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「小さく、少なく」が鍵―定位放射線照射が真価を発揮する脳転移とは

第119回医師国家試験 F問題 第11問

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第119回 F問題 第11問

原発巣コントロール良好な転移性脳腫瘍の治療で,定位放射線照射が適切なのはどれか。

  1. a.髄膜播種を伴う病変
  2. b.脳ヘルニアを伴う病変
  3. c.多数の病変(15個以上)
  4. d.薬物療法に高感受性の病変
  5. e.小さい病変(最大径3cm以下)

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、転移性脳腫瘍の治療法のうち、定位放射線照射がどんな病変に向いているかを問う問題だ。治療法の「得意・不得意」を、照射の仕組みから考えるのがポイントになるよ。まず、定位放射線照射ってどんな治療か説明できるかな。
医学生医学生
放射線科の講義でガンマナイフを習いました。たくさんの方向から細いビームを当てて、病変に集中させる治療ですよね。
ドクタードクター
その通り。多方向からのビームが交わる一点に高線量が集まり、病変の辺縁で線量が急激に下がる。だから周囲の正常脳を守りながら腫瘍だけを強く叩ける。1回で照射するものを定位手術的照射、数回に分けるものを定位放射線治療と呼ぶんだ。では、この仕組みがいちばん生きるのはどんな病変だと思う?
医学生医学生
狙い撃ちできる、ということは、境界がはっきりした病変でしょうか。
ドクタードクター
いいね。もう一歩進めると「境界明瞭で、数が少なく、小さい病変」だ。病変が大きくなるほど、高線量を当てたときに周りの正常脳にかかる線量も増えて、放射線壊死や脳浮腫の危険が高まる。安全に当てられる線量が下がるから、局所制御率も落ちてしまう。一般に最大径3cm程度までが単回照射のよい適応とされているんだ。
医学生医学生
ということは、最大径3cm以下の小さい病変が正解ですね。逆に3cmを超えたらどうするんですか。
ドクタードクター
単発で大きく、腫瘤効果による症状が強ければ摘出術を考えるし、分割して照射する定位放射線治療を選ぶこともある。術後に摘出腔へ定位照射を追加することも多いよ。では、ほかの選択肢を見ていこう。髄膜播種を伴う病変はどうかな。
医学生医学生
髄膜播種は脳脊髄液に乗って腫瘍細胞が広がっている状態なので……見えている病変だけ狙っても意味がなさそうです。
ドクタードクター
まさにそう。くも膜下腔や軟膜にびまん性に広がっているから、局所を狙う定位照射の利点が生かせない。症状緩和目的の全脳照射や症状の原因部位への照射、髄注を含む薬物療法が検討され、予後は不良だ。次に、脳ヘルニアを伴う病変は?
医学生医学生
一刻を争う状態なので、すぐに放射線を当てて腫瘍を小さくすればいいのかと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。放射線は効果が出るまで時間がかかるうえ、照射後に一過性の脳浮腫を起こしうる。頭蓋内圧が切迫しているところに浮腫が加われば致命的になりかねない。まずステロイドや浸透圧利尿薬で浮腫を治療し、外科的減圧を優先するんだ。
医学生医学生
15個以上の多発病変も、数が多すぎて一つずつ狙うのは大変そうです。
ドクタードクター
そうだね。定位照射は病変に一つずつ照射するから、数が非常に多いと治療時間も正常脳への総線量も増える。しかも、それだけ多発していれば画像に写らない微小転移も多いと考えられる。古典的には4個以下が適応で、近年は総腫瘍体積が小さければ5〜10個程度でも行うことがあるけれど、15個以上なら全脳照射や薬物療法が選ばれるのが一般的だ。
医学生医学生
薬物療法に高感受性の病変は、よく効くならむしろ放射線との併用で積極的に叩いてもいい気がしますが。
ドクタードクター
そう考えたくなるよね。でも、例えばEGFR遺伝子変異陽性やALK融合遺伝子陽性の肺癌では、脳に移行しやすい分子標的薬があって、無症状なら薬物療法を先行させることが多い。小細胞肺癌や悪性リンパ腫、胚細胞腫瘍のように薬がよく効く腫瘍もまず全身治療だ。全身治療で脳病変の縮小が期待できるなら、局所治療をあえて第一に選ぶ理由は乏しいんだ。
医学生医学生
整理すると、定位照射は「少数・小型・原発巣制御良好・全身状態良好」の脳転移が得意で、広がっているものは全脳照射や薬、切迫しているものは減圧が先、ということですね。
ドクタードクター
完璧なまとめだ。実際の治療選択では、病変の数・大きさ・部位、症状、原発巣の制御状況、PS、遺伝子変異などを総合して決める。定位照射が重視される理由の一つは、全脳照射に比べて認知機能への影響が少ないことだ。全脳照射を行うときも、海馬を避ける照射法やメマンチンの併用で認知機能低下を抑える工夫がされているよ。
医学生医学生
臨床実習の脳外科で、肺癌の脳転移の患者さんがガンマナイフ後にMRIで経過を追っていました。照射後にも何か注意点はありますか。
ドクタードクター
主な有害事象は放射線壊死と一過性の脳浮腫だ。照射から数か月以上たって造影病変が大きくなったとき、再発なのか放射線壊死なのか見分けるのが難しいことがあり、MRIの経過や灌流画像、PETなどを組み合わせて判断する。それから、脳転移は成人の脳腫瘍で最も多く、原発は肺癌が最多で乳癌などが続き、皮髄境界に多発しやすいという基本もセットで押さえておこう。

まとめ

定位放射線照射は、多方向からのビームを病変に集中させ、辺縁で線量が急峻に低下する特性を生かして、正常脳を守りながら腫瘍に高線量を投与する治療です。そのため最もよい適応は、原発巣が制御され全身状態の良い患者における、数が少なく最大径3cm程度以下の小さな脳転移です。髄膜播種や15個以上の多発転移のようにびまん性に広がった病変には全脳照射や薬物療法、脳ヘルニアなど頭蓋内圧亢進の切迫例にはステロイドや外科的減圧が優先され、脳移行性のよい分子標的薬が有効な腫瘍では薬物療法を先行させることが多くなります。治療の仕組みから「得意な病変」を考える姿勢は、手術・全脳照射・薬物療法を含めた脳転移の治療選択全体を理解する土台になります。

解答・解説

正解はeです

定位放射線照射(stereotactic irradiation: STI)は、多方向から細いビームを病変に集中させ、周囲の正常脳への線量を抑えながら腫瘍に高線量を投与する方法である。1回で照射する定位手術的照射(stereotactic radiosurgery: SRS、ガンマナイフやリニアック、サイバーナイフなど)と、数回に分ける定位放射線治療(stereotactic radiotherapy: SRT)がある。 この方法が力を発揮するのは「境界がはっきりした、数が少なく、小さい病変」である。病変が大きいほど、高線量を投与したときに周囲の正常脳にかかる線量も増え、放射線壊死や脳浮腫の危険が高まるため、安全に投与できる線量が下がって局所制御率も低下する。一般に最大径3cm程度までが単回のSRSのよい適応とされる。 一方、病変がびまん性に広がっている場合(髄膜播種、多数の病変)には、狙い撃ちで治療するという定位照射の利点が生かせず、全脳照射などが検討される。また、頭蓋内圧が切迫している場合は、照射後の一過性の浮腫が致命的となりうるため、まず外科的減圧などが優先される。原発巣がコントロールされ全身状態がよい患者で、小さく数の少ない脳転移に対しては定位照射が標準的な選択肢となる。

選択肢考察

  1. ×a.  髄膜播種を伴う病変

    適切でない。髄膜播種は腫瘍細胞が脳脊髄液を介してくも膜下腔や軟膜にびまん性に広がった状態で、画像で見える病変だけを狙っても制御できない。定位照射は限局した病変の局所制御を目的とする治療であり、適応とならない。髄膜播種に対しては、症状緩和を目的とした全脳照射や症状の原因部位への照射、薬物療法(髄注を含む)などが検討される。予後は不良である。

  2. ×b.  脳ヘルニアを伴う病変

    適切でない。脳ヘルニアは頭蓋内圧亢進により脳組織が偏位・嵌頓した緊急状態である。放射線照射は効果が現れるまでに時間がかかるうえ、照射後に一過性の脳浮腫を生じうるため、症状をかえって悪化させるおそれがある。まず副腎皮質ステロイドや浸透圧利尿薬による脳浮腫の治療、さらに腫瘍摘出などの外科的減圧を優先する。

  3. ×c.  多数の病変(15個以上)

    適切でない。定位照射は個々の病変に順に照射するため、病変数が非常に多いと、治療に時間がかかり正常脳への総線量も増える。また多数の病変がある場合は、画像で見えない微小転移も多数存在する可能性が高い。古典的には4個以下が定位照射の適応とされ、近年は5〜10個程度でも総腫瘍体積が小さければ定位照射を行うことがあるが、15個以上のような多発転移では全脳照射(必要に応じて海馬回避全脳照射)や薬物療法が選択される。

  4. ×d.  薬物療法に高感受性の病変

    適切でない。近年は脳への移行性のよい分子標的薬などが登場しており、例えばEGFR遺伝子変異陽性やALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌の脳転移では、無症状であれば薬物療法を先行させることが多い。小細胞肺癌や胚細胞腫瘍、悪性リンパ腫など薬物療法によく反応する腫瘍でも、まず全身治療を行う。全身治療で脳病変の縮小が期待できるため、局所治療である定位照射をあえて第一に選ぶ理由は乏しい。

  5. ○e.  小さい病変(最大径3cm以下)

    適切である。定位照射は病変の辺縁で線量が急激に低下する特性を利用するが、病変が小さいほど周囲の正常脳への線量を低く抑えたまま腫瘍に高線量を投与でき、高い局所制御率と少ない有害事象(放射線壊死など)が両立する。最大径3cm程度以下で数が少なく、原発巣が制御され全身状態が保たれている場合は、定位照射の最もよい適応である。3cmを超える病変では、摘出術や分割照射(SRT)が検討される。

転移性脳腫瘍の頻度と原発

成人の脳腫瘍の中で最も多い。原発巣としては肺癌が最も多く、乳癌、消化器癌、腎癌、悪性黒色腫などが続く。造影MRIでリング状あるいは結節状に造影され、周囲に強い浮腫を伴うことが多く、多発しやすい。皮髄境界(灰白質と白質の境界)に好発する。

治療選択の考え方

脳転移の数・大きさ・部位、症状の有無、原発巣の制御状況、全身状態(performance status: PS)、腫瘍の放射線感受性や薬物感受性、遺伝子変異の有無などを総合して決める。 ・手術(摘出術): 単発で大きい病変(おおむね3cm超)、腫瘤効果(mass effect)による症状が強い病変、病理診断が必要な場合。術後は摘出腔への定位照射などを追加することが多い。 ・定位放射線照射: 数が少なく(古典的には4個以下、近年は10個程度まで考慮されることもある)、小さい病変(おおむね3cm以下)。全脳照射に比べて認知機能への影響が少ない。 ・全脳照射: 多発転移、髄膜播種、放射線感受性の高い腫瘍(小細胞癌、悪性リンパ腫、胚細胞腫瘍、骨髄腫など)。認知機能低下が問題となるため、海馬を避けて照射する方法や、メマンチンの併用が行われることがある。 ・薬物療法: 脳移行性のよい分子標的薬(EGFRチロシンキナーゼ阻害薬、ALK阻害薬など)や免疫チェックポイント阻害薬が有効な腫瘍、化学療法感受性の高い腫瘍。 ・対症療法: 脳浮腫に対する副腎皮質ステロイド(デキサメタゾンなど)、浸透圧利尿薬、痙攣に対する抗てんかん薬。

定位照射の特徴

・腫瘍辺縁で線量が急峻に低下するため、正常脳への影響を抑えられる。 ・病変サイズが大きくなるほど安全に投与できる線量が下がり、局所制御率が低下し、放射線壊死の危険が増す。 ・主な有害事象は放射線壊死と一過性の脳浮腫である。

POINT

・定位放射線照射のよい適応は「少数・小型(最大径3cm程度以下)・原発巣制御良好・全身状態良好」の脳転移である。 ・多発転移や髄膜播種には全脳照射や薬物療法を検討する。 ・脳ヘルニアなど頭蓋内圧亢進の切迫例では、ステロイドなどによる浮腫治療と外科的減圧を優先する。 ・大きい単発病変や症状の強い病変は摘出術の適応となる。 ・脳移行性のよい薬剤が有効な腫瘍(EGFR変異陽性・ALK陽性肺癌など)では薬物療法を先行させることが多い。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。