StudyMed医師国家試験

産業医はどの法律から生まれた?―「予防」の法律で整理する労働衛生の三本柱

第102回医師国家試験 B問題 第13問

国試問題にチャレンジ

第102回 B問題 第13問

産業医が規定されているのはどれか。

  1. a.医師法
  2. b.医療法
  3. c.労働基準法
  4. d.労働安全衛生法
  5. e.労働者災害補償保険法

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、産業医の設置を定めている法律を問う問題だ。選択肢には医療系の法律と労働系の法律が並んでいるけれど、それぞれの法律が「何のためにあるのか」を押さえれば迷わずに解ける。まず、産業医がどんな仕事をする医師か説明できるかな。
医学生医学生
会社で働く人の健康診断や健康相談をする医師、というイメージです。社会医学の実習で企業の健康管理室を見学したときに、産業医の先生が職場を巡回していました。
ドクタードクター
いい経験をしているね。産業医は事業場で働く労働者の健康管理を、医学的な立場から担う医師だ。キーワードは「職場での健康障害を予防し、健康を保持増進する」こと。では、医師に関する法律だから医師法に書かれている、と考えるのはどうだろう。
医学生医学生
正直、最初は医師法かと思いました。医師の仕事なので。
ドクタードクター
そう考える人は多いよ。でも医師法は医師の身分と業務に関する法律で、国家試験と免許、臨床研修、応召義務や診断書交付義務、無診察治療の禁止、診療録の5年間保存といった医師全般の義務を定めている。特定の職場での健康管理体制までは扱っていないんだ。
医学生医学生
医療法も違いますか。病院の人員基準なども決めている法律ですよね。
ドクタードクター
その通りで、医療法は病院・診療所・助産所の定義や開設、人員や構造設備の基準、医療計画、医療安全などを定める、医療提供体制の法律だ。こちらも職場の健康管理は対象外だね。ここからが本題で、労働系の3つの法律をどう区別するかが勝負になる。
医学生医学生
労働基準法は、労働時間や賃金、休日なんかを決めている法律でしたよね。
ドクタードクター
そう、労働条件の最低基準を定める法律だ。実はかつては職場の安全衛生もこの法律の中で扱われていて、医師である衛生管理者の選任が求められていた。これが産業医制度の前身にあたる。ところが1972年に、安全衛生に関する部分が独立・拡充されて新しい法律ができた。
医学生医学生
それが労働安全衛生法ですね。だから産業医はそちらに移ったと。
ドクタードクター
正解。労働安全衛生法は職場における労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進することを目的としていて、「産業医」という名称はこの法律で初めて法的に明記された。第13条で、一定規模の事業場ごとに事業者が産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせることが定められている。
医学生医学生
労災保険法も、労働者の健康に関わる法律なので紛らわしいです。
ドクタードクター
労働者災害補償保険法は、業務上の事由や通勤による負傷・疾病・障害・死亡に対して、療養給付や休業給付などの保険給付を行う制度の法律だ。つまり災害が「起きた後の補償」を扱う。労働基準法は労働条件の最低基準、労働安全衛生法は災害の「予防」と健康確保、労災保険法は「事後の補償」と役割分担を整理しておくといい。
医学生医学生
予防の仕組みの中に産業医がいる、と考えれば覚えやすいですね。選任の基準も試験に出そうです。
ドクタードクター
よく出るよ。常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任義務があり、常時1,000人以上、または一定の有害業務に常時500人以上を従事させる事業場では専属の産業医が必要になる。3,000人を超えると2人以上だ。50人未満でも医師等に健康管理を行わせるよう努めるものとされ、地域産業保健センターなどの支援を利用できる。
医学生医学生
産業医には医師免許があれば誰でもなれるんですか。
ドクタードクター
医師であることに加えて、厚生労働大臣が定める研修の修了や、労働衛生コンサルタント試験の合格など、一定の要件を満たす必要がある。主な職務は健康診断とその結果に基づく就業上の意見、長時間労働者への面接指導、ストレスチェックと高ストレス者への面接指導、原則月1回以上の作業場巡視、衛生委員会への参加などだ。必要なら事業者に勧告もでき、事業者はそれを尊重しなければならない。
医学生医学生
臨床医として働いていても、患者さんの職場復帰のときに産業医の先生と連携することがありそうですね。
ドクタードクター
まさにそこが臨床での大事なポイントだ。主治医の診断書だけでは、実際の業務内容に合わせた就業上の配慮までは判断しにくい。産業医は職場の作業環境や業務を知る立場から、復職の可否や配慮事項を事業者に意見する。労働衛生の基本は作業環境管理・作業管理・健康管理の3管理で、これに総括管理と労働衛生教育を加えて5管理ともいう。産業医はこの全体に関わる存在なんだ。
医学生医学生
法律名だけを覚えるのではなく、予防か補償かという目的で区別すれば、関連問題にも応用できそうです。

まとめ

産業医の根拠法は労働安全衛生法であり、第13条で一定規模の事業場における産業医の選任義務が定められています。労働安全衛生法は1972年に労働基準法から安全衛生の部分が独立・拡充されて制定された法律で、労働基準法=労働条件の最低基準、労働安全衛生法=労働災害の予防と健康の確保、労災保険法=災害後の補償、と目的で区別すると混同しません。医師法は医師の資格と義務、医療法は医療提供体制を定める法律で、職場の健康管理体制は扱いません。産業医は常時50人以上の事業場で選任が義務づけられ、1,000人以上(有害業務は500人以上)で専属、3,000人超で2人以上が必要となり、健康診断後の就業上の意見、長時間労働者やストレスチェック後の面接指導、作業場巡視などを担います。復職支援などで主治医と産業医が連携する場面は多く、制度の枠組みを理解することは臨床医にとっても実践的な意義があります。

解答・解説

正解はdです

産業医の設置を定めている法律を問う問題である。 産業医は、事業場で働く労働者の健康管理を医学的な立場から担う医師である。労働安全衛生法第13条は「事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、医師のうちから産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせなければならない」という趣旨を定めており、これが産業医の直接の根拠規定である。 労働関係の法律はそれぞれ役割が異なる。労働基準法は労働条件の最低基準、労働安全衛生法は職場における労働者の安全と健康の確保(労働災害の予防)、労働者災害補償保険法は労働災害が起きた後の補償を扱う。産業医は「職場での健康障害を予防し、健康を保持増進する」仕組みの一部であるため、労働安全衛生法に位置づけられている、と考えると迷わない。医師法・医療法は医師の資格や医療提供体制に関する法律であり、職場の健康管理体制を定めるものではない。

選択肢考察

  1. ×a.  医師法

    医師法は1948年に制定された、医師の身分と業務に関する法律である。医師国家試験と免許、臨床研修、応召義務・診断書交付義務・無診察治療の禁止・診療録の記載と保存(5年間)などの医師の義務を定めている。産業医の選任や職務については規定していない。

  2. ×b.  医療法

    医療法は1948年に制定された、医療を受ける者の保護と良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を目的とする法律である。病院・診療所・助産所の定義や開設、人員・構造設備の基準、医療計画、医療安全、医療法人などを定めている。産業医は規定していない。

  3. ×c.  労働基準法

    労働基準法は1947年に制定された、賃金、労働時間、休憩・休日、年次有給休暇、年少者・妊産婦の保護など、労働条件の最低基準を定める法律である。かつては職場の安全衛生も労働基準法の中で扱われ、その下で医師である衛生管理者の選任が求められていたことが、産業医制度の前身にあたる。しかし1972年に安全衛生に関する部分が労働安全衛生法として独立し、産業医はそこで規定された。現在、産業医の根拠法は労働基準法ではない。

  4. ○d.  労働安全衛生法

    労働安全衛生法は1972年に労働基準法から安全衛生の部分を分離・拡充して制定された法律で、職場における労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。「産業医」という名称はこの法律で初めて法的に明記され、第13条に選任義務が定められている。常時50人以上の労働者を使用する事業場では産業医の選任が義務づけられ、常時1,000人以上(一定の有害業務では500人以上)の事業場では専属の産業医が必要となる。同法は産業医のほか、衛生管理者、衛生委員会、健康診断、長時間労働者への面接指導、ストレスチェックなども定めている。

  5. ×e.  労働者災害補償保険法

    労働者災害補償保険法(労災保険法)は1947年に制定された、業務上の事由または通勤による労働者の負傷・疾病・障害・死亡などに対して、療養給付や休業給付、障害給付、遺族給付などの保険給付を行う制度を定めた法律である。労働災害が起きた後の補償を扱う法律であり、産業医の選任は規定していない。

産業医制度の概要(労働安全衛生法・同施行令・労働安全衛生規則)

・選任義務:常時50人以上の労働者を使用する事業場。選任すべき事由が発生してから14日以内に選任し、所轄の労働基準監督署長に報告する。 ・専属産業医:常時1,000人以上、または一定の有害業務に常時500人以上を従事させる事業場。 ・複数選任:常時3,000人を超える事業場では2人以上。 ・50人未満の事業場:選任義務はないが、医師等に健康管理を行わせるよう努めるものとされ、地域産業保健センターなどの支援を利用できる。

産業医の要件

医師であることに加え、厚生労働大臣が定める研修の修了者、労働衛生コンサルタント試験(保健衛生区分)の合格者、大学で労働衛生に関する科目を担当する教授・准教授・講師(常勤)の経験者など、労働者の健康管理に必要な医学知識について一定の要件を満たす必要がある。

産業医の主な職務

・健康診断の実施とその結果に基づく措置(就業上の意見) ・長時間労働者に対する面接指導 ・ストレスチェックの実施と高ストレス者への面接指導 ・作業環境・作業の管理、健康教育、健康相談 ・原則月1回以上の作業場巡視(一定の情報提供を受ける場合は2か月に1回以上) ・衛生委員会への参加 ・必要に応じた事業者への勧告(事業者はこれを尊重し、衛生委員会に報告する義務がある)

労働衛生の3管理

作業環境管理、作業管理、健康管理の3つが基本であり、これに総括管理と労働衛生教育を加えて5管理ということもある。

POINT

・産業医の根拠法は労働安全衛生法(第13条)である。 ・労働安全衛生法は1972年に労働基準法から分かれて制定された。 ・常時50人以上で産業医の選任義務、1,000人以上(有害業務は500人以上)で専属、3,000人超で2人以上。 ・労働基準法=労働条件の最低基準、労働安全衛生法=安全と健康の確保、労災保険法=災害後の補償、と役割を区別する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。