StudyMed医師国家試験

鼻の炎症は口を閉ざさない―病態から読み解く慢性副鼻腔炎の症状

第102回医師国家試験 A問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第102回 A問題 第18問

慢性副鼻腔炎でみられないのはどれか。

  1. a.鼻閉
  2. b.後鼻漏
  3. c.頭重感
  4. d.嗅覚障害
  5. e.開口障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は慢性副鼻腔炎で「みられない」症状を選ぶ問題だ。症状を丸暗記するより、副鼻腔で何が起きているかという病態から一つずつ説明できるかを考えると、自然に答えが見えてくるよ。
医学生医学生
慢性副鼻腔炎は、昔でいう蓄膿症ですよね。鼻づまりと膿っぽい鼻水のイメージです。
ドクタードクター
そうだね。まず構造から確認しよう。副鼻腔は上顎洞、篩骨洞、前頭洞、蝶形骨洞の4つで、鼻腔のまわりの骨の中にある空洞だ。それぞれ自然口という小さな開口部で鼻腔とつながっていて、ここから換気と分泌物の排泄が行われている。
医学生医学生
解剖実習で頭蓋骨を割ったとき、上顎洞が思ったより大きくて驚きました。あれだけの空洞が小さな穴でしかつながっていないんですね。
ドクタードクター
そこがポイントなんだ。感冒などの急性炎症をきっかけに自然口のあたりが腫れて狭くなると、換気も排泄も滞って分泌物がたまり、それがまた炎症を長引かせる。この悪循環でおおむね3か月以上炎症が続くのが慢性副鼻腔炎だ。粘膜の腫れ、鼻茸、粘液や膿の貯留が起こる。では、そこからどんな症状が出ると思う?
医学生医学生
粘膜が腫れて鼻茸までできれば、鼻腔の通り道が狭くなるので鼻閉が起こります。
ドクタードクター
正解。鼻閉は最も頻度の高い症状の一つだ。分泌物が増えればどうなるかな。
医学生医学生
前に流れれば鼻漏ですが、後ろに流れるのが後鼻漏ですね。でも、後鼻漏って患者さん自身は気づくものなんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。副鼻腔の分泌物は線毛運動で鼻腔の後方へ運ばれて、咽頭へ流れ落ちる。患者さんは「のどに痰がからむ」と訴えることが多いし、横になると咳が出るという慢性咳嗽の原因にもなる。だから、咳で内科を受診して実は副鼻腔炎だった、ということもあるんだ。
医学生医学生
呼吸器内科を回ったとき、遷延性咳嗽の鑑別に副鼻腔気管支症候群が挙がっていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにつながっているね。次は嗅覚障害だ。においの分子は鼻腔の上方にある嗅裂を通って嗅粘膜に届く。腫れた粘膜や分泌物、鼻茸がそこを塞げば、においが届かなくなる。これが気導性の嗅覚障害で、炎症が長引くと嗅粘膜そのものも障害される。
医学生医学生
頭重感はどうでしょう。副鼻腔炎で頭が痛くなるのは、急性のときだけのような気がしていました。
ドクタードクター
急性ほど強い痛みではないけれど、慢性でも洞内の圧変化や炎症の波及で、頭が重い、締め付けられる感じ、額や頬、眼の奥の鈍い痛みをよく訴える。だから頭重感も本症でみられる症状だ。
医学生医学生
そうなると、残る開口障害だけは鼻の炎症からは説明がつきませんね。
ドクタードクター
その通り。開口障害は口を開けにくい状態で、咀嚼筋が強く収縮したまま緩まないとき、咀嚼筋や翼突筋の周囲に炎症が及んだとき、あるいは顎関節そのものの障害で起こる。慢性副鼻腔炎の炎症は鼻と副鼻腔にとどまり、咀嚼筋には及ばないから、開口障害はみられない。これが正解だ。
医学生医学生
開口障害というと、破傷風の牙関緊急がまず浮かびます。感染症の講義で初発症状として強調されていました。
ドクタードクター
大事な知識だね。ほかに扁桃周囲膿瘍、智歯周囲炎、下顎骨骨髄炎、顎関節症なども代表的だ。耳鼻咽喉科の救急では、強い咽頭痛に開口障害を伴っていたら扁桃周囲膿瘍を考える、というのは定番の流れだよ。
医学生医学生
症状を「閉塞」と「分泌物の増加・貯留」で整理すれば、慢性副鼻腔炎の症状は全部説明できる、ということですね。
ドクタードクター
そう、病態から症状を組み立てられれば、見慣れない選択肢が出ても迷わない。最後に臨床の話もしておこう。診断は鼻内視鏡で中鼻道の膿性分泌物や鼻茸を確認し、CTで副鼻腔の陰影と病変の広がりを評価する。治療は鼻処置やネブライザー、そしてマクロライド系抗菌薬の少量長期投与が特徴的で、これは殺菌よりも炎症を抑える作用を期待した使い方だ。改善しなければ内視鏡下鼻副鼻腔手術を考える。
医学生医学生
マクロライドを少量で長く使うのは、抗菌薬としては珍しい使い方ですね。好酸球性副鼻腔炎という病名も聞いたことがあります。
ドクタードクター
好酸球性副鼻腔炎は近年増えている重要なタイプだ。篩骨洞優位の両側性病変、多発する鼻茸、早期から目立つ嗅覚障害、気管支喘息やアスピリン喘息の合併、末梢血の好酸球増多が特徴で、手術後も再発しやすく指定難病になっている。ステロイドが効き、難治例には生物学的製剤も使われる。喘息の患者さんが「においがわからない」と言ったら、この病気を思い出してほしい。

まとめ

慢性副鼻腔炎は、自然口の狭窄による換気・排泄障害から副鼻腔粘膜の炎症がおおむね3か月以上続く疾患で、症状は「粘膜腫脹・鼻茸による閉塞」と「分泌物の増加・貯留」から説明できます。具体的には鼻閉、鼻漏・後鼻漏(慢性咳嗽の原因にもなる)、嗅裂の閉塞による嗅覚障害、洞内の圧変化や炎症による頭重感・顔面の鈍痛がみられます。一方、開口障害は咀嚼筋の持続収縮や翼突筋周囲への炎症波及、顎関節障害で生じるもので、破傷風や扁桃周囲膿瘍、智歯周囲炎などを想起すべき症状であり、慢性副鼻腔炎ではみられません。治療はマクロライド少量長期投与や内視鏡下鼻副鼻腔手術が中心で、喘息合併・多発鼻茸・嗅覚障害が目立つ場合は再発しやすい好酸球性副鼻腔炎を考えます。症状を病態から組み立てる習慣は、初見の選択肢にも対応できる応用力の土台になります。

解答・解説

正解はeです

本問は慢性副鼻腔炎の症状として当てはまらないものを選ぶ問題である。

考え方

副鼻腔(上顎洞・篩骨洞・前頭洞・蝶形骨洞)は鼻腔の周囲にある骨の中の空洞で、小さな開口部(自然口)を通じて鼻腔とつながっている。慢性副鼻腔炎では、副鼻腔と鼻腔の粘膜に炎症が長く続き(おおむね3か月以上)、粘膜の腫れや鼻茸(鼻ポリープ)、粘液・膿性の分泌物の貯留が起こる。 症状はこの病態から次のように整理できる。 ・鼻腔が狭くなる → 鼻閉 ・分泌物が増える → 前鼻漏・後鼻漏 ・においの通り道(嗅裂)がふさがる/嗅粘膜が障害される → 嗅覚障害 ・副鼻腔内の圧変化や炎症 → 頭重感・頭痛、顔面の圧迫感 一方、開口障害(口が開きにくい状態)は咀嚼筋(特に翼突筋・咬筋)やその周囲に炎症が及ぶか、筋が強く収縮するときに起こる症状であり、鼻・副鼻腔に限局した慢性炎症では生じない。したがって「みられないもの」は開口障害である。

選択肢考察

  1. ×a.  鼻閉

    慢性副鼻腔炎では鼻腔粘膜の充血・腫脹、中鼻道にたまった分泌物、さらに鼻茸によって鼻腔の通り道が狭くなり、鼻閉が生じる。最も頻度の高い症状の一つであり、本症でみられる。

  2. ×b.  後鼻漏

    副鼻腔で産生された粘液性・膿性の分泌物は、線毛運動によって鼻腔の後方へ運ばれ、後鼻孔から咽頭へ流れ落ちる。これが後鼻漏であり、のどに痰がからむ感じや、慢性の咳(特に臥位で増悪)の原因にもなる。本症でみられる。

  3. ×c.  頭重感

    副鼻腔の換気・排泄障害による洞内の圧変化や炎症の波及により、頭が重い・締め付けられるといった頭重感や、前頭部・眼の奥・頬部の鈍い痛みが生じる。急性炎症ほど強い痛みではないが、本症でしばしば訴えられる症状である。

  4. ×d.  嗅覚障害

    においの分子は鼻腔の上方にある嗅裂を通って嗅粘膜に達する。腫れた粘膜・分泌物・鼻茸が嗅裂をふさぐとにおいが届かなくなる(気導性〔呼吸性〕嗅覚障害)。炎症が長く続くと嗅粘膜自体も障害される。特に好酸球性副鼻腔炎では嗅覚障害が早期から目立つ。本症でみられる。

  5. ○e.  開口障害

    開口障害(牙関緊急)は、咀嚼筋が強く収縮したまま緩まない場合(破傷風の初期症状など)や、咀嚼筋・翼突筋の周囲に炎症が及んだ場合(扁桃周囲膿瘍、智歯周囲炎、副咽頭間隙膿瘍など)、あるいは顎関節自体の障害(顎関節症など)で起こる。慢性副鼻腔炎の炎症は鼻・副鼻腔にとどまり咀嚼筋には及ばないため、開口障害はみられない。したがって本問の正解である。

慢性副鼻腔炎の概要

・定義:副鼻腔粘膜の炎症が長期間(おおむね3か月以上)持続する状態。かつては「蓄膿症」と呼ばれた。 ・病態:感冒などの急性炎症を契機に自然口(副鼻腔と鼻腔をつなぐ開口部)が狭くなると、換気と排泄が障害されて分泌物が貯留し、炎症が慢性化するという悪循環に陥る。中鼻道周辺の狭い領域(ostiomeatal complex)が要となる。 ・症状:鼻閉、鼻漏(粘性・膿性)、後鼻漏、嗅覚障害、頭重感・頭痛、顔面の圧迫感、慢性咳嗽。 ・検査:鼻内視鏡で中鼻道の膿性分泌物や鼻茸を確認し、単純X線やCTで副鼻腔の陰影を評価する。CTは病変の範囲把握と手術計画に有用である。 ・治療:鼻処置・ネブライザー、マクロライド系抗菌薬の少量長期投与(炎症を抑える作用を期待したもの)、改善しなければ内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)。

好酸球性副鼻腔炎

篩骨洞優位の両側性病変、多発する鼻茸、嗅覚障害、粘稠な鼻汁、気管支喘息やアスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)の合併、末梢血好酸球増多が特徴である。手術後も再発しやすく、指定難病に定められている。ステロイドが有効で、難治例には生物学的製剤が用いられる。

開口障害をきたす主な疾患

破傷風(初発症状として重要)、扁桃周囲膿瘍、智歯周囲炎、下顎骨骨髄炎、顎関節症、咀嚼筋や翼突筋間隙に及ぶ悪性腫瘍(上咽頭癌・上顎癌の後方進展など)。

POINT

・慢性副鼻腔炎の主症状:鼻閉、鼻漏・後鼻漏、嗅覚障害、頭重感・頭痛。 ・症状は「粘膜腫脹・鼻茸による閉塞」と「分泌物の増加・貯留」から説明できる。 ・開口障害は咀嚼筋・翼突筋周囲の炎症や筋の持続収縮で起こる症状であり、破傷風や扁桃周囲膿瘍を想起する。 ・好酸球性副鼻腔炎:嗅覚障害、多発鼻茸、喘息合併、易再発性。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。