「漏れ出る酵素」と「作られるたんぱく」―検査値で見抜く低栄養
第101回医師国家試験 B問題 第64問
国試問題にチャレンジ
低栄養の指標となるのはどれか。2つ選べ。
- a.ALP
- b.AST
- c.アミラーゼ
- d.アルブミン
- e.トランスフェリン
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
低栄養の指標となるのは、肝臓でアミノ酸を材料に合成される血漿たんぱくで、たんぱく質やエネルギーの不足により合成が減って低下するアルブミンとトランスフェリンが代表です。アルブミンは半減期約3週間で長期的な栄養状態を、トランスフェリンは約7〜10日で最近の変化を反映し、プレアルブミンやレチノール結合たんぱくとともに急速代謝回転たんぱくとして栄養療法の効果判定にも使われます。一方、ALP・AST・アミラーゼは臓器障害で血中に増える酵素であり、栄養状態の指標ではありません。ただし内臓たんぱくは炎症、肝疾患、ネフローゼ症候群、脱水の影響を受け、トランスフェリンは鉄欠乏で上昇するため、身体計測や食事摂取量と組み合わせて総合的に評価することが大切です。検査値が何を反映しているのかを理解しておくことは、栄養管理を含む日常診療で検査結果を正しく読み解く基礎になります。
解答・解説
正解はd, eです
栄養状態、とくにたんぱく質の栄養状態を反映する血液検査項目を選ぶ問題である。 肝臓は食事から得たアミノ酸を材料にさまざまな血漿たんぱくを合成している。たんぱく質やエネルギーの摂取が不足すると、材料が足りなくなってこれらのたんぱくの合成が減り、血中濃度が下がる。このため、肝臓で作られる血漿たんぱくは「内臓たんぱく」の指標として栄養評価に使われる。代表的なものはアルブミン、トランスフェリン、トランスサイレチン(プレアルブミン)、レチノール結合たんぱくである。 これらは血中半減期が異なり、半減期が長いものほど長期間の栄養状態を、短いものほど最近の栄養状態の変化を反映する。半減期の短いたんぱくは急速代謝回転たんぱく(rapid turnover protein:RTP)と呼ばれる。 一方、ALP、AST、アミラーゼはいずれも臓器が障害されたときに血中に漏れ出る(あるいは産生が増える)酵素で、肝胆道系・心筋・骨格筋・膵臓などの障害の指標であり、栄養状態の指標ではない。 したがって、低栄養の指標となるのはアルブミンとトランスフェリンである。
選択肢考察
- ×a. ALP
ALP(アルカリホスファターゼ)は肝・胆道、骨、胎盤、小腸などに分布する酵素である。閉塞性黄疸や肝内胆汁うっ滞などの胆汁うっ滞で上昇するほか、骨の新生が盛んな状態(成長期の小児、骨折の治癒過程、副甲状腺機能亢進症、骨転移、骨Paget病など)や妊娠後期でも上昇する。どの臓器に由来するかはアイソザイム分析で区別する。低栄養の指標としては用いない。
- ×b. AST
AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)は肝臓のほか、心筋、骨格筋、赤血球にも多く含まれる酵素で、細胞が壊れると血中に漏れ出て上昇する。肝障害、心筋梗塞、筋疾患(横紋筋融解症、筋ジストロフィーなど)、溶血の指標となる。肝臓に特異性が高いのはALTである。栄養状態の指標ではない。
- ×c. アミラーゼ
アミラーゼはでんぷんを分解する消化酵素で、主に膵臓と唾液腺から分泌される。急性膵炎、慢性膵炎の急性増悪、膵癌、耳下腺炎などの膵臓・唾液腺の炎症や腫瘍で上昇し、腎不全やマクロアミラーゼ血症でも高値となる。由来は膵型(P型)と唾液腺型(S型)のアイソザイムで区別できる。低栄養の指標ではない。
- ○d. アルブミン
アルブミンは肝臓で合成される血漿たんぱくで、血清総たんぱくの約60%を占め、膠質浸透圧の維持や薬物・ホルモンなどの運搬を担う。たんぱく質・エネルギーの摂取不足や消化吸収障害で合成が減り低下するため、栄養評価の基本的な指標である(基準値はおよそ3.8〜5.2 g/dL、3.5 g/dL未満で低栄養を疑う)。ただし半減期が約3週間(約21日)と長いので、数週間〜数か月の長期的な栄養状態を反映し、短期間の変化はとらえにくい。また、肝硬変などの合成低下、ネフローゼ症候群や蛋白漏出性胃腸症による喪失、炎症(アルブミンは炎症時に産生が減る「負の急性期たんぱく」)、脱水による見かけ上の上昇などの影響を受けるため、それらを考慮して解釈する。
- ○e. トランスフェリン
トランスフェリンは肝臓で合成される鉄の運搬たんぱくで、半減期は約7〜10日とアルブミンより短い急速代謝回転たんぱく(RTP)の一つである。低栄養で合成が減って低下し、アルブミンより早く最近1〜2週間の栄養状態の変化を反映するため、栄養療法の効果判定にも使われる。肝障害、感染症・炎症、ネフローゼ症候群でも低下する。一方で鉄欠乏状態では合成が増えて上昇するため、鉄欠乏性貧血を合併している場合は栄養状態を過大評価しうる点に注意する。
栄養評価に用いる血漿たんぱく(内臓たんぱく)と半減期
・アルブミン:約21日(2〜3週間) ・トランスフェリン:約7〜10日 ・トランスサイレチン(プレアルブミン):約2〜3日 ・レチノール結合たんぱく:約半日(12〜16時間) トランスフェリン以下の3つを急速代謝回転たんぱく(RTP)と呼び、短期的な栄養状態の変化や栄養療法の効果判定に有用である。
栄養評価の全体像
栄養状態は1つの検査値だけで判断せず、次のものを組み合わせて総合的に評価する。 ・身体計測:体重、体重減少率(例:6か月で5%以上の減少は要注意)、BMI、上腕周囲長・上腕三頭筋部皮下脂肪厚(筋肉量・体脂肪の推定) ・血液検査:アルブミン、RTP、総リンパ球数(免疫能の指標、低栄養で減少)、総コレステロール、ヘモグロビンなど ・食事摂取量や消化器症状、身体機能 ・スクリーニングツール:主観的包括的評価(SGA)、MNA(高齢者向け簡易栄養状態評価)、MUST、NRSなど
近年の考え方
アルブミンやトランスフェリンは炎症で低下する(負の急性期たんぱく)ため、急性疾患や感染症があると栄養不良がなくても低値になる。このため、成人の低栄養の国際的な診断基準であるGLIM基準では、体重減少、低BMI、筋肉量減少、食事摂取量の低下、疾患による炎症などで診断し、血清アルブミンは診断項目に含めていない。検査値は炎症の有無と合わせて解釈することが大切である。
たんぱく・エネルギー欠乏の2つの型
・マラスムス:主にエネルギー全体が不足し、著しいやせを示すが、血清アルブミンは比較的保たれることが多い。 ・クワシオルコル:主にたんぱく質が不足し、低アルブミン血症による浮腫、腹水、脂肪肝を示す。
POINT
・低栄養の指標:アルブミン、トランスフェリン、トランスサイレチン(プレアルブミン)、レチノール結合たんぱく(いずれも肝臓で合成) ・半減期:アルブミン約21日 > トランスフェリン約7〜10日 > プレアルブミン約2〜3日 > レチノール結合たんぱく約半日 ・短期的な栄養状態・栄養療法の効果判定には急速代謝回転たんぱく(RTP)を用いる ・トランスフェリンは鉄欠乏で上昇する点に注意 ・ALP・AST・アミラーゼは臓器障害の指標で、栄養指標ではない
