StudyMed医師国家試験

「治すために、あえてリスクを取る」―同種造血幹細胞移植を選ぶべき疾患と時期

第101回医師国家試験 B問題 第106問

国試問題にチャレンジ

第101回 B問題 第106問

成人で同種造血幹細胞移植の適応になるのはどれか。

  1. a.不応性貧血
  2. b.多発性骨髄腫
  3. c.慢性リンパ性白血病
  4. d.中等症の再生不良性貧血
  5. e.急性リンパ性白血病の第一寛解期

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、成人でどの疾患・どの病期なら同種造血幹細胞移植を選ぶか、という問題だ。考え方の軸は「移植のメリットがリスクを上回るのはどんなときか」。まず、同種移植の最大の強みは何だと思う?
医学生医学生
大量化学療法や放射線で腫瘍細胞を一気に減らせることでしょうか。
ドクタードクター
それも前処置としての大事な役割だけど、それだけなら自家移植でもできる。同種移植ならではの強みは、ドナー由来のリンパ球が残った腫瘍細胞を攻撃する移植片対白血病効果、いわゆるGVL効果なんだ。化学療法だけでは治しきれない腫瘍を、免疫の力で根絶しにいける。
医学生医学生
免疫学の講義で習ったGVHDの裏返しのような効果ですね。ドナーのリンパ球が患者さんの臓器を攻撃するのがGVHDで、腫瘍を攻撃するのがGVL。
ドクタードクター
その理解でいい。だからこそ同種移植はGVHD、重症感染症、臓器障害などで移植関連死亡のリスクが高い。つまり「移植しないと再発や死亡のリスクが高く、治癒が望みにくい」「患者さんが移植に耐えられて、ドナーがいる」という条件がそろったときに選ぶ治療なんだ。
医学生医学生
その条件に当てはまるのは、急性リンパ性白血病の第一寛解期だと思います。でも、寛解に入っているのにわざわざ移植するのは少し不思議です。
ドクタードクター
そこがこの問題の核心だね。成人の急性リンパ性白血病は、寛解導入療法で8〜9割が完全寛解に入る。ところが化学療法だけでは再発が多く、長期生存率は小児よりはっきり低い。だから再発する前、腫瘍量が少なく全身状態もよい第一寛解期に移植して、残った白血病細胞をGVL効果で叩くんだ。
医学生医学生
再発してからでは腫瘍量も多いし、体力も落ちてしまうからですね。
ドクタードクター
その通り。特にフィラデルフィア染色体陽性、初診時の著明な白血球増多、予後不良の染色体異常、寛解までに時間がかかった例、微小残存病変が陰性化しない例などの高リスク群では強く推奨される。最近はチロシンキナーゼ阻害薬を併用したPh陽性例や微小残存病変陰性例で移植を省けるかという議論もあるけれど、基本の考え方として押さえておこう。では他の選択肢を見ていこう。多発性骨髄腫は?
医学生医学生
血液内科の実習で、骨髄腫の患者さんが幹細胞採取をしていました。あれは自分の細胞でしたね。
ドクタードクター
よく見ているね。移植可能な比較的若い患者さんでは、大量メルファラン療法と自家末梢血幹細胞移植の組み合わせが標準治療だ。同種移植は移植関連死亡が多いわりに生存の改善が明らかでなく、標準治療にはなっていない。
医学生医学生
慢性リンパ性白血病は高齢者に多くて、ゆっくり進む病気というイメージです。
ドクタードクター
そう。無症状の早期例は経過観察も多く、治療が必要になってもBTK阻害薬やBCL2阻害薬、抗CD20抗体といった薬物療法が中心だ。同種移植はそれらに抵抗性の予後不良例などごく一部に限られる。ちなみに日本では欧米に比べて頻度自体が低いことも覚えておきたい。
医学生医学生
不応性貧血は骨髄異形成症候群の一つですよね。骨髄異形成症候群は移植でしか治らないと聞いた気がします。
ドクタードクター
いいところを突いたね。確かに同種移植は骨髄異形成症候群で唯一の根治的治療だ。ただ、不応性貧血は芽球が少なく白血病への移行リスクが比較的低い低リスク群に属する。この場合は輸血、鉄キレート療法、造血刺激薬などの支持療法が中心で、移植は予後スコアで高リスクと判定された例や芽球が増えた例などで検討する。
医学生医学生
再生不良性貧血は移植が第一選択だと覚えていたので、迷いました。
ドクタードクター
そこは重症度で分けて考えるのがポイントだ。重症以上で若年、かつHLA一致の同胞ドナーがいれば同種移植が第一選択。でも中等症なら、輸血が必要な例には抗胸腺細胞グロブリンとシクロスポリンの免疫抑制療法、さらにトロンボポエチン受容体作動薬の併用が中心になる。
医学生医学生
疾患名だけでなく、重症度やリスク分類、病期まで見て判断するんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に移植後の合併症も押さえておこう。急性GVHDは皮膚・肝臓・消化管が主な標的で、慢性GVHDでは皮膚硬化や乾燥症状、閉塞性細気管支炎などがみられる。サイトメガロウイルスを含む日和見感染症、肝中心静脈閉塞症、生着不全も重要だ。
医学生医学生
リスクがこれだけあるからこそ、適応を厳しく選ぶ必要があるわけですね。
ドクタードクター
そういうこと。「治癒の見込み」と「治療関連リスク」を天秤にかける姿勢は、移植に限らずあらゆる治療選択の基本になるよ。

まとめ

同種造血幹細胞移植は、前処置による腫瘍細胞の減少に加え、ドナーリンパ球によるGVL効果で化学療法だけでは治りにくい造血器腫瘍の治癒を目指す治療ですが、GVHDや感染症による移植関連死亡のリスクも高いため、適応を慎重に選びます。成人の急性リンパ性白血病は寛解導入率が高い一方で化学療法のみでは再発が多く、第一寛解期(特に高リスク群)の同種移植が標準的な選択肢です。多発性骨髄腫は自家移植、慢性リンパ性白血病は薬物療法、低リスクの骨髄異形成症候群である不応性貧血は支持療法が中心で、再生不良性貧血は重症以上・若年・HLA一致同胞ドナーがいる場合に同種移植、中等症では免疫抑制療法が中心となります。疾患名だけでなく重症度やリスク分類、病期まで踏まえて治療を選ぶ視点は、血液疾患の診療全体に通じる重要な考え方です。

解答・解説

正解はeです

問われていること

同種造血幹細胞移植(ドナーから提供された造血幹細胞を移植する治療)が、成人のどの疾患・病期で標準的に選択されるかを問う問題である。

同種移植の特徴

同種移植では、移植前の大量化学療法・放射線照射(前処置)で腫瘍細胞を減らすことに加え、ドナー由来のリンパ球が残存する腫瘍細胞を攻撃する移植片対白血病効果(GVL効果)が期待できる。この免疫学的効果によって、化学療法だけでは治しにくい造血器腫瘍の治癒を目指せる点が最大の利点である。一方で、移植片対宿主病(GVHD:ドナーのリンパ球が患者の臓器を攻撃する合併症)、重症感染症、臓器障害などにより、移植関連死亡のリスクが高い。

適応判断の考え方

したがって同種移植は、「移植をしなければ再発・死亡のリスクが高く、治癒が望みにくい疾患」で、かつ「患者が移植に耐えられる全身状態・年齢で、適切なドナーがいる」場合に選ばれる。逆に、進行が緩やかで他の治療で長期生存が得られる疾患や、より安全な治療法(自家移植、免疫抑制療法など)が標準となっている疾患では、第一選択にはならない。 成人の急性リンパ性白血病(ALL)は、寛解導入療法で高率に完全寛解に達するものの、化学療法のみでは再発が多く長期生存率が低い。そのため、再発リスクを下げる目的で第一寛解期に同種移植を行うことが標準的な選択肢となっている。

選択肢考察

  1. ×a.  不応性貧血

    不応性貧血は骨髄異形成症候群(MDS)の病型の一つで、骨髄中の芽球(未熟な腫瘍細胞)の割合が低く、白血病への移行リスクが比較的低い低リスク群に属する(現在のWHO分類では、芽球の少ないMDSとして再編されている)。低リスクMDSでは、輸血や鉄キレート療法、造血刺激薬などの支持療法が中心となり、原則として同種移植の適応ではない。国際予後スコアリングシステム(IPSS)などで高リスクと判定された例や、芽球が増加した例、輸血依存が強く進行する例などでは、同種移植(MDSで唯一の根治的治療)が検討される。

  2. ×b.  多発性骨髄腫

    多発性骨髄腫では、移植に耐えられる比較的若年(おおむね65歳前後まで)の患者に対して、大量メルファラン療法と自家末梢血幹細胞移植(患者自身の幹細胞を用いる移植)を組み合わせるのが標準治療である。同種移植は移植関連死亡が多いわりに生存の改善が明らかでないため、標準治療には位置づけられておらず、臨床試験など限られた状況でのみ行われる。

  3. ×c.  慢性リンパ性白血病

    慢性リンパ性白血病(CLL)は成熟B細胞が緩徐に増殖する疾患で、高齢者に多く、無症状の早期例では治療せず経過観察を行うことも多い。治療が必要な場合も、BTK阻害薬(イブルチニブなど)やBCL2阻害薬(ベネトクラクス)、抗CD20抗体などの薬物療法が中心である。同種移植は、これらの治療に抵抗性の予後不良例などごく一部に限って検討されるにすぎず、一般的な適応とはいえない。なお、日本ではCLLの頻度自体が欧米に比べて低い。

  4. ×d.  中等症の再生不良性貧血

    再生不良性貧血の治療は重症度で分かれる。重症以上で若年(おおむね40歳未満)、かつHLA(ヒト白血球抗原)一致の同胞ドナーがいる場合は、同種移植が第一選択となる。中等症では、輸血が必要な例に抗胸腺細胞グロブリン(ATG)とシクロスポリンを併用する免疫抑制療法を行い、トロンボポエチン受容体作動薬(エルトロンボパグなど)の併用も用いられる。輸血を要しない軽症〜中等症では経過観察やシクロスポリン単独、蛋白同化ステロイドなどが選択される。したがって中等症は同種移植の一般的な適応ではない。

  5. ○e.  急性リンパ性白血病の第一寛解期

    成人のALLは寛解導入療法で約8〜9割が完全寛解に達するが、化学療法だけでは再発が多く、長期生存率は小児に比べて明らかに低い。そこで、第一寛解期(初回の完全寛解が得られている時期)に同種移植を行い、前処置とGVL効果によって残存白血病細胞を根絶することで再発を減らす戦略がとられる。特に、フィラデルフィア染色体陽性(BCR-ABL1融合遺伝子陽性)例、初診時の白血球数が著しく多い例、予後不良の染色体異常をもつ例、寛解到達までに時間を要した例、微小残存病変(MRD)が陰性化しない例などの高リスク群では、第一寛解期の同種移植が強く推奨される。寛解期に移植する方が、腫瘍量が少なく全身状態もよいため、非寛解期や再発後よりも成績がよい。

造血幹細胞移植の種類

・自家移植: 患者自身の造血幹細胞を事前に採取・凍結保存し、大量化学療法後に戻す。GVHDは起こらないが、GVL効果もなく、採取した幹細胞への腫瘍細胞混入の問題がある。主な適応は多発性骨髄腫、再発した化学療法感受性の悪性リンパ腫など。 ・同種移植: HLAの適合したドナー(同胞、非血縁者=骨髄バンク、臍帯血、HLA半合致の血縁者など)から幹細胞を得る。GVL効果が得られる反面、GVHDや感染症のリスクがある。 ・幹細胞源: 骨髄、末梢血(G-CSFで動員)、臍帯血。

同種移植の主な適応(成人)

・急性骨髄性白血病: 予後中間〜不良群の第一寛解期、第二寛解期以降。 ・急性リンパ性白血病: 第一寛解期(特に高リスク群)、第二寛解期以降。 ・骨髄異形成症候群: 高リスク群。 ・慢性骨髄性白血病: チロシンキナーゼ阻害薬の登場以降は、薬剤抵抗例や移行期・急性転化例に限られる。 ・重症再生不良性貧血: 若年でHLA一致同胞ドナーがいる場合の第一選択。 ・その他: 再発・難治性の悪性リンパ腫、先天性の免疫不全症や代謝異常症(主に小児)など。

移植後の主な合併症

急性GVHD(皮膚・肝臓・消化管が主な標的)、慢性GVHD(皮膚硬化、乾燥症状、閉塞性細気管支炎など)、サイトメガロウイルス感染症を含む日和見感染症、肝中心静脈閉塞症(類洞閉塞症候群)、移植片生着不全など。

POINT

・同種移植は、GVL効果により化学療法だけでは治りにくい造血器腫瘍の治癒を目指す治療で、移植関連死亡が多いため適応を選ぶ。 ・成人ALLは化学療法のみでは再発が多いため、第一寛解期の同種移植が標準的選択肢(特に高リスク群)。 ・多発性骨髄腫は自家移植、CLLは薬物療法中心、低リスクMDS(不応性貧血)は支持療法中心。 ・再生不良性貧血は、重症以上・若年・HLA一致同胞ありで同種移植、中等症は免疫抑制療法が中心。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。