感冒薬のあとに眼と口が荒れたら―見逃してはいけないStevens-Johnson症候群
第102回医師国家試験 A問題 第33問
国試問題にチャレンジ
70歳の女性。口腔内びらんと皮疹とを主訴に来院した。5日前に頭痛と咽頭痛とが生じたため,感冒薬を内服した。3日前から発熱,関節痛,結膜充血,口腔内びらんに加えて,顔面,体幹および四肢に紅色皮疹が出現した。背部の写真(A)と顔面の写真(B)とを別に示す。 考えられるのはどれか。

- a.Sweet病
- b.結節性紅斑
- c.膿疱性乾癬
- d.尋常性天疱瘡
- e.Stevens-Johnson症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
薬剤内服後に急性発症した発熱、眼(結膜充血)と口(口唇・口腔びらん)の重い粘膜病変、全身の多形紅斑様の皮疹がそろえば、Stevens-Johnson症候群を疑います。原因は総合感冒薬・解熱鎮痛薬、抗菌薬、抗てんかん薬、アロプリノールなどの薬剤が多く、表皮剝離が体表面積の10%未満ならSJS、10%以上ならTENと区別し、両者は連続した重症薬疹と考えられています。Sweet病は有痛性浮腫性紅斑と好中球増加、結節性紅斑は下腿の圧痛性皮下結節、膿疱性乾癬は紅斑上の無菌性膿疱、尋常性天疱瘡は弛緩性水疱と慢性経過が特徴で、粘膜症状・全身症状・皮疹の形・誘因で整理すると鑑別できます。治療は被疑薬の中止、全身管理、ステロイド全身投与を中心に免疫グロブリン大量静注療法や血漿交換療法を併用し、眼の後遺症を防ぐため早期の眼科連携が欠かせません。ありふれた薬でも起こる重症薬疹を早く見抜く力は、どの診療科でも求められる基本です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・70歳女性。頭痛・咽頭痛(上気道炎様の症状)に対して感冒薬を内服した。 ・内服の約2日後から、発熱、関節痛という全身症状が出現した。 ・同時に結膜充血、口腔内びらんという粘膜症状が出現した。 ・顔面・体幹・四肢と広範囲に紅色皮疹が出現した。 ・背部の写真(A)では、中心部が暗赤色で周囲に紅暈を伴う、標的(ターゲット)状ないし不整形の紅斑が多発・散在している。顔面の写真(B)では口唇にびらん・血痂がみられる。
診断へのプロセス
① 薬剤内服後、数日以内に皮疹が出現しており、薬疹をまず考える。ただし先行する上気道炎(ウイルス感染やマイコプラズマ感染)も多形紅斑型の皮疹の誘因となるため、薬剤と感染の双方が引き金となりうる。 ② 皮疹は多形紅斑(標的状の紅斑)であり、しかも全身に広がっている。 ③ 口唇・口腔、眼(結膜)といった複数の皮膚粘膜移行部に重い粘膜病変がある。 ④ 発熱などの全身症状を伴う。 以上の「発熱+皮膚粘膜移行部の重い粘膜障害+全身の多形紅斑様皮疹」という組み合わせは、重症薬疹の一つであるStevens-Johnson症候群(SJS)に典型的である。
設問の考え方
鑑別では「粘膜症状(特に眼と口の両方)があるか」「全身症状があるか」「皮疹の形態(標的状紅斑か、結節か、膿疱か、水疱か)」「誘因(薬剤)」に着目すると整理しやすい。発熱を伴う皮膚疾患は多いが、眼と口の粘膜障害を同時に伴い、薬剤内服後に急性発症している点がSJSを最も強く示唆する。
選択肢考察
- ×a. Sweet病
Sweet病(急性熱性好中球性皮膚症)は、発熱と末梢血好中球増加を伴い、顔面・頸部・上肢などに有痛性で境界明瞭な隆起性の浮腫性紅斑(局面)が出現する疾患である。上気道感染が先行することが多く、骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病などの血液疾患に合併することもある。発熱がある点は本例と共通するが、結膜や口腔の強い粘膜障害は通常伴わず、皮疹も標的状の多形紅斑ではない。病理では真皮への好中球浸潤が特徴で、副腎皮質ステロイドやヨウ化カリウムが奏効する。
- ×b. 結節性紅斑
結節性紅斑は皮下脂肪組織の炎症(隔壁性脂肪織炎)により、主に下腿伸側に圧痛を伴う紅色の皮下結節が生じる疾患である。溶連菌などの感染、薬剤、サルコイドーシス、炎症性腸疾患、Behçet病などが原因となる。発熱や関節痛を伴いうるが、病変の主座は下腿で、顔面・体幹へ全身性に広がることは少ない。結膜充血や口腔内びらんといった粘膜症状も伴わないため、本例には合わない。
- ×c. 膿疱性乾癬
膿疱性乾癬(汎発型)は、発熱・全身倦怠感とともに全身の潮紅(紅斑)上に無菌性の小膿疱が多発・融合する(膿海)疾患である。発熱と全身の紅斑という点は本例と重なるが、特徴である膿疱が記載されておらず、写真でも標的状の紅斑が主体である。また、結膜充血や口腔内びらんといった皮膚粘膜移行部の障害は本症の典型像ではない(舌に地図状舌様の変化を伴うことはある)。
- ×d. 尋常性天疱瘡
尋常性天疱瘡は、表皮細胞間の接着分子であるデスモグレイン3(しばしばデスモグレイン1も)に対する自己抗体により表皮内水疱が生じる自己免疫性水疱症である。口腔粘膜の難治性びらんで初発することが多く、粘膜病変の点では本例と共通する。しかし皮膚病変は正常皮膚や紅斑上に生じる弛緩性水疱とびらんが主体で、Nikolsky現象が陽性となる。経過は慢性(数週〜数か月)であり、感冒薬内服後に発熱・結膜充血・全身の標的状紅斑が急速に出現する本例の経過とは合わない。
- ○e. Stevens-Johnson症候群
Stevens-Johnson症候群(SJS)は、発熱などの全身症状を伴い、口唇・口腔、眼、外陰部などの皮膚粘膜移行部に重篤な粘膜病変(びらん・出血)が生じ、皮膚には紅斑・水疱・びらんが多発する重症の皮膚粘膜障害である。原因の多くは薬剤(解熱鎮痛薬・総合感冒薬、抗菌薬、抗てんかん薬、アロプリノールなど)で、一部はマイコプラズマやウイルス感染による。本例は感冒薬内服後の急性発症、38℃程度の発熱と関節痛、結膜充血と口腔内びらん(眼と口の両方の粘膜病変)、全身の多形紅斑様の皮疹をそろえており、SJSに合致する。
SJSとTEN(中毒性表皮壊死症)
SJSとTENは表皮細胞の広範な壊死(細胞傷害性T細胞などによる)を本態とする一連の重症薬疹と考えられている。表皮の剝離・びらんが体表面積の10%未満のものをSJS、10%以上のものをTENとするのが日本の診断基準の目安である(国際的には10〜30%を重複型とする分類もある)。SJSからTENへ進展することがあるため、早期診断が重要である。
日本の診断基準(2016年)におけるSJSの主要所見
① 皮膚粘膜移行部(眼、口唇、外陰部など)の広範囲で重篤な粘膜病変(出血・血痂を伴うびらん等) ② 皮膚の汎発性の紅斑に伴って表皮の壊死性障害に基づくびらん・水疱があり、面積は体表面積の10%未満 ③ 発熱 ④ 病理組織学的に表皮の壊死性変化 (①〜③の3項目すべてを満たせばSJSと診断できる。)
多形紅斑との関係
かつてSJSは多形滲出性紅斑の重症型(多形紅斑重症型)と位置づけられていた。現在では、単純ヘルペスなどを誘因とし、典型的標的状病変が四肢に分布して粘膜症状が軽い多形紅斑(重症型を含む)と、薬剤を主因とし、非典型的な標的状紅斑や紫斑状紅斑が体幹中心に広がり、表皮壊死が本態であるSJSとは、別の疾患として扱う考え方が一般的である。ただし国試レベルでは「発熱+眼・口の粘膜病変+全身の多形紅斑様皮疹=SJS」と覚えてよい。
治療と合併症
・被疑薬をただちに中止する。 ・全身管理(補液、栄養、感染対策、皮膚・粘膜のケア)。 ・副腎皮質ステロイドの全身投与(パルス療法を含む)が治療の中心で、効果不十分なら免疫グロブリン大量静注療法や血漿交換療法を併用する。 ・眼病変は失明、ドライアイ、瞼球癒着などの後遺症を残しうるため、眼科による早期からの局所治療が不可欠である。 ・死亡率はSJSで数%、TENでは20〜30%程度とされる。
鑑別すべき疾患
・ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS):乳幼児に多く、表皮剝脱の部位が浅い(顆粒層レベル)、粘膜病変を欠く。 ・薬剤性過敏症症候群(DIHS):抗てんかん薬などの内服2〜6週後に発症、ヒトヘルペスウイルス6の再活性化、リンパ節腫脹、肝障害、好酸球増多。
POINT
・薬剤内服後の発熱+眼(結膜充血)と口(口腔・口唇びらん)の粘膜病変+全身の紅斑・水疱・びらん→Stevens-Johnson症候群を疑う。 ・表皮剝離が体表面積の10%未満ならSJS、10%以上ならTEN。 ・原因薬剤:解熱鎮痛薬・感冒薬、抗菌薬、抗てんかん薬、アロプリノールなど。 ・治療は被疑薬の中止、ステロイド全身投与(パルス療法)、免疫グロブリン大量静注療法、血漿交換療法。眼科的管理が後遺症予防に重要。 ・鑑別:Sweet病(有痛性浮腫性紅斑・好中球増加)、結節性紅斑(下腿の圧痛性皮下結節)、膿疱性乾癬(紅斑上の無菌性膿疱)、尋常性天疱瘡(弛緩性水疱・Nikolsky現象・慢性経過)。
