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利尿薬の地図で読み解く尿細管疾患―Bartter症候群はなぜ「太い上行脚」なのか

第111回医師国家試験 I問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第111回 I問題 第9問

糸球体と尿細管の模式図を示す。  障害部位と疾患の組合せで正しいのはどれか。

第111回 I問題 第9問の問題画像
  1. a.① ―― 腎性尿崩症
  2. b.② ―― Gitelman症候群
  3. c.③ ―― Bartter症候群
  4. d.④ ―― 遠位尿細管性アシドーシス
  5. e.⑤ ―― Fanconi症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はネフロンの模式図を使って、障害部位と疾患を結びつける問題だ。図の5か所は、糸球体、近位尿細管、Henleループの太い上行脚、遠位曲尿細管、集合管にあたる。ポイントは「その疾患がどの輸送体の異常か」を思い出し、その輸送体がどこにあるかをたどることだよ。
医学生医学生
生理学の講義で輸送体の名前をたくさん覚えましたが、疾患と結びつけるとなると混乱してしまいます。
ドクタードクター
そこでおすすめなのが、利尿薬の作用部位を地図代わりにする方法だ。近位尿細管にはアセタゾラミドやSGLT2阻害薬、太い上行脚にはループ利尿薬、遠位曲尿細管にはサイアザイド、集合管にはスピロノラクトンなどのK保持性利尿薬やトルバプタンが効く。遺伝性尿細管疾患の多くは、この標的分子が生まれつき働かない状態だと考えると整理しやすい。
医学生医学生
ということは、ループ利尿薬の標的であるNa-K-2Cl共輸送体が壊れているのがBartter症候群でしたっけ。
ドクタードクター
その通り。Bartter症候群はHenleループの太い上行脚でNaClを再吸収する仕組みの異常で、Na-K-2Cl共輸送体のほか、Kを管腔側へ戻すROMKや、Clを血管側へ出すClC-Kbとその補助サブユニットのbarttinなどの遺伝子異常が原因になる。ループ利尿薬をずっと飲み続けているような状態になるわけだ。だから太い上行脚とBartter症候群の組合せが正解になる。
医学生医学生
ループ利尿薬の副作用を思い出すと、低K血症と代謝性アルカローシスになりそうです。
ドクタードクター
いいね。NaClが遠位に多く流れて体液量が減り、レニン・アルドステロンが上がって、集合管でKとH+の分泌が進む。だから低K血症、代謝性アルカローシス、高レニン・高アルドステロンなのに血圧は正常、という組合せになる。さらに太い上行脚はCaの再吸収にも関わるから、尿中Ca排泄が増える。新生児期から乳幼児期に多尿や成長障害で見つかることが多いんだ。
医学生医学生
Gitelman症候群も似た症状ですよね。CBTの問題で区別がつかなくて悔しい思いをしました。
ドクタードクター
多くの学生がつまずくところだね。Gitelman症候群は遠位曲尿細管にあるサイアザイド感受性Na-Cl共輸送体の機能喪失で起こる。図の近位尿細管ではないから、その組合せは誤り。低K血症、代謝性アルカローシス、高レニン・高アルドステロンまではBartterと共通だけど、低Mg血症と低Ca尿症を伴うのが決め手で、思春期以降に軽い症状で見つかることが多い。
医学生医学生
サイアザイドは尿中Caを減らすので、骨粗鬆症の患者さんには好都合だと薬理で習いました。それとつながるんですね。
ドクタードクター
まさにそのつながりが大事。ループ利尿薬は尿Caを増やし、サイアザイドは減らす。だからBartterは高Ca尿症、Gitelmanは低Ca尿症になる。次は近位尿細管の疾患を考えよう。
医学生医学生
近位尿細管がまとめて壊れるのはFanconi症候群ですね。集合管の病気ではないと思います。
ドクタードクター
正解。近位尿細管は水とNaの約3分の2に加えて、ブドウ糖、アミノ酸、リン酸、重炭酸の大部分を再吸収する場所だ。そこが全般的に障害されると、腎性糖尿、アミノ酸尿、低リン血症によるくる病・骨軟化症、近位尿細管性アシドーシスなどが起こる。原因としては多発性骨髄腫、イホスファミドやテノホビルなどの薬剤、Wilson病なども重要だ。
医学生医学生
腎性尿崩症は、糸球体ではなく水を最後に調節する集合管の障害ですよね。
ドクタードクター
そうだね。集合管の主細胞がADHに反応できず、水を再吸収できないために低張尿が大量に出る。先天性ならV2受容体やアクアポリン2の異常、後天性ならリチウム製剤や低K血症、高Ca血症が原因になる。糸球体はろ過の場だから、ここと腎性尿崩症を結ぶのは誤りだ。
医学生医学生
遠位尿細管性アシドーシスは名前に「遠位」とあるので、遠位曲尿細管で正しいように見えてしまいます。
ドクタードクター
それがこの問題の引っかけだね。I型RTAの主な障害部位は、接合尿細管から集合管にかけてのα介在細胞だ。H+を分泌できないので、アニオンギャップ正常の代謝性アシドーシスなのに尿pHが5.5未満に下がらない。低K血症、高Ca尿症、腎石灰化、尿路結石も特徴で、Sjögren症候群に合併することもある。
医学生医学生
腎臓内科の実習で、Sjögren症候群の患者さんの低K血症の原因がRTAだったと聞いたことがあります。名前に惑わされず、どの細胞の異常かで考えるべきなんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に周辺知識も押さえておこう。集合管ではENaCの機能亢進で高血圧・低K血症・低レニン・低アルドステロンを示すLiddle症候群、遠位曲尿細管ではNa-Cl共輸送体の活性亢進で高血圧・高K血症を示すGordon症候群がある。Bartter・Gitelmanとは血圧やレニンの向きが逆になるから、セットで比べると理解が深まるよ。
医学生医学生
臨床では、低K血症の患者さんが実は利尿薬や下剤を隠れて飲んでいたというケースもあると聞きました。
ドクタードクター
大事な指摘だね。利尿薬の乱用はBartter・Gitelmanとそっくりの検査所見を示すから、遺伝性疾患と診断する前に、服薬歴の確認や尿中利尿薬の検査で除外する必要がある。慢性嘔吐でも低K血症と代謝性アルカローシスになるけれど、尿中Cl濃度が低いことが鑑別の手がかりになる。

まとめ

ネフロンの障害部位と疾患の対応は、利尿薬の作用部位を地図として使うと整理しやすくなります。Henleループの太い上行脚のNa-K-2Cl共輸送体などの異常がBartter症候群(ループ利尿薬類似で高Ca尿症)、遠位曲尿細管のNa-Cl共輸送体の異常がGitelman症候群(サイアザイド類似で低Mg血症・低Ca尿症)です。近位尿細管の全般的な再吸収障害はFanconi症候群、集合管の障害には腎性尿崩症、I型(遠位)尿細管性アシドーシス、Liddle症候群があり、名前の「遠位」に惑わされないことが大切です。また、利尿薬や下剤の隠れた乱用は遺伝性疾患とよく似た所見を示すため、服薬歴の確認が欠かせません。輸送体・部位・薬・疾患を一続きで理解しておくことは、電解質異常の診断を進める臨床力の土台になります。

解答・解説

正解はcです

問われていること

ネフロン(腎臓の機能単位)の各部位と、その部位の障害によって生じる疾患(主に輸送体やチャネルの遺伝子異常による尿細管疾患)の対応を問う問題である。

模式図の部位

①糸球体(血液をろ過して原尿をつくる) ②近位尿細管(原尿中の水・Naの約2/3と、ブドウ糖・アミノ酸・リン酸・重炭酸などの大部分を再吸収する) ③Henleループの太い上行脚(Na-K-2Cl共輸送体でNaClを再吸収するが、水は通さないため尿を希釈し、髄質の浸透圧勾配をつくる) ④遠位(曲)尿細管(Na-Cl共輸送体でNaClを再吸収する) ⑤集合管(アルドステロンによるNa再吸収・K分泌、α介在細胞による酸分泌、抗利尿ホルモン〈ADH〉による水の再吸収を担う)

考え方

各疾患がどの輸送体の異常で起こるかを思い出し、その輸送体がどの部位にあるかを確認する。利尿薬の作用部位と重なるものが多く、ループ利尿薬の標的(Na-K-2Cl共輸送体)の異常がBartter症候群、サイアザイド系利尿薬の標的(Na-Cl共輸送体)の異常がGitelman症候群に対応する、と整理すると覚えやすい。 選択肢のうち、疾患と部位が正しく対応しているのは③(Henleループの太い上行脚)とBartter症候群の組合せである。

選択肢考察

  1. ×a.  ① ―― 腎性尿崩症

    ①は糸球体である。腎性尿崩症は、集合管の主細胞がADHに反応できず、水の再吸収ができないために多量の希釈尿(低張尿)が出る疾患で、障害部位は⑤の集合管である。先天性ではADHのV2受容体(X連鎖性で最多)や水チャネルのアクアポリン2の遺伝子異常が原因となり、後天性ではリチウム製剤、低K血症、高Ca血症などが原因となる。

  2. ×b.  ② ―― Gitelman症候群

    ②は近位尿細管である。Gitelman症候群は、遠位曲尿細管(④)にあるサイアザイド感受性Na-Cl共輸送体(NCC、遺伝子SLC12A3)の機能喪失によって起こる常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。サイアザイド系利尿薬を常に服用しているような状態となり、低K血症、代謝性アルカローシス、レニン・アルドステロン高値(血圧は正常〜低め)をきたす。Bartter症候群と異なり、低Mg血症と低Ca尿症を伴うのが特徴で、思春期以降に診断されることが多い。

  3. ○c.  ③ ―― Bartter症候群

    ③はHenleループの太い上行脚である。Bartter症候群は、この部位でNaClの再吸収にかかわる輸送体・チャネルの遺伝子異常によって起こる。原因分子にはループ利尿薬の標的であるNa-K-2Cl共輸送体(NKCC2)のほか、Na-K-2Cl共輸送体が働くためにKを管腔側へ戻す腎髄質外層Kチャネル(ROMK)、Clを血管側へ出すクロライドチャネル(ClC-Kb)とその補助サブユニット(barttin)、カルシウム感受性受容体(CaSR、機能獲得型変異)などがある。ループ利尿薬を常に服用しているような状態となり、低K血症、代謝性アルカローシス、レニン・アルドステロン高値(血圧は正常)を示し、尿中Ca排泄は増加する。新生児期・乳幼児期に多尿や成長障害で発見されることが多い。

  4. ×d.  ④ ―― 遠位尿細管性アシドーシス

    ④は遠位曲尿細管である。遠位尿細管性アシドーシス(Ⅰ型RTA)は、名称に「遠位」とあるものの、主な障害部位は接合尿細管から集合管(⑤)にかけて存在するα介在細胞であり、H+の分泌(それに伴う重炭酸の再生)ができないことで起こる。アニオンギャップ正常の代謝性アシドーシスでありながら尿のpHが5.5未満に下がらないこと、低K血症、高Ca尿症・腎石灰化・尿路結石を特徴とする。原因として遺伝性(H+-ATPase、陰イオン交換輸送体AE1などの異常)と後天性(Sjögren症候群などの自己免疫疾患、薬剤など)がある。

  5. ×e.  ⑤ ―― Fanconi症候群

    ⑤は集合管である。Fanconi症候群は近位尿細管(②)の再吸収機能が全般的に障害される病態で、ブドウ糖(腎性糖尿)、アミノ酸、リン酸、尿酸、重炭酸、低分子蛋白(β2ミクログロブリンなど)が尿中へ失われる。その結果、低リン血症によるくる病・骨軟化症、近位尿細管性アシドーシス(Ⅱ型RTA)、低尿酸血症などをきたす。先天性(シスチン症、Wilson病など)と後天性(多発性骨髄腫、薬剤〈イホスファミド、テノホビルなど〉、重金属など)がある。

ネフロンの部位・主な輸送体・利尿薬・関連疾患の対応

・近位尿細管:Na+/H+交換輸送体、Na-ブドウ糖共輸送体(SGLT2)、炭酸脱水酵素など。利尿薬はアセタゾラミド(炭酸脱水酵素阻害薬)、SGLT2阻害薬。疾患はFanconi症候群、近位尿細管性アシドーシス(Ⅱ型)、腎性糖尿。 ・Henleループの太い上行脚:Na-K-2Cl共輸送体(NKCC2)、ROMK、ClC-Kb。利尿薬はループ利尿薬(フロセミドなど)。疾患はBartter症候群。 ・遠位曲尿細管:Na-Cl共輸送体(NCC)。利尿薬はサイアザイド系。疾患はGitelman症候群、偽性低アルドステロン症Ⅱ型(Gordon症候群:NCCの活性亢進で高血圧・高K血症)。 ・集合管:上皮型Naチャネル(ENaC)、ROMK、H+-ATPase、V2受容体、アクアポリン2。利尿薬はK保持性利尿薬(スピロノラクトンなどのミネラルコルチコイド受容体拮抗薬、トリアムテレン)、V2受容体拮抗薬(トルバプタン)。疾患はLiddle症候群(ENaCの機能亢進:高血圧・低K血症・低レニン・低アルドステロン)、偽性低アルドステロン症Ⅰ型、遠位尿細管性アシドーシス(Ⅰ型)、腎性尿崩症。

Bartter症候群とGitelman症候群の比較

・共通点:低K血症、代謝性アルカローシス、高レニン・高アルドステロン血症、血圧は正常。 ・Bartter:太い上行脚の障害。尿中Ca排泄増加(高Ca尿症、腎石灰化)、発症が早い(新生児〜小児)、ループ利尿薬の長期使用に類似。 ・Gitelman:遠位曲尿細管の障害。低Ca尿症、低Mg血症、発症が遅く軽症(思春期〜成人)、サイアザイドの長期使用に類似。

POINT

・Bartter症候群=Henleループの太い上行脚(NKCC2など、ループ利尿薬の作用部位)。 ・Gitelman症候群=遠位曲尿細管(NCC、サイアザイドの作用部位)。低Mg血症・低Ca尿症が鑑別点。 ・Fanconi症候群・Ⅱ型RTA=近位尿細管。 ・遠位尿細管性アシドーシス(Ⅰ型)・腎性尿崩症・Liddle症候群=集合管。 ・利尿薬の作用部位と遺伝性尿細管疾患をセットで覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。