目薬と間違えて水虫薬―電話口でまず伝えるべき「水道水で洗って」
第101回医師国家試験 D問題 第14問
国試問題にチャレンジ
40歳の女性。夜間当直に電話をかけてきた。当直医(A医師)と患者との会話を以下に示す。 医師 「当直医のAです。どうしましたか」 患者 「眼が痛いのです」 医師 「もう少し詳しく話してもらえますか」 患者 「目薬と間違えて,他の薬を目にさしてしまいました」 医師 「何の薬ですか」 患者 「液状の水虫薬です」 医師 「どれくらい前ですか」 患者 「さしたばかりです」 医師 「痛みはどんな感じですか」 患者 「しみるように痛みます」 医師 「病院まではどれくらいで来られますか」 患者 「夫の運転する車で30分で着きます」 指示として適切なのはどれか。
- a.「そのまま急いで来てください」
- b.「目を冷やしながら来てください」
- c.「水道水で目を洗ってから来てください」
- d.「薄めたお酢で目を洗ってから来てください」
- e.「2,3時間様子をみて痛みが続けば来てください」
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
化学物質が眼に入った場合、障害の程度は原因物質の種類とともに接触時間に大きく左右されるため、受診前に直ちに大量の水で洗い流すことが最も重要な初期対応です。家庭では生理食塩水を待つ必要はなく、清潔な水道水でまぶたを開いて15分程度以上洗眼してから受診させます。冷却だけ、何もせず急いで来院、数時間の様子見はいずれも原因物質が残り障害を進行させ、酢などによる中和は熱の発生や薬剤自体の刺激でかえって悪化させるおそれがあるため行いません。医療機関では生理食塩水で洗眼しpHを確認、フルオレセイン染色で角膜障害を評価し、特にアルカリ外傷は深部に浸透して重症化しやすい点に注意が必要です。電話相談では原因物質・時間・症状・受診までの時間を確認し、その間にできる最善の処置を具体的に伝える姿勢が求められます。
解答・解説
正解はcです
状況の整理
夜間の電話相談である。40歳の女性が、目薬と間違えて液状の水虫薬を点眼してしまった。点眼した直後で、しみるような眼痛がある。病院までは車で30分かかる。
病態の考え方
液状の水虫薬には、抗真菌薬のほかにエタノールなどのアルコール類、角質を溶かすサリチル酸、かゆみ止め、局所麻酔薬などが含まれていることが多く、眼に入ると角膜・結膜の上皮を傷害し、化学的な結膜炎や角膜上皮障害(表層角膜炎)を起こしうる。しみるような痛みはこの刺激・傷害を反映している。点眼直後であれば、結膜嚢(まぶたと眼球の間のすき間)にはまだ薬液が残っており、接触が続くほど障害は進行する。
設問の考え方
化学物質が眼に入った場合の初期対応の原則は、一刻も早く大量の水で洗い流して原因物質を除去・希釈することである。眼の障害の程度は、原因物質の種類とともに接触時間に大きく左右されるため、受診までの30分間を何もせずに過ごすのは望ましくない。清潔な水であれば水道水で十分であり、その場で直ちに洗眼(目安として15分程度以上)させ、そのうえで受診させるのが最も適切な電話指示となる。受診時には誤って使った薬の容器や説明書を持参させると、成分の確認に役立つ。
選択肢考察
- ×a. 「そのまま急いで来てください」
受診させること自体は正しいが、到着まで30分かかり、その間、結膜嚢内に残った薬液が角膜・結膜に接触し続けて障害が進む。来院前に自宅で直ちに洗眼させるべきであり、何の処置もせずに来院させる指示は不十分である。
- ×b. 「目を冷やしながら来てください」
冷却によって痛みが多少和らぐことはあっても、原因となっている薬液は除去されず、角膜・結膜の障害は進行する。化学物質の誤点眼に対する処置として意味がなく、優先されるのは洗眼である。
- ○c. 「水道水で目を洗ってから来てください」
化学物質が眼に入ったときの応急処置の原則は、直ちに大量の水で洗眼して原因物質を除去・希釈することである。医療機関では生理食塩水などで洗眼するが、家庭では入手を待つより、すぐ使える水道水で洗うことが優先される。まぶたを指で開き、眼をこすらずに流水で十分な時間(15分程度以上)洗ってから受診させる。
- ×d. 「薄めたお酢で目を洗ってから来てください」
酸や塩基で「中和」しようとする処置は、濃度の調整が難しく、酢酸そのものによる眼の障害や中和反応に伴う熱の発生などで、かえって傷害を悪化させるおそれがある。また水虫薬はアルカリ性の薬剤ではなく、中和を考える根拠もない。化学外傷では中和ではなく、水による洗浄が原則である。
- ×e. 「2,3時間様子をみて痛みが続けば来てください」
誤点眼直後で痛みもあり、薬液が残っている状態で数時間放置すれば、角膜・結膜の障害が進行するおそれがある。様子をみる理由はなく、直ちに洗眼させたうえで眼の状態を診察する必要がある。
眼の化学外傷の初期対応
・現場で直ちに大量の流水で洗眼する(受診前の家庭での処置が最も重要)。水道水、なければ飲用に適した清潔な水でよい。 ・まぶたを開いて眼球をいろいろな方向に動かしながら洗い、結膜嚢の奥まで洗い流す。眼をこすらない。 ・コンタクトレンズを装用していれば外す。 ・医療機関では点眼麻酔下に生理食塩水などで十分に洗眼し、結膜嚢内のpHを試験紙で確認して中性に近づくまで続ける。上眼瞼を翻転して異物や残留物がないかも確認する。 ・その後、フルオレセイン染色で角膜上皮障害の範囲を評価し、抗菌薬点眼などで治療する。
酸とアルカリの違い
・アルカリ(石灰、セメント、洗剤など): 組織を溶かしながら深部へ浸透するため重症化しやすく、特に長時間の洗眼が必要である。 ・酸: 組織のたんぱく質を凝固させ、それが浸透を妨げるため、アルカリより障害は比較的浅いことが多い。 どちらの場合も、中和剤は用いず水で洗浄するのが原則である。
誤点眼を起こしやすい薬剤
目薬と形の似た容器に入った水虫薬、接着剤、つめ用の液体、消毒薬などの誤点眼が報告されている。高齢者や夜間の暗い場所での使用時に起こりやすく、容器を分けて保管することが予防につながる。
電話相談での対応の考え方
電話での指示では、原因物質・曝露からの時間・症状・受診までの時間を確認し、受診までの間に家庭でできる最も有効な処置(本例では洗眼)を具体的に伝えることが重要である。
POINT
・化学物質が眼に入ったら、まず直ちに大量の水(水道水でよい)で洗眼し、その後受診させる。 ・障害の程度は接触時間に左右されるため、受診前の洗眼が重要。 ・酸・アルカリによる中和は行わない。 ・アルカリ外傷は深部に浸透し重症化しやすい。 ・医療機関では生理食塩水で洗眼し、pHを確認しながら十分に洗う。
