術後2日目、反対側の肺もしぼんだら―薬では抜けない「空気」をどう逃がすか
第101回医師国家試験 B問題 第105問
国試問題にチャレンジ
肺癌術後2日目に生じた対側の気胸の処置として正しいのはどれか。
- a.抗不安薬の投与
- b.抗菌薬の投与
- c.胸腔ドレナージ
- d.副腎皮質ステロイド薬の投与
- e.人工呼吸器による陽圧呼吸
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
気胸は臓側胸膜の破綻により胸腔内に空気がたまって肺が虚脱した状態であり、治療の本質は空気を排出して肺を再膨張させることで、薬物では改善しません。肺切除術後の対側気胸では、術側の肺容量がすでに減っているため両側でガス交換が障害されやすく、虚脱の程度にかかわらず速やかな胸腔ドレナージが原則です。ドレナージ前に人工呼吸器で陽圧換気を行うと緊張性気胸を招くおそれがあり、人工呼吸が必要でも先にドレーンを留置します。抗不安薬は呼吸抑制の危険があり、抗菌薬やステロイドは機械的な病態である気胸には効果がありません。対側気胸の背景には分離肺換気、中心静脈穿刺、喫煙関連のブラ破裂などがあり、周術期の呼吸管理を考えるうえで欠かせない知識です。
解答・解説
正解はcです
状況の整理
肺癌に対して肺切除術(肺葉切除など)を受けた患者が、術後2日目に手術をしていない側(対側)の気胸を起こした場面である。術側の肺は切除によって容量が減っており、胸腔ドレーンも術側に入っていることが多い。そこへ対側の肺までしぼむと、左右両方の肺でガス交換能が落ちるため、容易に重い低酸素血症に陥る。さらに、術後は咳嗽や体動が制限され、酸素投与や再挿管による陽圧換気が必要になる場面もあり、胸腔内に漏れた空気が逃げ場を失えば緊張性気胸へ進行するおそれがある。
考え方
気胸の本態は、臓側胸膜(肺表面を覆う胸膜)に穴があき、胸腔内に空気がたまって肺が虚脱した状態である。治療の目標は「胸腔内の空気を体外へ排出し、肺を再膨張させること」であり、薬物で空気を取り除くことはできない。軽度の自然気胸であれば安静・経過観察で自然吸収を待つこともあるが、本問のように肺切除術後で呼吸予備能が低い患者の対側気胸では、虚脱が軽く見えても待機は危険であり、速やかに胸腔ドレーンを挿入して持続的に脱気するのが原則である。
対側気胸が起こる背景
術中の片肺換気(分離肺換気)で対側肺に高い気道内圧がかかることや、中心静脈カテーテル穿刺の合併症、もともと存在したブラ(肺表面の気腫性嚢胞)の破裂などが原因として考えられる。肺癌患者には喫煙歴のある肺気腫合併例が多く、ブラ破裂のリスクが高い点も押さえておきたい。
選択肢考察
- ×a. 抗不安薬の投与
気胸による呼吸困難は胸腔内の空気で肺が虚脱していることが原因であり、不安を和らげても肺は再膨張しない。むしろ抗不安薬(ベンゾジアゼピン系など)には呼吸抑制作用があり、低酸素状態の術後患者に安易に投与すると換気がさらに低下する危険がある。原因に対する処置にならないため誤りである。
- ×b. 抗菌薬の投与
気胸は胸腔内に空気が漏れ出た機械的な病態であり、感染症ではない。抗菌薬では肺の虚脱は改善しない。術後の周術期予防投与や、膿胸・肺炎を合併した場合には抗菌薬が用いられるが、本問の気胸そのものへの処置ではないため誤りである。
- ○c. 胸腔ドレナージ
胸腔内にドレーン(管)を留置し、水封式または低圧持続吸引で空気を体外へ排出して肺を再膨張させる、気胸治療の基本となる処置である。肺切除術後は術側の肺容量が減っており、対側肺の虚脱が加わると両側性に換気が障害されて急速に呼吸不全へ進むため、虚脱の程度にかかわらず早期のドレナージが勧められる。ドレナージにより緊張性気胸への進展も防げる。空気漏れ(エアリーク)が持続する場合は、胸膜癒着術や手術を追加検討する。
- ×d. 副腎皮質ステロイド薬の投与
副腎皮質ステロイド薬は、間質性肺炎の急性増悪や気管支喘息発作など、炎症を抑えることが目的となる病態で用いられる。気胸は炎症性疾患ではなく、ステロイドで空気は排出されない。さらに術後早期の投与は創傷治癒の遅延や感染リスクの増加につながるため、本問では適応がない。
- ×e. 人工呼吸器による陽圧呼吸
ドレナージをしないまま陽圧換気を行うと、肺の破綻部から胸腔内へ押し込まれる空気の量が増え、気胸が増悪して緊張性気胸(胸腔内圧が上昇し、縦隔偏位・静脈還流低下からショックに至る状態)を招く危険が高い。未処置の気胸に対して陽圧換気を先行させるのは禁忌である。呼吸不全のため人工呼吸がどうしても必要な場合でも、まず胸腔ドレーンを留置してから行う。
気胸の分類
・自然気胸: 原発性(若年・高身長・やせ型の男性に多く、肺尖部ブラの破裂による)と、続発性(COPD、間質性肺炎、肺癌、肺結核、月経随伴性気胸など基礎疾患に伴う)に分けられる。 ・外傷性気胸: 胸部外傷によるもの。 ・医原性気胸: 中心静脈カテーテル穿刺、経皮肺生検、陽圧換気(圧外傷)、手術などに伴うもの。本問の術後対側気胸もこれに含めて考えられる。
虚脱度と治療選択の目安
・軽度(肺尖が鎖骨より上): 症状が乏しく基礎肺疾患がなければ、安静・経過観察。 ・中等度以上、または症状がある場合: 胸腔穿刺による脱気や胸腔ドレナージ。 ・再発例、持続する空気漏れ、両側性、血気胸など: 手術(胸腔鏡下のブラ切除など)や胸膜癒着術を考慮。 ・基礎肺疾患がある続発性気胸や、呼吸予備能の低い患者では、虚脱が軽くても入院のうえドレナージを考える。
緊張性気胸
破綻部が一方弁のように働き、胸腔内圧が陽圧になった状態。高度の呼吸困難、患側呼吸音消失、頸静脈怒張、気管の健側偏位、血圧低下を示す。画像を待たずに緊急脱気(第2肋間鎖骨中線や第4〜5肋間中腋窩線付近からの穿刺)を行い、続いて胸腔ドレーンを留置する。陽圧換気はこれを誘発・増悪させる代表的な要因である。
POINT
・気胸治療の基本は、胸腔内の空気を抜いて肺を再膨張させること(安静観察、穿刺脱気、胸腔ドレナージ)であり、薬物では治療できない。 ・肺切除術後の対側気胸は呼吸予備能が乏しく危険なため、速やかに胸腔ドレナージを行う。 ・ドレナージをしていない気胸への陽圧換気は、緊張性気胸を招くため禁忌である。
