かぜ薬の翌朝に現れた紫の紅斑―固定薬疹の原因は「元の場所」で探せ
第101回医師国家試験 G問題 第7問
国試問題にチャレンジ
47歳の女性。口唇と体幹との皮疹を主訴に来院した。2日前から発熱と咽頭痛とがあった。昨日,市販の感冒薬を内服した。今朝,軽度の痛みを伴う皮疹が出現した。口唇(A)と体幹(B)との写真を別に示す。 検査として適切なのはどれか。

- a.細菌培養
- b.貼布試験
- c.KOH法鏡検
- d.ウイルス抗体価
- e.スクラッチテスト
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
薬の内服後まもなく、口唇・外陰部・手足・体幹などに境界明瞭な円形〜類円形の紫紅色紅斑(ときに水疱)が出現し、消退後に色素沈着を残して同じ部位に再発するものが固定薬疹です。表皮内に常在する記憶CD8陽性T細胞による遅延型(IV型)反応が主体と考えられており、原因薬の同定には貼布試験を用い、感作T細胞が局在する旧病変部で行うと陽性率が高くなります。スクラッチテストやプリックテストは即時型(I型)の検査であり、細菌培養・KOH法鏡検・ウイルス抗体価はそれぞれ細菌・真菌・ウイルス感染症の診断に用いるため、薬疹の原因検索には適しません。口唇病変と発熱を伴う場合はStevens-Johnson症候群との鑑別を常に意識し、汎発型の固定薬疹では重症化に注意します。アレルギーの型と検査を対応させて理解し、原因成分を特定して再摂取を防ぐことが、薬疹診療の基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・47歳女性。2日前から発熱と咽頭痛(かぜ症状)があり、昨日市販の感冒薬を内服した。 ・今朝、軽い痛みを伴う皮疹が出現した。薬の内服から発症まで1日以内である。 ・写真A(口唇):上下口唇とその周囲の皮膚に、境界が明瞭な暗紅色〜紫紅色の紅斑があり、口角付近には小水疱もみられる。 ・写真B(体幹・腋窩付近):境界明瞭な大型の紅斑で、中心部はやや暗褐色〜紫色調を帯び、辺縁は鮮紅色である。
診断のプロセス
薬剤の内服後、短時間のうちに、口唇などの皮膚粘膜移行部や体幹に、境界明瞭で円形〜類円形の紫紅色の紅斑(ときに中央に水疱)が出現している。これは固定薬疹の典型像である。固定薬疹は、原因薬を摂取するたびに同じ部位に皮疹が繰り返し出現する薬疹で、口唇・口囲、外陰部、手足、体幹が好発部位である。紅斑は数日〜2週間ほどで消退するが、しばしば灰褐色〜紫褐色の色素沈着を残し、再投与のたびに色素沈着が濃くなり、病変数が増えることもある。市販の感冒薬・解熱鎮痛薬は原因薬として頻度が高い。 鑑別として、発熱と咽頭痛が先行し口唇にも病変があるため、Stevens-Johnson症候群(SJS)を考える必要がある。SJSでは高熱とともに、口唇・口腔・眼・外陰部など複数の粘膜に強いびらん・出血性痂皮がみられ、全身に多発する紅斑・水疱を伴い、全身状態が不良となる。本症例は皮疹が少数で境界明瞭な局面にとどまり、痛みも軽度であるため、固定薬疹と考えるのが妥当である。ただし水疱が多発・拡大する汎発型固定薬疹ではSJS/中毒性表皮壊死症(TEN)との鑑別が問題になるので、経過観察は必要である。
設問の考え方
薬疹を疑うときに求められる検査は、原因薬を特定するための検査である。固定薬疹は、表皮内にとどまる記憶T細胞(主にCD8陽性T細胞)が関与する遅延型(IV型)アレルギー反応と考えられており、原因薬の同定には、遅延型反応をみる貼布試験(パッチテスト)が適している。固定薬疹では病変部の皮膚にだけ感作T細胞が存在するため、皮疹が治まった後に、以前の皮疹部位(色素沈着部)に被疑薬を貼布して判定すると陽性率が高いのが特徴である。
選択肢考察
- ×a. 細菌培養
細菌培養は、膿痂疹(とびひ)、蜂窩織炎、毛包炎など、膿や滲出液を伴う細菌性皮膚感染症を疑うときに原因菌と薬剤感受性を調べる検査である。本症例では、薬剤内服直後に境界明瞭な紅斑が出現しており、膿疱・膿汁・痂皮など細菌感染を示す所見はない。先行する咽頭痛に対して咽頭培養を考える余地はあるが、皮疹の原因検索としては適切でない。
- ○b. 貼布試験
被疑薬を皮膚に一定時間貼付し、48時間後・72時間後(必要に応じて1週間後)に紅斑・丘疹・小水疱などの反応を判定する検査で、遅延型(IV型)アレルギーの原因を調べるのに用いる。固定薬疹はIV型の機序が中心とされ、しかも感作T細胞が皮疹の出た部位に局在しているため、皮疹が消退した後に旧病変部(色素沈着部)へ被疑薬を貼付すると陽性になりやすい。健常皮膚で行うと偽陰性になりやすい点が、ほかの薬疹とは異なる重要なポイントである。市販の感冒薬は複数の成分を含むため、成分ごとに試験して原因物質を絞り込む。
- ×c. KOH法鏡検
病変部の鱗屑や水疱蓋を採取し、水酸化カリウム(KOH)溶液でケラチンを溶かして顕微鏡で菌糸や胞子を探す検査で、白癬やカンジダ症などの皮膚真菌症の診断に用いる。本症例は薬剤内服後に急性に出現した紅斑であり、真菌症を示唆する鱗屑を伴う環状の辺縁や、浸軟したびらんなどの所見はないので適切でない。
- ×d. ウイルス抗体価
ウイルス抗体価は、麻疹・風疹・伝染性単核球症など全身性ウイルス感染症の診断に用いられる(通常は急性期と回復期のペア血清で上昇を確認する)。ウイルス性発疹症の皮疹は多数の小型の紅斑・丘疹が全身に対称性に広がることが多く、本症例のように少数の境界明瞭な大型紅斑とは異なる。口唇の小水疱から単純ヘルペスを考えることもできるが、単純ヘルペスは小水疱が集簇するのが特徴であり、体幹の大型紅斑は説明できない。先行する発熱・咽頭痛はかぜ症状として薬の服用理由になったものと考えられ、皮疹の原因検索としての意義は乏しい。
- ×e. スクラッチテスト
皮膚に浅い引っかき傷をつけて抗原液を滴下し、15〜20分後の膨疹・紅斑をみる検査で、即時型(I型、IgE介在性)アレルギーの原因検索に用いる(プリックテストも同様の目的)。蕁麻疹型薬疹やアナフィラキシーなどが対象であり、遅延型反応が主体の固定薬疹の原因同定には適さない。
固定薬疹
・概念:特定の薬剤を摂取するたびに、同一部位に同じ形の皮疹が繰り返し出現する薬疹。 ・臨床像:境界明瞭な円形〜楕円形の紅斑で、紫紅色〜暗赤色を呈し、中央に水疱を形成することもある。灼熱感・かゆみ・軽い痛みを伴う。消退後に褐色〜紫褐色の色素沈着を残すのが特徴で、繰り返すほど色素沈着が濃くなる。 ・好発部位:口唇・口囲、外陰部(陰茎亀頭など)、手足、体幹。皮膚粘膜移行部に多い。 ・発症時期:既に感作されている場合、再摂取後おおむね数十分〜数時間(遅くとも1日以内)で出現する。 ・機序:以前の病変部の表皮内に常在する記憶T細胞(CD8陽性)が、再摂取された薬剤によって活性化され、表皮細胞を傷害すると考えられている。このため病変は常に同じ場所に生じる。 ・原因薬:市販の感冒薬・解熱鎮痛薬(アリルイソプロピルアセチル尿素などの成分)、非ステロイド性抗炎症薬、テトラサイクリン系抗菌薬、サルファ剤、去痰薬などが知られる。 ・治療:原因薬の中止が基本であり、局所にはステロイド外用薬を用いる。原因薬の同定と再摂取の回避(患者への情報提供、お薬手帳への記載)が再発予防に重要である。 ・注意:病変が多発して広範囲に水疱・びらんを形成する汎発型水疱性固定薬疹は、SJS/TENとの鑑別が必要で、重症化することがある。
薬疹の原因薬を調べる検査
・貼布試験(パッチテスト):遅延型(IV型)反応を調べる。48・72時間後などに判定。固定薬疹では旧病変部で行う。 ・スクラッチテスト、プリックテスト、皮内テスト:即時型(I型)反応を調べる。15〜20分後に判定。アナフィラキシーの危険に注意する。 ・薬剤リンパ球刺激試験(DLST):患者の末梢血リンパ球を被疑薬とともに培養し、増殖反応をみる試験管内検査。患者への危険がない。 ・内服誘発試験:少量の被疑薬を実際に内服させて皮疹の再現をみる。最も確実だが危険を伴うため、重症薬疹(SJS/TEN、薬剤性過敏症症候群など)では原則として行わない。 皮膚の検査は、原則として皮疹が消退してから実施する。
鑑別:Stevens-Johnson症候群
高熱・全身倦怠感とともに、口唇・口腔、眼結膜、外陰部など複数の粘膜に重いびらんや出血性痂皮を生じ、全身に紅斑・水疱・表皮剝離(体表面積の10%未満)を伴う重症薬疹。10%以上に及ぶと中毒性表皮壊死症(TEN)とされる。入院管理が必要である。
POINT
・薬の内服後に、口唇・外陰部・手足などに境界明瞭な円形の紫紅色紅斑(ときに水疱)→ 固定薬疹。消退後の色素沈着、同一部位での再発が特徴。 ・固定薬疹の原因薬の同定には貼布試験(パッチテスト)を旧病変部で行う。 ・スクラッチテスト・プリックテストは即時型(I型)アレルギーの検査。 ・細菌培養は細菌感染症、KOH法鏡検は真菌症、ウイルス抗体価はウイルス感染症の診断に用いる。 ・口唇病変+発熱ではSJSとの鑑別を必ず考える。
