羊水が失われた15週間―破水が胎児の肺と手足に残す「羊水過少シークエンス」
第102回医師国家試験 A問題 第21問
国試問題にチャレンジ
36歳の初産婦。妊娠20週時に自然破水して入院した。子宮収縮抑制薬の投与を行い,羊水流出が持続しながら妊娠35週まで妊娠が継続している。 出生後に児に出現する可能性が高いのはどれか。2つ選べ。
- a.胸水
- b.腹水
- c.呼吸障害
- d.関節拘縮
- e.排尿障害
対話形式の解説
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ドクターまとめ
妊娠中期の前期破水で羊水流出が続くと、長期間の羊水過少となり、胎児に羊水過少シークエンスが生じます。羊水は胎児の呼吸様運動を通じて肺の発育を促し、子宮内で四肢を動かす空間を確保しているため、その喪失は肺低形成による出生後の呼吸障害と、子宮壁からの圧迫による関節拘縮・内反足・Potter顔貌をもたらします。これは両側腎無形成によるPotter症候群と同じ機序ですが、破水が原因の場合は胎児の腎・尿路は正常で排尿障害は生じず、胸水・腹水は胎児水腫など別の病態の所見です。予後を最も左右するのは肺低形成であり、管状期を含む妊娠中期から羊水過少が長く続くほど重症化しやすくなります。羊水の役割から胎児への影響を逆算する考え方は、前期破水の管理や新生児の出生時対応を理解する土台になります。
解答・解説
正解はc, dです
所見の整理
・36歳の初産婦が妊娠20週で自然に破水している。陣痛発来前の破水(前期破水)が妊娠37週未満で起きたものであり、preterm PROM(preterm premature rupture of membranes)にあたる。とくに妊娠20週前後という胎児がまだ母体外で生存できない時期の破水は、previable PROM(生育限界前の前期破水)とも呼ばれる。 ・子宮収縮抑制薬で妊娠を延長し、羊水が流れ出し続けた状態で妊娠35週まで経過している。つまり、妊娠中期から約15週間にわたり羊水過少が続いたと考えられる。
考え方
設問は「出生後の児に起こりやすいもの」を問うているが、実質的には「妊娠中期からの長期間の羊水過少が胎児に何をもたらすか」を問う問題である。 羊水は胎児にとって、(1) 胎児が呼吸様運動で肺内に羊水を出し入れし、肺胞の発育を促す、(2) 子宮壁と胎児の間のクッションとなり、胎児が自由に四肢を動かせる空間を確保する、という役割を持つ。羊水が長期間失われると、 ・肺の発育が障害されて肺低形成となり、出生後に呼吸障害をきたす ・胎児が子宮壁から持続的に圧迫され、手足を動かせないため関節拘縮や四肢の変形、扁平な顔貌などを生じる という変化が起こる。これは両側腎無形成による高度羊水過少で生じるPotter症候群(Potter sequence)と同じ機序であり、原因が腎であるか破水であるかを問わず「羊水過少シークエンス(oligohydramnios sequence)」としてまとめられる。 一方、本例の羊水過少の原因は破水による羊水の漏出であり、胎児の腎・尿路には異常がない。したがって胎児尿の産生や排泄の障害を示唆する所見はなく、胸水・腹水のような胎児水腫の所見とも結びつかない。以上から、呼吸障害と関節拘縮を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 胸水
胎児・新生児の胸水は、免疫性胎児水腫(血液型不適合による溶血性貧血)や非免疫性胎児水腫(心奇形・不整脈、染色体異常、感染症など)、乳び胸、横隔膜ヘルニアや肺リンパ管拡張症などに伴って出現する。いずれも体液の貯留や胸管・リンパ管の異常によるもので、前期破水による羊水過少とは機序が結びつかない。
- ×b. 腹水
胎児・新生児の腹水は、胎児水腫(免疫性・非免疫性)、乳び腹水、低蛋白血症、心不全、胎便性腹膜炎、尿路閉塞に伴う尿性腹水、染色体異常など多様な原因で生じる。羊水の漏出による羊水過少そのものが腹水を引き起こすことはなく、本例で出生後に予想される所見ではない。
- ○c. 呼吸障害
胎児の肺は、胎児が羊水を肺内に取り込み、呼吸様運動を繰り返すことで気道や肺胞が内側から広げられ発育する。妊娠16〜26週ごろは細気管支や肺胞のもとになる構造が作られる時期(管状期)で、この時期に羊水が失われると肺の発育が大きく妨げられる。さらに羊水過少では胸郭も子宮壁から圧迫される。妊娠20週から長期にわたり羊水過少が続いた本例では肺低形成が強く疑われ、出生直後から呼吸障害を起こす可能性が高い。重症の肺低形成は、持続性肺高血圧症や気胸を伴いやすく、致死的となることもある。
- ○d. 関節拘縮
羊水が乏しいと子宮内の空間が狭くなり、胎児は子宮壁に直接押しつけられた状態が続く。胎児は四肢を自由に動かせず、関節が一定の肢位に固定されるため、出生時に関節拘縮や内反足などの四肢の変形がみられる。同じ圧迫により、鼻が低く耳介が低位で扁平な顔貌(Potter顔貌)を呈することもある。また、破水後に羊膜と胎児が癒着し、羊膜索(羊水索)による四肢の絞扼や切断が起こることもある。
- ×e. 排尿障害
両側腎無形成(Potter症候群)、多嚢胞性異形成腎、後部尿道弁や尿道閉鎖、prune belly症候群などでは、胎児尿の産生や排泄が障害されるために羊水過少が生じる。つまりこれらでは排尿の異常が原因で、羊水過少は結果である。本例の羊水過少は破水による羊水の流出が原因であり、胎児の腎機能・尿路は正常と考えられるため、出生後の排尿障害は予想されない。なお、排尿障害(神経因性膀胱)は二分脊椎などでもみられる。
羊水の産生と吸収
妊娠中期以降、羊水の主な供給源は胎児尿であり、ほかに胎児肺からの肺胞液も加わる。一方、胎児の嚥下や胎盤表面の膜を介した吸収によって羊水は減少する。この産生と吸収のバランスが崩れると、羊水量の異常が生じる。
羊水過少の評価
超音波で羊水量を評価する。AFI(amniotic fluid index:子宮を4分割して各区画の最大羊水深度を合計したもの)が5cm以下、または羊水ポケット(最大垂直深度)が2cm未満の場合に羊水過少と判断することが多い。
羊水過少の主な原因
・胎児尿の減少・排泄障害:両側腎無形成(Potter症候群)、多嚢胞性異形成腎、尿道閉鎖・後部尿道弁、prune belly症候群など ・羊水の漏出:前期破水 ・胎盤機能不全による胎児腎血流の低下:妊娠高血圧症候群、胎児発育不全(FGR)、過期妊娠など ・薬剤:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)など ・その他:双胎間輸血症候群の供血児、胎児染色体異常など
羊水過少シークエンス(Potter sequence)
妊娠中期からの高度な羊水過少によって、次の変化が連鎖的に生じる。 ・肺低形成:出生後の呼吸不全の原因となり、予後を最も左右する ・胎児圧迫による変形:関節拘縮、内反足、Potter顔貌(両眼間開離、低い鼻、低位耳介、小顎、眼の下の皺など) 肺低形成の出生前評価には、胸囲/腹囲比、肺胸郭断面積比(LTR)などの超音波指標が用いられる。
肺の発生段階
胎芽期(妊娠4〜7週ごろ)、偽腺様期(〜17週ごろ)、管状期(16〜26週ごろ)、終末嚢期(24〜38週ごろ)、肺胞期(36週ごろ〜出生後)と進む。管状期以前に羊水過少が始まり、その期間が長いほど肺低形成は高度となる。
前期破水(PROM)の管理
陣痛発来前の破水を前期破水といい、妊娠37週未満のものをpreterm PROMと呼ぶ。絨毛膜羊膜炎、臍帯圧迫・臍帯脱出、常位胎盤早期剝離などのリスクがあり、妊娠週数に応じて妊娠継続の是非を判断する。妊娠継続を図る場合は、抗菌薬投与、胎児肺成熟を目的とした母体へのステロイド投与(妊娠34週未満)、子宮収縮抑制などを行う。
POINT
・前期破水で羊水流出が続く=羊水過少と読み替える。 ・妊娠中期からの長期の羊水過少では「肺低形成による呼吸障害」と「胎児圧迫による関節拘縮・四肢変形・Potter顔貌」が生じる(羊水過少シークエンス)。 ・破水による羊水過少では胎児の腎・尿路は正常であり、排尿障害は生じない。腎・尿路の異常は羊水過少の「原因」側である。 ・胸水・腹水は胎児水腫など別の病態でみられる所見である。
