膨らむのは拡張期、しぼむのは収縮直前―IABPのタイミングで読み解く血圧の変化
第101回医師国家試験 B問題 第108問
国試問題にチャレンジ
IABPで誤っているのはどれか。
- a.心拍出量の増加
- b.冠血流量の増加
- c.収縮期血圧の上昇
- d.拡張期血圧の上昇
- e.左室後負荷の減少
対話形式の解説
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ドクターまとめ
IABPは胸部下行大動脈に留置したバルーンを心周期に同期させる補助循環で、拡張期(大動脈弁閉鎖直後)に膨張させて拡張期圧と冠血流量を上げ、収縮期直前に収縮させて左室後負荷を下げます。その結果、心筋への酸素供給が増え、心筋酸素消費量は減り、心拍出量も軽度増加しますが、補助下の収縮期血圧はむしろ低下するため「収縮期血圧の上昇」は誤りです。タイミングが早すぎる膨張や遅すぎる収縮は逆に後負荷を増やし、中等度以上の大動脈弁閉鎖不全症や大動脈解離・大動脈瘤は禁忌となります。補助効果は圧補助が主体で限定的なため、重症例ではPCPSやImpellaが検討されます。「いつ膨らませ、いつしぼませるか」から作用・禁忌・トラブルまで論理的に導ける点が、補助循環を理解するうえでの土台になります。
解答・解説
正解はcです
IABPとは
IABP(intra-aortic balloon pumping:大動脈内バルーンパンピング)は、大腿動脈などから挿入したバルーンカテーテルを胸部下行大動脈(左鎖骨下動脈分岐部のすぐ末梢)に留置し、心臓の拍動に同期させてバルーンを膨張・収縮させる補助循環法である。バルーンにはヘリウムガスが用いられ、心電図のR波や動脈圧波形をトリガーにしてタイミングを合わせる。
作用の二本柱
IABPの効果は、心周期のどこでバルーンを動かすかで理解できる。 1. 拡張期に膨張(diastolic augmentation): 大動脈弁が閉じた直後(動脈圧波形の重複切痕=dicrotic notch のタイミング)にバルーンを膨らませると、大動脈内の血液が押し戻されて大動脈基部の拡張期圧が上がる。冠動脈、特に左冠動脈は主に拡張期に灌流されるため、冠灌流圧が上昇して冠血流量が増え、心筋への酸素供給が増加する。 2. 収縮期直前に収縮(systolic unloading): 左室が血液を駆出する直前にバルーンを急にしぼませると、大動脈内の容積が一時的に空いて大動脈圧(拡張末期圧)が下がる。これにより左室が打ち出すときの抵抗(後負荷)が減り、心筋の酸素消費量が低下するとともに1回拍出量が増える。
血圧への影響
この結果、拡張期血圧は上昇し、補助下の収縮期血圧はむしろ低下する(補助なしの拍動より低いピークとなる)。したがって「収縮期血圧の上昇」がIABPの作用として誤りである。 「誤っているのはどれか」を問う問題であり、IABPの効果として正しい記述が4つ、誤った記述が1つ含まれている点に注意する。
選択肢考察
- ×a. 心拍出量の増加
IABPの作用として正しい記述である。収縮期直前のバルーン収縮で後負荷が減ると左室は血液を駆出しやすくなり、1回拍出量が増える。さらに冠血流の増加で虚血心筋の収縮力が改善することも加わり、心拍出量は増加する。ただし増加量はおおむね毎分0.5〜1L程度と限られており、補助効果には限界がある。そのため高度の心原性ショックでは、経皮的心肺補助(PCPS、V-A ECMO)や補助人工心臓(Impellaなど)が選択される。
- ×b. 冠血流量の増加
IABPの作用として正しい記述である。左室心筋は収縮期に冠動脈が圧迫されるため、主に拡張期に灌流される。拡張期にバルーンを膨張させて大動脈基部の拡張期圧を高めると、冠灌流圧(大動脈拡張期圧と左室拡張末期圧の差)が上昇して冠血流量が増える。この効果が、急性心筋梗塞や不安定狭心症での虚血改善に役立つ。
- ○c. 収縮期血圧の上昇
IABPの作用として誤っている記述であり、これが正解である。バルーンは左室が収縮して血液を駆出する直前にしぼむため、大動脈内の圧が下がった状態から駆出が始まる。後負荷が減少する結果、補助下の収縮期圧は補助なしの拍動よりも低くなる。IABPで上昇するのは拡張期圧であり、動脈圧波形では拡張期に収縮期ピークを上回ることもある高い山(拡張期オーグメンテーション圧)が出現する。
- ×d. 拡張期血圧の上昇
IABPの作用として正しい記述である。大動脈弁閉鎖直後の拡張期にバルーンを膨張させることで、大動脈内の血液が中枢側と末梢側に押し出され、大動脈基部の拡張期圧が上昇する(diastolic augmentation)。これにより冠血流や脳血流などの臓器灌流が改善する。
- ×e. 左室後負荷の減少
IABPの作用として正しい記述である。収縮期の直前にバルーンを急速に収縮させると、大動脈内に一時的な容積の余裕ができ、大動脈拡張末期圧が低下する(systolic unloading)。左室は低い抵抗に対して駆出すればよくなるため後負荷が減り、心筋酸素消費量が減少する。酸素供給の増加(冠血流増加)と酸素需要の減少(後負荷減少)の両面から、心筋の酸素需給バランスを改善するのがIABPの本質である。
IABPの主な適応
・急性心筋梗塞に伴う心原性ショック、機械的合併症(心室中隔穿孔、乳頭筋断裂による急性僧帽弁閉鎖不全)の手術までの循環維持 ・薬物治療に抵抗する不安定狭心症 ・ハイリスクの経皮的冠動脈インターベンション(PCI)や心臓手術の周術期補助 ・人工心肺からの離脱困難例 なお、急性心筋梗塞による心原性ショックに対するIABPのルーチン使用は、大規模臨床試験で死亡率改善効果が示されなかったため、現在は症例を選んで用いられる。
禁忌
・中等度以上の大動脈弁閉鎖不全症(拡張期の膨張で逆流が増える) ・大動脈解離、胸部・腹部大動脈瘤 ・高度の末梢動脈疾患や大動脈の高度な蛇行・石灰化(挿入困難、下肢虚血)
合併症
下肢虚血、穿刺部出血・血腫、血小板減少、バルーン破裂によるガス塞栓、感染、大動脈損傷など。
タイミング不良の影響
・膨張が早すぎる(大動脈弁閉鎖前): 左室駆出を妨げて後負荷が増大する。 ・収縮が遅すぎる(左室駆出開始後も膨らんだまま): 同様に後負荷が増え、心筋酸素消費量が増加する。
他の補助循環との比較
IABPは圧補助が主体で、心拍出量の補助効果は小さい。より強力な補助が必要な場合は、PCPS(V-A ECMO:遠心ポンプと人工肺による心肺補助)や、左室から直接血液をくみ出す経皮的補助人工心臓(Impella)、植込型補助人工心臓が用いられる。
POINT
・IABPは拡張期に膨張して拡張期圧と冠血流量を上げ、収縮期直前に収縮して後負荷を下げる。 ・結果として心拍出量は増え、心筋酸素消費量は減る。 ・収縮期血圧は上昇せず、むしろ低下する。 ・大動脈弁閉鎖不全症と大動脈解離は禁忌。
