病原体と病変を正しく結べ―「経路」で整理する母子感染
第101回医師国家試験 F問題 第71問
国試問題にチャレンジ
母体の感染と胎児・新生児疾患の組合せで正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.梅毒トレポネーマ ―― 骨軟骨炎
- b.B型肝炎ウイルス ―― 水頭症
- c.B群溶血性レンサ球菌 ―― 心奇形
- d.単純ヘルペスウイルス ―― 脳炎
- e.パルボウイルスB19 ―― 白内障
対話形式の解説
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ドクターまとめ
母子感染は経胎盤・産道・経母乳の3経路で整理すると理解しやすく、経胎盤感染は奇形や胎児水腫を、産道感染は新生児の感染症を起こすという違いがあります。梅毒トレポネーマは経胎盤感染で早期先天梅毒の骨軟骨炎(Parrotの仮性麻痺)を、単純ヘルペスウイルスは主に産道感染で致死率の高い新生児ヘルペス脳炎を起こします。水頭症はトキソプラズマ、白内障や心奇形は先天性風疹症候群、パルボウイルスB19は胎児貧血による胎児水腫、GBSは新生児敗血症・髄膜炎、HBVは無症候性キャリア化が代表的な帰結です。病原体ごとの感染経路と病変を結びつけて理解することは、妊婦健診でのスクリーニングや分娩方法の選択、新生児への予防投与といった実際の周産期管理に直結します。
解答・解説
正解はa, dです
母子感染(垂直感染)の病原体と、それによって胎児・新生児に生じる代表的な疾患の対応を問う問題である。 母子感染は感染が起こる時期・経路により、次の3つに分けて整理すると理解しやすい。 ①経胎盤感染(胎内感染):妊娠中に病原体が胎盤を通過して胎児に感染する。先天奇形や胎児水腫、先天性梅毒などを起こす。代表はTORCH症候群の病原体(トキソプラズマ、梅毒などその他、風疹ウイルス、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス)やパルボウイルスB19である。 ②産道感染:分娩時に産道の血液・分泌物に曝露して感染する。B型肝炎ウイルス、B群溶血性レンサ球菌(GBS)、単純ヘルペスウイルス、クラミジア、淋菌などが代表である。 ③経母乳感染:ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)など。 さらに「病原体ごとの代表的な病変」を覚えておく。梅毒は骨軟骨炎などの先天梅毒、単純ヘルペスウイルスは脳炎・全身播種、GBSは敗血症・髄膜炎、パルボウイルスB19は胎児貧血による胎児水腫、B型肝炎ウイルスは無症候性キャリア化、水頭症はトキソプラズマ、白内障や心奇形は風疹(先天性風疹症候群)が代表である。 この対応に照らすと、正しい組合せは「梅毒トレポネーマ―骨軟骨炎」と「単純ヘルペスウイルス―脳炎」である。
選択肢考察
- ○a. 梅毒トレポネーマ ―― 骨軟骨炎
梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)は胎盤を通過して胎児に感染し、先天梅毒を起こす。早期先天梅毒(おおむね生後2年以内に発症)では、長管骨の骨端部を侵す骨軟骨炎や骨膜炎が代表的で、疼痛のため四肢を動かさなくなる状態はParrot(パロー)の仮性麻痺と呼ばれる。このほか肝脾腫、水疱性発疹(梅毒性天疱瘡)、鼻炎(鼻閉・血性鼻汁)などがみられる。したがってこの組合せは正しい。
- ×b. B型肝炎ウイルス ―― 水頭症
B型肝炎ウイルス(HBV)の母子感染は主に分娩時の産道感染であり、胎児の形態異常や水頭症は起こさない。新生児期に感染すると免疫が未熟なため多くが無症候性キャリアとなり、将来の慢性肝炎・肝硬変・肝細胞癌の原因となる。まれに新生児・乳児期に劇症肝炎を発症することがあり、これはHBe抗体陽性の母親からの感染で起こりやすいとされる。出生直後にHBグロブリンとHBワクチンを投与する予防法が確立している。水頭症をきたす母子感染の代表は先天性トキソプラズマ症(ほかに頭蓋内石灰化、網脈絡膜炎)である。
- ×c. B群溶血性レンサ球菌 ―― 心奇形
B群溶血性レンサ球菌(group B Streptococcus:GBS、Streptococcus agalactiae)は妊婦の腟・直腸に常在することがあり、分娩時の産道感染により新生児に敗血症、肺炎、化膿性髄膜炎を起こす。細菌の産道感染であり、器官形成期の胎児に作用するものではないため、心奇形の原因とはならない。母子感染による心奇形の代表は先天性風疹症候群(動脈管開存症、末梢性肺動脈狭窄など)である。
- ○d. 単純ヘルペスウイルス ―― 脳炎
新生児ヘルペスの多くは、分娩時に母体の性器ヘルペス病変から産道感染して起こる。病型は、皮膚・眼・口に病変が限局する型、中枢神経型(脳炎)、全身型(肝・肺・副腎など多臓器に播種)に分けられ、脳炎や全身型は致死率が高く、救命できても神経学的後遺症を残しやすい。特に母体が分娩前後に初めて感染(初感染)した場合は、移行抗体がないため新生児の感染リスクが高い。分娩時に性器に病変がある場合は帝王切開を選択し、新生児にはアシクロビルを投与する。したがってこの組合せは正しい。
- ×e. パルボウイルスB19 ―― 白内障
パルボウイルスB19は伝染性紅斑(りんご病)の原因ウイルスで、赤血球の前駆細胞(赤芽球系前駆細胞)に感染してその増殖を抑える。妊婦が感染すると胎盤を通じて胎児に感染し、胎児の赤血球産生が停止して高度の貧血が起こり、心不全から胎児水腫・胎児死亡に至ることがある。明らかな先天奇形は起こさないとされ、白内障の原因ではない。白内障をきたす母子感染の代表は先天性風疹症候群である。
主な母子感染と胎児・新生児への影響
・梅毒トレポネーマ(経胎盤):早期先天梅毒(骨軟骨炎、Parrotの仮性麻痺、肝脾腫、梅毒性天疱瘡、鼻炎)、晩期先天梅毒(Hutchinson三徴:実質性角膜炎、内耳性難聴、Hutchinson歯) ・風疹ウイルス(経胎盤):先天性風疹症候群(白内障、心奇形、感音難聴が三徴)。妊娠初期の感染ほどリスクが高い。 ・トキソプラズマ(経胎盤):水頭症、網脈絡膜炎、頭蓋内石灰化 ・サイトメガロウイルス(経胎盤):小頭症、脳室周囲石灰化、感音難聴、肝脾腫、血小板減少。先天性感染症で最も頻度が高い。 ・パルボウイルスB19(経胎盤):胎児貧血、胎児水腫。胎児輸血が治療選択肢となる。 ・単純ヘルペスウイルス(主に産道):新生児ヘルペス(表在型、中枢神経型、全身型) ・B型肝炎ウイルス(主に産道):無症候性キャリア化、まれに劇症肝炎 ・B群溶血性レンサ球菌(産道):早発型(生後7日未満)の敗血症・肺炎、遅発型の髄膜炎 ・HTLV-1(主に母乳):成人T細胞白血病、HTLV-1関連脊髄症
主な予防・対策
・梅毒:妊娠初期の血清スクリーニング、ペニシリン系抗菌薬で治療 ・HBV:HBs抗原陽性の母親から出生した児に、出生後できるだけ早く(12時間以内が目安)HBグロブリンとHBワクチンを投与し、その後ワクチンを追加接種する ・GBS:妊娠後期(35〜37週頃)に腟・肛門周囲の培養検査を行い、陽性なら分娩時にペニシリン系抗菌薬を静注する ・単純ヘルペス:分娩時に性器病変がある、または初感染が分娩近くの場合は帝王切開 ・HTLV-1:妊婦抗体スクリーニングと、陽性例での授乳方法の指導
TORCH症候群
Toxoplasma、Others(梅毒、パルボウイルスB19、水痘など)、Rubella、Cytomegalovirus、Herpes simplex virusの頭文字をとったもので、胎内・周産期感染による先天異常や新生児疾患をまとめた概念である。
POINT
・梅毒→骨軟骨炎(Parrotの仮性麻痺)、単純ヘルペス→新生児脳炎・全身型感染。 ・水頭症・頭蓋内石灰化・網脈絡膜炎→トキソプラズマ。 ・白内障・心奇形・感音難聴→風疹(先天性風疹症候群)。 ・パルボウイルスB19→胎児貧血・胎児水腫(奇形は起こさない)。 ・GBS→新生児敗血症・髄膜炎、HBV→キャリア化(まれに劇症肝炎)。 ・感染経路(経胎盤・産道・母乳)と予防法をセットで覚える。
