StudyMed医師国家試験

熱は二度上がり、免疫は下がる―麻疹の経過と「忘れた頃の脳炎」

第101回医師国家試験 F問題 第70問

国試問題にチャレンジ

第101回 F問題 第70問

麻疹について正しいのはどれか。2つ選べ。

  1. a.白血球数は増加する。
  2. b.潜伏期は3週間である。
  3. c.細胞性免疫が抑制される。
  4. d.Koplik斑は発疹出現後にみられる。
  5. e.亜急性硬化性全脳炎の原因となる。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は麻疹の基本事項を総ざらいする問題だ。押さえるべき軸は3つ。臨床経過の順番、血液検査と免疫への影響、そして合併症だ。まず、麻疹の経過を時系列で言えるかな。
医学生医学生
カタル期、発疹期、回復期の3期ですよね。小児科の講義で、発熱が二峰性になると習いました。
ドクタードクター
その通り。感染から約10〜12日の潜伏期を経て、発熱・咳・鼻汁・結膜充血のカタル期が3〜4日続く。いったん熱が下がりかけてから再び高熱となり、耳の後ろや顔から体幹・四肢へ広がる融合傾向のある紅斑が出る。これが発疹期で、回復期には褐色の色素沈着を残して消えていく。
医学生医学生
潜伏期は3週間くらいかと思っていました。はしかはうつってから時間がかかるイメージがあって。
ドクタードクター
そこはよく混同されるところだね。麻疹は約10〜12日、発疹が出るまでで約14日だ。2〜3週間と長いのは風疹、水痘、流行性耳下腺炎。CBT対策で潜伏期の表を作った人も多いと思うけど、疾患ごとに並べて比べておくと間違えにくいよ。
医学生医学生
Koplik斑はどのタイミングでしたっけ。発疹と一緒に口の中にも出るのかと……。
ドクタードクター
これも重要なポイントだ。Koplik斑はカタル期の終わり、発疹が出る1〜2日前に、臼歯に面した頬粘膜に現れる周囲が赤い白色の小斑点だ。発疹が出てから2〜3日で消えてしまう。つまり発疹より先に出るからこそ、発疹前に麻疹を疑う手がかりになるんだ。発疹の後に出る、という理解は誤りだね。
医学生医学生
では血液検査です。ウイルス感染なので白血球は増えないイメージですが、合っていますか。
ドクタードクター
合っているよ。麻疹ウイルスはSLAM、つまりCD150という分子を受容体にしてリンパ球や樹状細胞に感染し、全身のリンパ組織で増殖する。その結果、白血球、特にリンパ球が減少する。もし麻疹の経過中に白血球が増えてきたら、細菌性肺炎や中耳炎などの二次感染を疑うきっかけになる。
医学生医学生
リンパ球がやられるということは、免疫も落ちるんですね。
ドクタードクター
そう、細胞性免疫が一時的に強く抑制される。これが正しい記述の一つだ。古くから知られているのが、麻疹の罹患中から回復後数週間にツベルクリン反応が陰性化することや、結核が悪化すること。最近では、麻疹にかかると既存の免疫記憶が失われる免疫健忘という現象も注目されている。
医学生医学生
免疫学の講義で、麻疹の後にほかの感染症にかかりやすくなるという話を聞いた記憶があります。もう一つの正解は合併症の亜急性硬化性全脳炎ですね。
ドクタードクター
正解。亜急性硬化性全脳炎、SSPEは麻疹罹患後、平均7〜10年ほど経って発症する遅発性の脳炎だ。脳内に残った変異麻疹ウイルスの持続感染が原因で、2歳未満など低年齢で麻疹にかかった子に多い。知能低下や性格変化で始まり、ミオクローヌスが出てくる。
医学生医学生
診断の決め手は何ですか。神経内科の実習で脳波を読む練習はしましたが……。
ドクタードクター
脳波では周期性同期性放電、PSDが特徴的だ。それから髄液中の麻疹抗体価が著明に上昇する。進行性で予後不良な疾患だから、ワクチンで麻疹そのものを防ぐことが最大の対策になる。
医学生医学生
急性期の合併症も整理しておきたいです。
ドクタードクター
死亡原因として最も重要なのは肺炎だ。ほかに中耳炎、クループ、心筋炎、そして発症から数日後に起こる急性脳炎が約1,000例に1例ある。急性脳炎とSSPEは時期がまったく違うので区別しておこう。
医学生医学生
臨床現場で麻疹を疑ったら、まず何に気をつければいいですか。
ドクタードクター
一番は感染対策だ。麻疹は空気感染するので、疑った時点で陰圧の個室に隔離し、対応するスタッフは免疫のある人に限る。最も感染力が強いのはカタル期で、まだ発疹が出ていない時期だから、Koplik斑や接触歴が早期に気づくための鍵になる。診断はIgM抗体やPCRで行い、5類感染症として直ちに届け出る。特異的な抗ウイルス薬はなく対症療法が中心だよ。
医学生医学生
予防はMRワクチンの2回接種ですね。曝露後の対応もありましたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。1歳時と小学校入学前の1年間に2回接種する。曝露後72時間以内ならワクチン接種、6日以内なら免疫グロブリン投与で発症予防や軽症化が期待できる。それから、ワクチン歴があって免疫が不十分な人では、Koplik斑がはっきりしない修飾麻疹という非典型的な経過をとることがある点も覚えておこう。学校は解熱後3日を経過するまで出席停止だ。

まとめ

麻疹は約10〜12日の潜伏期の後、カタル期・発疹期・回復期と進み、発熱は二峰性となります。Koplik斑は発疹出現の1〜2日前に頬粘膜に現れ、発疹に先行する点が早期診断の手がかりです。麻疹ウイルスはCD150を介してリンパ球に感染するため白血球(リンパ球)は減少し、細胞性免疫が抑制されて、ツベルクリン反応の陰性化や結核の悪化、細菌性二次感染の背景となります。遅発性合併症として、罹患後数年を経て亜急性硬化性全脳炎を起こし、脳波の周期性同期性放電と髄液の麻疹抗体価上昇が特徴です。空気感染する強い感染力と重い合併症を理解しておくことは、早期隔離やワクチン接種の推進という臨床・公衆衛生上の判断に直結します。

解答・解説

正解はc, eです

麻疹(はしか)の臨床経過・検査所見・合併症を問う問題である。 麻疹ウイルスはパラミクソウイルス科に属するRNAウイルスで、空気感染(飛沫核感染)・飛沫感染・接触感染で広がり、感染力は極めて強い。免疫のない人が感染するとほぼ全員が発症する。 臨床経過は次の3期に分けて理解する。 ①カタル期(約3〜4日):潜伏期(感染から発症まで約10〜12日)の後、発熱、咳・鼻汁(カタル症状)、結膜充血・眼脂が出現する。この時期の終わり、発疹が出る1〜2日前に、頬粘膜(臼歯に対面する部位)に白色の小斑点であるKoplik(コプリック)斑が現れる。感染力はこの時期が最も強い。 ②発疹期(約4〜5日):カタル期の終わりにいったん解熱傾向となった後、再び高熱となり(二峰性発熱)、耳後部・顔面から体幹・四肢へと広がる紅色の斑状丘疹が出現する。発疹は融合傾向を示す。 ③回復期:解熱し、発疹は褐色の色素沈着を残して消退する。 麻疹ウイルスはリンパ球などの免疫細胞表面の分子(SLAM、CD150)を受容体として感染し、全身のリンパ組織で増殖する。そのため白血球(特にリンパ球)が減少し、細胞性免疫が一時的に強く抑制される。この免疫抑制が、細菌性肺炎・中耳炎などの二次感染や、結核の悪化の背景となる。 合併症には肺炎(死亡原因として最も重要)、中耳炎、クループ、心筋炎、急性脳炎(発症から数日後、約1,000例に1例)があり、さらに数年後の遅発性合併症として亜急性硬化性全脳炎(SSPE)がある。 これらを踏まえると、「細胞性免疫の抑制」と「SSPEの原因」が正しい記述である。

選択肢考察

  1. ×a.  白血球数は増加する。

    麻疹ではウイルスがリンパ節・脾臓・胸腺などのリンパ組織で増殖し、リンパ球が障害されるため、白血球数(特にリンパ球数)はむしろ減少する。白血球増加がみられる場合は、細菌による二次感染(肺炎・中耳炎など)の合併を考える。ウイルス感染症で白血球減少をきたす代表として、麻疹のほか風疹、インフルエンザ、突発性発疹などがあり、細菌感染症では腸チフスが白血球減少をきたすことで知られる。

  2. ×b.  潜伏期は3週間である。

    麻疹の潜伏期は約10〜12日(発疹出現までは約14日)であり、3週間ではない。潜伏期が2〜3週間と長い代表は、風疹(14〜21日)、水痘(約2週間、最長21日)、流行性耳下腺炎(16〜18日)である。潜伏期の長さは混同しやすいので、疾患ごとに整理しておく。

  3. ○c.  細胞性免疫が抑制される。

    麻疹ウイルスはT細胞・B細胞・樹状細胞などに感染し、リンパ球の減少と機能低下を引き起こす。このため細胞性免疫が一過性に抑制され、罹患中から回復後数週間にわたり、ツベルクリン反応が陰性化(陰転化)したり、結核が悪化したりすることが古くから知られている。また細菌性肺炎・中耳炎などの二次感染や、皮膚粘膜カンジダ症(抗菌薬使用も一因)を合併しやすくなる。近年は、麻疹罹患後に既存の免疫記憶が失われ、他の感染症にかかりやすくなる現象(免疫健忘)も注目されている。

  4. ×d.  Koplik斑は発疹出現後にみられる。

    Koplik斑はカタル期の終わり、発疹が出現する1〜2日前に頬粘膜に現れる、周囲に発赤を伴う白色の小斑点である。発疹出現後2〜3日で消えるため、発疹より先行して現れることが特徴であり、発疹が出る前に麻疹を疑う重要な手がかりとなる。「発疹出現後にみられる」という記述は誤りである。

  5. ○e.  亜急性硬化性全脳炎の原因となる。

    亜急性硬化性全脳炎(subacute sclerosing panencephalitis:SSPE)は、麻疹罹患後、平均7〜10年ほどの潜伏期間を経て発症する遅発性の脳炎である。脳内に残った変異麻疹ウイルスの持続感染が原因で、2歳未満など低年齢で麻疹にかかった例に多い。知能低下・性格変化などで始まり、ミオクローヌス、脳波上の周期性同期性放電(PSD)、髄液中の麻疹抗体価の著明な上昇が特徴で、進行性で予後不良である。

麻疹の要点

・病原体:麻疹ウイルス(パラミクソウイルス科、RNAウイルス) ・感染経路:空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染、接触感染。基本再生産数は12〜18程度と非常に高い。 ・感染可能期間:発熱などの症状が出る1日前から、発疹出現後4〜5日頃まで。最も感染力が強いのはカタル期。 ・診断:臨床症状に加え、ペア血清でのIgG上昇、急性期のIgM抗体陽性、PCR法によるウイルス遺伝子の検出など。感染症法で全数把握の5類感染症であり、診断後直ちに届け出る。 ・治療:特異的な抗ウイルス薬はなく、対症療法が中心。 ・予防:弱毒生ワクチン(MRワクチン)を1歳時と小学校入学前1年間の2回接種する。曝露後72時間以内のワクチン接種、6日以内の免疫グロブリン投与で発症予防・軽症化が期待できる。 ・学校保健安全法:第2種感染症で、解熱した後3日を経過するまで出席停止。

合併症

肺炎(ウイルス性・細菌性。死亡原因として重要)、中耳炎、クループ、心筋炎、急性脳炎(1,000例に1例程度)、SSPE(数万例に1例程度、罹患後数年で発症)。

修飾麻疹

母体からの移行抗体が残る乳児や、ワクチン接種歴があり免疫が不十分な人が感染した場合にみられる軽症型で、潜伏期が延長し、Koplik斑がはっきりしないなど非典型的な経過をとる。

主な発疹性ウイルス感染症の潜伏期

麻疹:10〜12日 風疹:14〜21日 水痘:14〜16日(10〜21日) 流行性耳下腺炎:16〜18日 突発性発疹:約10日

POINT

・麻疹はカタル期→発疹期→回復期と進み、発熱は二峰性となる。 ・Koplik斑は発疹出現の1〜2日前に頬粘膜に出現する(発疹より先)。 ・潜伏期は約10〜12日。2〜3週間と長いのは風疹・水痘・流行性耳下腺炎。 ・白血球(リンパ球)は減少し、細胞性免疫が抑制される(ツベルクリン反応陰転化、結核の悪化、二次感染)。 ・遅発性合併症としてSSPEを起こす(罹患後数年、髄液麻疹抗体価上昇、脳波で周期性同期性放電)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。