成績優秀なのに「自分勝手」と言われる少年―モデルカーへのこだわりが示す発達特性
第101回医師国家試験 G問題 第6問
国試問題にチャレンジ
12歳の男児。中学校で友達からいじめられると言って登校しなくなったため,母親に連れられて来院した。身体発達と言語発達とに問題なく,学校の成績も常に上位であった。しかし幼少期から,仲間を作ることができず,一人で活動することが多かった。相手と話す時も,目を見て話さず,感情の表出が乏しく,喜びをともにすることがなかった。その場の雰囲気を読んで発言し行動することが苦手で,学友から「自分勝手なやつ」と思われている。興味が限定的で,世界中のモデルカーを集めており,車の特徴をほとんどすべて記憶している。幻覚・妄想などの異常体験はない。 この疾患でみられるのはどれか。
- a.夜尿
- b.注意欠陥
- c.音声チック
- d.反復的な行動
- e.行為障害への発展
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
Asperger症候群(現在の自閉スペクトラム症)は、対人的相互反応の障害と、限定的・反復的な行動・興味・活動の2つを中核症状とし、言語発達や知的発達の遅れを伴わない点で従来の自閉症と区別されていました。特定の対象への強いこだわりや細部の記憶、手順への固執、常同運動、感覚の過敏・鈍麻はいずれも反復的・限定的な行動様式に含まれます。不注意はADHD、音声チックはTourette症候群、行為障害への進展はADHDから反抗挑戦性障害を経る経過で知られ、ASDとの併存はあっても中核症状ではありません。思春期にはいじめ、不登校、抑うつなどの二次障害が起こりやすく、特性の理解と環境調整が支援の中心となります。不登校などの表面的な問題の背後にある発達特性に気づく視点は、小児・思春期の診療で欠かせません。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・12歳男児。中学校でのいじめを訴えて不登校となった。 ・身体発達・言語発達に遅れはなく、学業成績は常に上位(知的発達の遅れはない)。 ・幼少期から仲間を作れず一人で活動することが多い。 ・話すときに視線を合わせない、感情表出が乏しい、喜びを他者と分かち合わない。 ・場の雰囲気を読んだ言動が苦手で、周囲から「自分勝手」とみなされている。 ・興味が限定的で、世界中のモデルカーを収集し、車の特徴をほぼすべて記憶している。 ・幻覚・妄想はない。
診断のプロセス
本症例の特徴は二つに整理できる。一つは対人的相互反応(社会的コミュニケーション)の質的な障害であり、視線が合わない、感情の共有がない、仲間関係を築けない、暗黙のルールや相手の意図を読み取れない、といった所見がこれに当たる。もう一つは限定的・反復的な興味と行動のパターンであり、特定の対象(モデルカー)への強いこだわりと、細部の網羅的な記憶がこれに当たる。この二つが幼少期から存在していれば、自閉症の中核症状がそろっていることになる。 さらに、言語発達と知的発達に遅れがない点から、出題当時の分類(DSM-IV、ICD-10の広汎性発達障害)では、自閉症(小児自閉症)ではなくAsperger症候群と診断される。現在のDSM-5ではこれらは自閉スペクトラム症(ASD)に統合され、本症例は「知的障害・言語障害を伴わない自閉スペクトラム症」に相当する。 幻覚・妄想がないことから、社会的引きこもりや奇異な行動を示しうる統合失調症は否定的である。また、いじめ・不登校は本症の二次的な問題として生じやすい。
設問の考え方
「この疾患でみられるもの」、すなわち中核症状(診断基準の構成要素)を選ぶ。Asperger症候群・自閉スペクトラム症の診断基準に含まれるのは、対人相互反応の障害と、限定的・反復的・常同的な行動、興味、活動である。
選択肢考察
- ×a. 夜尿
夜尿(夜尿症)は、5歳以降になっても睡眠中の尿失禁が続くものをいい、排尿機能の成熟の遅れ、夜間の抗利尿ホルモン分泌不足、膀胱容量の小ささなどが関与する。小児期によくみられる排泄の問題であるが、Asperger症候群の診断基準や特徴的症状には含まれない。
- ×b. 注意欠陥
不注意は多動性・衝動性とともに注意欠陥多動性障害(ADHD、現在は注意欠如・多動症)の中核症状である。自閉スペクトラム症とADHDは実際には併存が少なくなく、DSM-5では両者の併存診断が認められているが、不注意はAsperger症候群そのものを特徴づける症状ではない。本症例でも不注意や多動を示す記載はなく、むしろ興味のある対象には高い集中力を発揮している。
- ×c. 音声チック
チックは突発的・急速・反復的で非律動的な運動または発声であり、音声チックには咳払い、鼻鳴らし、叫び声、汚言(汚い言葉を口走る)などがある。多彩な運動チックと音声チックが1年以上続くものがTourette症候群である。自閉スペクトラム症にチックが併存することはあるが、Asperger症候群の中核症状ではない。また反復的ではあっても、チックは本人の意図によらない不随意運動であり、こだわりに基づく常同的行動とは区別される。
- ○d. 反復的な行動
限定的・反復的・常同的な行動、興味、活動は、対人相互反応の障害と並ぶAsperger症候群(自閉スペクトラム症)の中核症状であり、診断基準の必須項目である。具体的には、特定の対象への強く限定された興味(本症例のモデルカー収集や車の特徴の網羅的な記憶)、決まった手順や習慣への固執と変化への抵抗、手をひらひらさせるなどの常同運動、物を並べる・同じ遊びを繰り返すといった行動がみられる。DSM-5では感覚刺激への過敏さ・鈍感さもこの項目に含められた。
- ×e. 行為障害への発展
行為障害(素行症)は、他者の基本的権利や年齢相応の社会規範を反復・持続的に侵害する行動(暴力、動物虐待、破壊、窃盗、重大な規則違反など)を特徴とする。ADHDから反抗挑戦性障害を経て行為障害へ進展する経過(いわゆる破壊的行動障害の連鎖)が知られているが、Asperger症候群に特徴的な経過ではない。Asperger症候群では対人関係の困難から、いじめ被害、不登校、抑うつ・不安などの二次障害を生じることのほうが問題になりやすい。
自閉スペクトラム症(ASD)とAsperger症候群
・DSM-IV/ICD-10では、広汎性発達障害(PDD)の下位分類として、自閉性障害(小児自閉症)、Asperger障害(症候群)、特定不能の広汎性発達障害などが置かれていた。Asperger症候群は、自閉症と同様の対人相互反応の障害と限定的・反復的な行動様式をもちながら、臨床的に明らかな言語発達の遅れや知的発達の遅れを伴わないものと定義された。 ・DSM-5(2013年)ではこれらの下位分類を廃止し、自閉スペクトラム症に一本化した。診断は、(1)社会的コミュニケーションおよび対人的相互反応の持続的な障害、(2)限定された反復的な行動・興味・活動、の2領域に基づく。症状は発達早期から存在し、知的障害や言語障害の有無は併記する形になった。ICD-11も同様にASDへ統合している。
臨床的特徴
・対人面:視線が合いにくい、表情・身振りなど非言語的コミュニケーションの理解や使用が苦手、相手の気持ちや場の空気を読むことが難しい、字義どおりの解釈をしやすく冗談や比喩が通じにくい。 ・こだわり:特定の分野への強い興味と豊富な知識、手順や日課の変更に対する強い抵抗、常同運動。 ・感覚:音・光・触覚などへの過敏または鈍感。 ・男児に多い。
併存・二次障害
ADHD、学習障害、チック障害、てんかん(特に知的障害を伴う場合)などを併存しうる。思春期にはいじめ被害や孤立から、不登校、抑うつ、不安障害などの二次障害が起こりやすい。
対応
根本的な薬物療法はなく、特性の理解と環境調整、ソーシャルスキルトレーニング、学校との連携などの療育・支援が中心である。易刺激性や併存症状に対して薬物療法を補助的に行うことがある。
POINT
・Asperger症候群(現・自閉スペクトラム症)の中核症状は、対人相互反応の障害+限定的・反復的な行動・興味。 ・Asperger症候群は言語発達・知的発達の遅れを伴わない点で自閉症と区別された(DSM-5ではASDに統合)。 ・不注意・多動はADHD、音声チックはTourette症候群、行為障害への進展はADHD→反抗挑戦性障害の経過で知られる。 ・いじめ・不登校・抑うつなどの二次障害に注意する。
