羊水が少ないのはどっちの子?―双胎間輸血症候群を「血が減る側・増える側」で読み解く
第101回医師国家試験 H問題 第40問
国試問題にチャレンジ
31歳の初妊婦。妊娠10週に経腟超音波検査で1絨毛膜2羊膜性双胎妊娠と診断された。妊娠30週の腹部超音波検査で,両児の羊水量に明らかな差が認められる。 羊水の少ない方の児によくみられるのはどれか。2つ選べ。
- a.貧血
- b.心拡大
- c.発育不全
- d.皮下浮腫
- e.膀胱拡張
対話形式の解説
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ドクターまとめ
1絨毛膜双胎では共有胎盤上の吻合血管を介して、一方の児(供血児)から他方の児(受血児)へ血液が一方的に流れる双胎間輸血症候群が起こりえます。羊水の主な供給源は胎児尿であるため、乏尿となる供血児は羊水過少、多尿となる受血児は羊水過多となります。供血児には貧血、発育不全、膀胱の縮小〜描出不能がみられ、受血児には多血、膀胱拡張、心拡大・心不全、皮下浮腫を含む胎児水腫がみられます。重症度はQuintero分類で評価し、妊娠中期には胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術が根本治療となります。「血が減る側か増える側か」という視点で整理することで、所見の暗記に頼らず病態から答えを導けるようになります。
解答・解説
正解はa, cです
所見の整理
・1絨毛膜2羊膜性(monochorionic diamniotic:MD)双胎:2人の胎児が1つの胎盤を共有し、羊膜腔は別々である。共有胎盤の表面には両児の血管をつなぐ吻合血管がほぼ必ず存在する。 ・妊娠30週で両児の羊水量に明らかな差がある。
診断へのプロセス
1絨毛膜双胎で両児の羊水量に大きな差があれば、まず双胎間輸血症候群(twin-twin transfusion syndrome:TTTS)を考える。胎盤の吻合血管、とくに一方向性に血液を送る動脈−静脈吻合を通じて、片方の児(供血児)からもう片方の児(受血児)へ血液が一方的に流れ、両児の循環血液量に不均衡が生じる病態である。日本では、1絨毛膜双胎において一方の児に羊水過多(最大羊水深度8cm以上)、他方の児に羊水過少(最大羊水深度2cm以下)を同時に認めることを診断の基本とする。
羊水量の差が生じる機序
・供血児:循環血液量が減少し、腎血流が低下して尿量が減る → 羊水過少(胎児尿が羊水の主な供給源であるため)。 ・受血児:循環血液量が増加し、心房性ナトリウム利尿ペプチドなどの作用も加わって尿量が増える → 羊水過多。
設問の考え方
羊水の少ない方の児は供血児である。供血児は血液を失う側なので、循環血液量の減少と貧血、臓器への血流・栄養供給の低下による発育不全、乏尿による膀胱の縮小(描出されない)がみられる。これに対し、受血児には多血、循環血液量過多による心拡大・心不全、胎児水腫(皮下浮腫・胸腹水)、多尿による膀胱拡張がみられる。各選択肢がどちらの児の所見かを、血液が「減る側」か「増える側」かで整理すれば迷わない。
選択肢考察
- ○a. 貧血
供血児は吻合血管を通じて受血児へ血液を送り出し続けるため、循環血液量が減少し、貧血(低ヘモグロビン)となる。これと対照的に、受血児は血液を受け取るため多血(赤血球増多、過粘稠)となる。羊水の少ない供血児によくみられる所見であり、正しい。
- ×b. 心拡大
心拡大は、循環血液量が過剰になって心臓に容量負荷がかかる受血児にみられる所見である。受血児では心拡大、三尖弁逆流、心機能低下が進行し、うっ血性心不全から胎児水腫に至ることがある。羊水の少ない供血児の所見ではない。
- ○c. 発育不全
供血児は循環血液量が少なく、胎盤からの血流と栄養供給も不十分になるため、胎児発育不全(fetal growth restriction:FGR)をきたしやすい。TTTSでは両児の推定体重に差がつくことが多く、小さい方が供血児となる。羊水過少の供血児によくみられ、正しい。
- ×d. 皮下浮腫
皮下浮腫は胎児水腫の一所見で、循環血液量の増加から心不全に陥った受血児にみられる。胎児水腫は、皮下浮腫・胸水・腹水・心嚢液貯留のうち2つ以上を認める状態である。循環血液量が少ない供血児には通常みられない。
- ×e. 膀胱拡張
受血児は多尿となるため膀胱が大きく拡張して見え、これが羊水過多の原因となる。一方、供血児は腎血流の低下により乏尿となり、超音波で膀胱が小さい、あるいは描出されない。膀胱の描出不能はTTTSの重症度分類(Quintero分類)でステージⅡの指標となる所見であり、膀胱拡張は羊水の少ない児の所見ではない。
双胎の膜性診断
・2絨毛膜2羊膜(DD)双胎:胎盤が別々。二卵性双胎はすべてこれで、一卵性双胎の一部もこれになる。 ・1絨毛膜2羊膜(MD)双胎:胎盤を共有し、TTTSのリスクがある。 ・1絨毛膜1羊膜(MM)双胎:臍帯相互巻絡による胎児死亡のリスクが高い。 ・膜性診断は妊娠初期(おおむね妊娠14週ごろまで)の超音波検査が最も確実で、隔壁基部の形(DDではλサイン、MDではTサイン)や胎嚢数で判断する。
TTTSの供血児と受血児の比較
・供血児:循環血液量減少、貧血、乏尿、羊水過少、膀胱縮小〜描出不能、発育不全。羊水過少のため子宮壁に張り付いたように見えることがある(stuck twin)。 ・受血児:循環血液量増加、多血、多尿、羊水過多、膀胱拡張、心拡大・心不全、胎児水腫。
Quintero分類(重症度)
Ⅰ:羊水過多・過少のみ、Ⅱ:供血児の膀胱が描出されない、Ⅲ:臍帯動脈の拡張期途絶・逆流、静脈管の逆流など血流異常、Ⅳ:胎児水腫、Ⅴ:一児または両児の胎児死亡。
治療
・妊娠中期(おおむね妊娠16〜26週)には、胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(fetoscopic laser photocoagulation:FLP)が根本的な治療となる。吻合血管を凝固して両児の循環を切り離す。 ・適応時期を過ぎた場合は、受血児側の羊水除去で母体症状や切迫早産を軽減しつつ、児の状態を評価して分娩時期を決める。 ・一児が死亡すると、残る児に急激な血圧低下や脳障害が起こりうる点も1絨毛膜双胎の重要なリスクである。
関連疾患
双胎貧血多血症(twin anemia-polycythemia sequence:TAPS)は、細い吻合血管を通じてゆっくり血液が移動し、羊水量の差を伴わずに両児のヘモグロビン値に大きな差が生じる病態で、TTTSとは区別される。
POINT
・1絨毛膜双胎で一児羊水過多・他児羊水過少 → 双胎間輸血症候群(TTTS)。 ・羊水が少ない児=供血児:貧血、乏尿、膀胱縮小、発育不全。 ・羊水が多い児=受血児:多血、多尿、膀胱拡張、心拡大・心不全、胎児水腫。 ・妊娠中期の根本治療は胎児鏡下胎盤吻合血管レーザー凝固術(FLP)。
