広げる狭窄があるか―「器質的か機能的か」で見抜くPCIの適応
第101回医師国家試験 B問題 第111問
国試問題にチャレンジ
経皮的冠動脈形成術の適応でないのはどれか。
- a.安定狭心症
- b.異型狭心症
- c.急性心筋梗塞
- d.不安定狭心症
- e.無痛性心筋虚血
対話形式の解説
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ドクターまとめ
PCIはバルーン拡張やステント留置によって冠動脈の器質的な狭窄・閉塞を広げる治療であり、動脈硬化性病変による虚血がある病態が適応となります。安定狭心症、急性心筋梗塞や不安定狭心症などの急性冠症候群、そして症状を欠くだけで器質的狭窄を背景にもつ無痛性心筋虚血は、いずれも病変の程度に応じてPCIの対象です。一方、異型狭心症は冠動脈の攣縮という機能的異常が原因で器質的狭窄に乏しいため、PCIの適応とならず、カルシウム拮抗薬を第一選択とした薬物療法と禁煙などの生活指導が中心になります(β遮断薬単独は攣縮を悪化させうるため避けます)。「器質的か機能的か」という視点は、虚血性心疾患の治療選択を理解するうえでの基本となります。
解答・解説
正解はbです
経皮的冠動脈形成術(PCI:percutaneous coronary intervention。古くはPTCA:経皮経管的冠動脈形成術とも呼ばれた)は、カテーテルを冠動脈内に進め、バルーンで狭窄部を拡張し、多くはステントを留置して血流を回復させる治療である。したがってPCIが効果を発揮するのは、動脈硬化性プラークなどによる「器質的な狭窄・閉塞」が虚血の原因になっている場合である。 本問では、各病態の虚血の原因が器質的狭窄か、それとも機能的な血管の収縮(攣縮)かを見分けることが鍵となる。安定狭心症・不安定狭心症・急性心筋梗塞は、いずれも動脈硬化による器質的狭窄や、プラーク破綻に伴う血栓性閉塞が基盤にある。無痛性心筋虚血は「症状がない」という点で区別されるだけで、原因は通常の虚血性心疾患と同じ器質的狭窄であることが多い。一方、異型狭心症は冠動脈の攣縮(スパズム)によって一過性に血管が閉塞する病態であり、器質的狭窄を伴わないことが多いため、拡張すべき病変がなく、PCIの適応にはならない。
選択肢考察
- ×a. 安定狭心症
安定狭心症(労作性狭心症)は、動脈硬化により冠動脈内腔が固定的に狭くなり、運動などで心筋の酸素需要が増えたときに供給が追いつかず虚血となる病態である。原因が器質的狭窄であるため、狭窄部を拡張するPCIの適応となる。ただし安定狭心症では、まず抗血小板薬・スタチン・β遮断薬などの薬物療法が基本であり、薬物療法で症状が十分に抑えられない場合や、負荷試験などで広範な虚血が証明された場合にPCI(あるいは冠動脈バイパス術)が考慮される。
- ○b. 異型狭心症
異型狭心症は冠攣縮性狭心症の一型で、安静時、特に夜間から早朝にかけて冠動脈が強く攣縮し、発作中の心電図でST上昇を示すのが特徴である。虚血の原因は血管平滑筋の過剰な収縮という機能的異常であり、冠動脈造影では器質的狭窄が乏しいことが多い。拡張すべき固定狭窄がないためPCIの適応とならず、これが「適応でないもの」に当たる。治療は禁煙などの生活指導と、カルシウム拮抗薬(第一選択)や長時間作用型硝酸薬による攣縮予防であり、発作時には硝酸薬(ニトログリセリン舌下など)を用いる。なお、β遮断薬は攣縮を悪化させうるため単独使用は避ける。器質的狭窄を合併している例では、その狭窄に対してPCIを検討することはある。
- ×c. 急性心筋梗塞
急性心筋梗塞は、冠動脈のプラークが破綻し、そこに形成された血栓で冠動脈が閉塞して心筋が壊死に陥る病態である。閉塞した血管をできるだけ早く再開通させること(再灌流療法)が梗塞範囲を小さくし、心機能と予後を改善するため、発症早期のPCI(primary PCI)は最も重要な治療である。特にST上昇型心筋梗塞では、来院から再灌流までの時間をできる限り短くすることが求められる。
- ×d. 不安定狭心症
不安定狭心症は、新規発症、発作頻度や持続時間の増悪、安静時発作の出現などを特徴とし、プラークの破綻と部分的な血栓形成が背景にある。心筋梗塞へ移行する危険が高いため、非ST上昇型心筋梗塞とあわせて急性冠症候群(ACS)として扱われる。器質的狭窄と血栓による病変が原因であり、リスク評価に応じて早期に冠動脈造影を行い、責任病変にPCIを施行するよい適応である。
- ×e. 無痛性心筋虚血
無痛性心筋虚血(無症候性心筋虚血)は、心電図や負荷試験、画像検査で心筋虚血が客観的に証明されるにもかかわらず、胸痛などの自覚症状を伴わない状態である。糖尿病による自律神経障害(痛覚を伝える神経の障害)や高齢者でみられやすい。症状がないだけで、背景には通常の狭心症と同様の器質的冠動脈狭窄があるため、虚血の範囲や狭窄の程度によってはPCIの適応となる。症状に乏しいぶん発見が遅れやすく、予後はむしろ注意を要する。
虚血性心疾患の分類と主な原因
・安定狭心症(労作性):動脈硬化による固定狭窄。労作で誘発され、安静や硝酸薬で数分以内に軽快する。 ・冠攣縮性狭心症(異型狭心症を含む):冠動脈の一過性攣縮。安静時、夜間〜早朝に多く、喫煙・飲酒・寒冷などが誘因となる。日本人に比較的多い。診断にはアセチルコリンやエルゴノビンを用いた冠攣縮誘発試験が用いられる。 ・急性冠症候群(不安定狭心症、非ST上昇型心筋梗塞、ST上昇型心筋梗塞):プラーク破綻と血栓形成が共通の機序である。 ・無症候性心筋虚血:虚血はあるが症状を欠く。糖尿病・高齢者に多い。
冠血行再建術の概要
・PCI:カテーテルによる治療で、バルーン拡張に加え、現在は再狭窄の少ない薬剤溶出性ステントの留置が主流である。ステント留置後は、ステント血栓症を予防するため一定期間、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を行う。 ・冠動脈バイパス術(CABG):左主幹部病変や多枝病変、糖尿病合併の多枝病変などではCABGが選択されることがある。 ・いずれも「器質的狭窄による虚血」を改善する治療であり、攣縮が主体の病態には薬物療法が中心となる。
POINT
・PCIは器質的狭窄・閉塞を拡張する治療であり、適応は動脈硬化性病変による虚血(安定狭心症、急性冠症候群、無症候性心筋虚血など)。 ・異型狭心症(冠攣縮性狭心症)は機能的な攣縮が原因で器質的狭窄に乏しく、PCIの適応とならない。 ・冠攣縮性狭心症の治療はカルシウム拮抗薬が第一選択、発作時は硝酸薬。β遮断薬単独は攣縮を悪化させうるため避ける。 ・急性心筋梗塞では早期のPCIによる再灌流が予後を左右する。
