胎児機能不全、NRFS)が疑われる。陰性なら胎児の状態は良好と判断する。NSTで異常が疑われた場合などに行われる胎児well-beingの検査であり、肺の成熟度は評価できない。
胎児肺の成熟とRDS
サーファクタントの産生が不十分な早産児では、肺胞が呼気のたびに虚脱し、生後まもなく多呼吸、呻吟、陥没呼吸、チアノーゼを呈する(新生児呼吸窮迫症候群)。胸部X線ではすりガラス様陰影や気管支透亮像がみられる。在胎週数が短いほど発症しやすく、糖尿病合併妊娠では胎児の高インスリン血症がサーファクタント産生を遅らせるため、週数の割に肺成熟が遅れやすい。
肺成熟を評価・促進する方法
・羊水検査: L/S比、マイクロバブルテスト、シェイクテストなど。いずれも羊水中のサーファクタントの量または機能をみる。 ・出生後: 新生児の胃液でマイクロバブルテストを行い、RDSのリスクを判定し、サーファクタント補充療法の要否の参考にする。 ・出生前: 早産が差し迫っている場合、母体に副腎皮質ステロイド(ベタメタゾンなど)を投与してサーファクタント産生を促し、RDSを予防する。
胎児評価に使われる主な検査の目的別整理
・肺成熟: L/S比、マイクロバブルテスト、シェイクテスト ・胎児well-being: NST、CST、BPS(胎児呼吸様運動を含む)、臍帯動脈などの血流ドプラ ・胎児心不全・胎児水腫: 心胸郭比、胸水・腹水・皮下浮腫の有無 ・出血の由来: アプトテスト
POINT
・胎児肺成熟=サーファクタント(Ⅱ型肺胞上皮細胞が産生)の充足度で評価する。 ・指標は羊水(または新生児胃液)を用いるマイクロバブルテスト、シェイクテスト、L/S比(2.0以上で成熟)。 ・胎児呼吸様運動はBPSの一項目、CSTは胎児胎盤予備能の評価であり、いずれもwell-beingの指標。 ・心胸郭比は胎児心不全、アプトテストは血液が児由来か母体由来かの鑑別に用いる。
