朝起きたら足が動かない―低K血症とアシドーシスが指し示す尿細管性アシドーシス
第100回医師国家試験 I問題 第34問
国試問題にチャレンジ
27歳の女性。朝起床しようとして,足に力が入らず歩行困難となったことを主訴に来院した。昨日までは普通に歩行していた。下痢と嘔吐とはみられない。血圧102/68mmHg。両下肢の筋力が同程度に低下している。血液生化学所見:Na 139mEq/L,K 1.7mEq/L,Cl 114mEq/L,クレアチニン0.9mg/dL。動脈血ガス分析(自発呼吸,room air):pH 7.26,PaO2 111Torr,PaCO2 24Torr,HCO3- 16.1mEq/L。 診断はどれか。
- a.原発性アルドステロン症
- b.尿細管性アシドーシス
- c.Addison病
- d.Bartter症候群
- e.Liddle症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
急に起こる四肢の脱力では低K血症による周期性四肢麻痺を考え、血液ガスで酸塩基平衡を必ず評価します。本例はアニオンギャップ正常の高Cl性代謝性アシドーシスに著明な低K血症を伴い、下痢がないことから尿細管性アシドーシスと診断できます。原発性アルドステロン症、Liddle症候群、Bartter症候群は低K血症でも代謝性アルカローシスを示し、Addison病は代謝性アシドーシスでも高K血症を示す点で鑑別されます。RTA1型は尿pHが5.5以下に下がらず腎結石や高Ca尿症を伴いやすく、Sjögren症候群などの自己免疫疾患が背景となることがあります。「Kの上下×酸塩基の向き×血圧」で整理する考え方は、電解質異常の診療全般で役立つ基本の枠組みです。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・27歳女性。前日まで普通に歩けていたが、朝起きると両下肢に力が入らない。急に起こった左右対称の脱力である。 ・下痢や嘔吐はない。つまり消化管からカリウム(K)や重炭酸イオン(HCO3-)を失ったわけではない。 ・血圧は102/68mmHgで、高血圧はない。 ・血清K 1.7mEq/Lと著明に低い(基準値はおよそ3.5〜5.0mEq/L)。Cl 114mEq/Lと高い。クレアチニン0.9mg/dLで腎機能はほぼ保たれている。 ・動脈血ガス: pH 7.26(酸血症)、HCO3- 16.1mEq/L(低下)、PaCO2 24Torr(低下)。
酸塩基平衡の評価
1. pH 7.26 < 7.35 なので酸血症(アシデミア)である。 2. HCO3-が低いので、原因は代謝性アシドーシスである。PaCO2の低下は、呼吸を増やしてCO2を吐き出す代償反応である。代償しても pH は正常まで戻っていない。 3. アニオンギャップ(AG)= Na -(Cl + HCO3-)= 139 -(114 + 16.1)≒ 9mEq/L で、基準値(およそ12±2mEq/L)の範囲内である。したがって AG正常の代謝性アシドーシス(高Cl性代謝性アシドーシス)である。乳酸やケトン体のような測定されない陰イオンが増えたアシドーシスではなく、HCO3-そのものを失ったか、酸を排泄できないタイプのアシドーシスである。
鑑別の考え方
代謝性アシドーシスでは、細胞内のH+と細胞外のK+が入れ替わるため、普通は血清Kが上がりやすい。それにもかかわらず著明な低K血症を伴うAG正常の代謝性アシドーシスは、次の二つに絞られる。 ・下痢: 腸液に含まれるHCO3-とKを便で失う。 ・尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis: RTA)のうち1型(遠位型)と2型(近位型): 腎臓がHCO3-を再吸収できない、または酸(H+)を尿中に排泄できない。その結果、尿中へのK排泄も増える。 本例は下痢がないので、尿細管性アシドーシスと診断する。若年女性で、K 1.7mEq/Lという高度の低K血症を示す点は、Sjögren症候群などに伴う遠位型(1型)RTAとして典型的である。
脱力の原因
高度の低K血症では、骨格筋細胞の静止膜電位が深くなる(過分極する)。そのため興奮が起こりにくくなり、筋力が低下する。朝方に急に四肢の脱力が現れる経過は、低K血症による周期性四肢麻痺(二次性の低K性周期性四肢麻痺)に一致する。
設問へのアプローチ
選択肢は、低K血症をきたす代表的な疾患(原発性アルドステロン症、Bartter症候群、Liddle症候群)と、高K血症をきたすAddison病である。まず血液ガスでアシドーシスかアルカローシスかを決めれば、ほとんどの選択肢を除外できる。
選択肢考察
- ×a. 原発性アルドステロン症
副腎からアルドステロンが自律的に過剰分泌される疾患である。アルドステロンは集合管でNa再吸収を促し、その代わりにK+とH+を尿中へ排泄させる。そのため低K血症と代謝性アルカローシス(HCO3-の上昇)をきたし、Na・水の貯留により高血圧を示す。本例は代謝性アシドーシスで、血圧も102/68mmHgと低めなので合わない。
- ○b. 尿細管性アシドーシス
本例はAG正常(約9mEq/L)の高Cl性代謝性アシドーシスに、K 1.7mEq/Lという著明な低K血症を伴う。この組み合わせをきたすのは下痢とRTA(1型・2型)であり、本例には下痢がない。したがってRTAと診断できる。RTAでは、遠位尿細管からのH+分泌の障害(1型)や、近位尿細管でのHCO3-再吸収の障害(2型)により代謝性アシドーシスとなる。尿中へのK喪失も増えるため低K血症をきたす。急に起こった両下肢の脱力は、低K血症による周期性四肢麻痺と考えられる。
- ×c. Addison病
副腎皮質が破壊されて起こる原発性副腎皮質機能低下症である。アルドステロンが欠乏するとKとH+を尿中に排泄できなくなる。その結果、高K血症と代謝性アシドーシスをきたし、低Na血症や低血圧も伴う。アシドーシスという点は本例と共通するが、K 1.7mEq/Lという低K血症とは正反対であり、否定できる。
- ×d. Bartter症候群
Henleループ上行脚の太い部分にあるNa-K-2Cl共輸送体などの遺伝的な異常により、塩類が尿へ失われる疾患である。ループ利尿薬を飲み続けているのと似た状態になる。体液量が減るためレニン・アルドステロン系が亢進し、低K血症と代謝性アルカローシスをきたす。血圧は正常〜低めである。低Kと低めの血圧は本例と共通するが、酸塩基平衡がアルカローシスである点で合わない。
- ×e. Liddle症候群
集合管の上皮型Naチャネル(ENaC)の機能が高まる常染色体顕性(優性)遺伝の疾患である。Na再吸収が過剰になり、それに伴ってK+とH+の排泄も増える。そのため高血圧、低K血症、代謝性アルカローシスをきたす。レニンもアルドステロンも低値になる点が原発性アルドステロン症との違いである。本例はアシドーシスで、高血圧もないので否定できる。
低K血症の鑑別と酸塩基平衡
・低K血症+代謝性アルカローシス: 原発性アルドステロン症、Cushing症候群、Liddle症候群、Bartter症候群、Gitelman症候群、嘔吐、利尿薬、偽性アルドステロン症(甘草)など。さらに血圧で分けると、高血圧を伴うのはアルドステロン症、Cushing症候群、Liddle症候群、偽性アルドステロン症である。正常〜低血圧なのはBartter症候群、Gitelman症候群、嘔吐、利尿薬である。 ・低K血症+代謝性アシドーシス(AG正常): 下痢、RTA 1型・2型、尿管S状結腸吻合後、炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド)など。 ・高K血症+代謝性アシドーシス(AG正常): RTA 4型(低レニン性低アルドステロン症。糖尿病性腎症などに多い)、Addison病、K保持性利尿薬など。
尿細管性アシドーシスの病型
・1型(遠位型): 集合管の間在細胞がH+を分泌できず、尿を十分に酸性化できない。アシドーシスがあっても尿pHが5.5以下に下がらないのが特徴である。低K血症、高Ca尿症、腎結石・腎石灰化、骨軟化症を伴いやすい。原因にはSjögren症候群などの自己免疫疾患、薬剤、遺伝性のものがある。 ・2型(近位型): 近位尿細管でHCO3-を再吸収できない。Fanconi症候群(糖尿、アミノ酸尿、リン酸尿などを伴う近位尿細管の全般的な障害)の一部として現れることが多い。原因には多発性骨髄腫、薬剤(アセタゾラミド、イホスファミドなど)がある。血中HCO3-が一定の値まで下がると尿を酸性化できるようになるため、尿pHは5.5未満に下がり得る。 ・4型: アルドステロンが不足するか、アルドステロンが効かない状態である。高K血症を伴う点で1型・2型と異なる。
周期性四肢麻痺
発作的に四肢の弛緩性麻痺を起こす病態である。低K性のものが多い。原発性(遺伝性)のほか、甲状腺機能亢進症(アジアの若年男性に多い)、原発性アルドステロン症、RTAなどによる二次性のものがある。発作は夜間から早朝、炭水化物の多食後、激しい運動後の休息時に起こりやすい。
POINT
・代謝性アシドーシスではまずアニオンギャップ[Na -(Cl + HCO3-)]を計算する。 ・AG正常の代謝性アシドーシスに低K血症を伴うのは、下痢とRTA(1型・2型)である。下痢がなければRTAと考える。 ・原発性アルドステロン症、Liddle症候群、Bartter症候群、Gitelman症候群は、低K血症+代謝性アルカローシスである。このうち高血圧を伴うのは原発性アルドステロン症とLiddle症候群である。 ・Addison病とRTA 4型は、高K血症+代謝性アシドーシスである。 ・低K血症は、急に起こる四肢の脱力(周期性四肢麻痺)の原因になる。
