StudyMed医師国家試験

3か月治らない下腿のしこり―潰瘍と乾酪壊死が示す硬結性紅斑

第101回医師国家試験 G問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第101回 G問題 第8問

54歳の女性。両側下腿の皮疹を主訴に来院した。皮疹は3か月前から出現し,治癒していない。軽度の圧痛がある。下腿前面の写真(A)と皮膚生検H-E染色標本(B)とを別に示す。 最も考えられるのはどれか。

第101回 G問題 第8問の問題画像
  1. a.結節性紅斑
  2. b.硬結性紅斑
  3. c.壊疽性膿皮症
  4. d.うっ滞性皮膚炎
  5. e.サルコイドーシス

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、下腿にできた紅斑を伴うしこりの正体を見極める問題だ。下腿の「赤いしこり」は皮下脂肪の炎症、つまり脂肪織炎の代表的な姿で、まず考えるべき二大候補がある。注目してほしいのは、経過の長さ、潰瘍の有無、そして病理での肉芽腫の性質の3点だよ。
医学生医学生
下腿伸側の圧痛のある紅斑というと、まず結節性紅斑が頭に浮かびます。CBTでも何度も出てきました。
ドクタードクター
自然な発想だね。結節性紅斑と硬結性紅斑、この2つの鑑別が今回の核心だ。まず経過について、結節性紅斑の皮疹は普通どれくらいで消えるか覚えているかな。
医学生医学生
確か数週間で、跡を残さずに消えるんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。個々の皮疹は3〜6週間ほどで瘢痕を残さず消退し、潰瘍にはならない。ところが今回は3か月治らず、写真では紅斑と硬結の一部が小さな潰瘍になっている。この時点で結節性紅斑らしくないね。
医学生医学生
慢性で潰瘍化する脂肪織炎……となると硬結性紅斑でしょうか。でも病理で決め手はありますか。
ドクタードクター
そこが一番大事なところだ。H-E染色では、皮下脂肪組織を中心に、中心部にチーズのような無構造の乾酪壊死があり、その周りを類上皮細胞、核が馬蹄形に並ぶLanghans巨細胞、リンパ球が取り囲む肉芽腫がみられる。何の肉芽腫と同じ像だと思う?
医学生医学生
病理実習で見た結核の肉芽腫とそっくりです。乾酪壊死とLanghans巨細胞は結核の代名詞だと教わりました。
ドクタードクター
よく覚えているね。硬結性紅斑は脂肪小葉そのものが炎症を起こす小葉性脂肪織炎で、血管炎や乾酪壊死を伴う結核様肉芽腫をつくる。対して結節性紅斑は、脂肪小葉を仕切る隔壁が主に炎症を起こす隔壁性脂肪織炎で、壊死性の肉芽腫はつくらない。慢性経過、潰瘍、乾酪壊死性肉芽腫のすべてが硬結性紅斑に合致するから、これが正解だ。
医学生医学生
隔壁か小葉か、で分けるんですね。ほかの選択肢も潰瘍をつくるものがありますが、壊疽性膿皮症はどう違いますか。
ドクタードクター
壊疽性膿皮症は膿疱や小結節から始まって急速に拡大し、辺縁が紫紅色で掘れ込んだような大きく深い潰瘍になる。強い痛みを伴うことが多く、病理の主体は真皮への著明な好中球浸潤だ。潰瘍性大腸炎や関節リウマチ、骨髄異形成症候群などの基礎疾患が背景にあることも多い。肉芽腫ではなく好中球、というのが決定的な違いだね。
医学生医学生
うっ滞性皮膚炎も下腿に潰瘍ができますよね。皮膚科実習で静脈瘤の患者さんの内くるぶし周りの色素沈着を見ました。
ドクタードクター
いい観察だね。うっ滞性皮膚炎は静脈血のうっ滞で、内果周囲に紅斑や湿疹、ヘモジデリン沈着による褐色の色素沈着、皮膚硬化が混在し、進むと静脈性潰瘍になる。病理は毛細血管の増生や血管壁の肥厚、ヘモジデリン沈着が中心で、乾酪壊死性肉芽腫はつくらない。
医学生医学生
サルコイドーシスも肉芽腫ができる病気なので、一瞬迷いました。
ドクタードクター
迷うポイントだね。サルコイドーシスの肉芽腫は乾酪壊死を伴わず、周囲のリンパ球浸潤が乏しいことから「裸の肉芽腫」と呼ばれる。今回は乾酪壊死があり、リンパ球浸潤も目立つから合わない。ちなみにサルコイドーシスでは結節性紅斑が出ることもあるので、両者の関係は整理しておくといい。
医学生医学生
乾酪壊死ありなら結核関連、なしでリンパ球が乏しければサルコイドーシス、という見分け方ですね。
ドクタードクター
その通り。では硬結性紅斑の背景も押さえよう。この病気は体内の結核病巣に由来する菌成分への過敏反応と考えられていて、結核疹の一つに分類される。だから病変部から結核菌は通常検出されないんだ。
医学生医学生
菌がいないのに結核と関係があるというのは不思議です。どうやって結核との関連を調べるんですか。
ドクタードクター
ツベルクリン反応が強陽性になることが多く、インターフェロンγ遊離試験や胸部画像で結核の有無を確認する。結核との関連が考えられれば抗結核薬を投与し、安静や下肢挙上も行う。一方で結核との関連がはっきりしない例もあり、そうしたものは結節性血管炎と呼ばれることもある。好発は中年女性の下腿で、特にふくらはぎ側に多いけれど、前面や側面にも生じうる点も覚えておこう。
医学生医学生
下腿のしこりを見たら、経過と潰瘍を確認して、迷ったら生検で脂肪織炎のパターンと肉芽腫の性質を見る、という流れですね。
ドクタードクター
そう、その2段構えが大事だ。そして硬結性紅斑と診断したら、背後に結核が潜んでいないかを必ず探しにいく。皮膚の所見が全身疾患の入り口になる、という好例だね。

まとめ

下腿の紅斑を伴う皮下硬結は脂肪織炎の代表的な表現型で、まず結節性紅斑と硬結性紅斑を鑑別します。結節性紅斑は数週で瘢痕なく消退し潰瘍化しない隔壁性脂肪織炎であるのに対し、硬結性紅斑は中年女性の下腿に慢性・再発性に生じ、潰瘍化しうる小葉性脂肪織炎で、乾酪壊死・類上皮細胞・Langhans巨細胞からなる結核様肉芽腫を伴います。好中球浸潤主体の壊疽性膿皮症、ヘモジデリン沈着を伴ううっ滞性皮膚炎、乾酪壊死のない「裸の肉芽腫」をつくるサルコイドーシスとは病理像で区別できます。硬結性紅斑は結核疹の一つとされ、ツベルクリン反応やIGRA、胸部画像で結核を評価し、関連があれば抗結核薬で治療します。経過・潰瘍・肉芽腫の性質を組み合わせて考える姿勢は、皮膚から全身疾患を見抜く臨床力の基礎になります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・54歳女性。両側の下腿に皮疹があり、3か月前から続いて治っていない。つまり数週で自然に消える急性の皮疹ではなく、慢性・難治性の経過である。 ・自覚症状は軽い圧痛のみで、強い疼痛や発熱などの全身症状は記載されていない。 ・臨床写真(A): 下腿に紅斑・硬結が多発し、その一部は小さな潰瘍になっている。 ・病理組織(B, H-E染色): 皮下脂肪組織を中心に、中心部の乾酪壊死(チーズ様の無構造な壊死)と、その周りを取り囲む類上皮細胞、Langhans巨細胞(核が馬蹄形に並ぶ多核巨細胞)、リンパ球浸潤からなる肉芽腫がみられる。結核でみられる肉芽腫と同じ像である。

診断までの考え方

下腿に生じる「紅斑を伴う皮下硬結」は脂肪織炎(皮下脂肪組織の炎症)の代表的な表現型であり、まず結節性紅斑と硬結性紅斑を鑑別する。両者を分ける手がかりは次の3点である。 1. 経過: 結節性紅斑は数週間で瘢痕を残さず消えるのに対し、硬結性紅斑は数か月以上にわたって慢性に続き、再発を繰り返す。 2. 潰瘍の有無: 結節性紅斑は潰瘍化しない。硬結性紅斑は結節が軟化・自壊して潰瘍をつくり、瘢痕を残して治ることがある。 3. 病理: 結節性紅斑は脂肪小葉を仕切る隔壁の炎症(septal panniculitis、隔壁性脂肪織炎)であり、壊死を伴う肉芽腫はつくらない。硬結性紅斑は脂肪小葉そのものの炎症(lobular panniculitis、小葉性脂肪織炎)で、血管炎や乾酪壊死を伴う肉芽腫がみられる。 本例は3か月以上の慢性経過、潰瘍形成、乾酪壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫のいずれも硬結性紅斑に合致する。 さらに、潰瘍をつくる他の疾患(壊疽性膿皮症、うっ滞による潰瘍)や、下腿に肉芽腫性病変をつくるサルコイドーシスとも、病理像(好中球浸潤か、乾酪壊死のある肉芽腫か、壊死のない肉芽腫か)で区別できる。以上から最も考えられるのは硬結性紅斑である。

選択肢考察

  1. ×a.  結節性紅斑

    下腿伸側(前面)に圧痛の強い紅色の皮下結節が多発する点は似るが、個々の皮疹は通常3〜6週間ほどで瘢痕を残さず消退し、潰瘍化しない。病理は脂肪小葉間の隔壁に炎症が起こる隔壁性脂肪織炎で、乾酪壊死を伴う肉芽腫はみられない。3か月治らず潰瘍を伴う点、病理で乾酪壊死性肉芽腫がみられる点で本例とは合わない。

  2. ○b.  硬結性紅斑

    中年女性の下腿に、軽い圧痛を伴う暗紅色の硬結が慢性・再発性に生じ、一部が自壊して潰瘍をつくるという臨床像が本例と一致する。病理でも、脂肪小葉を主体とした炎症の中に乾酪壊死、類上皮細胞、Langhans巨細胞、リンパ球浸潤からなる結核様の肉芽腫がみられ、硬結性紅斑に特徴的な所見である。臨床・病理ともに合致するため最も考えられる。

  3. ×c.  壊疽性膿皮症

    下腿に好発し潰瘍をつくる点は共通するが、無菌性膿疱や小結節から始まり、急速に拡大する大型で深い潰瘍となるのが典型で、潰瘍の辺縁は紫紅色で掘り込まれたような形(穿掘性)になり、強い疼痛を伴う。病理の主体は真皮への著明な好中球浸潤(好中球性皮膚症)であり、乾酪壊死を伴う肉芽腫はみられない。潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、骨髄異形成症候群などの基礎疾患を伴うことが多い。

  4. ×d.  うっ滞性皮膚炎

    下肢静脈瘤などで静脈血がうっ滞することにより、下腿(特に内果周囲)に紅斑、湿疹、ヘモジデリン沈着による褐色の色素沈着、皮膚硬化が混在してみられ、進行すると静脈性潰瘍を生じる。病理では真皮の毛細血管の増生と血管壁の肥厚、ヘモジデリン沈着などがみられるが、乾酪壊死を伴う肉芽腫はつくらない。

  5. ×e.  サルコイドーシス

    皮膚病変として、下腿に結節性紅斑がみられることがあるほか、皮膚サルコイド(結節型、局面型、びまん浸潤型など)や瘢痕浸潤を生じる。病理は乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫で、周囲のリンパ球浸潤が乏しいことから「裸の肉芽腫(naked granuloma)」と呼ばれる。本例の肉芽腫は乾酪壊死を伴いリンパ球浸潤も目立つため合わない。

硬結性紅斑(Bazin硬結性紅斑)

・中年女性に多く、下腿(特に後面・ふくらはぎに多いが前面や側面にも生じる)に、圧痛の比較的軽い暗紅色の皮下硬結が多発する。 ・慢性に経過し、再発を繰り返す。結節は軟化して自壊し、潰瘍をつくり、陥凹した瘢痕を残して治ることがある。 ・病理: 小葉性脂肪織炎に血管炎を伴い、乾酪壊死、類上皮細胞、Langhans巨細胞からなる結核様肉芽腫がみられる。 ・病因: 体内の結核病巣に由来する結核菌の成分に対する過敏反応と考えられ、結核疹(tuberculid)の一つに分類される。病変部から結核菌は通常検出されない。一方で結核との関連がはっきりしない例もあり、他の微生物に対する反応、静脈血栓や循環障害の関与が考えられている(非結核性の例は結節性血管炎と呼ばれることもある)。 ・検査: ツベルクリン反応が強陽性となることが多く、インターフェロンγ遊離試験(IGRA: 結核菌特異抗原に対するT細胞の反応をみる血液検査)や胸部画像で結核の有無を確認する。 ・治療: 結核との関連が考えられる場合は抗結核薬を投与する。安静、下肢挙上なども行う。

下腿の皮下結節・潰瘍の鑑別(病理の要点)

・結節性紅斑: 隔壁性脂肪織炎。潰瘍化しない。溶連菌感染、薬剤、サルコイドーシス、Behçet病、炎症性腸疾患などが誘因となる。 ・硬結性紅斑: 小葉性脂肪織炎+血管炎+乾酪壊死性肉芽腫。潰瘍化しうる。 ・壊疽性膿皮症: 好中球浸潤が主体。大型・穿掘性の有痛性潰瘍。 ・うっ滞性皮膚炎・静脈性潰瘍: 毛細血管増生、血管壁肥厚、ヘモジデリン沈着。 ・サルコイドーシス: 乾酪壊死のない類上皮細胞肉芽腫でリンパ球浸潤が乏しい。

POINT

・下腿の紅斑を伴う皮下硬結は、まず結節性紅斑と硬結性紅斑を鑑別する。 ・結節性紅斑: 数週で消退、潰瘍化しない、隔壁性脂肪織炎。 ・硬結性紅斑: 慢性・再発性、潰瘍化しうる、小葉性脂肪織炎で乾酪壊死を伴う結核様肉芽腫。結核疹の一つ。 ・肉芽腫の見分け: 乾酪壊死あり=結核関連、乾酪壊死なし+リンパ球浸潤に乏しい=サルコイドーシス。 ・壊疽性膿皮症は好中球浸潤が主体の大型穿掘性潰瘍。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。