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泡が残れば肺は育っている―マイクロバブルテストで読む胎児肺の成熟

第102回医師国家試験 E問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第102回 E問題 第17問

胎児肺成熟の指標となるのはどれか。

  1. a.心胸郭比
  2. b.胎児呼吸様運動
  3. c.マイクロバブルテスト
  4. d.アプトテスト〈アルカリ変性試験〉
  5. e.コントラクションストレステスト

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、胎児の肺が生まれてすぐの呼吸に耐えられるかどうかを、何で評価するかという問題だ。選択肢には産科でよく使う検査や指標が並んでいるけれど、それぞれ「何を見るための検査か」を整理できているかが問われている。まず、肺が成熟しているというのは、具体的にどういう状態だと思う?
医学生医学生
構造が完成している、ということでしょうか。肺胞の数が十分にあるとか。
ドクタードクター
構造ももちろん大事だけど、出生直後の呼吸で決定的なのはサーファクタント、つまり肺胞表面活性物質が十分に作られているかどうかなんだ。サーファクタントはⅡ型肺胞上皮細胞が分泌するリン脂質とタンパク質の複合体で、主成分はレシチンだよ。
医学生医学生
生理学の講義で、表面張力を下げて肺胞がつぶれるのを防ぐと習いました。Laplaceの式で、小さい肺胞ほどつぶれやすいという話でした。
ドクタードクター
その通り。サーファクタントが足りないと息を吐くたびに肺胞が虚脱してしまう。これが新生児呼吸窮迫症候群、RDSだ。産生は妊娠20週台から始まって、おおむね34週前後で十分量に達する。では、お腹の中の赤ちゃんのサーファクタントをどうやって調べればいいと思う?
医学生医学生
直接肺を調べるわけにはいかないので……羊水ですか?
ドクタードクター
正解。胎児の肺液は羊水中に流れ出ているから、羊水中のサーファクタントの量や働きをみれば肺の成熟度を推定できる。その代表がマイクロバブルテストだ。羊水や出生直後の新生児の胃液をピペットで泡立てて、しばらく置いてから顕微鏡で小さな安定した泡の数を数える。
医学生医学生
サーファクタントが多ければ表面張力が下がるので、小さい泡が壊れずに残る、ということですね。
ドクタードクター
そう。泡が多いほど成熟していて、少なければRDSのリスクが高いと判断する。同じ原理で、羊水とエタノールを混ぜて振るシェイクテストや、羊水中のレシチン/スフィンゴミエリン比、いわゆるL/S比もある。L/S比は2.0以上で成熟とみなすのが目安だよ。
医学生医学生
胎児呼吸様運動も肺に関係しそうなので、少し迷いました。息をする練習をしているなら、肺も育っているのかなと。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。胎児呼吸様運動は横隔膜や胸郭が周期的に動く現象で、中枢神経が低酸素に陥っていないことを示す所見なんだ。BPS、つまりbiophysical profile scoreの一項目で、胎児の元気さ、well-beingをみる指標。動いていても、サーファクタントが十分とは限らない。
医学生医学生
なるほど、「動き」は脳の元気さで、「泡」は肺の化学的な成熟、と分けて考えるんですね。コントラクションストレステストも同じくwell-being側でしょうか。
ドクタードクター
そうだね。CSTはオキシトシンや乳頭刺激で子宮収縮を起こして、そのストレスに胎児心拍がどう反応するかをみる。収縮のたびに遅発一過性徐脈が繰り返せば陽性で、胎盤機能不全による低酸素が疑われる。胎児胎盤系の予備能をみる検査で、肺成熟とは関係ない。
医学生医学生
心胸郭比は、胸の中で心臓が占める割合ですよね。肺が小さいと比が大きくなるから、肺の発育に関係しそうな気もします。
ドクタードクター
発想は面白いけれど、胎児の心胸郭比は主に心拡大、つまり胎児心不全の評価に使う。胎児水腫や血液型不適合妊娠による重症貧血、双胎間輸血症候群、心奇形などで上昇する。サーファクタントの量は反映しないんだ。
医学生医学生
アプトテストは小児科の実習で聞きました。新生児が吐いた血が、本人の血か、お母さんの血を飲み込んだものかを見分ける検査ですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。胎児ヘモグロビンはアルカリに強いから、水酸化ナトリウムを加えても赤いまま。成人ヘモグロビンは変性して黄褐色になる。赤いままなら児の出血で新生児メレナを考え、褐色になれば母体血の嚥下による仮性メレナだ。これも肺成熟とは無関係だね。
医学生医学生
選択肢を「肺成熟」「well-being」「心不全」「出血の由来」と目的別に分けると、すっきり整理できました。
ドクタードクター
それが一番大事な整理法だよ。最後に臨床での発展知識を押さえておこう。糖尿病合併妊娠では、胎児の高インスリン血症がサーファクタントの産生を遅らせるから、週数の割に肺が未熟なことがある。体が大きくても肺は未熟かもしれない、という点は要注意だ。
医学生医学生
早産になりそうなとき、お母さんにステロイドを打つのも肺成熟のためでしたよね。
ドクタードクター
その通り。早産が差し迫っているときは、母体にベタメタゾンなどの副腎皮質ステロイドを投与してサーファクタント産生を促し、RDSを予防する。生まれた後は胃液のマイクロバブルテストでリスクを見積もり、サーファクタント補充療法の判断材料にすることもある。評価と予防、治療がひと続きになっていると理解しておこう。

まとめ

胎児肺の成熟度は、Ⅱ型肺胞上皮細胞が産生するサーファクタントが十分にあるかどうかで評価し、羊水中に流出したサーファクタントを調べるマイクロバブルテスト、シェイクテスト、L/S比(2.0以上で成熟が目安)が代表的な指標です。胎児呼吸様運動はBPSの一項目、コントラクションストレステストは胎児胎盤予備能の検査でいずれもwell-beingの評価に用い、心胸郭比は胎児心不全、アプトテストは新生児の吐下血が児由来か母体由来かの鑑別に用います。糖尿病合併妊娠では週数の割に肺成熟が遅れやすく、早産が迫る場合は母体へのステロイド投与でRDSを予防します。産科の検査を「何を評価するためのものか」という目的別に整理しておくことが、類題への対応と周産期管理の理解の両方に役立ちます。

解答・解説

正解はcです

胎児の肺が出生後の呼吸に耐えられるほど成熟しているかどうかは、肺胞表面活性物質(サーファクタント)が十分に産生されているかで決まる。サーファクタントはⅡ型肺胞上皮細胞が分泌するリン脂質(主成分はレシチン=ホスファチジルコリン)とタンパク質の複合体で、肺胞の表面張力を下げて呼気時の肺胞虚脱を防ぐ。産生は妊娠20週台から始まり、おおむね妊娠34週前後で十分量に達する。不足した状態で出生すると、新生児呼吸窮迫症候群(RDS)を発症する。 胎児の肺液は羊水中に流れ出るため、羊水に含まれるサーファクタントの量や機能を調べれば、胎児肺の成熟度を推定できる。したがって本問では、選択肢のなかから「羊水(あるいは新生児の胃液)中のサーファクタントを評価する検査」を選べばよい。 他の選択肢は、胎児心不全の評価、胎児の健康状態(well-being)の評価、出血の由来の鑑別といった、肺成熟とは別の目的の指標・検査である。それぞれが何を評価するためのものかを整理しておくと、同種の問題に対応しやすい。

選択肢考察

  1. ×a.  心胸郭比

    誤り。胎児の心胸郭比(CTR)は、超音波断層像で胸郭に対する心臓の大きさを比べる指標で、心拡大すなわち胎児心不全の評価に用いる。胎児水腫、重症胎児貧血(血液型不適合妊娠など)、双胎間輸血症候群、心奇形などで心拡大をきたすと上昇する。肺の成熟度とは関係しない。

  2. ×b.  胎児呼吸様運動

    誤り。胎児呼吸様運動は、横隔膜や胸郭が周期的に動く現象で、超音波で観察できる。胎児の中枢神経系が低酸素に陥っていないことを示す所見として、胎児well-beingの評価法であるBPS(biophysical profile score)の一項目に含まれる(BPSは他に胎動、筋緊張、羊水量、NST〈ノンストレステスト〉で構成)。呼吸様運動がみられても、サーファクタントが十分とは限らないため肺成熟の指標にはならない。

  3. ○c.  マイクロバブルテスト

    正しい。マイクロバブルテスト(stable microbubble test)は、羊水や出生直後の新生児の胃液をピペットで泡立て、一定時間後に顕微鏡で直径の小さい安定した微小気泡の数を数える検査である。サーファクタントが十分にあると表面張力が下がって微小気泡が壊れずに残るため、気泡数が多いほど肺が成熟していると判断し、少ない場合はRDS発症の危険が高いと予測する。同じ原理の検査に、羊水とエタノールを混ぜて振り、泡の安定性をみるシェイクテスト(泡沫安定試験)や、羊水中のレシチン/スフィンゴミエリン比(L/S比、2.0以上で成熟とみなす)の測定がある。

  4. ×d.  アプトテスト〈アルカリ変性試験〉

    誤り。アプトテストは、新生児の吐血・下血が児自身の出血か、分娩時や授乳時に飲み込んだ母体血かを区別する検査である。胎児ヘモグロビン(HbF)はアルカリに強く、水酸化ナトリウムを加えても赤色(ピンク色)を保つのに対し、成人ヘモグロビン(HbA)は変性して黄褐色に変わる。赤色のままなら児由来(新生児メレナなど)、褐色化すれば母体血の嚥下(仮性メレナ)と判断する。肺成熟とは無関係である。

  5. ×e.  コントラクションストレステスト

    誤り。コントラクションストレステスト(CST)は、オキシトシン投与や乳頭刺激で子宮収縮を起こし、その負荷に対する胎児心拍数の変化をみて胎児胎盤系の予備能を評価する検査である。子宮収縮のたびに遅発一過性徐脈が繰り返し出現すれば陽性で、胎盤機能不全による胎児の低酸素状態(胎児機能不全、NRFS)が疑われる。陰性なら胎児の状態は良好と判断する。NSTで異常が疑われた場合などに行われる胎児well-beingの検査であり、肺の成熟度は評価できない。

胎児肺の成熟とRDS

サーファクタントの産生が不十分な早産児では、肺胞が呼気のたびに虚脱し、生後まもなく多呼吸、呻吟、陥没呼吸、チアノーゼを呈する(新生児呼吸窮迫症候群)。胸部X線ではすりガラス様陰影や気管支透亮像がみられる。在胎週数が短いほど発症しやすく、糖尿病合併妊娠では胎児の高インスリン血症がサーファクタント産生を遅らせるため、週数の割に肺成熟が遅れやすい。

肺成熟を評価・促進する方法

・羊水検査: L/S比、マイクロバブルテスト、シェイクテストなど。いずれも羊水中のサーファクタントの量または機能をみる。 ・出生後: 新生児の胃液でマイクロバブルテストを行い、RDSのリスクを判定し、サーファクタント補充療法の要否の参考にする。 ・出生前: 早産が差し迫っている場合、母体に副腎皮質ステロイド(ベタメタゾンなど)を投与してサーファクタント産生を促し、RDSを予防する。

胎児評価に使われる主な検査の目的別整理

・肺成熟: L/S比、マイクロバブルテスト、シェイクテスト ・胎児well-being: NST、CST、BPS(胎児呼吸様運動を含む)、臍帯動脈などの血流ドプラ ・胎児心不全・胎児水腫: 心胸郭比、胸水・腹水・皮下浮腫の有無 ・出血の由来: アプトテスト

POINT

・胎児肺成熟=サーファクタント(Ⅱ型肺胞上皮細胞が産生)の充足度で評価する。 ・指標は羊水(または新生児胃液)を用いるマイクロバブルテスト、シェイクテスト、L/S比(2.0以上で成熟)。 ・胎児呼吸様運動はBPSの一項目、CSTは胎児胎盤予備能の評価であり、いずれもwell-beingの指標。 ・心胸郭比は胎児心不全、アプトテストは血液が児由来か母体由来かの鑑別に用いる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。