かぜ薬のあとに眼と口が真っ赤に―Stevens-Johnson症候群は「中止」と「ステロイド」で止める
第120回医師国家試験 D問題 第41問
国試問題にチャレンジ
14歳の男子。発熱と皮疹を主訴に来院した。5日前から咽頭痛が出現し,市販のNSAIDを内服している。3日前から発熱と皮疹が出現し,咽頭痛が増強したため受診した。体温39.8℃。両側眼球結膜の充血,口腔粘膜に発赤や出血斑を認める。顔面,体幹の広範囲に紅斑,水疱,びらんを認める。病変部の疼痛が強いため,鎮静下に呼吸管理を開始した。血液所見:赤血球390万,Hb 12.5g/dL,Ht 33%,白血球12,200,血小板25万。血液生化学所見:総蛋白6.4g/dL,アルブミン3.6g/dL,AST 124U/L,ALT 250U/L,LD 480U/L(基準124~222),尿素窒素6.0mg/dL,クレアチニン0.8mg/dL。CRP 13mg/dL。胸部の写真を下に示す。 適切な治療薬はどれか。

- a.抗菌薬
- b.NSAID
- c.抗ウイルス薬
- d.抗ヒスタミン薬
- e.グルココルチコイド
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生まとめ
発熱に加え、眼・口腔など2か所以上の粘膜病変と、紅斑・水疱・びらんを伴う皮疹がみられたら、Stevens-Johnson症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)を考えます。両者は細胞傷害性T細胞による表皮全層の壊死を本態とする同一スペクトラムの重症薬疹で、日本では表皮剝離が体表面積の10%未満をSJS、10%以上をTENとします。治療の基本は被疑薬の即時中止と早期のグルココルチコイド全身投与で、重症例ではステロイドパルス、IVIG、血漿交換を追加し、熱傷に準じた全身管理と感染対策、眼科的管理を並行します。原因となったNSAIDの再投与は禁忌で、抗菌薬は合併感染に対する補助療法、抗ヒスタミン薬や抗ウイルス薬は病態を止められません。市販薬でも致死的な薬疹が起こりうることを知り、早期に見抜いて適切に介入する力は、どの診療科に進んでも求められます。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・14歳男子。咽頭痛に対して市販のNSAID(非ステロイド性抗炎症薬)を内服したのち、39.8℃の高熱と皮疹が出現した。 ・粘膜病変:両側眼球結膜の充血、口腔粘膜の発赤・出血斑。 ・皮膚病変:顔面・体幹の広範囲に紅斑、水疱、びらん。疼痛が強く、鎮静下での呼吸管理を要するほど重症である。 ・写真:体幹に大小の暗紅色〜紫紅色の斑が密に多発し、一部は融合している。中心部がより暗い色調を示す非典型的な標的状の紅斑(flat atypical targets)が目立ち、表皮の壊死を示唆する。 ・検査:白血球12,200/μL、CRP 13mg/dLと炎症反応が強く、AST 124U/L・ALT 250U/L・LD上昇と肝障害を伴う。
診断への道筋
高熱を伴い、皮膚に紅斑・水疱・びらんが広がり、眼と口唇・口腔の2か所以上に粘膜病変がある、という組合せは、重症薬疹であるStevens-Johnson症候群(SJS)と中毒性表皮壊死症(TEN)の典型像である。両者は同じ病態のスペクトラム(SJS/TEN)で、細胞傷害性T細胞が表皮角化細胞のアポトーシス・壊死を引き起こすことで生じる。原因は薬剤が最も多く(解熱鎮痛薬、抗菌薬、抗てんかん薬、アロプリノールなど)、小児ではマイコプラズマなどの感染症も誘因となる。なお、SJSでは発熱・咽頭痛などかぜ様の前駆症状がみられることが多く、それに対して内服した解熱鎮痛薬が被疑薬となる経過は典型的である。 SJSとTENは表皮剝離(水疱・びらん)の面積で区別し、日本の診断基準では体表面積の10%未満をSJS、10%以上をTENとする。写真では紅斑が主体で広い面状の表皮剝離はまだ目立たないため、現時点ではSJSが最も考えやすいが、病変は数日で急速に拡大してTENに移行しうるため、厳重な評価を続ける必要がある。いずれであっても初期治療の考え方は同じである。 鑑別としてブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)が挙がるが、SSSSは表皮の浅い層(顆粒層)で剝離し、粘膜病変を通常欠くため、本症例の著明な眼・口腔粘膜病変とは合わない。
治療の考え方
最初に行うのは被疑薬(本症例ではNSAID)の即時中止である。そのうえで、過剰な免疫反応を抑えるために早期から副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド)を全身投与することが治療の中心となる。重症例や進行が速い例ではステロイドパルス療法を行い、効果が不十分な場合は免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)や血漿交換療法を併用する。並行して、熱傷に準じた全身管理(輸液、栄養、体温管理、創部の保護)、二次感染対策、眼科医による眼病変の管理を行う。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬
SJS/TENは細菌感染症ではなく、薬剤などを契機とする免疫学的な表皮傷害であり、抗菌薬は原疾患の治療にならない。広範なびらんは細菌の侵入門戸となり、経過中に皮膚感染症や敗血症を合併しやすいため、感染が疑われる場合には抗菌薬を用いるが、予防的・第一選択の治療ではない。また、抗菌薬自体がSJS/TENの代表的な原因薬であることにも注意が必要である。
- ×b. NSAID
本症例の発症前に内服していたNSAIDが原因薬(被疑薬)と考えられる。被疑薬は直ちに中止しなければならず、再投与は病状を悪化させるので禁忌である。発熱や疼痛に対しても、同系統の薬剤を用いてはならない。
- ×c. 抗ウイルス薬
本症例の発熱や皮疹はウイルス感染によるものではなく、抗ウイルス薬は治療にならない。単純ヘルペスウイルス感染は多形紅斑の誘因となるが、本症例は薬剤内服後に発症した重症薬疹であり、ヘルペス感染を示す所見もない。
- ×d. 抗ヒスタミン薬
抗ヒスタミン薬は蕁麻疹など即時型(I型)アレルギーの症状や、薬疹に伴う瘙痒に対して対症的に用いられることはある。しかしSJS/TENは主に細胞傷害性T細胞が関わる遅延型の反応であり、抗ヒスタミン薬では表皮の壊死の進行を止められない。治療の主体にはならない。
- ○e. グルココルチコイド
SJS/TENでは、T細胞などによる過剰な免疫反応が表皮角化細胞の広範な細胞死を引き起こしている。被疑薬を中止したうえで、診断後できるだけ早期にグルココルチコイドを全身投与して免疫反応を抑えることが、日本の診療ガイドラインでも治療の基本とされている。本症例のように高熱、強い粘膜病変、肝障害を伴う重症例ではステロイドパルス療法も考慮し、効果不十分ならIVIGや血漿交換を併用する。
SJSとTENの整理
・病態:薬剤や感染症を契機に、細胞傷害性T細胞やそれが放出する物質(グラニュライシン、Fasリガンドなど)によって表皮角化細胞が広範に細胞死に陥り、表皮全層の壊死と剝離が起こる。 ・主な原因:解熱鎮痛薬(NSAIDs、アセトアミノフェン)、抗菌薬(サルファ剤、βラクタム系など)、抗てんかん薬(カルバマゼピン、フェニトイン、ラモトリギンなど)、アロプリノール、マイコプラズマ感染(小児で多い)など。 ・症状:発熱、かぜ様の前駆症状、口唇・口腔・眼・外陰部などの粘膜病変(2か所以上が多い)、中心が暗紅色の非典型的標的状紅斑、水疱・びらん。軽くこすると表皮が剝がれるNikolsky現象がみられる。 ・分類(日本の基準):表皮剝離が体表面積の10%未満でSJS、10%以上でTEN。国際的には10%未満をSJS、10〜30%をSJS/TENオーバーラップ、30%超をTENとする分類も用いられる。 ・病理:表皮全層の壊死(表皮下水疱)。迅速に凍結切片で確認することでSSSS(顆粒層での表皮内剝離)と鑑別できる。 ・合併症:敗血症、肝障害、呼吸器障害(気道粘膜の傷害)、体液・電解質異常。眼病変の後遺症(ドライアイ、瞼球癒着、視力障害)が残ることがあり、急性期から眼科での管理が重要である。重症度評価にはSCORTENなどが用いられ、TENの死亡率は高い。
治療
①被疑薬の即時中止(最重要) ②グルココルチコイド全身投与(重症例ではステロイドパルス療法) ③効果不十分例でIVIG、血漿交換療法を追加 ④熱傷に準じた全身管理(輸液、栄養、体温管理、疼痛管理、皮膚・創部の保護) ⑤感染予防と、感染を合併した際の抗菌薬投与 ⑥眼病変に対する眼科的治療(ステロイド点眼など) 回復後は、原因薬と構造が似た薬剤を含めて再投与を避けるよう、薬剤情報を患者・家族に伝える。
鑑別
・SSSS:黄色ブドウ球菌の表皮剝脱毒素による。乳幼児に多く、表皮の浅い層で剝離し、粘膜病変は通常ない。 ・多形紅斑:典型的な標的状病変(三重の環)が四肢に多く、粘膜病変は軽度か欠く。単純ヘルペスウイルスが主な誘因。 ・薬剤性過敏症症候群(DIHS):原因薬開始から2〜6週後と遅れて発症し、HHV-6の再活性化、リンパ節腫脹、好酸球増多、肝障害を伴う。
POINT
・発熱+2か所以上の粘膜病変(眼・口唇口腔など)+紅斑・水疱・びらん→SJS/TENを考える。 ・SJSとTENは表皮剝離面積で分け、日本では10%未満がSJS、10%以上がTEN。 ・治療は「被疑薬の即時中止」+「早期のグルココルチコイド全身投与」が基本。重症例ではステロイドパルス、IVIG、血漿交換を追加する。 ・被疑薬(本症例ではNSAID)の再投与は禁忌。抗菌薬は合併感染に対して用いる補助療法である。 ・眼病変の後遺症予防のため、急性期から眼科の介入が必要。
