StudyMed医師国家試験

腋窩のざらつく黒ずみは内臓からのサイン―黒色表皮腫と2つの基礎疾患

第102回医師国家試験 A問題 第35問

国試問題にチャレンジ

第102回 A問題 第35問

54歳の男性。腋窩と頸部との皮膚のざらつきと痒みとを主訴に来院した。腋窩部の写真(A)と腋窩部皮疹の病理組織H-E染色標本(B)とを別に示す。  基礎疾患として考えられるのはどれか。2つ選べ。

第102回 A問題 第35問の問題画像
  1. a.肝硬変
  2. b.糖尿病
  3. c.悪性腫瘍
  4. d.悪性貧血
  5. e.Basedow病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、皮膚の病変から全身の病気を読み解く問題だ。まず写真と病理から皮疹の正体を決め、次に「その皮疹の背景に何が隠れているか」を考える二段構えになっている。腋窩や頸部という部位、色、表面の性状に注目してみよう。
医学生医学生
腋窩と頸部は皮膚どうしがこすれる間擦部ですよね。痒みもあるので、最初は湿疹かカンジダ症かと思いました。
ドクタードクター
間擦部の痒い皮疹なら、まずそれらを思い浮かべるのは自然だね。ただ写真をよく見ると、赤くただれているのではなく、黒褐色の色素沈着の上に細かい乳頭状の凹凸が並び、ビロードのようにざらついた局面になっている。湿疹なら掻破による苔癬化、カンジダ症なら紅斑と衛星病変、脂漏性皮膚炎なら黄色調の鱗屑が主体で、この「黒くてざらざら」という見た目とは違うんだ。
医学生医学生
病理実習で、表皮が波打つように突出している標本を見たことがあります。H-E染色のほうもそんな感じでしょうか。
ドクタードクター
その通り。角質が厚くなる過角化と、真皮乳頭が上に伸びて表皮が波状に盛り上がる乳頭腫症がみられる。間擦部に左右対称に出る黒褐色のビロード状局面と、この病理像を合わせると黒色表皮腫と診断できる。ちなみに黒く見えるのは、メラニンが大量に増えているというより、厚くなった角質によるところが大きいんだ。
医学生医学生
黒色表皮腫といえば、デルマドロームの代表として講義で習いました。内臓の病気が皮膚に現れるもの、ですよね。
ドクタードクター
そう、だから診断したら終わりではなく、背景疾患を探しに行く必要がある。覚えておきたい基礎疾患は大きく2つ。1つはインスリン抵抗性を伴う病態、もう1つは内臓悪性腫瘍だ。選択肢でいえば糖尿病と悪性腫瘍が正解になる。
医学生医学生
糖尿病で皮膚が厚くなるのは、少し意外です。どういう仕組みなんですか。
ドクタードクター
インスリン抵抗性があると、血糖を下げようとして血中インスリンが高い状態が続く。過剰なインスリンが角化細胞や線維芽細胞のIGF-1受容体を刺激して増殖を促し、表皮の肥厚や乳頭腫症が起こると考えられている。実は頻度として最も多いのは、肥満や2型糖尿病に伴うタイプで、減量や代謝の改善で皮疹が軽くなることもあるんだ。
医学生医学生
では悪性腫瘍のほうは、腫瘍そのものが皮膚に転移しているわけではないんですね。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。転移ではなく、腫瘍が産生するTGF-αなどの増殖因子が表皮を増殖させると考えられている。合併する腫瘍で最も多いのは胃癌で、膵癌や大腸癌など腹部の腺癌、肺癌などでもみられる。中高年で急に出現・拡大し、痒みが強く、口腔粘膜や手掌に及ぶものは悪性型を強く疑う。今回も54歳で痒みを伴うから、悪性腫瘍の検索は欠かせない。
医学生医学生
肝硬変も皮膚の色素沈着や痒みが出るので、迷いそうです。
ドクタードクター
確かに肝硬変では全身の色素沈着や瘙痒、黄疸、クモ状血管腫、手掌紅斑などがみられる。でも間擦部に限局した疣状・乳頭腫状の局面をつくるわけではなく、黒色表皮腫の基礎疾患としては一般的でないんだ。
医学生医学生
悪性貧血は萎縮性胃炎から胃癌のリスクになると習ったので、間接的に関係しそうな気もしました。
ドクタードクター
鋭いひっかけへの気づきだね。ただ、悪性貧血そのものが黒色表皮腫を起こすわけではない。皮膚・粘膜所見としてはHunter舌炎や若年性白髪、尋常性白斑の合併が知られている。Basedow病も同様で、前脛骨粘液水腫や発汗過多の湿った皮膚、びまん性脱毛が特徴であり、黒色表皮腫の原因とはされていない。
医学生医学生
つまり、皮疹を黒色表皮腫と見抜いたら、インスリン抵抗性と内臓悪性腫瘍の2本立てで全身を調べる、ということですね。
ドクタードクター
その通り。臨床では、肥満のある若年者なら代謝面の評価が中心になるけれど、中高年で急に広がってきた例では上部消化管内視鏡をはじめとした癌の検索を優先して考える。皮疹が腫瘍の発見に先行することもあるから、皮膚科医が癌を見つけるきっかけになるケースもあるんだ。
医学生医学生
臨床実習の皮膚科で、Leser-Trélat徴候も内臓悪性腫瘍のサインだと教わりました。
ドクタードクター
いい関連づけだね。脂漏性角化症が短期間に多発・増大するLeser-Trélat徴候も胃癌などを示唆し、黒色表皮腫と合併することもある。ほかにも成人の皮膚筋炎や手掌の皺が深くビロード状に肥厚するtripe palmsなど、悪性腫瘍を疑わせる皮膚所見はまとめて覚えておくと、診察の視野がぐっと広がるよ。

まとめ

腋窩や頸部などの間擦部に左右対称性に生じる、黒褐色でビロード状にざらつく局面は黒色表皮腫を示し、病理では過角化と乳頭腫症がみられます。黒色表皮腫は代表的なデルマドロームであり、基礎疾患として肥満・2型糖尿病などのインスリン抵抗性と、胃癌を代表とする内臓悪性腫瘍の2つを必ず検索します。前者は高インスリン血症によるIGF-1受容体刺激、後者は腫瘍由来のTGF-αなどが表皮増殖を促すと考えられ、中高年で急速に拡大し瘙痒の強い例では悪性型を強く疑います。肝硬変、悪性貧血、Basedow病にもそれぞれ特徴的な皮膚所見がありますが、黒色表皮腫の基礎疾患とはされません。皮膚所見から全身疾患を推測する視点は、癌の早期発見にもつながる重要な臨床能力です。

解答・解説

正解はb, cです

所見の整理

・54歳男性。腋窩と頸部という間擦部(皮膚どうしがこすれ合う部位)に、皮膚のざらつきと痒みがある。 ・腋窩部の写真(A)では、黒褐色の色素沈着を伴い、表面が細かい乳頭状・疣状に隆起してざらざらした(ビロード状の)局面がみられる。 ・病理組織(B)では、角質の肥厚(過角化)と、真皮乳頭が上方へ伸びて表皮が波打つように突出する乳頭腫症がみられる。

診断へのプロセス

中高年の腋窩・頸部に生じる痒みを伴う病変としては、黒色表皮腫、脂漏性皮膚炎、慢性湿疹(苔癬化)、家族性良性慢性天疱瘡(Hailey-Hailey病)、間擦疹、皮膚カンジダ症などが鑑別に挙がる。脂漏性皮膚炎は黄色調の鱗屑を伴う紅斑、慢性湿疹は掻破による苔癬化局面、Hailey-Hailey病は紅斑上の小水疱・びらん・亀裂が主体であり、いずれも「黒褐色で表面が粗糙な疣状局面」とは異なる。間擦部に対称性に生じる黒褐色のビロード状局面と、角質肥厚・乳頭腫症という病理所見の組み合わせから、黒色表皮腫と診断する。

設問の考え方

黒色表皮腫は代表的なデルマドローム(内臓疾患を反映して現れる皮膚病変)であり、診断した際には背景にある全身疾患を検索しなければならない。重要な基礎疾患は、①インスリン抵抗性を伴う病態(肥満、2型糖尿病など)と、②内臓悪性腫瘍(特に胃癌などの腹部腺癌)の2つである。本例は54歳という中高年で痒みを伴っており、悪性腫瘍に伴う悪性型の可能性を念頭に置く必要がある一方、頻度としては肥満・糖尿病に伴うものが最も多い。

選択肢考察

  1. ×a.  肝硬変

    肝硬変に伴う皮膚所見としては、黄疸、クモ状血管腫、手掌紅斑、女性化乳房、腹壁静脈怒張(メデューサの頭)、全身の色素沈着、皮膚瘙痒などが知られる。瘙痒や色素沈着はみられうるが、間擦部に限局する疣状・乳頭腫状の局面(黒色表皮腫)の基礎疾患としては一般的でない。

  2. ○b.  糖尿病

    黒色表皮腫の最も多い原因は、肥満や2型糖尿病などインスリン抵抗性を伴う病態である。インスリン抵抗性があると血中インスリン濃度が高くなり、過剰なインスリンが角化細胞や線維芽細胞のインスリン様成長因子1(IGF-1)受容体を刺激して増殖を促すことで、表皮の肥厚や乳頭腫症が生じると考えられている。インスリン受容体異常症などの遺伝的なインスリン抵抗性症候群でも生じる。肥満・糖尿病の改善により皮疹が軽快することがある。

  3. ○c.  悪性腫瘍

    中高年で急速に出現・拡大する黒色表皮腫(悪性型)は、内臓悪性腫瘍を合併することが多い。最も多いのは胃癌で、そのほか膵癌、大腸癌、肝癌などの腹部腺癌、肺癌などでもみられる。腫瘍が産生するトランスフォーミング成長因子α(TGF-α)などの増殖因子が表皮の増殖を促すと考えられている。皮疹は瘙痒が強く、広範囲に及び、口腔粘膜や手掌(tripe palms:手掌の皺が深く、ビロード状に肥厚する所見)に病変を伴うことがある。皮疹が腫瘍に先行して出現することもあるため、本症をみたら消化管を中心に悪性腫瘍の検索が必要である。

  4. ×d.  悪性貧血

    悪性貧血はビタミンB12の吸収障害(内因子や胃壁細胞に対する自己抗体による)による巨赤芽球性貧血である。皮膚・粘膜所見としてはHunter舌炎(舌乳頭の萎縮による平滑で赤い舌)、若年性白髪、尋常性白斑(自己免疫機序の合併)などが知られるが、黒色表皮腫の基礎疾患とはならない。なお悪性貧血は萎縮性胃炎を背景に胃癌の危険因子となるが、黒色表皮腫と直接結び付く疾患ではない。

  5. ×e.  Basedow病

    Basedow病(甲状腺機能亢進症)に伴う皮膚所見としては、前脛骨粘液水腫(下腿前面の限局性の浮腫性肥厚)、発汗過多による湿潤で温かい皮膚、びまん性脱毛、尋常性白斑などがある。色素沈着がみられることもあるが、間擦部の疣状局面である黒色表皮腫の基礎疾患とはされない。

黒色表皮腫の概要

・腋窩、頸部(特に後頸部)、鼠径部、外陰部、肘窩、臍周囲などの間擦部に、左右対称性に生じる黒褐色の色素沈着と、表面が細かく隆起してビロード状〜疣状にざらつく局面を特徴とする。 ・病理:過角化、乳頭腫症(表皮の波状突出)、軽度の表皮肥厚、基底層の軽度の色素増加。臨床的な黒色調は、メラニンの著明な増加というより角質の肥厚によるところが大きい。

病型分類(古典的な分類)

・悪性型:中高年に多い。内臓悪性腫瘍(胃癌が最多)に合併し、急速に進行し、瘙痒が強く、粘膜や手掌・足底にも病変が及ぶことがある。 ・良性型(遺伝性):小児期〜思春期に発症する。遺伝性のものや、内分泌疾患に伴うもの。 ・仮性型:肥満者に多く、最も頻度が高い。インスリン抵抗性を背景とし、減量で改善しうる。 (そのほか、内分泌疾患に伴うもの:2型糖尿病、インスリン受容体異常症、多嚢胞性卵巣症候群、Cushing症候群、先端巨大症など。薬剤性:ニコチン酸、全身性ステロイド、インスリン注射部位など。)

悪性腫瘍に関連するデルマドローム

・Leser-Trélat徴候:脂漏性角化症が短期間に多発・増大するもので、内臓悪性腫瘍(特に胃癌)を示唆する。黒色表皮腫と合併することもある。 ・皮膚筋炎:成人例で内臓悪性腫瘍の合併が多い。 ・匐行性迂回状紅斑(erythema gyratum repens):肺癌などに伴う木目状の紅斑。 ・Trousseau症候群:悪性腫瘍に伴う遊走性血栓性静脈炎。 ・腫瘍随伴性天疱瘡:リンパ増殖性疾患に伴う重篤な粘膜病変。

糖尿病に関連する皮膚病変

黒色表皮腫のほか、糖尿病性リポイド類壊死症、糖尿病性水疱、糖尿病性浮腫性硬化症、皮膚感染症(カンジダ症、白癬など)、糖尿病性壊疽などがある。

POINT

・中高年の腋窩・頸部など間擦部に左右対称性の黒褐色でビロード状・疣状にざらつく局面→黒色表皮腫。 ・病理:過角化+乳頭腫症。 ・黒色表皮腫はデルマドロームであり、基礎疾患としてインスリン抵抗性(肥満・糖尿病)と内臓悪性腫瘍(特に胃癌)を検索する。 ・悪性型は中高年で急速に進行し、瘙痒が強く、粘膜や手掌(tripe palms)にも病変が及びうる。Leser-Trélat徴候の合併にも注意。 ・頻度が最も高いのは肥満に伴う仮性型。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。