StudyMed医師国家試験

まぶたの紅斑と上がれない階段―皮膚筋炎を検査所見で裏づける

第100回医師国家試験 I問題 第33問

国試問題にチャレンジ

第100回 I問題 第33問

45歳の男性。発熱と筋肉痛とを主訴に来院した。1か月前から37℃ 台の微熱が出現し,徐々に運動時の筋肉痛と階段の昇降困難とがみられるようになった。眼瞼に浮腫状の紅斑を認める。大腿四頭筋生検H-E染色標本を別に示す。 この疾患でみられるのはどれか。2つ選べ。

第100回 I問題 第33問の問題画像
  1. a.抗Jo-1抗体高値
  2. b.抗アセチルコリンレセプター抗体高値
  3. c.尿中クレアチン増加
  4. d.食道蠕動運動低下
  5. e.神経伝導速度低下

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、筋力低下と皮疹から炎症性筋疾患を診断し、そこでみられる検査所見を選ぶ問題だ。注目点は、どの筋が弱っているか、皮膚に何が出ているか、そして筋生検で何が見えるか。まず、階段の昇降が難しいというのは何を意味するかな。
医学生医学生
階段は太ももやお尻の筋肉を使うので、近位筋の筋力低下だと思います。
ドクタードクター
その通り。近位筋優位の筋力低下に筋肉痛と微熱が加わって、1か月かけて徐々に進んでいる。これは炎症性筋疾患、つまり多発性筋炎や皮膚筋炎を考える経過だ。そこに眼瞼の浮腫状の紅斑がある。
医学生医学生
ヘリオトロープ疹ですね。皮膚科の実習で、上まぶたが紫っぽく腫れぼったい写真を見ました。だから皮膚筋炎だと思います。
ドクタードクター
正解。筋生検のH-E染色では、筋線維のあいだ、特に血管の周りや筋束を包む結合組織にリンパ球などの炎症細胞が浸潤している。筋に炎症が起きていることを組織で裏づけているわけだ。では検査所見を見ていこう。まず抗Jo-1抗体はどうかな。
医学生医学生
筋炎の自己抗体ですよね。でも、多発性筋炎のほうの抗体だと覚えていて、皮膚筋炎でいいのか少し迷いました。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。抗Jo-1抗体は抗ARS抗体の代表で、確かに皮膚筋炎より多発性筋炎で陽性率がやや高い。でも他の膠原病ではほとんど陽性にならない、筋炎に特異性の高い抗体で、多発性筋炎・皮膚筋炎の診断基準にも入っている。だからこの疾患の所見として選んでいい。陽性例では間質性肺炎、関節炎、機械工の手を伴いやすく、抗ARS抗体症候群とまとめられるんだ。
医学生医学生
尿中クレアチンの増加は、筋肉が壊れるからでしょうか。生化学で習ったクレアチンとクレアチニンがごっちゃになっていて……。
ドクタードクター
そこを整理しよう。クレアチンは主に肝臓で作られて骨格筋に取り込まれ、クレアチンリン酸としてエネルギーを蓄える。それがクレアチニンに変わって尿に出る。筋が障害されたり萎縮したりすると、筋がクレアチンを取り込めなくなり、余ったクレアチンが尿に出てくる。一方、筋量が減るのでクレアチニンの産生は減る。尿中クレアチン増加・尿中クレアチニン低下がセットなんだ。
医学生医学生
なるほど、筋に入れなくなった分があふれるんですね。筋疾患一般の所見という理解でいいですか。
ドクタードクター
そう、非特異的だけど皮膚筋炎でもみられる。だからこれも正解だ。残りの3つは、別の病気の顔つきをした選択肢だよ。抗アセチルコリンレセプター抗体はどうだろう。
医学生医学生
重症筋無力症ですね。眼瞼下垂や複視があって、夕方に悪くなる日内変動が特徴でした。
ドクタードクター
そう。筋痛や発熱、皮疹、筋生検の炎症はみられないから、今回とは合わない。食道蠕動運動の低下は?
医学生医学生
皮膚筋炎でも飲み込みにくくなると聞いたので、迷いました。
ドクタードクター
いい迷いだ。皮膚筋炎の嚥下障害は、横紋筋でできた咽頭筋や食道上部が侵されて、食べ物を食道に送り込む段階がうまくいかないもの。一方、食道下部の平滑筋が線維化して蠕動が落ちるのは全身性強皮症の代表的な所見だ。機序が違うので、ここでは強皮症を想定した選択肢と考える。
医学生医学生
神経伝導速度の低下は、Guillain-Barré症候群やCIDPのような脱髄性ニューロパチーの所見なので、筋そのものの病気である皮膚筋炎では正常ですね。
ドクタードクター
完璧。筋炎で異常が出るのは筋電図のほうで、低振幅・短持続・多相性の運動単位電位や、安静時の線維自発電位といった筋原性変化がみられる。ほかに血清CKやアルドラーゼの上昇、MRIでの筋の高信号も診断の助けになる。
医学生医学生
治療はステロイドですか。
ドクタードクター
第一選択は副腎皮質ステロイドで、効果が不十分な場合や間質性肺炎を合併している場合は免疫抑制薬などを併用する。そして臨床で忘れてはいけないのが合併症だ。中高年の皮膚筋炎は悪性腫瘍の合併が多いから、診断したら全身のがん検索を行う。抗TIF1-γ抗体陽性例では特に関連が強い。また抗MDA5抗体陽性例は、筋症状が軽くても急速進行性の間質性肺炎を起こすことがあり、予後を左右する。
医学生医学生
皮膚筋炎と診断したら、筋だけでなく肺とがんも見る、ということですね。
ドクタードクター
その通り。病理で見ると、皮膚筋炎では筋束の辺縁の筋線維が萎縮する筋束周辺萎縮が特徴で、多発性筋炎ではCD8陽性T細胞が壊死していない筋線維に侵入する像がみられる。この違いも押さえておくと理解が深まるよ。

まとめ

亜急性に進む近位筋優位の筋力低下と筋痛にヘリオトロープ疹が加わり、筋生検で炎症細胞浸潤を認めれば皮膚筋炎と診断できます。抗Jo-1抗体(抗ARS抗体)は筋炎に特異性が高い自己抗体で、間質性肺炎・関節炎・機械工の手と関連し、筋の障害ではクレアチンの取り込みが減るため尿中クレアチン増加・尿中クレアチニン低下がみられます。抗アセチルコリンレセプター抗体は重症筋無力症、食道下部の蠕動低下は全身性強皮症、神経伝導速度低下は脱髄性末梢神経障害の所見であり、筋原性疾患である皮膚筋炎では神経伝導速度は正常で筋電図に筋原性変化が出ます。中高年の皮膚筋炎では悪性腫瘍と間質性肺炎の検索が欠かせません。検査所見をどの臓器・どの病態を反映するかで整理する姿勢は、神経筋疾患の鑑別全般に役立ちます。

解答・解説

正解はa, cです

所見の整理

・45歳の男性。1か月前から37℃台の微熱が続き、運動時の筋肉痛と、階段の昇降困難が徐々に出現した。 ・階段の昇降では大腿や殿部の筋(近位筋)が主に使われるため、昇降困難は下肢近位筋の筋力低下を意味する。 ・眼瞼の浮腫状の紅斑は、上眼瞼にみられる紫紅色〜淡紅色の腫れぼったい紅斑、すなわちヘリオトロープ疹と考えられる。 ・大腿四頭筋の生検(H-E染色)では、筋線維の周囲、特に血管周囲や筋束の間の結合組織(筋周膜)にリンパ球などの炎症細胞浸潤がみられる。

診断へのプロセス

亜急性に進行する近位筋優位の筋力低下と筋痛、発熱などの全身炎症症状、筋生検での炎症細胞浸潤がそろえば、特発性炎症性筋疾患(多発性筋炎・皮膚筋炎など)を考える。これに特徴的な皮膚症状であるヘリオトロープ疹が加わっているため、皮膚筋炎(dermatomyositis、DM)と診断できる。 鑑別として、重症筋無力症(易疲労性・日内変動が主体で、筋痛や皮疹はない)、Guillain-Barré症候群などの末梢神経障害(腱反射低下や感覚障害を伴い、遠位筋も侵される)、甲状腺機能低下症などによる内分泌性ミオパチー、筋ジストロフィーなどがあるが、皮疹と筋生検の炎症所見から否定的である。

設問の考え方

皮膚筋炎でみられる検査所見を選ぶ。筋炎を反映する検査(血清CK・アルドラーゼ・ミオグロビンの上昇、尿中クレアチン増加、筋電図の筋原性変化、MRIでの筋の炎症像)と、筋炎に関連する自己抗体(抗Jo-1抗体を含む抗ARS抗体、抗Mi-2抗体、抗MDA5抗体、抗TIF1-γ抗体など)を押さえておけば、正解の2つを選べる。他の選択肢は、別の疾患(重症筋無力症、全身性強皮症、末梢神経障害)に特徴的な所見である。

選択肢考察

  1. ○a.  抗Jo-1抗体高値

    抗Jo-1抗体は、アミノ酸をtRNAに結合させる酵素であるヒスチジルtRNA合成酵素に対する自己抗体で、抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体のなかで最も代表的なものである。多発性筋炎・皮膚筋炎の患者の約20〜30%で陽性となり、他の膠原病ではほとんど陽性にならないため、筋炎に特異性の高い抗体として診断基準にも含まれている。陽性例は間質性肺炎、関節炎、機械工の手(手指の角化・亀裂)、Raynaud現象、発熱を伴いやすく、抗ARS抗体症候群と呼ばれる。皮膚筋炎よりも多発性筋炎で陽性率がやや高い。

  2. ×b.  抗アセチルコリンレセプター抗体高値

    神経筋接合部のアセチルコリン受容体に対する自己抗体で、重症筋無力症の約80〜85%で陽性となる。重症筋無力症は、眼瞼下垂や複視、繰り返し動かすと力が入らなくなる易疲労性と夕方に悪化する日内変動が特徴で、筋痛・発熱・皮疹や筋生検での炎症細胞浸潤はみられない。皮膚筋炎の所見ではない。

  3. ○c.  尿中クレアチン増加

    クレアチンは主に肝臓で合成され、骨格筋に取り込まれてクレアチンリン酸としてエネルギーの貯蔵に使われ、その後クレアチニンに変換されて尿中に排泄される。筋炎で骨格筋が障害・萎縮すると、筋へのクレアチンの取り込みが減るため血中のクレアチンが余って尿中クレアチン排泄が増加する。一方、筋量が減ることでクレアチニンの産生は減り、尿中クレアチニンは低下する。筋疾患一般にみられる非特異的な所見だが、皮膚筋炎でもみられる。

  4. ×d.  食道蠕動運動低下

    食道蠕動運動の低下は、食道下部の平滑筋が線維化・萎縮する全身性強皮症の代表的な所見であり、逆流性食道炎や食道拡張の原因となる。皮膚筋炎でも嚥下障害はしばしばみられるが、主な原因は骨格筋でできている咽頭筋や食道上部の筋が侵されることで、食べ物を咽頭から食道に送り込む段階が障害される。食道の蠕動運動低下は皮膚筋炎を特徴づける所見ではないため、本問では選ばない。

  5. ×e.  神経伝導速度低下

    神経伝導速度の低下は、Guillain-Barré症候群、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)、Charcot-Marie-Tooth病など、主に末梢神経の脱髄性障害でみられる。皮膚筋炎は筋そのものの疾患(筋原性疾患)であり、神経伝導速度は正常である。筋電図では、短く小さな運動単位電位(低振幅・短持続・多相性)や安静時の線維自発電位などの筋原性変化がみられる。

皮膚筋炎・多発性筋炎の概要

・骨格筋に炎症が起こり、体幹や四肢の近位筋、頸部屈筋、咽頭筋の筋力低下をきたす自己免疫疾患である。特徴的な皮膚症状を伴うものを皮膚筋炎、伴わないものを多発性筋炎と呼ぶ。中年女性に多いが、皮膚筋炎は小児にも発症する。 ・筋症状: 近位筋優位の筋力低下(しゃがみ立ちや階段昇降、洗髪動作の困難)、筋痛、嚥下障害。 ・皮膚症状: ヘリオトロープ疹(上眼瞼の浮腫性紅斑)、Gottron丘疹・Gottron徴候(手指関節背面の角化性紅斑)、Vネック徴候・ショール徴候(前胸部・肩背部の紅斑)、爪囲紅斑、機械工の手。 ・合併症: 間質性肺炎(予後を左右する。抗MDA5抗体陽性例では急速進行性となり、筋症状が乏しいこともある)、悪性腫瘍(特に中高年の皮膚筋炎で多く、抗TIF1-γ抗体陽性例で関連が強い)、心筋炎。中高年で皮膚筋炎と診断したら悪性腫瘍の検索を行う。

検査

・血液: CK(クレアチンキナーゼ)、アルドラーゼ、ミオグロビン、AST・LDHの上昇。CRP・赤沈などの炎症反応。 ・尿: 尿中クレアチン増加、尿中クレアチニン低下、急性の強い筋崩壊ではミオグロビン尿。 ・自己抗体: 抗ARS抗体(抗Jo-1抗体など、間質性肺炎・関節炎・機械工の手)、抗Mi-2抗体(典型的な皮膚筋炎、治療反応良好)、抗MDA5抗体(急速進行性間質性肺炎)、抗TIF1-γ抗体(悪性腫瘍合併)など。 ・筋電図: 筋原性変化。神経伝導速度は正常。 ・MRI: 炎症のある筋にT2強調像やSTIR像で高信号。生検部位の決定にも役立つ。 ・筋生検: 皮膚筋炎では血管周囲・筋周膜への炎症細胞浸潤と、筋束の辺縁の筋線維が萎縮する筋束周辺萎縮(perifascicular atrophy)が特徴で、微小血管の障害(補体の沈着)が関与する。多発性筋炎ではCD8陽性T細胞が筋内膜で壊死していない筋線維を取り囲み侵入する像が特徴である。

治療

副腎皮質ステロイドが第一選択で、効果不十分例や間質性肺炎合併例では免疫抑制薬(タクロリムス、シクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート、シクロホスファミドなど)や免疫グロブリン大量静注療法を併用する。

選択肢に関連する疾患と所見の対応

・抗アセチルコリン受容体抗体: 重症筋無力症 ・食道下部の蠕動低下: 全身性強皮症 ・神経伝導速度低下: 脱髄性末梢神経障害(Guillain-Barré症候群、CIDPなど)

POINT

・近位筋の筋力低下+筋痛+ヘリオトロープ疹は皮膚筋炎を考える。 ・抗Jo-1抗体(抗ARS抗体)は筋炎に特異性が高く、間質性肺炎の合併と関連する。 ・筋の障害でクレアチンの取り込みが減り、尿中クレアチン増加・尿中クレアチニン低下をきたす。 ・筋炎は筋原性疾患であり、神経伝導速度は正常、筋電図は筋原性変化を示す。 ・食道下部の蠕動低下は強皮症、抗AChR抗体は重症筋無力症の所見である。 ・中高年の皮膚筋炎では悪性腫瘍と間質性肺炎の検索を忘れない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。