「ヒトの血だけ」を見抜く検査―免疫法便潜血が大腸癌検診の主役になった理由
第101回医師国家試験 C問題 第28問
国試問題にチャレンジ
免疫法による便潜血検査の特徴はどれか。
- a.保存条件の影響を受けにくい。
- b.腸内細菌の影響を受けにくい。
- c.食事制限が必要である。
- d.特異度が高い。
- e.感度が低い。
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
免疫法による便潜血検査は、抗ヒトヘモグロビン抗体でヒトのヘモグロビンだけを検出するため、食肉や野菜、鉄剤による偽陽性がなく特異度が高く、食事制限も不要です。大腸からの出血に対する感度も化学法と同等以上で、40歳以上を対象とした大腸癌検診では免疫法2日法が標準となっています。一方で、ヘモグロビンの抗原性を検出する原理上、高温・長時間の保存や腸内細菌・消化液による分解の影響を受けやすく、上部消化管出血は検出されにくいという弱点があります。1日でも陽性なら全大腸内視鏡検査で精査することが原則で、再検査で代用してはいけません。検査の原理から長所と限界を導けるようにしておくことが、検診結果を正しく解釈し患者に説明する力につながります。
解答・解説
正解はdです
便潜血検査は、肉眼ではわからない微量の血液が便中に混じっていないかを調べる検査であり、日本では大腸癌検診(40歳以上を対象)の一次スクリーニングとして用いられている。検出方法には大きく分けて化学法と免疫法の2種類がある。 化学法(グアヤック法など)は、ヘモグロビン(Hb)のヘム部分がもつペルオキシダーゼ様活性を利用して発色させる方法である。この反応はヒトの血液に限らず、食肉中の動物の血液や、一部の野菜・果物に含まれるペルオキシダーゼ、鉄剤などにも反応してしまうため、偽陽性が多く、検査前の食事制限が必要となる。 一方、免疫法はヒトHbに対する抗体を用いて、ヒトHbそのものを抗原抗体反応で検出する方法である。動物の血液や植物由来の物質には反応しないため、偽陽性が少なく特異度が高い。食事制限も不要である。感度も化学法と同等かそれ以上とされ、現在の大腸癌検診では免疫法による2日法(2日分の便を採取する方法)が標準となっている。 ただし、免疫法は「Hbのタンパク質としての立体構造(抗原性)」を検出しているため、Hbが変性・分解されると反応しなくなるという弱点がある。この点を踏まえると、保存条件や腸内細菌の影響に関する選択肢の正誤を判断できる。
選択肢考察
- ×a. 保存条件の影響を受けにくい。
誤り。免疫法は抗体がHbの抗原性(タンパク質の立体構造)を認識して検出するため、採便後に高温や室温で長く置かれるとHbが変性し、陽性度が低下して偽陰性の原因となる。したがって保存条件の影響を受けやすい。このため採便後は冷暗所に保存し、できるだけ速やかに提出することが求められる。化学法はヘムの化学反応を利用するので、Hbのタンパク部分が変性しても比較的反応が保たれる。
- ×b. 腸内細菌の影響を受けにくい。
誤り。腸管内に出た血液中のHbは、腸内細菌や消化酵素によって分解・変性を受け、抗原性が失われる。免疫法はこの抗原性を指標にしているため、腸内細菌による分解の影響を受けやすい。特に口側(上部消化管や右側結腸)からの出血は腸管内を通過する時間が長く、分解を受けやすいため検出されにくい。
- ×c. 食事制限が必要である。
誤り。免疫法はヒトHbに特異的な抗体を用いるため、牛や豚などの食肉に含まれる動物Hbや、野菜に含まれるペルオキシダーゼ、鉄剤などには反応しない。そのため検査前の食事制限は不要であり、受診者の負担が少ないことが大きな利点である。食事制限(肉類・一部の野菜・鉄剤などの摂取制限)が必要なのは化学法である。
- ○d. 特異度が高い。
正解。特異度とは「疾患のない人を正しく陰性と判定する割合」であり、偽陽性が少ないほど高くなる。免疫法はヒトHbのみを抗原抗体反応で検出するため、食事中の動物Hbや植物由来ペルオキシダーゼによる偽陽性が起こらず、化学法に比べて特異度が高い。これが免疫法の最も重要な特徴であり、大腸癌検診に広く採用されている理由の一つである。
- ×e. 感度が低い。
誤り。免疫法の下部消化管出血に対する感度は化学法と同等かそれ以上であり、「感度が低い」とはいえない。十分な感度と高い特異度を併せ持つことから大腸癌スクリーニングの標準検査となっている。ただし上部消化管出血では、Hbが胃酸や消化酵素、腸内細菌によって変性・分解されて抗原性を失うため、免疫法では検出されにくく、この点に限れば化学法に劣る。
化学法と免疫法の比較
化学法(グアヤック法、オルトトリジン法など) ・原理: ヘムのペルオキシダーゼ様活性による発色反応 ・ヒトHbに特異的でない(動物の血液、野菜のペルオキシダーゼ、鉄剤などでも陽性になる) ・食事制限が必要で、偽陽性が多く特異度が低い ・Hbの変性の影響を受けにくいため、上部消化管出血も検出できる 免疫法(ラテックス凝集法など) ・原理: 抗ヒトHb抗体による抗原抗体反応 ・ヒトHbに特異的で、食事制限は不要、特異度が高い ・下部消化管出血に対する感度も良好 ・Hbの変性(高温・長時間の保存、腸内細菌や消化液による分解)の影響を受けやすく、上部消化管出血は検出されにくい
大腸癌検診
日本の対策型大腸癌検診は、40歳以上を対象に年1回、免疫法による便潜血検査2日法で行われる。1日でも陽性であれば要精検とし、精密検査は全大腸内視鏡検査が原則である。「もう一度便潜血検査を行う」ことは精密検査の代わりにならない。
感度と特異度
感度: 疾患のある人のうち検査が陽性になる割合(見逃しが少ないほど高い) 特異度: 疾患のない人のうち検査が陰性になる割合(偽陽性が少ないほど高い)
POINT
・免疫法はヒトHbに特異的な抗体を用いるため、特異度が高く食事制限は不要である。 ・免疫法はHbの抗原性を検出するので、保存状態(高温・長時間)や腸内細菌・消化液による分解の影響を受けやすい。 ・上部消化管出血は免疫法では検出されにくく、下部消化管(大腸)出血の検出に適する。 ・大腸癌検診は免疫法2日法が標準で、陽性なら全大腸内視鏡検査で精査する。
