StudyMed医師国家試験

切るか、当てるか―早期癌で放射線が「根治」を担える臓器、担えない臓器

第101回医師国家試験 B問題 第110問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第110問

早期癌の放射線治療で,根治的照射の適応でないのはどれか。

  1. a.喉頭癌
  2. b.咽頭癌
  3. c.食道癌
  4. d.大腸癌
  5. e.前立腺癌

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、早期癌に対して放射線治療を根治的照射、つまり治癒を目指す治療として使えるかを臓器ごとに判断する問題だ。「適応でないもの」を選ぶ否定形なので注意しよう。着眼点は、組織型による放射線感受性、照射範囲を固定できるか、そして手術に比べて臓器の機能を守れる利点があるか、の3つだ。
医学生医学生
放射線医学の講義で、扁平上皮癌は放射線がよく効いて、腺癌は効きにくいと習いました。
ドクタードクター
大まかにはその理解で良い出発点だ。感受性が高いのは悪性リンパ腫やセミノーマ、小細胞肺癌など。扁平上皮癌は中等度で、頭頸部癌、食道癌、子宮頸癌などがここに入る。胃癌や大腸癌、膵癌といった腺癌の多くは感受性が低い側だ。では喉頭癌から考えてみよう。
医学生医学生
喉頭癌はほとんど扁平上皮癌なので、放射線が効きやすいですよね。
ドクタードクター
そう。特に声帯に限局した早期の声門癌は頸部リンパ節転移が少なく、根治的な外部照射で高い局所制御率が得られる。何より喉頭全摘と違って声を残せる。だから早期例では放射線治療が第一選択として広く行われているんだ。
医学生医学生
耳鼻咽喉科の実習で、喉頭全摘後の患者さんが電気式人工喉頭で話しているのを見て、声を残せる意味の大きさを実感しました。
ドクタードクター
臓器温存の価値がよくわかる経験だね。咽頭癌も同じ考え方だ。上咽頭癌は手術で到達しにくく感受性も高いので、放射線や化学放射線療法が根治治療の中心になる。中咽頭・下咽頭癌の早期例でも、嚥下や発声を守るために根治的照射が選ばれる。中咽頭癌ではHPV関連例が増えていて、放射線への反応がよいことも知られている。
医学生医学生
食道癌はどうでしょう。消化管なので、手術一択のイメージがありました。
ドクタードクター
そこが迷いやすいところだ。日本の食道癌の大部分は扁平上皮癌で、感受性は比較的高い。粘膜内にとどまる表在癌は内視鏡的切除が第一選択だけれど、それを超える臨床病期Ⅰ期では、手術と並んで根治的化学放射線療法が標準治療の選択肢とされ、手術に近い成績が報告されている。食道を残せるのが利点だ。
医学生医学生
同じ消化管でも、組織型が違うと放射線の位置づけが変わるんですね。では前立腺癌は腺癌なので、適応外になりませんか。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。前立腺癌は腺癌だけれど、限局性の場合は強度変調放射線治療(IMRT)や陽子線・重粒子線治療などの外部照射、ヨウ素125などを埋め込む小線源治療が、前立腺全摘除術と同等の成績をもつ根治治療として確立している。前立腺は骨盤内で位置が比較的安定していて、線量を集中させる技術の進歩が大きい。手術より尿失禁などの合併症が少ないという利点もある。
医学生医学生
感受性だけでなく、場所が動かないことや照射技術も大事なんですね。すると残る大腸癌が答えでしょうか。
ドクタードクター
その通り、大腸癌が根治的照射の適応でないものだ。理由は3つある。まず腺癌で感受性が低い。次に結腸は腹腔内で蠕動や体位によって動くため、照射範囲を固定しにくい。そして周囲の小腸は放射線の耐容線量が低く、腫瘍を制御できるだけの線量を安全にかけられない。しかも早期大腸癌は内視鏡的切除や外科切除で高い治癒率が得られるから、治療の基本は切除になる。
医学生医学生
でも外科の実習で、直腸癌の患者さんが術前に放射線治療を受けていました。あれは根治的照射ではないんですか。
ドクタードクター
よく気づいたね。直腸癌の術前(化学)放射線療法は、局所再発を減らすために手術を補う照射なんだ。再発巣や転移巣への照射は緩和目的になる。いずれも早期癌を放射線単独で治す根治的照射とは位置づけが違う。
医学生医学生
放射線治療には根治的照射、術前・術後の補助照射、緩和的照射という目的の区別があるということですね。
ドクタードクター
そう、その整理が大切だ。根治的照射は今回の頭頸部癌、食道癌、前立腺癌のほか、子宮頸癌、早期非小細胞肺癌の定位放射線治療、皮膚癌などでも使われる。補助照射の代表は直腸癌の術前照射や乳房温存術後の全乳房照射、緩和的照射は骨転移の痛み、脳転移、上大静脈症候群、脊髄圧迫などだ。臨床では、患者さんが「放射線をかける」と聞いたとき、それが治すためなのか、手術を助けるためなのか、症状を和らげるためなのかを、きちんと説明できるようにしておこう。

まとめ

早期の喉頭癌・咽頭癌・食道癌は多くが扁平上皮癌で放射線感受性が比較的高く、発声や嚥下の機能を温存できるため、根治的照射(または化学放射線療法)が標準的な選択肢になります。前立腺癌は腺癌ですが、位置が比較的安定していることと高精度照射・小線源治療の進歩により、手術と並ぶ根治治療として確立しています。一方、大腸癌は腺癌で感受性が低く、腸管が動いて照射範囲を固定しにくいうえ、周囲の小腸の耐容線量が低いため根治的照射の適応とならず、内視鏡的切除や外科切除が基本です。直腸癌の術前照射は手術を補う補助照射であり、根治的照射とは区別されます。放射線治療を「根治・補助・緩和」の目的で整理し、感受性・照射の精度・臓器温存の利点から適応を考える視点は、がん診療全般の理解に役立ちます。

解答・解説

正解はdです

問われていること

早期の悪性腫瘍に対して、放射線治療を「根治的照射」(腫瘍を完全に制御して治癒を目指す照射)として用いるかどうかを臓器ごとに判断する問題である。「適応でないのはどれか」を選ぶ否定形の設問である点に注意する。

根治的照射が選ばれやすい条件

放射線治療が手術と並ぶ根治治療になり得るのは、主に次のような条件がそろう場合である。 ・腫瘍が放射線に比較的感受性が高い(頭頸部や食道の扁平上皮癌など)。 ・腫瘍が限局していて、照射範囲を正確に決められる(位置が固定されている)。 ・周囲の正常組織が耐えられる線量で腫瘍を制御できる。 ・手術に比べて臓器の機能や形態を温存できる利点が大きい(発声、嚥下、排尿・性機能など)。

本問の選択肢の整理

喉頭癌・咽頭癌・食道癌は多くが扁平上皮癌で放射線感受性が比較的高く、発声・嚥下機能の温存という大きな利点があるため、早期例で根治的照射(または化学放射線療法)が標準的選択肢となる。前立腺癌も、外部照射や小線源治療が手術(前立腺全摘除術)と並ぶ根治治療として確立している。 一方、結腸癌は腺癌で放射線感受性が高くないうえ、腸管が腹腔内で動くため照射位置が定まりにくく、周囲の小腸は放射線に弱いため十分な線量をかけられない。早期大腸癌は内視鏡治療や外科切除で高い治癒率が得られることもあり、根治的照射の適応とはならない。

選択肢考察

  1. ×a.  喉頭癌

    喉頭癌の大部分は扁平上皮癌で放射線感受性が比較的高い。特に早期の声門癌(声帯に限局したT1〜T2)は頸部リンパ節転移が少なく、根治的な外部照射で高い局所制御率が得られる。喉頭全摘出術と異なり発声機能を温存できるため、早期例では放射線治療が第一選択として広く行われる。したがって根治的照射の適応であり、本問の正解ではない。

  2. ×b.  咽頭癌

    上咽頭癌は手術での到達が難しく放射線感受性も高いため、放射線治療(進行例では化学放射線療法)が根治治療の中心である。中咽頭癌・下咽頭癌の早期例でも、嚥下・発声機能を温存する目的で根治的照射が選択される。中咽頭癌ではヒトパピローマウイルス(HPV)関連例が増えており、放射線治療への反応がよいことも知られている。部位によっては小線源治療が用いられることもある。したがって根治的照射の適応である。

  3. ×c.  食道癌

    日本の食道癌の大部分は扁平上皮癌で、放射線感受性が比較的高い。粘膜内にとどまる表在癌は内視鏡的切除(EMR/ESD)が第一選択だが、それを超える臨床病期Ⅰ期では、手術と並んで根治的化学放射線療法(放射線照射と、主にシスプラチン+5-FUなどの化学療法の同時併用)が標準治療の選択肢とされ、手術に近い成績が報告されている。進行例でも、手術を望まない場合や合併症で手術ができない場合に根治的化学放射線療法が行われる。食道を温存できる点が利点である。したがって根治的照射の適応となり得る。

  4. ○d.  大腸癌

    大腸癌は根治的照射の適応とならず、これが正解である。大腸癌の大部分は腺癌で、扁平上皮癌に比べて放射線感受性が低い。さらに結腸は腹腔内で蠕動・体位により移動するため照射範囲を固定しにくく、周囲の小腸は放射線耐容線量が低いため、腫瘍を制御できる線量を安全に照射できない。早期大腸癌は内視鏡的切除や外科切除で高い治癒率が得られるため、治療の基本は切除である。直腸癌では、局所再発を減らす目的の術前(化学)放射線療法や、再発・転移巣に対する緩和的照射が行われるが、これらは手術を補う照射や症状緩和のための照射であり、早期癌に対する根治的照射ではない。

  5. ×e.  前立腺癌

    限局性の前立腺癌では、外部照射(強度変調放射線治療(IMRT)や陽子線・重粒子線治療など)や、小線源治療(ヨウ素125などの線源を前立腺内に永久に埋め込む方法)が、前立腺全摘除術と同等の成績をもつ根治治療として確立している。リスク分類に応じてホルモン療法(アンドロゲン除去療法)を併用することもある。手術に比べて尿失禁などの合併症が少ないなどの利点がある。したがって根治的照射の適応である。

放射線治療の目的による分類

・根治的照射: 腫瘍の治癒を目的とし、十分な線量を照射する。頭頸部癌、食道癌、子宮頸癌、前立腺癌、早期の非小細胞肺癌(定位放射線治療)、悪性リンパ腫の一部、皮膚癌などで用いられる。 ・術前・術後照射(補助照射): 手術と組み合わせて局所再発を減らす。直腸癌の術前照射、乳房温存術後の全乳房照射など。 ・緩和的照射: 骨転移の疼痛、脳転移、上大静脈症候群、脊髄圧迫などの症状緩和を目的とする。

放射線感受性の目安

高い: 悪性リンパ腫、精上皮腫(セミノーマ)、小細胞肺癌、ウィルムス腫瘍など 中等度: 扁平上皮癌(頭頸部癌、食道癌、子宮頸癌、皮膚癌など) 低い: 腺癌の多く(胃癌、大腸癌、膵癌など)、悪性黒色腫、骨肉腫、腎細胞癌など ただし前立腺癌は腺癌であるが、線量を集中できる照射技術の進歩により根治照射が確立している。

臓器温存と放射線治療

喉頭癌(発声)、咽頭癌・食道癌(嚥下)、前立腺癌(排尿・性機能)、子宮頸癌、乳癌(乳房温存)など、臓器の機能や形態の保持が重視される部位で放射線治療の意義が大きい。

POINT

・早期の喉頭癌、咽頭癌、食道癌(扁平上皮癌が主体)と前立腺癌は根治的照射の適応となる。 ・大腸癌は腺癌で放射線感受性が低く、腸管の移動や小腸の耐容線量の低さもあり根治的照射の適応とならない。治療の基本は内視鏡的切除・外科切除。 ・直腸癌の照射は術前補助療法や緩和目的で、根治的照射ではない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。