StudyMed医師国家試験

すねに出る「痛い赤み」は全身からのサイン―結節性紅斑の背景疾患を読み解く

第118回医師国家試験 A問題 第72問

国試問題にチャレンジ

第118回 A問題 第72問

35歳の女性。2週間前から両下肢に皮疹が複数出現したため来院した。皮疹は皮膚面からわずかに盛り上がり,浸潤を触れ熱感と圧痛を認める。左下腿の写真を示す。  考えられる基礎疾患はどれか。3つ選べ。

第118回 A問題 第72問の問題画像
  1. a.糖尿病
  2. b.Crohn病
  3. c.Behçet病
  4. d.全身性強皮症
  5. e.サルコイドーシス

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は皮膚の所見から病名をつけ、さらにその奥に隠れた全身疾患まで考える問題だ。ポイントは「どの深さで炎症が起きている皮疹か」と「その皮疹がどんな病気に伴って出るか」の2段階。まず、両下腿に多発して、盛り上がりはわずかなのに深部にしこりを触れ、熱感と圧痛がある――この組み合わせから何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
下腿の痛い紅斑というと、まず蜂窩織炎が浮かびました。熱感もありますし。
ドクタードクター
自然な発想だね。ただ蜂窩織炎は多くが片側性で、一つの領域に発赤と腫脹が広がっていく。今回は両下肢に複数、散らばるように出ている点が合わない。写真でも境界のはっきりしない母指頭大くらいまでの紅斑が散在していて、潰瘍や紫斑、網目状の皮疹はみられない。
医学生医学生
表面の盛り上がりが少ないのに深くにしこりがある、というのは炎症が深いところにあるということですか。
ドクタードクター
その通り。これは皮下脂肪組織の炎症、つまり脂肪織炎の特徴なんだ。両下腿の前面に、境界不明瞭で熱感と圧痛を伴う皮下硬結性の紅斑が多発する――これが結節性紅斑の典型像だよ。
医学生医学生
病理学の講義で、結節性紅斑は「隔壁性脂肪織炎」と習った記憶があります。
ドクタードクター
よく覚えているね。脂肪小葉の間の隔壁を主体とした炎症で、原則として血管炎は伴わない。何らかの抗原に対する遅延型の過敏反応と考えられていて、若年〜中年の女性に多い。数週間で消え、打撲痕のように紫から黄褐色に色が変わることはあるけれど、潰瘍にならず瘢痕も残さないのが特徴だ。
医学生医学生
似た病気で、結核に関係する紅斑もありましたよね。
ドクタードクター
硬結性紅斑(Bazin)だね。こちらはふくらはぎ、つまり下腿の後面に好発し、血管炎を伴う小葉性脂肪織炎で潰瘍化しやすい。ほかに、リベドや潰瘍を伴う皮膚型結節性多発動脈炎、発熱と好中球増加を伴い顔や頸部、上肢に出るSweet症候群も鑑別に挙がるけれど、今回の分布と性状には合わない。
医学生医学生
ここまでで結節性紅斑と分かりましたが、問題は「基礎疾患」なんですよね。
ドクタードクター
そう、ここが本題だ。結節性紅斑は独立した病気というより、さまざまな原因に対する皮下脂肪の「反応」なんだ。代表的なのは溶連菌などの上気道感染、結核、エルシニアなどの腸管感染、経口避妊薬やサルファ剤といった薬剤、妊娠、そして全身性炎症性疾患。では選択肢のCrohn病はどうかな。
医学生医学生
消化器内科の実習で、炎症性腸疾患の腸管外合併症として結節性紅斑と壊疽性膿皮症を覚えました。
ドクタードクター
まさにそれ。Crohn病や潰瘍性大腸炎では、結節性紅斑が腸の炎症の活動性と並行して出たり引いたりすることが多い。皮疹の悪化が腸病変の再燃のサインになることもあるんだ。次にBehçet病は?
医学生医学生
主症状が口腔内アフタ、外陰部潰瘍、眼症状、皮膚症状の4つで、皮膚症状に結節性紅斑様皮疹が入っていたと思います。
ドクタードクター
正解。Behçet病の皮膚症状では、結節性紅斑様皮疹のほかに毛嚢炎様皮疹、皮下の血栓性静脈炎、注射部位に膿疱ができる針反応も押さえておこう。そしてサルコイドーシスだ。
医学生医学生
サルコイドーシスは肉芽腫の病気なので、皮膚にも肉芽腫ができるんですよね。結節性紅斑も肉芽腫なんでしょうか。
ドクタードクター
そこはよく混同されるところだね。皮膚サルコイドのような特異的病変は類上皮細胞肉芽腫からなるけれど、結節性紅斑は肉芽腫を伴わない非特異的な隔壁性脂肪織炎なんだ。組織像で区別される。そして、両側肺門リンパ節腫脹、結節性紅斑、発熱、足関節周囲を中心とした多関節痛が急性に出る病型をLöfgren症候群と呼び、自然軽快しやすいことも知っておきたい。
医学生医学生
残りの糖尿病と全身性強皮症は、下腿の皮膚病変はあっても結節性紅斑とは違うということですか。
ドクタードクター
その理解でいい。糖尿病の下腿病変なら、前脛骨部に黄色調で中央が萎縮した光沢のある局面をつくるリポイド類壊死症や、褐色斑の糖尿病性皮膚障害、足の潰瘍・壊疽が代表だ。全身性強皮症はRaynaud現象から始まり、手指の浮腫性腫脹を経て皮膚硬化が近位へ広がっていく病気で、爪上皮出血点や指尖潰瘍が特徴。どちらも結節性紅斑の基礎疾患にはならない。
医学生医学生
結節性紅斑を見たら、皮膚だけ診て終わりにせず、咽頭痛の既往や腹部症状、胸部X線、内服薬まで確認すべきということですね。
ドクタードクター
まさにそれが臨床での姿勢だ。治療は基礎疾患の検索と治療が優先で、皮疹そのものには安静、下肢挙上、NSAIDsなどの対症療法が中心になる。ヨウ化カリウムや副腎皮質ステロイドを使うこともある。原因が見つからない特発性の例も少なくないけれど、まずは感染症、薬剤、妊娠、サルコイドーシス、炎症性腸疾患、Behçet病を一通り考える習慣をつけておこう。

まとめ

両下腿伸側に、わずかに隆起し皮下に硬結を触れる、熱感・圧痛を伴う境界不明瞭な紅斑が多発する場合は結節性紅斑を考えます。結節性紅斑は血管炎を伴わない隔壁性脂肪織炎で、潰瘍化せず瘢痕を残さない点が、下腿後面に好発し潰瘍化しやすい硬結性紅斑や、リベドを伴う皮膚型結節性多発動脈炎との鑑別点です。本質は皮下脂肪の反応性病変であり、溶連菌感染、結核、薬剤、妊娠のほか、サルコイドーシス(Löfgren症候群)、Crohn病などの炎症性腸疾患、Behçet病が代表的な基礎疾患となります。一方、糖尿病ではリポイド類壊死症、全身性強皮症では皮膚硬化が主な皮膚病変で、結節性紅斑とは結びつきません。皮疹を入口に全身疾患を探る視点は、皮膚科に限らず内科診療全体で役立つ考え方です。

解答・解説

正解はb, c, eです

所見の整理

・35歳女性。2週間前から両下肢に複数の皮疹が出現した。 ・皮疹は皮膚面からわずかに隆起し、触れると皮下にしこり(浸潤)を感じ、熱感と圧痛を伴う。 ・写真では、下腿に境界がはっきりしない、母指頭大程度までの紅斑が散在している。潰瘍、紫斑、網目状の皮疹(リベド)はみられない。

診断へのプロセス

両下腿(特に前面・伸側)に、境界不明瞭で熱感・圧痛を伴う、皮下に硬結を触れる紅斑が多発する — これは結節性紅斑の典型像である。結節性紅斑は真皮よりも深い皮下脂肪組織に生じる炎症(脂肪織炎)であり、そのため表面からは「盛り上がりはわずかだが、深部に浸潤を触れる」紅斑として観察される。 鑑別として以下が挙がる。 ・蜂巣炎(蜂窩織炎):通常は片側性で、境界不明瞭な発赤・腫脹が広がる。両下肢に多発する点が合わない。 ・皮膚型結節性多発動脈炎:下腿に有痛性の皮下結節を生じるが、リベド(網状皮斑)、紫斑、潰瘍を伴うことが多い。 ・硬結性紅斑(Bazin硬結性紅斑):結核に関連し、下腿の後面(ふくらはぎ)に好発して潰瘍化しやすい。 ・Sweet症候群:発熱と好中球増加を伴い、顔面・頸部・上肢に好発する浮腫性の隆起性紅斑。発熱の記載がなく、分布も合わない。 以上から結節性紅斑と診断する。

設問への考え方

結節性紅斑は単独の疾患というより、さまざまな基礎疾患や誘因に対する皮下脂肪組織の反応性病変である。代表的な原因として、溶連菌などによる上気道感染、結核、エルシニアなどの腸管感染、薬剤(経口避妊薬、サルファ剤など)、妊娠、そして全身性炎症性疾患であるサルコイドーシス、炎症性腸疾患(Crohn病、潰瘍性大腸炎)、Behçet病がある。原因が特定できない特発性の例も少なくない。選択肢のうちこれに該当するのはCrohn病、Behçet病、サルコイドーシスである。

選択肢考察

  1. ×a.  糖尿病

    糖尿病は結節性紅斑の基礎疾患ではない。糖尿病に関連する下腿の皮膚病変としては、前脛骨部に黄色調で中央が萎縮した光沢のある局面をつくるリポイド類壊死症(脂肪類壊死症)、前脛骨部の褐色斑である糖尿病性皮膚障害(デルモパチー)、足趾・足底の潰瘍や壊疽(糖尿病性足病変)などがあり、本例の熱感・圧痛を伴う多発紅斑とは異なる。

  2. ○b.  Crohn病

    Crohn病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患は、結節性紅斑の代表的な基礎疾患である。結節性紅斑は炎症性腸疾患の腸管外合併症の一つで、腸管の炎症の活動性と並行して出没することが多い。同じく腸管外の皮膚病変として壊疽性膿皮症もみられる。

  3. ○c.  Behçet病

    Behçet病では、口腔内アフタ性潰瘍、外陰部潰瘍、眼症状(ぶどう膜炎)と並ぶ主症状の一つとして皮膚症状があり、その代表が結節性紅斑様皮疹である。ほかに毛嚢炎様皮疹(痤瘡様皮疹)、皮下の血栓性静脈炎、針反応(注射部位の膿疱形成)などがみられる。

  4. ×d.  全身性強皮症

    全身性強皮症の皮膚症状は、Raynaud現象に始まり、手指の浮腫性腫脹から皮膚硬化へと進み、硬化は手指から四肢の近位側・体幹へ広がる。ほかに爪上皮出血点、指尖の潰瘍・陥凹性瘢痕、毛細血管拡張、色素沈着・脱失などがみられるが、結節性紅斑の基礎疾患とはならない。

  5. ○e.  サルコイドーシス

    サルコイドーシスは結節性紅斑の重要な基礎疾患である。両側肺門リンパ節腫脹、結節性紅斑、発熱、多関節痛(特に足関節周囲)を急性に呈する病型はLöfgren症候群と呼ばれ、自然軽快しやすい。なお、皮膚サルコイドのようなサルコイドーシスの特異的皮膚病変は類上皮細胞肉芽腫からなる。これに対し結節性紅斑は肉芽腫を伴わない非特異的病変(隔壁性脂肪織炎)であり、両者は組織像で区別される。

結節性紅斑の概要

・皮下脂肪組織の小葉間隔壁を主体とする炎症(隔壁性脂肪織炎)で、原則として血管炎を伴わない。何らかの抗原に対する遅延型の過敏反応と考えられている。 ・若年〜中年の女性に多い。 ・両下腿の前面(伸側)に対称性に、鶏卵大程度までの境界不明瞭な紅斑・皮下結節が多発し、熱感と圧痛を伴う。瘙痒は乏しい。発熱、倦怠感、関節痛を伴うこともある。 ・個々の皮疹は数週間で消退し、色調が打撲痕のように紫〜黄褐色に変化することがあるが、潰瘍化せず瘢痕を残さない。

主な基礎疾患・誘因

・感染症:溶連菌などによる上気道感染、結核、エルシニアなどの腸管感染、真菌感染など ・薬剤:経口避妊薬、サルファ剤など ・妊娠 ・全身性炎症性疾患:サルコイドーシス(Löfgren症候群)、炎症性腸疾患(Crohn病、潰瘍性大腸炎)、Behçet病 ・悪性腫瘍(リンパ腫など) ・特発性(原因不明)

治療

基礎疾患の検索と治療を優先する。安静、下肢挙上、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの対症療法が中心で、ヨウ化カリウムや副腎皮質ステロイドを用いることもある。

鑑別のポイント

・硬結性紅斑(Bazin):結核に関連、下腿後面に好発、小葉性脂肪織炎で血管炎を伴い、潰瘍化・瘢痕形成しやすい。 ・皮膚型結節性多発動脈炎:有痛性皮下結節にリベド・潰瘍を伴う。 ・蜂巣炎:多くは片側性。 ・Sweet症候群:発熱・好中球増加、顔面・頸部・上肢の浮腫性隆起性紅斑、真皮の好中球浸潤。

POINT

・両下腿伸側の、境界不明瞭で熱感・圧痛を伴う多発紅斑(皮下に硬結)→ 結節性紅斑。 ・結節性紅斑は隔壁性脂肪織炎で、潰瘍化せず瘢痕を残さない。 ・基礎疾患:溶連菌感染、結核、薬剤(経口避妊薬など)、妊娠、サルコイドーシス、炎症性腸疾患(Crohn病・潰瘍性大腸炎)、Behçet病。 ・サルコイドーシス+結節性紅斑+両側肺門リンパ節腫脹+発熱・関節痛 → Löfgren症候群。 ・糖尿病の下腿病変はリポイド類壊死症、全身性強皮症は皮膚硬化が主体。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。