StudyMed医師国家試験

採血管の中で起きる「偽の異常値」―溶血でLDが跳ね上がるわけ

第101回医師国家試験 C問題 第27問

国試問題にチャレンジ

第101回 C問題 第27問

溶血が検査値に影響を与えるのはどれか。

  1. a.LD
  2. b.尿酸
  3. c.中性脂肪
  4. d.ナトリウム
  5. e.カルシウム

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、検体の溶血がどの検査値に影響するかという問題だ。考え方の軸はひとつで、「その成分が赤血球の中に、血漿と比べてどれだけ多く含まれているか」。ここに注目すれば答えは自然に出てくるよ。
医学生医学生
溶血というと、溶血性貧血のような体の中で赤血球が壊れる病気をイメージしてしまいます。
ドクタードクター
それも大事だけど、ここで問われているのは主に試験管内溶血だ。細い針で強く吸引したり、検体を激しく振ったり、全血のまま長時間放置したりすると、採血管の中で赤血球が壊れて中身が血清に漏れ出す。その結果、実際の体内の値とは違う「見かけ上の異常値」が出てしまうんだ。
医学生医学生
臨床実習で採血をしたとき、検査室から「溶血のため再採血」と連絡が来たことがあります。
ドクタードクター
よくある話だね。では、赤血球の中身が漏れ出たとき、大きく値が動くのはどんな成分だと思う?
医学生医学生
赤血球の中に多くて、血漿には少ない成分ですね。
ドクタードクター
その通り。その代表がLD、乳酸脱水素酵素だ。解糖系の最後で働く酵素で、ほぼすべての細胞にあり、赤血球内の濃度は血漿の約160倍とされる。だから、ほんのわずかな溶血でも血清LDは見かけ上大きく上昇する。これが正解だよ。
医学生医学生
160倍もあるなら、少し壊れただけでも影響が出るのは納得です。カリウムも溶血で上がると習いました。
ドクタードクター
そう、カリウムは赤血球内に血漿の約20〜25倍含まれていて、溶血による偽高カリウム血症は非常に有名だ。ほかにASTや酸性ホスファターゼも溶血で上がる。では他の選択肢を見ていこう。ナトリウムはどうかな。
医学生医学生
ナトリウムは細胞外に多い陽イオンなので、赤血球が壊れても増えないはずです。
ドクタードクター
正解。血漿中は約140 mEq/Lなのに対し、赤血球内は十数mEq/L程度と低い。漏れ出しても血清の値を押し上げることはなく、通常の溶血の程度なら影響は無視できる。カリウムと逆の分布だと覚えておこう。カルシウムも同じ考え方だ。
医学生医学生
カルシウムは骨に多いですが、赤血球の中にはあまりないんでしょうか。
ドクタードクター
赤血球内のカルシウムはCa2+ポンプで細胞外へくみ出されているから、濃度は極めて低い。だから溶血してもほとんど変わらない。血清カルシウムで気をつけるべきなのはむしろアルブミンの影響で、低アルブミン血症では補正値で評価する必要がある。
医学生医学生
尿酸と中性脂肪は、もともと血漿中にある成分ですよね。
ドクタードクター
そう。尿酸はプリン体の最終代謝産物で血漿中に溶けて存在し、中性脂肪はカイロミクロンやVLDLといったリポ蛋白に乗って血漿中を運ばれる。どちらも赤血球内に高濃度で蓄えられているわけではないので、溶血の影響はほとんど受けない。中性脂肪で注意すべきなのは食事の影響で、原則として空腹時に採血して評価するんだ。
医学生医学生
つまり「赤血球内と血漿の濃度比」で、影響の大きさを判断すればいいんですね。
ドクタードクター
その理解で十分だ。臨床の注意点も押さえておこう。全血を冷蔵すると、目に見える溶血がなくても赤血球のNa+/K+-ATPaseが働かなくなり、カリウムが血漿へ移って偽高カリウム血症になることがある。採血後の検体の扱いも検査値に直結するんだ。
医学生医学生
カリウムが高く出たとき、本当に高いのか検体の問題なのかを見極めないと、不要な治療をしてしまいそうですね。
ドクタードクター
まさにそこが大事。逆に、生体内の溶血を疑うなら、LD上昇に加えて間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下、網赤血球増加がそろうかを確認する。LD単独の上昇だけでなく、他の所見と組み合わせて「検体の溶血か、病態としての溶血か」を区別する習慣をつけよう。

まとめ

採血時の強い吸引や検体の激しい振とう、長時間放置などで赤血球が壊れる試験管内溶血は、検査値の見かけ上の変動の代表的な原因です。影響の大きさは成分の「赤血球内濃度/血漿中濃度」の比で決まり、赤血球内に血漿の約160倍含まれるLDは、わずかな溶血でも著明な偽高値を示します。カリウム(約20〜25倍)やASTも溶血で上昇する一方、赤血球内濃度の低いナトリウム・カルシウムや、主に血漿中に存在する尿酸・中性脂肪はほとんど影響を受けません。全血の冷蔵による偽高カリウム血症にも注意が必要で、生体内の溶血ではハプトグロビン低下や間接ビリルビン上昇なども伴います。検査値の異常が検体由来か病態由来かを見極める視点は、不要な検査や治療を避けるための基本的な臨床スキルです。

解答・解説

正解はaです

採血時に細い針で強く吸引する、検体を激しく振る、長時間放置する、冷蔵・凍結するなどの操作によって赤血球が壊れると、赤血球内の成分が血清(血漿)中へ漏れ出る。これを試験管内溶血(in vitro溶血)といい、検査値の見かけ上の変動(偽高値など)の代表的な原因である。 溶血の影響を受けやすいかどうかは、「その成分の赤血球内濃度が血漿中濃度よりどれだけ高いか」で判断できる。赤血球内に血漿よりはるかに高濃度で含まれる成分は、わずかな溶血でも血清中の値を大きく押し上げる。代表がLD(乳酸脱水素酵素)で、赤血球内の濃度は血漿の約160倍とされ、溶血によって著明な偽高値を示す。ほかにカリウム(赤血球内は血漿の約20〜25倍)、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、酸性ホスファターゼなども溶血で上昇する。 反対に、赤血球内濃度が血漿と同等以下の成分(ナトリウム、カルシウムなど)や、主に血漿中に存在する成分(中性脂肪、尿酸など)は、溶血による影響をほとんど受けない。

選択肢考察

  1. ○a.  LD

    LD(lactate dehydrogenase:乳酸脱水素酵素)は解糖系の最終段階で働く酵素で、ほぼすべての細胞に存在し、赤血球内にも豊富に含まれる。赤血球内の濃度は血漿の約160倍とされるため、採血後の試験管内溶血でも血清LDは見かけ上著しく上昇する。臨床的にも溶血性貧血ではLD(特に赤血球に多いアイソザイムLD1・LD2)が上昇し、溶血の指標として用いられる。したがって検体の溶血は、LDの測定値に大きな影響を与える。

  2. ×b.  尿酸

    尿酸はプリン体の最終代謝産物で、血漿中に溶けて存在し、赤血球内に高濃度で蓄えられているわけではないため、溶血による影響はほとんどない。尿酸値を変動させる要因としては、性差(男性で高い)、年齢、食事(プリン体・アルコール・果糖)、飲酒、脱水、薬剤(サイアザイド系利尿薬など)がある。

  3. ×c.  中性脂肪

    中性脂肪(トリグリセリド)はリポ蛋白(カイロミクロンやVLDL)に含まれて血漿中を運ばれており、溶血の影響はほとんど受けない。一方、食事の影響を強く受け、食後には大きく上昇するため、原則として10時間以上の絶食後の空腹時採血で評価する(空腹時150 mg/dL以上で高トリグリセリド血症)。

  4. ×d.  ナトリウム

    ナトリウムは主に細胞外液に分布する陽イオンで、血漿中濃度は約140 mEq/Lであるのに対し、赤血球内濃度は十数mEq/L程度と低い。したがって溶血が起きても血清ナトリウムを上昇させることはなく、通常の溶血の程度では測定値への影響は無視できる。細胞内に多いカリウムとは逆の分布である点を押さえておく。

  5. ×e.  カルシウム

    体内のカルシウムの約99%は骨・歯に存在し、残りの大部分は細胞外液中にある。赤血球内のカルシウム濃度は、Ca2+ポンプにより細胞外へくみ出されているため極めて低い。そのため溶血しても血清カルシウム値はほとんど変化しない。なお血清カルシウムは血清アルブミン濃度の影響を受けるため、低アルブミン血症では補正値で評価する。

溶血で偽高値となる主な検査項目

・LD(赤血球内は血漿の約160倍とされる) ・カリウム(赤血球内は約100 mEq/L前後で、血漿の約20〜25倍) ・AST、酸性ホスファターゼ、無機リン、マグネシウムなど ・遊離ヘモグロビン(血清が赤色調になる) なお、ALTも赤血球内に含まれるが、ASTに比べ影響は小さい。

溶血の影響を受けにくい項目

ナトリウム、カルシウム、クロール、尿酸、中性脂肪、コレステロールなど(ただし著しい溶血では、遊離ヘモグロビンの色が比色法による測定に干渉し、一部の項目で誤差が出ることがある)。

試験管内溶血を防ぐ採血・検体処理の注意

・細すぎる針や強い陰圧での吸引を避ける。 ・採血後の検体を激しく振らない(抗凝固薬との混和は静かに転倒混和)。 ・全血のまま長時間放置したり冷蔵したりしない。全血を冷蔵すると、目に見える溶血がなくても赤血球のNa+/K+-ATPaseが働かなくなり、カリウムが血漿中へ移行して偽高カリウム血症となる。

臨床での溶血との区別

溶血性貧血など生体内での溶血でも、LD上昇、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下、網赤血球増加などがみられる。検査値の異常が検体の溶血によるものか、生体内の病態によるものかを区別することが重要である。

POINT

・溶血の影響の大小は「赤血球内濃度/血漿中濃度」の比で決まる。 ・LD(約160倍)、カリウム(約20〜25倍)、ASTは溶血で偽高値となる代表項目。 ・ナトリウム、カルシウムは赤血球内濃度が低く、尿酸・中性脂肪は血漿中に存在するため、溶血の影響をほとんど受けない。 ・中性脂肪は食事の影響を強く受けるため空腹時に採血する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。