顔のざらざらした赤い斑は「日光の置き土産」―日光角化症を確実に取り除く治療とは
第102回医師国家試験 A問題 第34問
国試問題にチャレンジ
71歳の男性。数年前に出現した顔面の紅色皮疹が拡大してきたことを主訴に来院した。顔面の写真(A)と同部の病理組織H-E染色標本(B)とを別に示す。 治療法として適切なのはどれか。2つ選べ。

- a.切除
- b.凍結療法
- c.温熱療法
- d.放射線治療
- e.紫外線療法
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
高齢者の顔面・手背・禿頭部などの露光部に、ざらざらした紅色〜褐色の角化性局面が緩徐に拡大し、病理で表皮内に限局する異型角化細胞の増殖を認めれば日光角化症と診断します。日光角化症は長期の紫外線曝露による表皮内癌で、放置すると有棘細胞癌へ進展しうるため、外科的切除や液体窒素による凍結療法で確実に除去するのが基本で、多発例ではイミキモドや5-FUの外用も用いられます。紫外線は原因そのものなので紫外線療法は誤りで、遮光が予防となり、放射線治療は浸潤癌向けで第一選択にならず、温熱療法は用いられません。非露光部にも生じ表皮全層に異型細胞をみるBowen病との違いや、急速な増大・硬結・潰瘍化といった浸潤癌化のサインも押さえておきましょう。露光部の治りにくい紅斑を腫瘍として疑う視点は、高齢化が進む日常診療で皮膚癌を早期に発見するための大切な力です。
解答・解説
正解はa, bです
所見の整理
・71歳男性。高齢者の顔面(日光に長期間さらされる露光部)に生じた紅色皮疹である。 ・数年かけて徐々に拡大しており、急性の炎症性疾患よりも緩徐に進行する腫瘍性病変を考えるべき経過である。 ・顔面の写真(A)では、頬部に指頭大ほどの境界がおおむね明瞭な紅色局面があり、一部に褐色調を混じ、表面には鱗屑・角化による粗糙(ざらざら)な変化がみられる。 ・病理組織(B)では、表皮内に大小不同で核異型を示す細胞(異型角化細胞)が増殖しているが、異型細胞は表皮内にとどまり、真皮への浸潤はみられない。
診断へのプロセス
高齢者の顔面にみられる紅色病変としては、湿疹・皮膚炎群(脂漏性皮膚炎、接触皮膚炎)と、腫瘍性病変(日光角化症、Bowen病、有棘細胞癌、基底細胞癌など)が鑑別に挙がる。脂漏性皮膚炎は前額・眉間・鼻唇溝など脂漏部位に左右対称に出現し、接触皮膚炎はかゆみを伴い、丘疹・小水疱を混じる紅斑として比較的急性に生じるため、いずれも「数年かけて単発性に拡大する角化性紅斑」には合わない。病理で表皮内に限局する異型角化細胞の増殖(表皮内癌)が確認され、露光部である顔面に生じた高齢者の角化性紅斑であることと合わせ、日光角化症(老人性角化症)と診断する。
設問の考え方
日光角化症は長年の紫外線曝露によって生じる表皮内癌(上皮内癌)で、放置すると一部が浸潤性の有棘細胞癌へ進展する。治療の目的は異型細胞を確実に除去することであり、外科的切除と、液体窒素による凍結療法が代表的な治療法となる。原因である紫外線を当てる治療や、発癌リスクのある放射線を良性に近い早期病変に第一選択として用いることは適切でない。
選択肢考察
- ○a. 切除
外科的切除は病変を確実に取り除けるうえ、切除標本を病理学的に検索して、表皮内にとどまっているか(真皮浸潤を伴う有棘細胞癌へ進展していないか)や断端に腫瘍が残っていないかを確認できる。このため日光角化症の標準的な治療であり、特に単発の病変や、浸潤癌との鑑別が必要な病変で第一選択となる。
- ○b. 凍結療法
液体窒素(約−196℃)を綿球やスプレーで病変部に当て、凍結と融解を繰り返して異型細胞を壊死させる治療である。病変が表皮内にとどまる日光角化症では高い有効性があり、外来で簡便に行え、多発病変や手術を希望しない・手術が難しい高齢者にも適している。ただし組織を採取できないため、浸潤の有無を確認できない点に注意が必要で、診断が不確かな場合は生検を先に行う。
- ×c. 温熱療法
温熱療法は、腫瘍組織を加温して放射線や抗癌薬の効果を高める目的で一部の悪性腫瘍に併用される治療であり、日光角化症の治療として用いられることはない。皮膚科領域では、スポロトリコーシスなど温度感受性の真菌症に対する局所温熱療法が知られているが、本症とは無関係である。
- ×d. 放射線治療
放射線治療は、手術が困難な有棘細胞癌や基底細胞癌などの浸潤癌に対して用いられることがある治療である。放射線自体に発癌作用や晩期の皮膚障害(放射線皮膚炎など)があるうえ、表皮内にとどまる日光角化症は切除や凍結療法、外用療法で十分に治療できるため、適切な治療法とはいえない。
- ×e. 紫外線療法
日光角化症は長年の紫外線(主にUVB)曝露による表皮角化細胞のDNA損傷が原因で生じる。紫外線を照射すれば病変の悪化や新たな病変の発生を招くため、治療としては誤りであり、むしろ日焼け止めなどによる遮光が予防として重要である。紫外線療法は乾癬、アトピー性皮膚炎、尋常性白斑、菌状息肉症などに用いられる治療法である。
日光角化症(老人性角化症)の概要
・長期の紫外線曝露によって生じる表皮内の有棘細胞癌(上皮内癌)であり、前癌病変として扱われることもある。 ・高齢者、色白の人、屋外作業者に多い。顔面(頬、額、鼻)、頭部(特に禿頭部)、手背、耳介など露光部に好発する。 ・臨床像:数mm〜数cmの紅色〜褐色の角化性局面で、表面に鱗屑や痂皮を付着し、ざらざらした触感がある。皮角(角状に突出した角質塊)を呈することもある。 ・病理:表皮下層を中心とする異型角化細胞の増殖、錯角化、真皮の日光弾力線維症(光線による膠原線維・弾性線維の変性)を認める。毛包・汗管の開口部周囲は異型を免れることが多い(錯角化と正角化が交互にみられる)。 ・経過:一部(年あたりの頻度は低いが、長期的には一定の割合)が浸潤性の有棘細胞癌に進展する。病変の急速な増大、硬結、潰瘍化は浸潤癌化を示唆する。
治療
・外科的切除:確実で病理学的評価ができる。 ・凍結療法(液体窒素):簡便で多発例にも使いやすい。 ・外用療法:イミキモド(免疫賦活作用をもつ外用薬で、日本でも日光角化症に適応がある)、5-フルオロウラシル(5-FU)軟膏など。広い範囲に多発する病変に有用である。 ・光線力学的療法(PDT):光感受性物質を塗布したのち可視光を照射して異型細胞を破壊する方法で、海外では広く用いられている。 ・予防:遮光(日焼け止め、帽子など)。
鑑別すべき表皮内癌・皮膚腫瘍
・Bowen病:体幹・四肢など非露光部にも生じる境界明瞭な紅褐色局面。病理で表皮全層に異型細胞がみられ、clumping cell(異常角化細胞の集塊)を認める。ヒ素曝露やヒトパピローマウイルスとの関連がある。 ・有棘細胞癌:異型角化細胞が真皮へ浸潤する。日光角化症やBowen病、熱傷瘢痕などから発生する。 ・基底細胞癌:顔面正中部に好発する黒色の結節で、真珠様光沢を示す。 ・脂漏性角化症:高齢者の良性腫瘍で、褐色〜黒色の貼り付けたような隆起性病変。
POINT
・高齢者の露光部(顔面・手背・禿頭部)の角化性紅色〜褐色局面が緩徐に拡大→日光角化症を考える。 ・病理:表皮内に限局する異型角化細胞の増殖(表皮内癌)、真皮の日光弾力線維症。 ・放置すると有棘細胞癌へ進展しうる。 ・治療:外科的切除、液体窒素による凍結療法が基本。そのほかイミキモド外用、5-FU軟膏など。 ・紫外線は原因であるため、紫外線療法は誤り。遮光が予防になる。
